400年以上の歴史を持ち、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている日本の伝統芸能「歌舞伎」。歌舞伎俳優の迫力ある演技はもちろんのこと、舞台、衣裳、音楽など様々な職人技や人々を楽しませる工夫が詰まった総合芸術です。
しかし歌舞伎を見たことがない人にとっては、ちょっと難しそうなイメージもありますよね。この記事では「どうやって観劇するの?」「おすすめのお土産は?」などの疑問に答えながら、「歌舞伎座」の楽しみ方をお届けします!
目次
- <歌舞伎を観劇する>
- <観劇後の楽しみ>
400年以上続く、世界遺産の伝統芸能「歌舞伎」とは
歌舞伎の歴史は江戸時代の1603(慶長8)年に出雲の阿国が京都で披露した「かぶき踊り」がはじまりと言われています。歌舞伎は常識にとらわれない「傾(かぶ)く」が語源となっており、今日も斬新な発想で人々を楽しませる精神が続いています。
江戸では1624(寛永元)年、京橋に中村座が誕生したことで歌舞伎が広まり始め、その後17世紀後半~18世紀初めに大きく発展。豪快な演技「荒事(あらごと)」や動きを一瞬止めて印象的なポーズをとる「見得(みえ)」はこの頃に生まれ、現在でもその表現様式を引き継いだ演目を見ることができます。
イヤホンガイドがおすすめ。歌舞伎を見るための事前準備
歌舞伎を見ると決めたら、まずは劇場と演目を決め、チケットを購入します。歌舞伎は国立劇場、新橋演舞場、大阪松竹座、京都南座など各地の劇場で上映している月もありますが、1,800人を超える収容人数で毎月歌舞伎を観劇できる劇場が銀座の「歌舞伎座」。ここは、世界唯一の歌舞伎専用劇場となります。
チケットは事前に「チケットWeb松竹」で予約するとスムーズ。郵送や歌舞伎座前の「切符引取機」から受け取ることができます。
席に空きがある場合、歌舞伎座の地下2階にある「歌舞伎座切符売場」で当日券を購入することも可能。東銀座駅と直結した地下2階の「木挽町(こびきちょう)広場」の一角にあります。
座席は座種によって料金が変わり、1等席、2等席、3階A席、3階B席、1階桟敷席の5種類。迫力のある演技を見られる1階の前方から、最もリーズナブルな3階B席まで座種ごとに様々な視点から歌舞伎を楽しめます。2階や3階は双眼鏡(オペラグラス)を持っていくと、俳優の細やかな表情も確認できるのでおすすめです。
公演は複数の演目の名場面や舞踊などを組み合わせて上演する「見取り形式」と1つの作品を最初から最後まで上演する「通し狂言」があります。歌舞伎は事前にその演目のストーリーを知ることでより深く楽しむことができ、特に見取り形式ではその作品のハイライトが上演されるので、インターネットなどで調べておくのがおすすめです。当日は場内や1階のお土産処「木挽町」であらすじが書かれた「筋書」も購入できます。
初めて歌舞伎を観劇する時は「イヤホンガイド」をレンタルするのが一押し。歌舞伎は現代とは異なる言葉が使われ、独特の言い回しがあるため、初心者がすぐに理解するのは難しい部分があります。
イヤホンガイドは舞台の進行に合わせてあらすじ、配役、衣裳、道具など細やかな部分まで初心者にもわかりやすく同時解説してくれるので、より歌舞伎を楽しむことができますよ。
イヤホンガイドは場外と場内の2カ所で貸し出しています。予約は不要で気軽にレンタル可能。事前に「オンラインストア耳寄屋」で電子引換チケットを購入すればお得に借りることもできます。
- イヤホンガイド
レンタル料金 -
通常レンタル:800円
事前予約:オンラインストア耳寄屋 700円
そのほかの事前準備として、座席は荷物置き場がないためなるべく身軽に行くのがおすすめです。場内の地下1階と3階にコインロッカーがあり、地下1階には大型サイズのコインロッカーも用意されています。
観客だけが見られる華やかな緞通(だんつう)も。建築・装飾美を楽しむ
歌舞伎座は公演だけではなく、建築や館内の美術品も見どころです。2013年に竣工した現在の歌舞伎座は三菱地所設計と隈研吾建築都市設計事務所による共同設計。1889年に開場し第一期から数えて第五期の建物となっており、第四期の華やかな意匠を踏襲しつつバリアフリーの対応などが行われました。背景には日本建築の捻子連子格子(ねりこれんじごううし)をモチーフにした高さ約145.5mの歌舞伎座タワーが併設されています。
歌舞伎座でよく見られるモチーフが座紋「鳳凰丸(ほうおうまる)」。歌舞伎座の創設者の一人である福地桜痴が自宅の釘かくしに使われていたこの紋を気に入り、歌舞伎座の座紋としたと伝わっています。原形は法隆寺の宝物「鳳凰円文螺鈿唐櫃(ほうおうえんもんらでんからひつ)」に描かれていた紋様。正面玄関の紫の幕、提灯、瓦など至るところで見ることができます。
場内に入る前にチェックしておきたいのが「歌舞伎稲荷神社」。歌舞伎稲荷神社は銀座を含む地域の氏神であり、歌舞伎座で大切にしている神社です。歌舞伎興行の初日と千穐楽(せんしゅうらく)には、「奉告祭」が執り行われます。第四期の歌舞伎座では内部に鎮座していましたが、2013年に新開場となったタイミングで一般の人もお参りできるようになりました。歌舞伎座タワーの5階にあるお土産処「楽座」で御朱印をいただくことも可能です。
いよいよ正面玄関から入場すると、大間の美しい床敷用の高級織物「緞通(だんつう)」が観客を出迎えてくれます。この緞通は山形県の山辺町で緞通製作を行う「オリエンタルカーペット(株)」が、2013年の新開場に合わせて製作したもの。京都「平等院鳳凰堂」の中堂母屋に描かれている「咋鳥文様(さくちょうもんよう)」をモチーフにしているそう。華やかな緞通に、間もなく開演する公演への期待も高まります。
歌舞伎俳優の圧巻の演技や音楽に感動。歌舞伎を観劇
公演時間になると「チョンチョンチョン……」という拍子木の音とともに定式幕(じょうしきまく)が開き、演目がはじまります。通常の公演は「昼の部」と「夜の部」に分かれ、それぞれの上演時間は約4時間。演目と演目、あるいは場面と場面の間に休憩時間として30分前後の「幕間(まくあい)」が設けられています。
歌舞伎のイメージとしてもポピュラーな黒・柿・萌黄色の定式幕は、江戸三座の一つ「森田座」の引幕を踏襲したもの。襲名や初舞台などに際して、特別な幕がかけられることもあります。2023年4月は歌舞伎座の新開場10周年を記念した新緞帳「朝明けの潮」がお披露目されました。
観劇中はイヤホンガイドに耳を傾けながら、ダイナミックに動く舞台の仕掛け、歌舞伎ならではの化粧法「隈取」、俳優の細やかな所作と迫力ある大胆な動きに注目。雨の音や幽霊が登場する時の「ひゅ~ドロドロ」といった生演奏のBGMや効果音にも、耳を澄ましてくださいね。
歌舞伎座ならではの弁当&おやつを満喫。幕間の楽しみ方
30分前後の幕間(まくあい)でお弁当や甘味を食べたり、お土産を買ったりするのも、観劇の楽しみのひとつ。3階「座・のれん街」は歌舞伎座限定の雑貨やお菓子を販売するお店が軒を連ねます。
3階「座・のれん街」で特に人気のおやつが「たい七」。紅白もち入りの歌舞伎座名物「めでたい焼」(1個350円)を購入できます。大変人気のため、早めに列に並ぶのがおすすめです。
座・のれん街(歌舞伎座3階)
- 営業時間
- 各部開場~開演、幕間
- 定休日
- 休演日
幕間では場内に展示された美術品もお見逃しなく。著名な画伯の貴重な絵画や、俳優が書いた絵馬などが展示されており、まるで小さな美術館のようです。
幕間に一度外に出て、再入場することも可能です。お弁当を購入したい時にぴったりのお店が地下2階のお弁当処「やぐら」。歌舞伎座内の厨房で作っているオリジナルの「花篭弁当」(2,000円)や日本橋の老舗であるにんべん・山本海苔店・榮太樓總本鋪とコラボレーションした「花舞台弁当」(1,400円)など、幕の内弁当や寿司が常時20種類ほど並びます。
ちなみに幕の内弁当は一説によると歌舞伎で幕の内(幕間)に食べることが由来とされています。お弁当処「やぐら」では2日前までに予約すると、江戸時代の幕の内弁当を再現した「江戸の幕の内弁当」(2,000円)も注文可能です。
木挽町広場 お弁当処「やぐら」(地下2階/地下鉄東銀座駅直結)
- 営業時間
- 9:00~18:30 ※歌舞伎公演日のみ営業
- 定休日
- 休演日、年末、元旦
- 電話番号
- 03-3545-6576
歌舞伎座
- 住所
- 東京都中央区銀座4-12-15
- 電話番号
- 03-3545-6800(代)
- アクセス
- もしくは、東京メトロ銀座線・丸ノ内線・日比谷線「銀座駅」A7番出口より徒歩約5分
JR・東京メトロ「東京駅」よりタクシーで約10分 - 駐車場について
-
歌舞伎座で観劇の方は以下の駐車場を1時間サービスで利用可能(※タイムズ東劇ビルは30分間のサービス)。駐車券を劇場1階受付にお持ち下さい
GINZA KABUKIZA パーキング(歌舞伎座駐車場)
・TEL:080-1294-2402
※公式サイトより事前予約も可能
G松竹スクエアパーキング(銀座松竹スクエア)
・TEL:03-6226-5921
Gタイムズ東劇ビル
※晴海通り、銀座方面からの右折はできません
・TEL:03-3542-7983 - 公式サイト
- 歌舞伎座
隈取モチーフが人気。歌舞伎観劇後はお土産探しへ
観劇後もお楽しみはまだまだ続きます。正面玄関から最も近い1階のお土産処「木挽町」でお土産をチェックしましょう。幕間中は観客のみ場内から入店が可能で、幕間以外の営業時間中は誰でも入店できます。
商品は演目にちなんだ月替わりの限定商品、歌舞伎座厳選の大福、歌舞伎座グッズ、各企業とコラボレーションしたお菓子など豊富なラインナップ。昭和・大正時代に実際に使われていた筋書※の表紙がデザインされた歌舞伎座レトログッズ「筋書風ノート」(660円)、公演に合わせた月替わりのデザインが好評の「スヌーピー A4クリアファイル」(450円)も歌舞伎座ならでは。観劇の思い出を残せるグッズです。
※資料提供:松竹大谷図書館
「隈取A4クリアファイル」(350円)、「ミニうちわ」(490円)、「隈取ハンカチ」(590円)といった「隈取」をモチーフにしたグッズも人気。隈取は役柄によって色が異なり、赤は「正義」、青は「悪」、茶色は「妖怪」などを表しています。歌舞伎観劇中も、俳優の隈取の「色」に注目してみてくださいね。
「赤坂青野 くまどり餅」(1,700円)や「べっこう梅飴」(500円)など、歌舞伎らしいパッケージが印象的なお菓子もおすすめです。黒・柿・萌黄色の歌舞伎らしいカラーの箱に入った「天乃屋 歌舞伎揚」(1,100円)は、通常の歌舞伎揚よりも大きなサイズ。2023年は歌舞伎座新開場10周年記念の特別なデザインとなっています。
お土産処「木挽町」にはおいしそうな香りが漂っており、香りの元は大黒堂の「焼きたて人形焼」(5個入り 550円)。大黒天、恵比寿、弁財天、毘沙門天、布袋尊、寿老人、助六の形をしたこしあんの人形焼です。助六の人形焼は30個に1つのラッキーアイテム!歌舞伎座限定です。
お土産処「木挽町」(歌舞伎座1階)
- 営業時間
- <歌舞伎公演日>
10:00~18:30
※観劇のお客さま専用の入口は18:00施錠
<歌舞伎休演日>
10:00~18:00
※月初と月末の2日は営業時間を短縮。営業時間の詳細は歌舞伎座の公式サイトを参照 - 定休日
- 不定休
歌舞伎座タワーで「四階回廊」と「屋上庭園」を散策
歌舞伎座を満喫したあとは、昭和通り口から「歌舞伎座タワー」へ。ここには屋上庭園、ギャラリー、日本茶喫茶、お土産店があり、観劇前後に楽しむことができます。まずはエレベーターに乗って4階へ。エレベーターホールには歌舞伎を題材にした貴重な小川三知さんの作品「国姓爺合戦」ステンドグラスが展示されています。
4階は「四階回廊」として、歴代歌舞伎俳優のパネルや歌舞伎座の建築模型が鑑賞できます。
歌舞伎座は1889年11月~1911年7月の第一期、1911年10月~1921年10月の第二期、1924年12月~1945年5月の第三期、1950年12月~2010年4月の第四期、そして2013年4月~の第五期と建物が変遷しています。外観が洋風の第一期や、空襲で焼失してしまったのちに再建された第四期など、歴史の厚みを体感できる建築模型となっています。
4階から「五右衛門階段」を利用して5階へ進みます。約10万枚の瓦が使われている歌舞伎座の大屋根を間近に見られる絶好のスポットです!五右衛門階段は歌舞伎の演目「石川五右衛門」の名シーンからその名が付けられています。
屋根の瓦には鳳凰丸があしらわれていますが、よく見ると1枚だけ顔の向きが反転した「逆さ鳳凰丸」が!たくさんの瓦の中から見つけると、良いことがあるかもしれませんね。意外と階段近くにあります。
五右衛門階段の先にあるのは「屋上庭園」。四季折々の花々が咲く気持ちの良い空間です。江戸と明治時代に活躍した歌舞伎作者「河竹黙阿弥」の自宅の庭に置かれていたという「黙阿弥の石燈籠と蹲踞(つくばい)」、歌舞伎座を支えた先人の偉大な功績を讃えるために2013年に設置された「先人の碑」も見学できます。
四階回廊(歌舞伎座タワー4階)、屋上庭園(歌舞伎座タワー5階)
- 営業時間
- 10:00~19:00
歌舞伎俳優の舞台写真が買える!お土産処「楽座」
5階のお土産処「楽座」は書籍&DVD、歌舞伎俳優のグッズの品ぞろえが豊富。推しの歌舞伎俳優の舞台写真や名前入りのオリジナルグッズを購入できます。歌舞伎稲荷神社の御朱印もここでいただくことができ、歌舞伎座オリジナルの御朱印帳も販売しています。
お土産処「楽座」(歌舞伎座タワー5階)
- 営業時間
- 10:00~18:00 ※歌舞伎公演日のみ営業
- 定休日
- 休演日、年末、元旦
素朴な疑問を解決。入場無料の「歌舞伎座ギャラリー」
歌舞伎座の歴史や文化を学べるスポットが5階「歌舞伎座ギャラリー」。「歌舞伎の特徴は何ですか?」「女性の役も男性が演じているってほんとうですか?」など、歌舞伎初心者の素朴な疑問に答える「歌舞伎Q&A」を展示。トリックアートを使った撮影スポットも人気です。こちらを見学してから、歌舞伎観劇に行くのもおすすめ!入場無料※です。
歌舞伎座ギャラリー(歌舞伎座タワー5階)
- 営業時間
- 10:30~18:00
- 料金
- 一部エリア無料開放(2023年6月時点)
本格的な抹茶に舌鼓。日本茶喫茶「寿月堂」で癒しのひととき
散策の休憩は5階「寿月堂 銀座 歌舞伎座店」で。1854年創業の丸山海苔店が手がける日本茶専門店で、お茶や抹茶スイーツを味わうことができます。内装の設計は世界的建築家・隈研吾さんが担当。3,000本の竹に覆われた、美しい和の空間となっています。
屋上庭園を見ながらお茶ができることも寿月堂の魅力です。本格的な抹茶を味わい、庭園を望むだけで癒されます。
抹茶は本格的な茶器を用いており、美しい所作でスタッフが丁寧に点ててくれます。
「抹茶セット 上生菓子付き 抹茶初昔(薄茶)」(1,600円)は静岡・岡部産の香り高い抹茶と、季節ごとに変わる創業670余年の老舗「塩瀬総本家」の上生菓子をいただくことができます。抹茶は上品な甘みがとてもおいしく、この日は「牡丹」の美しい上生菓子で四季を感じることができました。
洋風のスイーツで一押しのメニューが「濃厚フレンチトースト(コーヒーまたは水出し芽茶付き)」(1,600円)。銀座の老舗「木村屋總本店」のデニッシュブレッドを、抹茶を混ぜた卵液に20時間以上漬け込み、カリっと焼き上げた一品です。トッピングは生クリームと「抹茶初昔」を使用した抹茶ソース&パウダー。お手前グレードの抹茶を使用しているからこそとても濃厚で、洗練された味を堪能できます。
お土産には海苔5種類を食べ比べできる「歌舞伎座店 ボックス」(2,300円)が一押し。歌川国定が描いた五代目松本幸四郎がデザインされています。
寿月堂 銀座 歌舞伎座店(歌舞伎座タワー5階)
- 営業時間
- 店舗:10:30~17:30
喫茶:10:30~17:30(L.O.17:00) - 電話番号
- 03-6278-7626
到着した瞬間から観劇後までたっぷり満喫できる「歌舞伎座」。舞台はもちろんのこと、建築美に触れたり、おいしいグルメを堪能したりと、多彩な楽しみ方ができます。まずはテレビでも活躍している有名な歌舞伎俳優の舞台を観劇するのもおすすめ。日本を代表する伝統芸能の「歌舞伎」を、一度は見に行ってみませんか。
取材・撮影・文/小浜みゆ