2024年1月1日に発生した能登半島地震。北陸地域を中心とした被害状況が伝えられる中で、被災地を支援したいけど何をしたらいいのか、旅行予約のキャンセルも相次いでいると聞くけど、私たちにできることはあるのか…自問自答した人も少なくないのではないでしょうか。
「北陸応援割」が始まり、3月16日には北陸新幹線延伸を控える今、旅行・観光面からの被災地支援をどう考えるべきなのか。観光は平和産業——。そう語るトラベルジャーナリストの寺田直子さんにメッセージを寄せてもらいました。
トラベルジャーナリスト
寺田 直子
トラベルジャーナリスト。東京生まれ。日本およびオーストラリア・シドニーでの旅行会社勤務を経て、フリーライターとして独立。旅歴約40年、訪れた国は約100カ国 。雑誌、Web、新聞などに寄稿するほか、ラジオ出演、講演など多数。山口県観光審議委員2017、青森県の観光アドバイザーを務める。2013年、第13回フランス・ルポルタージュ大賞インターネット部門受賞。JATAツアーグランプリ審査員2018。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)、「ロンドン美食ガイド」(日経BP社 共著)、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)など。現在、東京都・伊豆大島を拠点に執筆業のかたわら、古民家カフェ「Hav Cafe」を運営。2024年、島暮らしの書籍を出版予定。
被災地の未来への希望を見出す「ホープツーリズム」
「ホープツーリズム」という言葉をご存じでしょうか。「希望ある旅行」とでも訳せるワードですが、その背景には、自然災害など被災した場所へ旅をすることで自然環境や人々の暮らしを学び、さらに滞在することで地元の経済をまわすという、とても大きな社会効果への期待があります。そして今、私たちが目指すべき旅スタイルのひとつです。
ホープツーリズムのきっかけになったのが、ダークツーリズムという概念でした。ダークツーリズムとは、戦争や自然災害の被災地など、不幸や悲劇に襲われた場所を訪れること。
具体的には、第二次世界大戦中のナチスドイツによるユダヤ人迫害、虐殺行為(ホロコースト)が行われた強制収容所「アウシュビッツ」や、テロにより崩壊したニューヨークの世界貿易センタービル跡地などが代表的な目的地と考えられています。日本では原爆が投下された広島の原爆ドームなどが、ダークツーリズムスポットといえます。
悲しい出来事が起きた場所を実際に訪ねることで、同じ悲劇を二度と繰り返さないでほしい、そのためには史実を忘れることなく伝えていこう、そんな願いがダークツーリズムという重い響きの言葉には込められています。
2011年の東日本大震災後、ダークツーリズムとして被災した場所を訪れる動きがありました。その後、2016年に福島県が震災の伝承と復興のための観光活性化を目的として、「ホープツーリズム」という名称でプロジェクトをスタート。ここからホープツーリズムという言葉が動き出しました。
「ダーク(負)」ではなく「ホープ(希望)」。さまざまな課題・困難を抱えながらも、故郷や愛着ある場所の再生・復興に取り組む人たちの活動を知り、観光という形で支援することは、まさに未来の希望へとつながります。
福島県にとどまらず、幅広くホープツーリズムの意義を知ってもらいたく、私もこれまで多くの被災地観光を応援する記事をホープツーリズムと呼び、発信してきました。
「観光は平和産業」でもあります。戦争や災害が起こると旅行がキャンセルされ、観光客がゼロに近いほど激減することはこれまでもたくさんありました。旅行する側からしたら当然のことです。申し訳ないという気持ちもあるでしょう。その反面、災害や震災後に「観光で応援!」というムーブメントも起き、私たちは観光という消費行動で地元経済を支えることができるということも知りました。
その場所が安全・安心で美しくよみがえることを願い、今できることを考える。これはホープツーリズムにも通ずる、人に寄り添ったとてもステキな行動だと思っています。
災害発生後、各段階で求められる行動とは
2024年1月1日、マグニチュード7.6規模の能登半島地震が起き、石川県能登半島をはじめ、北陸各地で甚大な被害が発生しました。日々、流れてくるSNSや情報が変わる中、どのようにしてホープツーリズムを実践できるのか。実は、災害支援には発生直後から復興まで段階があり、それに沿った行動が求められます。
①災害発生時
政府、都道府県、各省庁など公共機関、新聞やテレビなど主要メディアからの正確な情報を確認する。不確かな情報は、フェイクの可能性もあるので拡散しないこと。
②災害直後
人命救助、救援が最優先。ボランティアに行くタイミングなどは行政や人道支援団体、NPOのアップデート情報を確認。SNSで流れてくる救助&拡散情報は古いものもあるので、前後のやりとりや時間軸を確認すること。
③復旧時
被災の状況が明らかになり、行政、医療関係、NPOなど熟練したボランティアが現場に入り活動を開始。一般ボランティア受け入れも場所により開始されるので、公式サイトなどで確認して参加することも。赤十字、人道支援団体、企業、行政などがオフィシャルな募金活動、専用サイトなどを立ち上げるので、まずは募金で応援を。
④復興時
災害から数週間、数カ月過ぎた頃から自治体、観光関係企業などによって観光を中心とした復興キャンペーンがスタート。「旅して応援」は、まさにこのタイミングから。被災した場所、モノなどを支援するクラウドファンディングも増えてくるので、モノを買ったり、食べたりと自分ができることを実践する。
いつもどおりに観光を楽しむこと、それが地域の助けになる
ホープツーリズムの力が発揮されるのは、④復興時からです。ただ、今回の能登半島地震では被災の度合いが地域で大きく異なり、果たしてどこへ旅行して応援できるのかが、とても分かりづらくなっています。すでに日常が戻っている場所も宿泊予約のキャンセルや観光客の姿が見えなくなるなど、いわゆる風評被害を受けているケースも少なくありません。
それを踏まえ、「被災地の経済を止めない」ことを目的に、3月8日から「北陸応援割」がスタートしました。これが北陸への旅行のタイミングになることはまちがいありません。
「北陸応援割」を使って、私たちはどのように旅行をすればいいのでしょうか。答えはとても簡単。「泊まって、食べて、見て、買う」。これに尽きます。いつもどおりの観光を思いっきり楽しんで遊ぶことが、地元の応援にすでにつながっているわけです。
「まだ避難されている方もいるのに旅行なんて不謹慎だ」。そんな声も聞きます。そういう思いも理解できます。だからこそ、今どこへ行くべきか、どんな行動をするべきか。しっかりと確認したうえで旅行することが求められます。
東日本大震災後、復興中の被災地を訪れていたときのこと。カメラを首から下げて歩いていた私を見た地元の女性が、「ボランティアの方ですか?」と声をかけてくれました。「いいえ、桜を見に来ました!」と答えると、ぱぁっと笑顔になり、「津波でいくつかはダメになっちゃったけど、きれいに咲きだしたんですよぉ」と、それはうれしそうに答えてくれました。
観光客が戻ってきてくれることが、多くの人の喜びや支えになるのだと教えてもらった瞬間でした。
もちろん、そこには地元への配慮、思いやりは欠かせません。それは普段の旅行でも旅行者として求められるものです。写真を撮るときは許可をもらう、ゴミを捨てない、私有地には入らないなど、最低限のルールとマナーを心がけることは必須です。そのうえで、いつものように観光を楽しむことは地元の応援につながり、大きなパワーとなるはずです。
能登半島に暮らす、被災した知人・友人たちは「ぜひ、旅行はキャンセルせずに来てください」と語ってくれました。それが最終的には、被災した地域の助けになると感じているからです。募金をし、地元産の商品を購入し、心を届けた私たちが次にできること。それが実際に旅をしてつながる、ホープツーリズムなのです。
文/寺田 直子
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