金沢の老舗料亭旅館「浅田屋」でミシュラン星付きの料理と一流のもてなしを堪能

金沢・料亭旅館「浅田屋」

江戸時代に栄華を極め、当時の文化や伝統が色濃く残る金沢。山海に囲まれたロケーションから食材に恵まれ、独自に発展した食文化、九谷焼や輪島塗、金沢箔といった伝統工芸、お茶文化、歴史ある建築や庭園、そして、それらの文化や伝統を結集した料亭文化も今に受け継がれています。

金沢を代表する老舗料亭旅館のひとつに、350年以上続く「浅田屋」があります。細部まで行き届いたもてなしや、旬の地元の食材を用いた記憶に残る料理の数々。ほかとは一線を画す料亭体験が叶います。感動の宿、浅田屋で過ごす1泊2日の滞在の模様を詳しく紹介します。

 

ミシュラン星付き、350年以上続く老舗料亭旅館「浅田屋」

金沢・料亭旅館「浅田屋」

「浅田屋」は江戸時代の1659年に加賀藩御用達の飛脚業として創業し、1867年に旅籠「淺田」を開業。代々受け継がれてきた土地で旅館業を営む、金沢を代表する名旅館です。

現在は16代目となる浅田久太さんが当主を務め、伝統を継承しつつ、さらなる進化を続けています。

金沢・料亭旅館「浅田屋」ミシュラン

料理が評価され、『ミシュランガイド富山・石川(金沢)2016特別版』『ミシュランガイド北陸2021特別版』と2回連続で一つ星を獲得し、ホテル・旅館部門でも4レッドパビリオン(四つ星+)を獲得。これは、「極めて快適」「特に魅力的」というミシュランお墨付きの証です。

 

金沢市民の台所「近江町市場」の目の前、街の中心にある浅田屋へ

金沢・料亭旅館「浅田屋」

アクセスは金沢駅からタクシーで約6分。観光スポットとしても人気の近江町市場(おうみちょういちば)の目の前という金沢の中心地に、数寄屋造りの建築が佇んでいます。

玄関にかけられた暖簾は、金沢を流れる犀川(さいがわ)と浅野川の流れを表現。伊賀の作家による特注品です。全5種類あり、季節ごとにかけ替えられ、宿泊客をもてなします。

 

金沢・料亭旅館「浅田屋」

暖簾をくぐると、そこは別世界。石灯籠や季節の生花を配した空間はとても美しく、一歩踏み入れた瞬間にその世界観に引き込まれます。清めの打ち水がなされた石畳を進むと、接客の方のお出迎えが。

金沢・料亭旅館「浅田屋」

そして、「ようこそ、こちらへどうぞ」と玄関横にある茶の間へ案内してくださいました。茶の間はロビーにあたる部屋で、冬には囲炉裏の銅壺で温かい香煎茶を淹れてくれるそう。

金沢・料亭旅館「浅田屋」

取材したこの日は真夏の暑い日だったので、冷たい「加賀棒茶」をいただきました。加賀棒茶は金沢で親しまれている伝統的なお茶で、さっそく金沢の文化を堪能しながら、喉を潤しました。

金沢・料亭旅館「浅田屋」

床脇に飾られているのは、水引で作られた人形。これは、金沢の伝統工芸である加賀水引の創始者で、「津田水引折型(つだみずひきおりかた)」初代・津田左右吉氏の作品『六歌仙』。津田左右吉氏の現存する唯一の作品で、とても貴重なものです。

この茶の間をはじめ、客室や館内に飾られている美術品は、季節ごとに変えているそう。再訪するゲストにも新しい作品を楽しんでもらいたいという、浅田屋のこだわりがうかがえます。

 

非日常を堪能できる全3室の客室

静かに過ごせる客室「高尾」

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

階段を上って客室へ。浅田屋には全3室の客室があり、今回は「高尾」に宿泊しました。12.5畳の和室に広縁が付いて広々。定員は2名です。

館内の奥のほうにあるため、外の音はまったく聞こえず、街の中心地にあるとは思えないほど静か。5月下旬~9月下旬には、夏の装いとして竹の網代が敷かれ、室内でも季節を感じられます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

浅田屋は全室、坪庭付き。京都・嵐山にある昭和を代表する庭園「大河内山荘庭園」を造った庭師に3カ月ほど金沢に移り住んでもらい、設計から施工まで手がけてもらったというこだわりの庭です。

高尾の広縁にはイスとテーブルが置かれ、坪庭を眺めながらゆったりと過ごせます。冬はこたつで温まりながら、雪をまとった坪庭を見るのもまた一興。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

客室は伝統的な和室ながら、快適に過ごせるよう、モダンな設備が取り入れられています。

でも、エアコンは天井や壁に埋め込み、吹き出し口は木格子で覆ってあったり、コード類も見えないよう配線してあったり、電話機は輪島塗だったり、現実を離れて非日常を堪能できる工夫が細部にまで施されています。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

その快適でモダンな機能はバスルームにも見られます。「高尾」のバスルームには、手持ちのシャワーとドイツ「ハンスグローエ」社のレインシャワーが。バスタブはありませんが、大きな湯船を備えた1階の貸切風呂も無料で利用でき、手足を伸ばしてゆったりとお湯に浸かれます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」アメニティ

バスアメニティは、「ロクシタン」の天然のエッセンシャルオイルを使用した「ファイブハーブス」シリーズのシャンプー、コンディショナー、シャワージェルと、「プロヴァンスアロマ」シリーズのボディローションを用意。ハーブの香りに癒やされながら、バスタイムを楽しめます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」アメニティ

さらに、スキンケアアメニティまで用意。「DHC」の「WAGOKORO」シリーズのクレンジング、洗顔料、化粧水、乳液がそろっています。

 

金沢・料亭旅館「浅田屋」

チェックインしてお部屋でくつろいでいると、お抹茶と金沢の和菓子を持ってきてくださいました。

金沢・料亭旅館「浅田屋」

茶碗は、約350年の歴史をもつ金沢の窯元「大樋焼(おおひやき)」。代々受け継がれてきた器を楽しめるのも浅田屋の魅力です。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

そして、客室には金沢「丸八製茶場」の加賀棒茶と煎茶も用意されていて、滞在中、いつでもお茶を楽しめます。金沢の伝統色「加賀五彩」(えんじ・藍・黄土・草・古代紫)があしらわれた「九谷焼」の湯のみが目も楽しませてくれます。

 

ミストサウナ付きの客室「不老」

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

全3室の客室はそれぞれが特徴的。もう1つの客室「不老」には、15畳の和室と坪庭が。3名まで宿泊可能です。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

洗面台はダブルシンクで、バスルームはバスタブ付き。ミストサウナも楽しめます。

 

館内最高級のスイートルーム「鼓」

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

2021年10月に改装し、寝室とリビングダイニングの2部屋をもつスイートルームに生まれ変わった客室「鼓(つづみ)」。金沢で最も格式の高い部屋に使われる群青を基調とした最高級客室です。3名まで泊まれます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

部屋の名前の由来が、リビングダイニングに飾られている「草花蒔絵小鼓」。18世紀の江戸中期に作られた能に使われる小鼓で、収納箱とともに見事な蒔絵が施されています。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

約91.7平米の室内に、寝室とリビングダイニング、バスルームというレイアウト。ベッドはシモンズ社製のダブルサイズで広々。壁には江戸中期に活躍した扇・染物絵師の宮崎友禅斎が描いた巻物がかけられています。

 

料理、器、もてなしで魅せる感動の夕食

金沢・料亭旅館「浅田屋」
金沢・料亭旅館「浅田屋」
金沢・料亭旅館「浅田屋」

浅田屋について、大勢の人が特に絶賛するのが料理。心待ちにしていた夕食の時間、食事処「千歳(せんざい)」に向かいます。

途中、廊下にずらりと並ぶ約300枚もの鍔(つば)に圧倒されます。これは前田家のコレクションを浅田屋の先代が受け継いだもの。約500年前の室町時代の鍔や前田家の家紋「加賀梅鉢」が刻まれた鍔など、歴史を物語るとても貴重な逸品が並んでいます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

浅田屋の夕食は、先附から郷土料理、果物まで全10皿の会席。献立は時期によって変わり、春は鮎、夏は鮑、秋は能登松茸、冬は香箱(こうばこ)ガニなど、北陸の旬を味わえます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

この日の先附は、涼やかなガラスの器に入った「おくらゼリー寄せ 蒸し雲丹包み」。ウニをはじめ、サイマキエビ、とうもろこしなどが入った夏らしいひと皿です。

うちわの形をしたお盆に飾られているのは梶の葉。その昔、七夕には梶の葉に願い事を書いたそうで、短冊の前身とされている葉です。目でも舌でも季節を楽しめます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

続く、金沢名物・どじょうの蒲焼きは、7月後半~8月半ばに訪れた人だけが食べられる料理です。金沢では夏バテ防止に、夏にどじょうを食べる風習があるそう。金沢を流れる犀川(さいがわ)で獲れるどじょうは臭みがなく、蒲焼きにすると、その香ばしさがたまりません。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食
金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

酒肴はトマトの器で登場。甘エビの昆布締めや肉厚の鯵に、金沢らしく金箔とキャビアをのせ、絢爛豪華! 近江町市場から仕入れた新鮮な魚にひと手間加え、よりおいしさを引き出しています。

食べ終わると一度下げられ、器だったトマトはオリーブオイルをまとって、カプレーゼとして再登場。伝統的な製法で作る能登半島の揚浜(あげはま)塩田の塩が添えられ、二度おいしい演出に驚きました。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

そして、代々受け継がれている古伊万里に入った温鉢は、浅田屋の名物料理「紅ずわい蟹 茶碗蒸しトリュフ餡」。蓋を開けると、トリュフの芳醇な香りが広がります。なめらかな茶碗蒸しの中には富山産の紅ズワイガニがごろっと入っていて、「いつまでも口の中に留めておきたい……」と思ってしまう感動の味です。

伝統を継承しつつ、進化させたいと、浅田屋ではニューヨークのミシュラン星付きレストランと定期的に交換留学を行っていて、この茶碗蒸しは、惜しまれつつも閉店したニューヨークの伝説的レストラン「ブーレイ」から公式に伝授されたもの。

歴史ある料亭でトリュフやキャビア、カプレーゼなど、洋のものが登場することに驚きますが、和と洋が見事に溶け合っていることにも驚きます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食
金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

続いて、吸物に能登産アイナメの葛打ち、造りに能登産のコチ、輪島産のシマエビが。

吸物のお椀は、明治から昭和初期にかけて活躍した加賀蒔絵師・大垣昌訓(おおがき しょうくん)氏によるもの。とても貴重な器を惜しげもなく使い、目でも楽しませたいという思いを感じます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

焼物は、ボタンエビ、ホタテ、赤イカといった金沢の豊かな海鮮を熱した石の上で焼いていただきます。酒盗に漬けた食材を石に置くと「ジューッ」という音とともに、香ばしい香りが立ちのぼり、ライブ感満点。

また、ここでもニューヨークのメトロポリタン美術館や金沢21世紀美術館などに作品が収蔵されている金沢の陶芸家・中村卓夫氏のモダンなデザインの器が、目も楽しませてくれます。伝統と進化を大切にする浅田屋ならではの五感で味わう料理でした。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食(治部煮)

そして、金沢に来たからには食べたい郷土料理「治部煮(じぶに)」がお目見え。治部煮は鴨肉、すだれ麩、野菜などを煮た料理で、浅田屋では片栗粉ではなく、小麦粉を使って優しいとろみに仕上げているのが特徴。加賀野菜のひとつ、打木赤皮甘栗(うつぎあかがわあまぐり)かぼちゃも入っています。口に運ぶと、じゅわっとだしが染み出すすだれ麩や、柔らかな鴨肉が絶品でした。

金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食
金沢・料亭旅館「浅田屋」夕食

最後は、鮑の炊き込みご飯と車鯛の味噌汁に、金沢産の高級ぶどう「ルビーロマン」や新水梨、桃といった季節のフルーツで締めくくります。料理、空間、器、もてなし、すべてが言葉では言い表せないほど素晴らしく、金沢が誇る料亭文化の粋を堪能しました。

 

枕は5種類、浴衣は18サイズから選択可能! 快眠を誘うもてなし

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

夕食を終えて客室に戻ると、布団が敷かれ、就寝準備が整えられていました。こういった数寄屋建築では、窓にすえられているのは障子のみで遮光できないことが多いなか、浅田屋では遮光カーテンでしっかりと暗転。

さらに、枕は羽根、パンヤ綿、低反発、ゲルマニウム入り、パンヤ綿&ゲルマニウムのミックスの5種類から選べ、浴衣はなんと18ものサイズをそろえ、普段と違う環境でもよく眠れるように配慮されています。

枕や浴衣に限らず、食事やお酒の好みなど、すべてカルテに残し、次回宿泊時は何も言わずとも好みのものを用意してくれるのが浅田屋のおもてなしです。

金沢・料亭旅館「浅田屋」客室

そして、洗面台のタオルは新しいものに交換され、テーブルには冷たいお水や新しい湯のみとお茶も用意されていました。

湯のみは、さまざまな器を楽しんでもらいたいと、滞在中、毎回異なるものを出すよう徹底しているそう。石川県の文化功労賞を受賞し、九谷焼の発展に貢献した作家、松本佐一氏の器が夜のひとときを楽しませてくれました。

金沢・料亭旅館「浅田屋」貸切風呂

1日の終わりは、ジェットバス付きの貸し切り風呂でリラックス。時間予約制なので、ほかの人の目を気にせず大きな湯船でゆったりとくつろげます。

 

浅田屋特製の干物も並ぶ、料亭ならではの朝食

金沢・料亭旅館「浅田屋」朝食

遮光されたお部屋と好みの枕でぐっすりと眠った翌朝。朝食をいただきに、食事処「千歳」へ。まずは玄米茶と梅干しで身体を目覚めさせます。

金沢・料亭旅館「浅田屋」朝食

鮮やかな朱色の敷盆で登場したのは、能登のコシヒカリに合う品々。車麩の卵とじ、飛龍頭(ひりょうず=がんもどき)、イカのお刺身、小松菜のお浸し、おから、香の物などが美しく盛り付けられ、朝から幸せな気持ちに包まれました。

金沢・料亭旅館「浅田屋」朝食

魚は3種類から選べるものの決めきれず、「2種類をおふたりで分けますか?」と提案してくださり、ハタハタとカレイをいただくことに。宿泊客のニーズに合わせた柔軟な対応も、浅田屋らしいおもてなしです。浅田屋で干物にしているというハタハタは、上質な脂とホロっと崩れる身の食感を堪能しました。

そして、朝食を終えて客室に戻ると、お布団があげられ、また別の湯のみに交換され、チェックイン時のような美しい空間に整えられていました。

 


金沢・料亭旅館「浅田屋」

350年以上もの歴史の中で培ってきたおもてなしの心と、加賀の伝統を守りながら進化し続ける料理を深く堪能できる「浅田屋」。特に女将や接客の方の温かさとつかず離れずの心地よい距離感が印象的で、1人1ひとりに合わせた細やかな心遣いに感動させられるシーンが何度もありました。次の金沢旅行は、一流の料亭旅館で過ごす極上の休日を体験してみませんか?

 

浅田屋

住所
石川県金沢市十間町23
アクセス
金沢駅より車で約6分
駐車場
無料(要予約)
チェックイン
14:00(最終チェックイン18:30)
チェックアウト
11:00

撮影・取材・文:小浜みゆ

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