ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に大阪城、おいしい粉もん料理…。魅力がたくさんある大阪で、近年話題になっているのが「ウォールアート」です。実は、大阪は美術館だけでなく、道路脇の彫刻などアート作品が街の至る所に点在する都市。
街並みだけでなく、見る人の気分も明るくするウォールアートを十三(じゅうそう)、北加賀屋、船場(せんば)の3エリア別にご紹介します。
目次
ウォールアートってどんなもの?
ウォールアートとは、ビルや塀などの壁面をキャンバスに見立て、ダイナミックなスケールで描くアート形式の一種。落書きとは異なり、所有者の許諾を得てペインティングします。
日本・海外を問わずウォールアートを施した壁面は、街の新たなランドマークとなり、SNS映えする写真が撮れると多くの人が訪れています。
壁一面の大きなウォールアートが印象的!淀川・十三エリア
2025年の大阪万博に向けて始まった「淀壁」プロジェクト
大阪の中心地である大阪(梅田)駅から阪急線でひと駅の「十三」駅。花火大会や河川敷でのバーベキューを楽しめる淀川に近いこちらのエリアで始動したのが「淀壁」プロジェクトです。
きっかけは淀川区在住のアーティスト・BAKIBAKIさんが描いた『淀川のナイチンゲール』という壁画。ここから大阪・淀川エリアを壁画の聖地にしようと「淀壁/YODOKABE」と呼ばれるプロジェクトが始まりました。現在は、2025年の大阪万博に向けて、公的資金を使わず民間の力だけで累計30もの壁画作品を作ろうとしています。
発起人・BAKIBAKIさんが語る「淀壁」プロジェクトの魅力
「誰でも、好きな時に、タダでアートを楽しめる壁画。ダイナミックかつインパクトがあるので、直感的に楽しめるところも多くの人を引きつける魅力なのではないでしょうか」と語るのは、淀壁プロジェクトを立ち上げたアーティスト・BAKIBAKIさんです。
BAKIBAKIさんが壁画に力を入れ始めたのは10年ほど前から。ウォールアートがあるお陰で、モノトーンな都市の風景や人の表情が変わることに魅力を感じたからだといいます。
ウォールアートに関心が集まるきっかけとなった壁画・『淀川のナイチンゲール』は2021年3月に、「コロナ禍における医療従事者への敬意」を表すため、一生をかけて医療に尽力したフローレンス・ナイチンゲールをモチーフにした作品。この壁画が反響を呼び、淀壁プロジェクトが発足しました。
『刃鬼虎月光竹林図』は、38年振りに優勝を果たした阪神タイガースを祝した2023年作成の壁画。狩野山楽(かのうさんらく)作の龍虎図屏風(りゅうこずびょうぶ)からインスピレーションを受けたもので、虎の力強さと背景の黒い壁が絶妙にマッチしています。
BAKIBAKIさんの特徴と言えば「BAKI柄」。江戸時代に流行した麻の葉文様とストリートカルチャーを掛け合わせた柄で、こちらの作品をはじめ、いろいろな壁画で見ることができます。
淀川の河川沿いに突如として出現するのは、1970年大阪万博の象徴的芸術家・岡本太郎をモチーフとした壁画。こちらは、BAKIBAKIさん、MONさんによる二人組 DOPPELの作品で、何かをつかみ取ろうとする岡本太郎の目や表情、情熱を感じる赤色が印象的。見ているこちらもパワーをもらえそうな迫力があります。
「壁画を描く時は、壁面の凸凹や作品とのマッチングに加えて、その場所の雰囲気やそこを通る人をよく観察した上で、制作に取り掛かります。描き方はアーティストによって違いはありますが、下絵をプロジェクターで映し出して、仕上げるアーティストが多いですね」
淀壁以外にも府内の多くの場所でウォールアートを描いているBAKIBAKIさん。大阪は面白そうなことにチャレンジする人を応援する風土があると語ります。
「ウォールアートは公共性がありますが、いちアーティストの作品という点では、個人的なものでもあります。『街=公共のもの』といった考え方が強い日本では、海外に比べてウォールアートに関する規制が厳しいのですが、大阪だと『ええやん!』と面白がってくれる文化があるため活動がしやすく、そういった懐の深さも大阪の魅力と言えます。万博をさらに盛り上げると言う意味でも、今後もさらに作品数を増やしていきたいですね」
淀壁
- アクセス
- 阪急電車「十三」駅周辺
- 見学時間
- 24時間
- 公式サイト
- 淀壁
まるで宝探しのようにアート作品を見つけられる!北加賀屋エリア
かつて造船業で栄えた街の活気をアートの力で取り戻す!「おおさか創造千島財団」
大阪駅から徒歩すぐの西梅田駅。そこから大阪メトロ四つ橋線に乗って、南へ向かうこと約20分の場所に「北加賀屋」駅はあります。大阪市南西部を流れる木津川の河口近くに位置する北加賀屋は、大正時代には造船の街として栄えていた場所。しかし、1970年頃から産業構造の変化により、造船業は衰退の一途を辿ることになりました。
街の活気を取り戻そうと動いたのが、北加賀屋で不動産業を営む千島土地株式会社。名村造船所大阪工場跡地などの産業遺産を活用しながら、ものづくりの現場であった北加賀屋を芸術・文化の発信の場にしていこうと、2004年から取り組みを開始しました。株式会社設立100周年を記念して2011年に「おおさか創造千島財団」を設立。アーティストやクリエイター等への創造活動に対する公募助成事業を開始し、アート作品で街を活性化させる取り組みを行っています。
現在では、ウォールアートに加え、屋外アートスポットも点在しており、その数あわせて約40点ほど。その中から、特に代表的なウォールアート作品をいくつかご紹介します。
ウォールアート&アート作品
「北加賀屋」駅から徒歩約5分。もともと弁当屋だった建物の壁に描かれているのが、フランス出身・在住のアーティストユニット・Ella & Pitrによる『La dance du porte-clé』。日本語で「キーホルダーのダンス」という意味で、ひょっとこ踊りをするキーホルダーとそれを見つめる女の子という独創的な発想で描かれています。
少し歩いた建物の裏手に描かれているのが、子どもたちが名画に落書きをしている場面を描くイギリス出身のアーティストdotmastersによる『Indigo defaces Mona』。よく見ると点やブロックで描かれたドット絵になっていて、作品へのこだわりが伝わってきます。子どもたちと同じ、落書きをしているポーズをして撮影すればフォトジェニックな1枚になりそうです。
街中を歩いていると、ウォールアート以外にも巨大なアート作品に出会います。『Indigo defaces Mona』のすぐ近くにある作品がREMAさんによる『FOREIGIN MATTER:’Sand in woman’(異物:砂の女)』。タイトルにもある通り、粒子径約1ミリメートル以下の砂の集合によって作られています。砂を凝固し積み重ねて作られた作品の精密さに思わず見入ってしまいますね。
芸術活動の発信拠点は、北加賀屋エリアに50近くありますが、有名なのがクリエイティブセンター大阪(CCO)です。木津川近くにあり造船所の工場だった建物を再生して、アーティスト作品の展覧会やイベントスペースとして活用されています。
建物の防潮堤壁面に描かれているのが、建築家兼ストリートアーティストとして活躍するギリシャ出身のアーティストb.による『b.friends on the wall』。長さ約100mにわたって描いた壁画で、カラフルでコミカルな宇宙人を見ているだけでも愉快な気持ちになれます。
老朽化した隣家を解体し駐車場としたことで現れた壁面に、酒谷星子さんが描いた『A BOY』。壁画に描かれた男の子が駐車場に停まった車で遊ぼうとわくわくしているように見えます。壁の前に駐車された車も含めて完成するユニークなアート作品です。
クリエイティブセンター大阪(CCO)に向かう途中の道には、オランダのアーティストであるフレンティン・ホフマンの『ラバー・ダック』を描いたマンホールがありました。北加賀屋では、毎年11月に「すみのえアート・ビート」を開催しており、ラバー・ダックは街のアイコン的存在。全部で8つあるので、北加賀屋でしか見られないラバー・ダックマンホールを探しに訪れてみてくださいね。
北加賀屋CHAOS
- アクセス
- 大阪メトロ四つ橋線「北加賀屋」駅周辺
- 見学時間
- 24時間
- 公式サイト
- 北加賀屋CHAOS
ビル内にあるアートスポット!船場エリア
「JAPAN」がテーマの作品がズラリ「船場ミューラルパーク」
東西約1,000mに約700のお店や飲食店などが入った複合ビル・船場センタービル(通称:せんびる)。2020年に、建物設立50周年を迎えたことを記念して、1〜9号館まである「せんびる」の3号館と4号館の間にある地下連絡通路が、アート作品があふれるイベントスペース「船場ミューラルパーク」に生まれ変わりました。
各線の乗換駅として使われることが多い「本町」駅や「堺筋本町」駅に直結しているため、アクセスは抜群。暑い日や雨の日などのお出かけにもおすすめのアートスポットです。
「憩いと驚きの空間」というコンセプトのもと、階下スペースに並べられた椅子で休憩をしながらじっくりとアートを眺めることが可能です。
オープンに向けて、巨大な壁画制作に参画したのは総勢24名にもなるアーティストたち。「JAPAN」というテーマでどのように作品を描いていったのかご紹介します。
階段にはかわいい虎がモチーフのアートや、リアルで美しい和服姿の女性の壁画があります。階段の手すりに寄りかかって一緒に写真を撮るのもよいですね。
迫力のある豊臣秀吉と大阪城の壁画は、「淀壁」プロジェクトのBAKIBAKIさんとOT29さんによる合作。秀吉の横には2人のサインと、かわいいたこ焼きのイラストを見つけました。魅力的な作品の中にも、くすっと笑えるポイントがあるのが大阪らしいです。
多くの人が足を止めるのが、タイのバンコクで結成されたペイントユニット・KAOMANGAIによる壁画。色使いや構図が秀逸な作品です。アーティストsimoさんによる『Surge』は、葛飾北斎や歌川広重が描いてきた「波」をテーマとしています。
ほかにも大阪で結成されたアートユニットCOMIC HEADSによる作品(人物画と花や自然を描いた壁画)や、京都のペイントユニット・ATTACK THA MOON.による人物画と民族的な文様を合わせたウォールアートなど、素敵な作品ばかり。地下通路「船場ミューラルパーク」を散歩しながらぜひお気に入りの壁画を見つけてくださいね。
ウォールアートと一緒にトリックアートも楽しもう!
「せんびる」」の4〜9号館には、トリックアートも楽しめます。4号館の地下2階(北側)、エレベーターホール横には、壁を突き破り襲いかかってくる巨人の手が!
ほかにも、カルガモの親子の上に今にも倒れかかりそうな電柱(5号館1階)や、追っ手から逃げるためのはしご(6号館1階)、こちらに向かって猛スピードで転がってくる大きな玉(7号館1階)など、どれも面白いものばかり。ユーモアと演技力の限りを尽くして、写真撮影を楽しみたいですね。
船場ミューラルパーク
- 住所
- 大阪府大阪市中央区船場中央3-2−8−221「せんびる」3、4号館地下
- アクセス
- 大阪メトロ中央線・堺筋線「堺筋本町」駅下車、徒歩約5分
大阪メトロ御堂筋線「本町」駅下車、徒歩約10分 - 見学時間
- 9:00〜22:00
- 公式サイト
- 船場ミューラルパーク