その昔、神功(じんぐう)皇后が戦いの帰りに立ち寄り、負傷した兵士の傷が癒えて「あな、うれしの」と喜んだという伝説からその名がついた嬉野温泉。日本三大美肌の湯として人気が高く、中心地には温泉宿や土産店が軒を連ねています。
にぎわいをみせる中心地から少し離れ、閑静な渓谷に佇む一軒宿が「嬉野温泉 大正屋 椎葉山荘」。椎葉山の大自然に抱かれながら、美肌の湯を楽しめる特別な宿です。自然に包まれながら露天風呂と名物の湯どうふで温まる、癒しの宿泊体験記をお届けします。
「嬉野温泉 大正屋 椎葉山荘」へのアクセス
椎葉川の渓流に寄り添うように佇む「椎葉山荘」は、創業約100年の大正屋グループが手がける温泉旅館。建築家・吉村順三氏の弟子である板垣弥也氏が設計しており、自然と融合した建築美も楽しめます。
美しい景色や上質なおもてなしが評判を呼び、クルーズトレイン「ななつ星in九州」の宿泊先としても選出。何もしない贅沢を楽しむ、大人の温泉旅に最適です。
アクセスは「嬉野温泉バス停」から車で約10分、もしくは2022年9月23日に開業した西九州新幹線の「嬉野温泉駅」から車で約15分。予約制で無料送迎サービスも行っており、嬉野に広がる棚田や茶畑を見ながら山を登ると到着します。
自然に溶け込むデザインで心落ち着く客室
車から降り、フロントでチェックイン。木の温もりあふれる館内は、自然を感じられる設計です。吹き抜けの下はレストランになっており、開放的な空間に心が安らぎます。
全20室の客室は自然の地形を活かして点在。「和洋室」「メゾネット」「バリアフリー」の客室タイプがあり、今回は離れ和洋室「河鹿 一の間」に宿泊しました。椎葉川沿いに位置し、10畳の和室とツインベッドルームの二間構成です。定員は6名。
客室も木材を多く使用しており、自然に溶け込む色合い。窓辺の椅子に腰をかけ、山々を見ているだけで心が落ち着きます。ベッドは丁度良い高さで、乗り降りがしやすくなっています。
客室からは山だけでなく、岩肌に美しく流れ落ちる滝を見ることができるのも特徴。滝は部屋によっては見られませんが、歩いて近くまで見に行くこともできます。
ゆとりのある洗面所には洗顔料、化粧水、乳液が用意。化粧水は美肌の湯・嬉野温泉が70%配合された「うれしの温泉化粧水」も用意されています。
荷ほどきを終えたら、嬉野茶とお菓子で小休憩。嬉野茶は生産量が全国のお茶市場の約2%で、客室ではその希少なお茶を好きなだけ楽しめます。お着き菓子は嬉野茶がそのまま練り込まれたクッキー「茶一葉」。さりげないお茶の香りに心が安らぎます。
温泉に行く前に、浴衣に着替えて準備。浴衣は人間国宝の染色家・鈴田滋人氏の父である、佐賀県鹿島市出身の染色家・鈴田照次氏がデザイン。清らかな嬉野川の流れがイメージされています。
バリアフリーやメゾネットタイプの客室も
椎葉山荘でいちばん多い客室数の「和洋室」は、基本的に10畳和室とツインベッドルームの二間構成ですが、客室によって眺望が異なります。最も高い位置から景色が見えるのが、2階の和洋室「山桜 一の間」です。
「山桜 一の間」は和室とベッドルームの仕切りがほぼないため、とても開放的です。水音に耳を澄ませながら滝を望むことができ、四季折々に表情を変える山に癒されます(定員6名)。
メゾネットの「辛夷 二の間」は1階が10畳の和室、2階がツインベッドルームのレイアウト。1階は深みのあるグリーンの壁が印象的なデザインです。定員8名のため、家族旅行や三世代での旅行にもおすすめ。
2階のツインベッドルームは屋根裏になっており、山小屋の趣を感じさせる空間です。
こちらは、椎葉山荘に1室のみの「バリアフリー」。車椅子での移動が可能で、玄関にはスロープが設置されています。
客室内はバスルーム、トイレを中心に、10畳和室とツインベッドルームが両側に配置されたレイアウト。秋冬には紅葉したドウダンツツジなど、窓から美しい自然を眺めることができます。
客室内のお風呂には手すりを設置。浴槽内に階段があるので、手すりにつかまりながらゆっくり中に入ることができます。
自慢の温泉で美肌の湯を堪能
客室でゆっくりくつろいだあとは、楽しみにしていた温泉へ。椎葉山荘には2つの温泉があり、まずは自慢の「しいばの湯」へ向かいました。「しいばの湯」は椎葉山荘の建物から徒歩1分ほど登った場所に位置し、日帰り利用も可能です。
内湯と大露天風呂が楽しめ、なんと言っても注目は嬉野一の広さを誇る大露天風呂。椎葉川のすぐ隣にあり、大自然に包まれるように温泉を楽しめます。川のせせらぎと鳥のさえずりに耳を傾け、温泉で温まる時間は至極の幸せ。
泉質はナトリウム・炭酸水素塩・塩化物温泉(低張性 中性高温泉)。椎葉山荘第二源泉と椎葉峡温泉の2つの自家源泉から温泉を引いており、ナトリウムを多く含むため角質化した肌を柔らかくしてくれる美肌の湯です。入浴後はツルツルすべすべ!
しいばの湯にはレストラン「山法師」が併設されているので、こちらで食事をするのもおすすめ。山小屋風の開放的な空間の中、セルフサービスでお肉や野菜を取り、自由に焼肉を楽しめます。
椎葉山荘のもう一つの温泉が、宿内にある「山の湯」。ここは立ち寄りができない宿泊者限定の温泉のため、のんびりと湯浴みができます。
露天風呂は自然になじむ岩風呂。山の深い緑を堪能でき、夜はライトアップされた自然の景観を楽しめます。
温泉を楽しんだ後は、館内のサロンでリラックス。コーヒーやソフトドリンクが無料で楽しめます。
レストラン「しいば」で会席料理に舌鼓
夕食は吹き抜けのレストラン「しいば」で楽しむ会席料理。佐賀・嬉野の旬の味覚を味わうことができ、この日は11~12月の御献立をいただきました。
会席は食前酒「梅酒山査子割り」、先付「秋味白和え」「吟醸豆腐」、前菜「合鴨レモン醤油煮」「衣かつぎ」「きのこふくさ」からスタート。醤油ベースの温かい餡をかけた「吟醸豆腐」は自家製で、嬉野産大豆「フクユタカ」100%の旨みあふれる一品です。有田焼や唐津焼など、佐賀の美しい焼きものにも目を奪われます。
続いて吸物「地丸真薯」、造り「ヒラメ、イカ、マス昆布〆、柚子蒟蒻」が登場。地丸とは「すっぽん」のことで、白身魚と合わせたすり身を上質なお出汁とともにいただきました。
玄界灘と有明海にほど近い嬉野温泉だからこそ魚介も新鮮。丁寧に仕込まれたマス昆布〆など、細部へのこだわりも感じます。
鮮やかな黄色が美しい蓋物は、カボチャ豆乳羽二重蒸しを合わせた「百合根餅」。羽二重蒸しは丁寧にカボチャや卵を裏ごししてあり、とてもなめらかです。シャキシャキとした百合根の食感とともに楽しみました。
強肴(しいざかな)は身体の内側から美を目指せる「式部鍋 特選牛ロース」。嬉野は歌人・和泉式部が幼少期住んでいた地で、その美しさにあやかった生薬たっぷりのポカポカ薬膳鍋となっています。そして、特製牛ロースはとろけるおいししさ! シメは佐賀・神崎のうどんです。
会席の最後を飾るのは「嬉野棚田栗御飯」、留椀「田舎味噌」、果物「取り合わせ」、甘味「すいーとぽてと」。棚田米は嬉野の農家から直接仕入れており、大きなホクホクの栗とともに堪能。デザートを含め全12品で、お腹も心も満たされました。
ライトアップされた宿周辺を散策
食後の運動もかねて、宿周辺を散策。渓流に沿ってライトアップされており、自然を楽しみながら軽い散歩ができます。椎葉川はとても清らかな水なので、初夏にはホタルも見られるそうですよ。
少し歩いて到着したのは、部屋から見えていた滝。滝見台から迫力のある滝を目の前に見るとマイナスイオンを感じ、より心が安らぎます。温泉と自然に癒され、いつもより深い眠りにつきました。
宿自慢の豆腐料理を味わう朝食
朝から温泉に入れるのは、温泉旅館に泊まる醍醐味。蛇口から温泉が出るので、客室のヒノキ風呂でも温泉を楽しめます。シャキッと目覚め、爽快に1日をはじめることができました。
朝食はレストラン「しいば」でバイキングを満喫。和食を中心におかずがずらりと並び、味美鶏の温泉たまご、辛子明太子、佐賀みかんなど九州・佐賀の特産品も味わえます。
迷ってしまうほど魅力的なメニューばかりですが、必ず食べたいのは「とろける湯どうふ」。自家製の豆腐を温泉水で炊いた、宿自慢の料理です。
大豆の香りがふわりと香り、ほっこり温まるとろとろの湯どうふは幸せなおいしさ。冷奴で味わう絹の「吟醸どうふ」も食べられるので、違いを楽しむのもおすすめです。
チェックアウト前に嬉野名物を購入
11:00のチェックアウト前に、売店でお土産探し。朝食で感動したとろける湯どうふや嬉野茶など、嬉野名物を購入できます。
自然、温泉、温かなスタッフに癒され、特別な温泉旅行を叶えてくれる「椎葉山荘」。1泊とはいわず連泊し、心と身体をデトックスする旅にもぴったりです。嬉野温泉の山あいに佇む一軒宿で、心ゆくまで温泉を楽しむ旅へ出発しませんか。人気の施設なので予約はお早めに。
嬉野温泉 大正屋 椎葉山荘
- 住所
- 佐賀県嬉野市嬉野町岩屋川内椎葉乙1586
- アクセス
- JR嬉野温泉駅より車で約15分、嬉野温泉バス停から車で約10分(無料送迎あり※要予約)
- 客室数
- 18室
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 11:00
取材・撮影・文/小浜みゆ
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