軍艦島とは
軍艦「土佐」のような見た目から「軍艦島」と呼ばれる人工島「端島(はしま)」。長崎港から船で約40分のところにあります。
良質な石炭が採れる炭鉱として知られ、最盛期の1960年には、周囲約1.2kmの島に約5,300人もの人が住み、世界一の人口密度と言われていました。
しかし、石炭を採り尽くし、採掘する余地がなくなったため、1974年に端島炭坑が閉山すると、島民たちは島を離れ、無人島に。2015年7月には、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」のひとつとして世界遺産に登録されました。
2009年から一般の人も島に上陸できるようになりましたが、個人で勝手に行くことはできず、上陸ツアーに参加する必要があります。また、波の高さや風速などの基準を満たさないと桟橋が利用できず、上陸できないことも。天候基準をクリアするのは年間100日ほどと想定されています。
今回は、そんな軍艦島を訪れてみようと、総合平均上陸率94%(2020年3月まで)を誇る「軍艦島コンシェルジュ」の上陸ツアーに参加。クルージングやミュージアム見学の様子も含めて、ツアーの全貌を体験レポートします!
【10:30】 「軍艦島デジタルミュージアム」で軍艦島について学ぶ
上陸ツアーをより楽しむために、まずは、軍艦島に関する歴史や現在の状況などを学べる30ものコンテンツがある「軍艦島デジタルミュージアム」で軍艦島への理解を深めましょう。
今回参加した「軍艦島コンシェルジュ」の上陸ツアーは、このミュージアムの見学付き。午後便に参加する場合、10:30から受付開始。ミュージアムも見どころ満載なので、乗船時間の2時間ほど前に入場するのがおすすめです。1Fでツアー受付を済ませてから入館しましょう。
午前便の場合は、9:00から受付開始、10:00まで見学可能。また、軍艦島上陸ツアーから戻ったあとに再入館もできます。
プロジェクションマッピングやVR・ARで軍艦島を体感!
2Fでは、全長約30mのワイドスクリーンに約3,000枚もの写真を投影する「軍艦島シンフォニー」や、エレベーター・トロッコで採炭場へ向かう様子を体感できる「採炭現場への道」、箱をのぞいてジャンプすれば、上空からの軍艦島を望める「軍艦島ジャンプ」などがあります。
3Fには1/150のジオラマで、島のイベントや日常など異なる3日間を表現する「シマノリズム」。プロジェクションマッピングを活用したさまざまなコンテンツで、当時の軍艦島を学ぶことができます。
そして、4Fにある人気の「2021年版軍艦島VR」も体験。「30号棟」の内部など、立ち入り禁止区域内まで、鳥になった気分で巡ることができます。振り返れば後ろの景色まで、360°広がる映像は臨場感も抜群! リアルな映像で軍艦島を体感できるコンテンツが充実しています。
再現セットや模型で学ぶ軍艦島の歴史から未来の姿まで
4Fの「地獄段シアター」は、近年では映画撮影地としても知られている、急こう配の「地獄段」を再現。当時の衣装を着て、自由に記念撮影ができます。
そして、軍艦島と同様に、階段を上った先には端島神社が。ここでの賽銭は軍艦島の保存活動に使われるそうです。
3Fには1916年建造の日本最古の鉄筋コンクリートアパート「30号棟」の模型が。部屋の内部や共同トイレまで再現されたかつての姿と、崩壊しつつある今の姿を同時に見られるのも、このミュージアムならでは。
ミュージアムの元島民ガイド木下稔さん。木下さんは軍艦島で生まれ育ち、13歳で島を離れるまでの幼少期を過ごしました。住んでいた当時の面白いエピソードや遊び、生活の様子を詳しく話してくれます。
4F「ガンショーくんルームPart2」では、地元のCMに使われた紙製人形などを展示。木下さんが「島の生活すべてが想い出」と語る1958年頃の島の日常生活を、ミュージアムのオリジナルキャラクター「軍艦島のガンショーくん」と「みのる」を通じて、垣間見ることができます。
タイミングが合えば、元島民ガイドや「軍艦島のガンショーくん」にも出会えます。
軍艦島デジタルミュージアム
- 住所
- 長崎県長崎市松が枝町5-6
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 休館日
- 不定休
- 入場料
- 一般 1,800円、中高生1,300円、小学生800円、幼児500円、3歳未満無料
- アクセス
- 路面電車「大浦天主堂」より徒歩約1分
【12:00】ランチ
「軍艦島デジタルミュージアム」で成り立ちから最盛期、現在から未来へと、軍艦島についてさまざまなことを学んだあとは、ランチのために一旦外へ。上陸ツアー中は食事ができないのでご注意を。
ちゃんぽんやトルコライスなど、長崎名物のお店がミュージアム周辺にたくさんあるので便利です。
【13:20】 いざ軍艦島へ出発!
今回参加した「軍艦島コンシェルジュ」の午後便は13:20に乗船開始。先ほどの「軍艦島デジタルミュージアム」受付に集合し、乗船時間に合わせて、「常盤港ターミナル」に向かいます。
このスタイリッシュなクルーズ船「JUPITER(ジュピター)」で軍艦島へ。「軍艦島コンシェルジュ」にはスタンダード、プレミアム、スーパープレミアムの3カテゴリーあり、スタンダードで利用できるのは1F自由席。開放的なデッキ席もあります。
2Fはプレミアム専用フロア。軍艦島周遊時は船の前方オープンデッキに案内してもらえるので、広い範囲で見渡せます。トイレは各フロアに完備しているので、クルージング中も安心です。
13:40頃、桟橋で手を振るスタッフのみなさんに見送られながら、なめらかに船が進み始めます。晴天で波も穏やかなこの日は満席。
長崎の歴史と世界遺産を楽しみながらクルージング!
この便は、ガイドの浜口剛さんが、船から見える景色や上陸後の島内の解説をしてくれます。2Fはモニターを見ながらのクルーズですが、1F席はガイドの生の姿を見ながら臨場感あふれる案内を楽しめます。
また、天候や条件が良ければ、出港後に船の前方オープンデッキに出られることも。女神大橋までの港内をデッキでも楽しめます。
1863年に造られた世界遺産「旧グラバー住宅」や、100年以上前から稼働している「三菱重工業長崎造船所」の「ジャイアント・カンチレバークレーン」、「第三船渠」(写真)など、長崎港内にも世界遺産はたくさん。それらを見ているうちに、「女神大橋(ヴィーナスウィング)」の下を通過しました。
この女神大橋の塔と塔の間が、ちょうど軍艦島の長さとほぼ同じだそう。
その後も、リブ・ヴォールト天井が美しいという「神ノ島教会」や、悲しいキリシタンの歴史がある「高鉾島(たかほこじま)」、日本初の鉄製砲台が設置された「四郎ヶ島」、爆心地から約13.5kmも離れたコンクリート製ながら損傷した「伊王島灯台」も望めました。往路でも、長崎の文化や歴史を物語るさまざまな史跡などを見ることができます。
次に、軍艦島の親島といわれる「高島」が見えてきました。1655~1986年と日本で一番長く操業した炭鉱の島で、その技術が国内すべての竪坑(たてこう)で応用された、世界遺産「北渓井坑跡(ほっけいせいこうあと)」があります。
良質な石炭が採掘され、官営の八幡製鉄所でもこの石炭が大活躍。「日本の近代化はこの高島から始まったと言っても過言ではない」と浜口さんは語ります。そして、現在は海のアクティビティスポットとしても人気の緑豊かな島の向こうに、ついに軍艦島が見えてきました!
軍艦島に到着! まずは海上からぐるっと見学
長崎港出港から約40分。軍艦島に近づき、まずは海上から島を見学します。
許可が出たら、1F後方デッキへ移動も可能。周遊ツアー時、1F前方デッキはプレミアムとスーパープレミアム専用になっているので、立入禁止区域の建物をより近くで見たいなら、プレミアム、スーパープレミアムがおすすめです。
すぐに「端島小中学校」付近を通過。島最大の「65号棟」、病院と順に建物を見ていくと、形だけでなく色も違うことまでよくわかります。
その後、「端島神社」の祠を望みつつ、「31号棟」付近を通過。このあたりは、特に海と建物が近く、31号棟が防潮棟を兼ねていたことを実感できる光景です。
島の周りを1周したあとは、反対側の人も写真を撮りやすいようにと、今度は反対回りで島をぐるり。浜口さんの解説を聞きながら海上から見学して、住居、学校、病院、商店、娯楽など、生活に必要な施設がこの小さな島に備わっていたことが分かります。
周遊ツアー後、席に戻って、上陸ポイント「ドルフィン桟橋」への着岸を待ちます。
軍艦島は、波高が50cmを超えたり、風速5m/秒を超えたり、視程が500m以下になると、桟橋の使用許可が出ず、残念ながら上陸できません。もし上陸できなければ、海上からの周遊ツアーのみで長崎港へ向かいます。
【14:40頃】 いよいよ軍艦島に上陸! 島内の見学コースへ
天候や安全基準を満たし、接岸できたら、ついに軍艦島に上陸。「第1見学広場」へ向かいます。
途中、短いトンネルを通るのですが、そこにある扉は、住居エリアにつながる地下道の入口だったとのこと。桟橋側は炭鉱施設だったので、住民が定期船に乗るときは、この地下道を通って桟橋まで出ていたようです。
古代遺跡を思わせる「第1見学広場」
「第1見学広場」では、ガイドの浜口さんが当時の写真などを用いて、炭鉱や住民生活のエピソードを交えつつ、広場から見える建物群を丁寧に解説してくれます。
ここからまず見えるのは、「3号棟」。6畳一間でバス・トイレ共同が島内の標準というなか、3LDKでバス・トイレ付きの住宅は、炭鉱の課長以上や病院の先生向けに建てられた棟のようです。
次に、正面方向を解説。右に並ぶ古代遺跡の柱のようなものは「ベルトコンベア台座跡」。石炭を貯炭場や、運搬船まで運んでいたものです。
奥に見える白い建物は、先ほど海から見た「端島小中学校」。こちら側からも、建物上部が崩壊していることがわかります。
左の黒い建物は「65号棟」。コの字型の建物で、実写版『進撃の巨人』や『007』など、映画の撮影が行われた場所としても知られています。エレベーターもない建物ですが、10階には当時で日本一地上から高い保育園があったそうです。
すぐそばの岩山(写真左)には半円の穴が塞がれた跡が。山の向こうの31号棟までベルトコンベアを通し、製品にできない石炭を海に廃棄していたそうです。
アパート内にベルトコンベアが通り、日中ガンガン石炭が送られていたなんて「世界でもここだけでは」とガイドの浜口さん。いかに人間の生活よりも石炭が優先されていたのかが分かる構造です。
世界遺産を間近で見られる「第2見学広場」
続いて「第2見学広場」には、採掘現場への入口「第二竪坑入坑桟橋跡」(写真左)が。端島炭坑の中枢部分です。
左側の階段でつながった建物は、鉱員専用のお風呂があった場所。真水は島外から供給していたため、当時はお風呂のお湯も貴重だったそうです。
この日、足場が組まれていたレンガ造りの総合事務所は、仕事前の鉱員がライトのバッテリーチェックや、たばこを吸う場所でもあったそう。採掘現場では、発生するガスの影響で喫煙禁止。当時の鉱員は、ここでひと息ついてから、過酷な現場へ向かっていたようです。
そして、この後ろ側には端島炭坑が世界遺産登録となるポイントのひとつ、「天川(あまかわ)工法」の護岸遺構がありました。もうひとつのポイントは「明治期の坑口」ですが、そちらは立ち入り禁止のため、直接見られるのはこの護岸のみ。
日本最古の鉄筋コンクリートアパートを間近に見る「第3見学広場」
そして、いよいよ最後の見学地点「第3見学広場」へ。ミュージアムでVR映像や模型で見た、日本最古の鉄筋コンクリート造りの7階建てアパート「30号棟」(写真右側)が正面に見えます。
耐久年数をすでに超え、台風や地震などさまざまな要因で、日々状態が変わる30号棟。数日前にも一部が崩落したそうです。
30号棟の左は「31号棟」。台風などによる高波に備えて、窓を小さくするなど工夫されていますが、被害に遭う部屋が多かったそう。それでも、住民たちは慣れていたようで、アパートに打ち付ける高波を、屋上から見物する様子を写した写真が残っていました。
第3見学広場のあとは、再び長崎港へ戻るため、桟橋へと向かいます。
島内は見学通路が整備されていましたが、船の乗り降りも考えて、歩きやすい靴、両手の空くショルダーバッグやリュックで行くのがよさそうです。
また、地面がアスファルトなので、気温が高い日は照り返しでかなり暑くなることもあるそう。天候をしっかりチェックしてから出かけるのがおすすめです。
【15:25頃】長崎港へ向けて、軍艦島をあとに
引き続き、浜口さんの解説や長崎の歴史などを伝えるVTRを見ながら軍艦島の余韻に浸っていた頃、船内では2012年「ご当地アイスグランプリ」で金賞を受賞した「カステラアイス」(350円) の販売が。島を歩いた後にぴったりの冷たいご当地スイーツは、多くの人が買い求める人気ぶりでした。
長崎港への入口、「女神大橋」に差しかかると、向かって右側に見えたのが「長崎モアイ像」。最近出現し、誰が何のために建てたのか不明のようですが、SNS映えスポットとしてツアー参加者に人気だそう。
そして、すぐに世界遺産「小菅修船場跡 」前も通過。ここは薩摩藩の五代友厚や小松帯刀、グラバーらが共同出資し、日本初の蒸気機関による曳き上げ装置を備えた外国船用の修船場でした。船から見えるのはほんの一瞬なので、お見逃しなく!
【16:20頃】 長崎港に帰港
軍艦島を出発しておよそ1時間で、長崎港「常盤ターミナル」に到着。
今回のガイドの浜口さんは、大学院時代に「旧グラバー邸」で知られるトーマス・ブレーク・グラバーの功績を研究をしていたそう。そのグラバーをはじめ、長崎市内の世界遺産や歴史についても分かりやすく解説していただきました。軍艦島以外のことを知ることができるのもこのツアーの特徴です。
また、クルーズ船にはスタッフも多く乗船していて、きめ細かな配慮をしながら、常に笑顔で参加者をアテンドしていたのも印象的でした。そんな快適さからか、このツアーに10回以上参加しているツワモノもいるのだとか。
そんなファンのためにあるのが、乗船記念のスタンプカード。スタンプを3個集めれば1回サービス、2枚目以降はカードデザインがグレードアップ。集めるのも楽しそうですね。
ミュージアムはツアー後も見学可能!
「軍艦島デジタルミュージアム」は、ツアー当日とその翌日なら再入館可能。現地を見たあと、2Fの「採炭現場への道」など館内のコンテンツを楽しめば、当時の鉱員の想いや住民の生活を、よりリアルに感じられるかもしれません。また、残念ながら軍艦島に上陸できなかった場合、VRで上陸した気分を味わっていく人も多いのだとか。
バーチャル空間と現実世界を融合した「MRホロレンズ」 もおすすめ。専用のゴーグルを装着したら、目の前に現れる「軍艦島のガンショーくん」と一緒に、当時の島にあった生活用品や石炭採掘アイテムを館内で探してつかんでいく、「軍艦島デジタルミュージアム」ならではのアトラクション的なゲームです。
また、手に入れた石炭採掘アイテムで、一番多く石炭を掘った人が勝ち!という4F「採炭ゲーム」にも参加できます。パワーアップアイテムをゲットしていれば、より石炭を多く掘れるそう。1位を目指して家族や友だちと楽しんでみては。順位や採掘量は、パネルやSNSでも確認できます。
MRホロレンズ
- 料金
- 大人・中高生1,000円、小学生500円
※小学生は保護者の同伴が必要、幼児は利用不可 - 所要時間
- 約1時間
帰りは、1Fにあるミュージアムショップでお土産を探すのもおすすめ。スタイリッシュなデザインのTシャツや、かわいい「軍艦島のガンショーくん」グッズも充実。「長崎カステラアイス」も種類豊富に販売しているので、船で食べた人も、買い逃した人もぜひ。
実際に「軍艦島」に上陸し、アパート群や炭鉱施設を見学したことで、世界遺産としての価値を知ると同時に、当時の最先端技術や何千人もの人が暮らすための工夫で、この島が形成されていったことを実感しました。
この日も保存工事が行われていましたが、いつ全壊してもおかしくない建物もあるので、今の姿を見たいなら、早めに訪れてはいかがでしょうか。
また、上陸したことで、軍艦島に対する興味がより強くなり、もう一度「軍艦島デジタルミュージアム」をゆっくり回りたいと思いました。近くで1泊して、ツアー翌日にあらためてミュージアムを見学するのもおすすめです。
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取材・文/辻美穂 撮影/井上由紀子