北総の小江戸・佐原。東京から電車で2時間程度で行くことができるこの町は、江戸時代に利根川水運の中継基地として栄えた場所。
特に利根川に注ぐ小野川の両岸には、かつてはたくさんの河岸問屋や醸造といった商工業者が建ち並び、現在でもその情緒が色濃く残っています。国・県の有形文化財に指定されているスポットも。
最近では、当時の面影を残しながらおしゃれにリノベーションされたお店や宿泊施設も増えており、年々見どころが多くなっています。 せっかくなら泊まりがけで佐原を楽しむのがおすすめ! 今回は、佐原の楽しみ方と併せて宿泊スポットも紹介します。
佐原の顔!「重要伝統的建造物群保存地区」でタイムスリップ気分
佐原駅に到着したら、まずは小江戸・佐原の顔とも言うべき、小野川沿いの町並みを見に行きましょう。駅を出て10分ほど歩くと小野川にぶつかります。
小野川の流れと、ところどころにかかる橋、両岸に軒を連ねる歴史を感じる民家には、何度でもカメラのシャッターを切りたくなってしまうはずです。
小野川に沿って南下していくと、いよいよ佐原の一番の見どころである「重要伝統的建造物群保存地区」が現れます。
土蔵や木造の町家、商家が立ち並ぶ風情ある景色は、眺めているだけで心が洗われていくよう。特に見どころである建物の前には、その由緒が書かれた看板が立っているので、じっくり見てみては? 佐原の町並みを、時間を忘れて心ゆくまで歩いてみてください。
ジャージャー橋(樋橋)の落水を眺める
小野川にはいくつもの橋がかかっていますが、なかでも特徴的なのが、伊能忠敬旧宅前の「樋橋(とよはし)」です。
元々は灌漑用水を東岸から西岸に送るために架けられた大きな樋で、人が通るためのものではありませんでしたが、後に大樋を箱形にして人が通れるようにし、現在のような橋になりました。
大樋からは30分ごとに水がジャージャーと流れるため、別名「ジャージャー橋」と呼ばれています。(残念ながら2018年10月現在、機械設備故障のため、落水が一時停止されています。)
小野川舟めぐりで川から町並みを楽しむ
歩くだけでなく、舟から佐原の町並みを楽しむのもおすすめ。
小野川を約30分かけて往復する観光遊覧船に乗れば、下からのアングルで佐原の町並みを見上げることができます。船頭さんの佐原案内に耳を傾けながら、歩いている時とはまた違った景色を味わいましょう。
小野川 観光遊覧船
- 料金
- 大人 1,300円 小学生 700円
- 運行時間
- 10:00〜16:00(4月)、10:00〜16:30(5〜9月)、10:00〜15:30(10〜11月、3月)、10:00〜15:00(12〜2月)
築100年以上の蔵を改装した「夢時庵」でフランス料理を
小野川沿いには町家や商家の雰囲気をそのまま残してリノベーションしたカフェや飲食店も数多くあります。
「夢時庵」(むーじゃん)は、お隣にある正上醤油の蔵をリノベーションしたフランス料理店です。
蔵が建てられたのは明治34(1901)年のこと。築100年以上も経っており、外観はその情緒をしっかりと残しながらも、店内は明るく洗練された雰囲気となっています。
貸切の個室もあるので、グループでの旅行にも使えます。
もっとも人気があるメニューは「ランチコース」。前菜の盛り合わせ、スープまたはパスタ、メイン(魚、お肉4種類からチョイス)、デザート(2種類からチョイス)、自家製パン、コーヒーまたは紅茶がついて2,500円(税込)のコースです。
前菜は、たっぷりの野菜サラダの下にオムレツやベーコン、きのこ、スモークサーモン、イワシの酢漬けなどが隠れており、満足度大。
スープはじっくりと時間をかけて煮込まれた深い味わいです。
メインは4種類から選ぶことができますが、今回は「銚子港から水揚げされた 鮮魚のお料理」をチョイス。この日は「サワラのグリルとスズキのカダイフ仕立て」でした。
佐原は、日本一の水揚げ量を誇る銚子漁港を擁する銚子まで電車で1時間ほど。オーナーシェフ・鈴木さんの故郷でもあるため、むーじゃんでは銚子漁港直送の魚を積極的に使っています。情緒ある雰囲気の中で食べる新鮮なお魚は絶品!
食後はパウンドケーキとアイス、紅茶が運ばれてきて、大満足。
正上醤油店の店舗と土蔵は県指定有形文化財となっているので、食後にじっくり散策してみるのもいいですね。
夢時庵(むーじゃん)
- 住所
- 千葉県香取市佐原イ3403-2
- 営業時間
- 11:30~14:00/17:30~20:30
- 定休日
- 火曜日
- アクセス
- JR成田線 佐原駅より徒歩約10分
佐原の偉人・伊能忠敬の生涯に想いを馳せる
おなかがいっぱいになったら、少しだけ佐原のまちを学んでみましょう。佐原が輩出した歴史上の有名人といえば、やはり伊能忠敬です。
伊能忠敬は日本で初めて実測による日本地図を完成させた人物です。現在の九十九里町に生まれ、10代で佐原で酒造業を営む伊能家の婿養子になると、商人として成功をおさめていきます。
寛政6(1794)年、49歳で隠居しますが、その後天文学を学ぶために江戸に出て、10回もの測量で日本地図作成に必要なデータを取りました。日本地図を完成させる夢半ばで忠敬は亡くなってしまいますが、その約3年後、弟子たちの手によって「大日本沿海輿地全図」が完成しました。
伊能忠敬記念館で日本地図の歴史に触れる
そんな伊能忠敬の生涯がよくわかるのが、「伊能忠敬記念館」です。
館内には伊能忠敬の生涯がわかる資料や、測量の足取り、日本地図作成のために使われた測量器具、日本地図の歴史に関する展示があります。
約20年もの歳月をかけて測量し、完成した「大日本沿海輿地全図」は、肉眼では現在の日本地図と全く変わらないようにも見えます。
実際には多少のズレがあるそうですが、それでも最大で数km程度。満足な器具もなく、徒歩で測量したことを考えると、まさに偉業というにふさわしいでしょう。
じっくり見学して、伊能忠敬の生涯に想いをはせてみてはいかがでしょうか。
国指定史跡・伊能忠敬旧宅も見学
伊能忠敬記念館と併せて、伊能忠敬旧宅を見学するのもおすすめです。伊能忠敬が人生の大半を過ごした家で、国指定史跡としても登録されている場所です。
土蔵造りの店舗、炊事場、書院、土蔵などが残っており、古民家が好きな方は特に必見です。佐原の町並みは、外からは楽しめても、内側をじっくりみられる機会は少ないで、貴重な場所と言えるでしょう。
伊能忠敬記念館・伊能忠敬旧宅
- 住所
- 千葉県香取市佐原イ1722番地1
- 営業時間
- 9:00〜16:30(16:00ころまでに入館してください)
- 定休日
- 月曜日(国民の祝日は開館)、年末年始
伊能忠敬旧宅は年末・年始のみ休館です
公式サイトの休館日カレンダーもご確認ください
- 入館料
- 伊能忠敬記念館 一般500円、小中学生250円
伊能忠敬旧宅 無料
- アクセス
- JR成田線 佐原駅より徒歩約10分
町並みにゆるやかに溶け込むホテルで1泊
小江戸・佐原らしい雰囲気を感じながら泊まれる宿泊施設として話題となっているのが、「佐原商家町ホテルNIPPONIA」です。
佐原の町並みに溶け込む外観は、一見してホテルとはわかりません。NIPPONIAは佐原の町中に3つの宿泊棟と1棟のレストラン棟が点在している、町全体をホテルに見立てた宿泊施設です。
建物はどれも歴史ある商家、町家ですが、内装は、当時の面影を残しながらもモダンにリノベーションされており、安らぎと贅沢さを兼ね備えた雰囲気になっています。
食事は、県指定文化財の中村屋商店というお店をリノベーションした、GEISHO棟のダイニングでいただけます。
使う食材は地元・佐原や千葉県内から届く新鮮素材ばかり。それを、スイスや神戸で活躍し、有名レストランガイドで4年連続1位を獲得したシェフが、絶品のフレンチに仕立てています。
千葉・佐原の恵みを味わい、小江戸の町中に溶け込む。心豊かになる特別な宿泊体験が叶うホテルです。
愛らしく表情豊かな伝統玩具「佐原張子」をお土産に
ホテルのチェックアウト後はお土産を探しに行きましょう。佐原ならではの「佐原張子」はいかがですか?
佐原張子は昭和62(1987)年に千葉県の伝統的工芸品に選定された、佐原を代表する郷土玩具です。 素朴であたたかみのある表情、柔らかな手触りに、手に取るとおもわず笑顔になってしまいそう。
作っているのは鎌田芳朗さん、御歳83歳。佐原張子を手がけるただ一人の職人さんです。
佐原で生まれ育ち、だるまを作るおじいさんの背中を見て思春期を過ごした鎌田さん。 しかし、鎌田さんが高校を卒業したその年におじいさんが体調を崩してしまい、急遽だるま作りが鎌田さんの手に委ねられます。病床のおじいさんに聞きながら、見よう見まねでだるまを完成させたそうです。
そしてその年のだるまが「勢いがあっていい」とお客さんから評価され、鎌田さんの佐原張子職人としての人生も徐々に始まっていくのです。
「不器用で、だるま作りみたいな作業は苦手でした」と話す鎌田さん。学校の先生になりたいという夢があり、「いつやめようか」ともんもんとしながらも作り続けていたところ、数年後には雑誌や新聞に取り上げられるようになり、それがきっかけで千葉そごうの催事に毎年出るようになったりと、いつの間にかやめられない状況になっていました。
昭和62(1987)年には佐原張子が千葉県の伝統的工芸品に選定され、さらに平成11(1999)年には年賀郵便切手のデザインに採用されたのです。
それ以降、テレビなどでも頻繁に佐原張子が取り上げられるようになり、鎌田さんは今や千葉県を代表する伝統工芸品作家となりました。
工房脇には「かごめかごめ」、「夕焼け小焼け」、「ふるさと」など、童謡を題材にした1点ものの張子も多数あります。
「50歳くらいでやっと天職だと思えるようになりました」と笑って話す鎌田さんの柔らかいお人柄がそのまま現れている佐原張子は、大事な人へのお土産にぴったりです。
現在はメディアで注目を集めたことによる品切れなどで、販売数も種類も少なくなっている佐原張子ですが、歴史的建物を用いたセレクトショップ「素顔屋(すっぴんや)」で見つけることができます。
同じようなデザインでも、手作りなので一つとして同じものはありません。どれにするか迷う時間も楽しいものです。
今回は迷いに迷って、鎌田さん作の白いだるまを購入。洋間に置いても違和感のない白色で、福が呼び込めそうな感じです。
素顔屋(すっぴんや)
- 住所
- 千葉県香取市佐原イ3396
- 営業時間
- 10:00~17:00
- 定休日
- 不定休
- アクセス
- JR成田線 佐原駅より徒歩約13分
旅の締めくくりは「香取神宮」でお参りを
帰りは小野川沿いの「忠敬橋」バス停から佐原循環バスに乗り込み10分ほどの場所にある、香取神宮を訪れてみてははいかがですか?
香取神宮は、鹿島神宮、息栖神社とともに東国三社めぐりスポットとしても注目を集めています。明治以前は伊勢神宮、鹿島神宮、香取神宮しか「神宮」と名乗れなかったことからも伺えるように、非常に由緒ある神社です。
必勝祈願や合格祈願をする参拝客が多いようですが、あらゆることを導いてくれそうな荘厳な空気を感じます。
黒の漆塗りに極彩色が特徴的な拝殿は、細部まで細かな装飾が施されているのに注目です。 その奥に位置する本殿は、元禄13(1700)年 徳川幕府の手によって造営されたもの。国の重要文化財にも指定されています。御殿のまわりはぐるりと一周できますので、さまざまな方向からその重厚さを確かめてみたくなります。
そのほか、地震を起こす大ナマズを鎮めるとされている霊石「要石」や伊勢神宮御遷宮の際の古材でできた社殿がある「奥宮」、徳川光圀公がお手植えされたと言われている「黄門桜」など、たくさんの見どころがあります。
香取神宮
- 住所
- 千葉県香取市香取1697-1
- アクセス
- JR成田線 佐原駅よりタクシーまたはバスで約10分
JR成田線 香取駅より徒歩約30分(約2km)
参拝の後は必食!亀甲堂の「厄落とし団子」
香取神宮参拝の締めくくりに、参道の最も手前にある「亀甲堂」に立ち寄ってみましょう。昭和17(1942)年からこの地に店を構える老舗です。店外・店内ともにいつ見ても人だかりができており、その人気ぶりは一目瞭然。
自家製粉の手打ちそばや新鮮な海鮮丼などがいただけ、ランチにもおすすめのお店ですが、ここで外せない名物といえば「厄落とし団子」です。
その場で熱々を提供してくれるので、みたらしあんもとろっとろ。先代から引き継がれた秘伝の手作りたれが、味の決め手となっています。
「厄落とし団子」は商標登録されており、食べられるのはここ、香取神宮の亀甲堂だけ。「厄除け」はもちろん、しっかり「厄を落として」香取神宮を後にしましょう。
草だんごや焼きだんごのセットもあるので、お土産にもおすすめです。
香取神宮前 お食事・お土産処 亀甲堂
- 住所
- 香取市香取1894-5
- 営業時間
- 8:00〜18:00(予約すれば夜の宴会利用も可能)
- 定休日
- 年中無休
- アクセス
- JR成田線 佐原駅よりタクシーまたはバスで約10分
小江戸と呼ぶにふさわしい、情緒あふれる景色が楽しめる佐原の町並み。歩くだけでなく、舟に乗って川からその景色を眺めるなどして、小江戸の風情をさまざまな角度から満喫してみませんか。
取材・撮影・文/江戸しおり
※掲載内容は公開時点のものです。ご利用時と異なることがありますのでご利用の際は公式ホームページなどでご確認ください。