山形県の中央に位置する「羽黒山(はぐろさん)」「月山(がっさん)」「湯殿山(ゆどのさん)」。この3つの山を総称して「出羽三山(でわさんざん)」と呼び、何百年もの間、多くの人々が心の浄化を求めて訪れています。
魂が巡るとされている、現世(羽黒山)・過去(月山)・未来(湯殿山)の順に登ることで「生きながらにして生まれ変わることができる」と言われています。
出羽三山すべてを参るには一般的に2泊3日かかりますが、今回は三山の中で登山初心者でも気軽に登れ、パワースポットとしても人気の羽黒山を中心に、道中のおすすめスポットや見どころをご紹介。神秘的な「生まれ変わりの旅」へ出かけてみませんか。
出羽三山の玄関口・羽黒山へのアクセス
首都圏から羽黒山へのアクセスは、まず、山形県の鶴岡駅を目指します。飛行機を使う場合は、羽田空港から庄内空港まで直行便があり、所要時間は約1時間。庄内空港からはリムジンバスで鶴岡駅へ向かいます(約30分)。新幹線の場合は、東京駅から上越新幹線で新潟駅へ向かい、特急いなほに乗り換えて鶴岡駅まで約4時間です。
鶴岡駅からは、駅前のバス停から庄内交通の路線バス「羽黒・月山線」に乗り、「羽黒随神門(はぐろずいしんもん)」バス停に約39分で到着。レンタカーなど車を利用する場合は、無料の「随神門前駐車場」へ。そこから随神門へ向かい、羽黒山登山のスタートです。
ちなみに羽黒山山頂へは、路線バス「羽黒・月山線」のほか、車で直接アクセスすることも可能。車の場合は羽黒山有料道路を使い(普通車 往復400円)、「羽黒山 山頂駐車場」に車を停め、出羽三山神社まで歩いてすぐです。
標高414mの羽黒山登山では、道は整備された石段なので、歩きやすい靴、動きやすい格好であれば問題ありません。ただし、雨天時は長ぐつに履き替えた方が良いでしょう。随神門の近くにある「いでは文化記念館」では、スニーカーや長靴(無料)、金剛杖(1本100円)を貸し出しています。
長年親しまれてきた出羽三山
古くから人々の信仰を集めてきた出羽三山。江戸時代中期には「西の伊勢参り、東の奥参り」と呼ばれ、伊勢神宮と出羽三山の両方にお参りすることが人生の儀式と言われていました。日本独自の山岳信仰や、仏教、道教などの要素が混じり合って成立した修験道の聖地としても知られています。
現在はハイキングや修行を体験するために、国内はもちろん、海外からもたくさんの人が訪れます。周辺には宿坊(参詣者が泊まるための宿泊施設)も多く、日常を離れた歴史的な空間の中で精進料理をいただくなど、かつての人々の参拝を再現することができる場所となっています。
日帰りで「生まれ変わりの旅」ができる羽黒山
羽黒山は出羽三山の中で最も里山に近く、現世利益を叶える山と言われています。
また、山頂にある「出羽三山神社」には羽黒山、月山、湯殿山の三神が祀られており、ここを訪れれば三山をお参りしたことになるため、日帰りで「生まれ変わりの旅」を楽しみたい人におすすめです。
俗世界と神域を分ける随神門
出羽三山神社の表門である「随神門(ずいしんもん)」。この門を境に人々が暮らす世界と、神域が分けられています。門をくぐって足を踏み入れた瞬間、目の前に森が広がり、まるで別の世界へ入ったような気分に。
随神門周辺にはいくつかお店があるので、飲み物などは門を通る前に購入しておきましょう。また、お手洗いは山頂に行くまでありません。随神門から歩いて約4分の場所にある、公衆の「随神門前ポケットパークトイレ」に寄ってから、登り始めることをおすすめします。
2,446段の石段を歩みながら、33個の彫り物を探す
随神門を通り抜けると、2,446段、約2km続く石段が始まります。ここから山頂までは徒歩約1時間。石段は高さがあまりなく歩きやすいですが、とにかく段数が多いので、体力を温存しつつゆっくり登っていきましょう。
石段にはひょうたんなど、33個の彫り物が刻まれています。すべて見つけると願いが叶うといわれているので、見つけた数を数えながら歩くのも楽しそう。
身清めの祓川を通り、国宝・羽黒山五重塔へ
石段を進むと、月山からの雪解け水が流れる「祓川(はらいがわ)」が見えてきます。かつて人々は、この祓川で身を清めてから山頂へ向かっていたとか。
祓川を挟んで流れ落ちているのが、江戸時代に作られた人工の「須賀(すが)の滝」。滝の前にある神社の祠(ほこら)と、雪解け水が断崖絶壁から流れる景色は、神秘的な風景です。
そのまま山頂に向かって歩き続けていくと、「一の坂」の上り口に見えてくるのが「羽黒山五重塔」。平安時代に創建され、再建・修復を繰り返しながらこの場所に在り続けています。
着色などをせず、自然な状態のままの木材を使用して建てられた「素木(しらき)造り」の五重塔は、国宝にも認定された東北最古の塔。木々に囲まれた厳かな姿は趣を感じます(※羽黒山五重塔は2025年春頃まで屋根の改修工事中)。
五重塔のすぐ近くにある老木「爺(じじ)スギ」は樹齢約1000年、幹の周囲が約10mの巨木。国の天然記念物でもある爺スギは、羽黒山で最大・最古の巨木と言われており、その大きさから長い年月、この地を静かに見守ってきたことがうかがえます。
「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」にも掲載されたスギ並木
五重塔や爺スギを堪能したら、再び石段を登りましょう。参道の両脇には樹齢約350〜500年の杉が総数580数株も並び、果てしなく続く石段に木漏れ日が射す様子は、この場所ならではの美しい景観を作り出しています。
この「羽黒山のスギ並木」は国の特別天然記念物に認定されており、フランスで販売される日本の観光ガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」でも三つ星と評価されたスポット。鳥の声と風にそよぐ葉の音に耳を傾けながら、進んでいきましょう。
急な坂を登り切ったら、「二の坂茶屋」で一休み
羽黒山の参道には一の坂、二の坂、三の坂と三つの坂があり、その中でも一番急なのが二の坂。そこを登り切ったところには「二の坂茶屋」があります。江戸時代から代々この場所で、登山者や修験者、参拝者がほっと一息つく憩いの場として親しまれてきました。
ここで食べておきたいのが、「あんこときなこの力餅とお抹茶のミックスセット」(700円)。毎朝、臼と杵でつかれる餅に炊き立てのあんこと、庄内平野で採れたきなこ専用大豆からつくる青きなこ、庄内産の青きなこを添え、抹茶と漬物がセットになっています。米と水のみで作られる餅は柔らかいだけでなく、弾力もあります。
窓際の席からは、庄内の雄大な景色を望むことができます。そのほか、地元のお菓子などお土産も販売しているので、ぜひ立ち寄ってみてください。
二の坂茶屋
- 住所
- 山形県鶴岡市羽黒町手向羽黒山33
- 営業時間
- 9:00~15:00
- 定休日
- 不定休 ※冬期(11月上旬~4月下旬)休業
松尾芭蕉が泊まった別当寺の跡「南谷」
「二の坂茶屋」を出ると、三の坂が始まります。三の坂を上る前に右へ続く脇道を約400m進むと、見えてくるのは「南谷(みなみだに)」です。ここは、松尾芭蕉が「おくのほそ道」の旅で宿泊したと言われる「別院 紫苑寺(べついん しおんじ)」の跡地。
松尾芭蕉が出羽三山で詠んだ句はいくつかあり、この南谷でも「有難や 雪をかほらす南谷」という句を残しています。
三の坂の道中には、パワースポットとして訪れる人が多い「埴山姫(はにやまひめ)神社」が鎮座。
ちなみに、埴山姫神社は縁結びや安産、子宝のご利益があると言われ、入り口の随神門の前にある随神門授与所では、埴山姫神社の「縁結び守」(1,000円)を購入することができます。
また、出羽三山は「百一末社(ひゃくいちまっしゃ)」と呼ばれ、ひとつの本殿を守るために多くの末社(本社に付属する小神社)が参道に点在しています。病気平癒や家内安全、開運招福など、それぞれの末社に神徳があるため、登山中には末社でお参りをしながら頂上を目指すと良いでしょう。
山頂に到着!出羽三山神社で参拝
2,446段の石段を登り切ると、羽黒山山頂にある「出羽三山神社(三神合祭殿)」が見えてきます。ここは、羽黒山・月山・湯殿山の三神を合わせて祀っています。
実は、出羽三山神社はもともとお寺でした。しかし、明治維新の際に「廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)」という仏教を廃する命が出たため、神社に代わりました。そのためお堂など、お寺だった頃の名残が今も残っています。
そのほか山頂には、一年中水位がほとんど変わらない神秘的な「鏡池(かがみいけ)」や、国の重要文化財である「鐘楼(しょうろう)」「建治の大鐘(けんじのたいしょう)」などが。羽黒山の文化財などを展示した「出羽三山博物館」もあるので、出羽三山の歴史や文化を感じながら、ゆっくり見てまわりましょう。
出羽三山神社
- 住所
- 山形県鶴岡市羽黒町手向手向7(羽黒山山頂)
- 開門時間
- 8:30~17:00 (祈祷受付は~15:45)
※お参りは通年可能 - 公式サイト
- 出羽三山神社
「羽黒山参籠所 斎館」で精進料理をいただく
山頂の近く、三の坂を登り切ったところにある「羽黒山参籠所 斎館(はぐろさんさんろうじょ さいかん)」では、伝統的な精進料理をいただくことができます。参籠所とは、神社や仏堂などでお参りをするため、一定期間こもって神仏に祈願する場所のこと。宿坊でもあるため、館内には僧侶の礼拝施設もあります。
事前に電話予約をすれば、宿泊をしなくても精進料理を食べることができます。ここで提供される精進料理は、出羽三山で採れた山菜やきのこなどを使い、京の味を取り入れた独自のもの。お膳は7品(2,750円)と10品(3,850円)の2種類です。
長い石段を登った後に食べる精進料理は絶妙な味わいで、心身ともに山の恵みを味わうことができるはず。ここで英気を養い、下山する体力を回復させましょう。登ってきた石段を下り、随神門まで戻ってくれば羽黒山コース完遂です。
羽黒山参籠所 斎館
- 住所
- 山形県鶴岡市羽黒町手向字羽黒山33
- 営業時間
- 11:00〜16:00
- 定休日
- 無休
- 詳細
- 羽黒山参籠所「斎館」
「過去」「未来」をあらわす月山と湯殿山
羽黒山以外の残りの二つ、月山と湯殿山についてもご紹介します。
出羽三山はそれぞれの山で開山時期が異なり、羽黒山は通年開山。しかし、月山は例年7月1日~9月中旬、湯殿山は6月1日~11月上旬頃までと開山期間が決められているので、三山すべてを巡りたい人は、7月1日から11月までの間に訪れましょう。開山期間については、出羽三山神社の公式サイトをご確認ください。
また、それぞれの山は連なっていますが、羽黒山から月山に縦走することはできません。月山から湯殿山へは縦走が可能ですが、登山初心者には難易度が高いため、ガイドを付けた方が安心です。
出羽三山の主峰、過去をあらわす「月山」
羽黒山(現在)を登った後は、過去をあらわす月山へ。出羽三山は月山を主峰とする霊山であり、「死者を祀る幽玄たる霊山に参り、現世のありがたみを知る」場所といわれています。標高1,984mの月山を登る場合は、登山靴や防寒具、レインコートなど一般的な登山装備が必要。また、例年7月下旬頃までは積雪があるため、アイゼンやストックの準備も必須です。
月山は8合目にバス停があり、そこまでは鶴岡駅や随神門、羽黒山山頂などから路線バス「羽黒・月山線」を利用して向かうことが可能。8合目からは徒歩約3時間で、月山頂上に到着します。
山頂にある「月山神社」は東北で唯一、神社の社格として最上の格を有した旧官幣大社(かんぺいたいしゃ)です。月山神社本宮へ参拝するには、御祓いを受けなければいけません。
また、古くから月山神のお使い、月の精とされる兎には悪運から逃れる力があると伝えられており、卯年である2023年は月山のご縁年。この年に参拝すると12年分のご利益があるそうなので、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
月山神社
- 住所
- 山形県東田川郡庄内町立谷沢字本澤31
- 開山期間
- 7月1日~9月中旬(2024年は7月1日~9月15日)
- 開門時間
- 7:00~16:00
- お祓料
- 500円
- 詳細
- 月山神社|出羽三山神社
未来をあらわす「湯殿山」で生まれ変わりを果たす
月山を参拝した後は、生まれ変わりを果たす聖地と言われる標高1,500mの湯殿山へ。湯殿山は山の中腹にある「湯殿山神社本宮」を目指しますが、月山山頂から縦走することも可能です。ただし、途中にはしごや鎖場などがあり、中・上級者向け。ちなみに、山頂までは登山道がなく、残雪時以外は登ることができません。
月山から縦走する以外では、車やバスで近くの「湯殿山神社駐車場」まで直接行くことができます。その近くにある大鳥居から神社本宮入口までは参拝バスで約5分(往復400円)、徒歩の場合は約30分です。
湯殿山神社本宮では、仙人沢のせせらぎで裸足になってお清めを行い、お祓いを受けてからお参りします。また、「語るなかれ」「聞くなかれ」と言われる聖地であるため、大鳥居より先は写真撮影は禁止。縁結びスポットとしても知られており、ここでしか手に入らない「恋の山守り」もあるので、気になる人はチェックを忘れずに。
湯殿山神社
- 住所
- 山形県鶴岡市田麦俣字六十里山7
- 開山期間
- 6月1日~11月上旬(2024年は6月1日~11月3日午前中まで)
- 開門時間
- 8:30~16:00
- お祓料
- 500円
- 詳細
- 湯殿山神社|出羽三山神社
大鳥居の近くにある「湯殿山参籠所」では宿泊だけでなく、精進料理をいただいたり、日帰り入浴(800円)もできたりするので、登山の帰りに一風呂浴びて下山するのもおすすめです。
湯殿山参籠所
- 住所
- 山形県鶴岡市田麦俣字六十里山7
- 営業期間
- 2024年は6月1日~11月3日
- 営業時間
- 食事/11:30~14:00、日帰り入浴/9:00~15:00
- 公式サイト
- 湯殿山参籠所
今や国内だけではなく、海外からも多くの人が訪れる出羽三山。厳かな空気に包まれ、心穏やかになり、三山を登れば生まれ変わったかのように心が浄化されるでしょう。神聖な場所として守り継がれる出羽三山へ、心身を整える旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
取材・文/fujico 撮影/古澤 麻実(株式会社Harty)