歴史的価値の高い伝統的な日本建築、西洋の意匠を融合した建築など、繊細で美しい日本の美を感じる登録有形文化財がある温泉宿をご紹介します。古来より文豪・皇室・政治家など、たくさんの文化人に愛されてきた宿で、当時に思いを馳せる非日常の旅を楽しんでみませんか。
有形文化財がある温泉旅館6選
福島県 > 会津若松・喜多方 > 会津芦ノ牧温泉
自家源泉かけ流しの宿 会津芦ノ牧温泉 仙峡閣
芦ノ牧温泉の中心地より約600mほど離れた旧街道沿いに佇む、一軒家の和風旅館。建物は福島県・板倉神社にあった武徳殿を移築・改造したもので、令和元(2019)年7月に国登録有形文化財に指定されました。千鳥破風を飾った入母屋造の大屋根や正面の車寄などの神社様式が特徴で当時の姿を残しています。
「日本秘湯を守る会」の会員の宿であり、芦ノ牧温泉で唯一自家源泉かけ流しのお風呂が自慢です。リウマチや神経痛などに効能があるといわれる硫酸塩・塩化物温泉を堪能できます。男女ともに内湯と露天風呂を構え、大川の渓谷美の四季折々の風景を眺めながらゆったりと日々の疲れを癒せます。
全13室からなる客室は全て和室の造りで、広さは8~10畳ほど。どのお部屋からも大川渓谷の雄大な景色を望むことができます。お食事は、春は山菜、秋は天然ものの茸など季節の旬食材や福島県産牛を使用した郷土料理をご用意。数々の会津の銘酒も揃えており、食事と共にお酒を楽しめるのも魅力です。
群馬県 > 四万温泉 > 四万温泉
四万温泉 積善館本館
元禄7(1694)年創業、300年以上の歴史を持つ、多くの著名人に愛された古きよき温泉宿。趣の異なる3つの建物で構成されており、本館は、群馬県の重要文化財であるほか、日本最古の木造湯宿建築としても有名です。また、組子障子が美しい山荘は、国の登録有形文化財、及び群馬県近代化遺産に登録されています。
本館は当時の湯治湯の雰囲気を味わえるようにと、滞在は自由なセルフスタイル。客室は、人数に合わせた3タイプのお部屋を備える本館と、床下に源泉が流れる「天然床暖房」が魅力の壱番館から、利用シーンに合わせて選べます。
国の登録有形文化財に指定されている「元禄の湯」は、洋風・モダンなホール風の建築が見事で、タイル張りの床に5つの石造りの浴槽が並ぶ光景に当時の面影を感じます。利根川の青石を敷き詰めた混浴風呂「岩風呂」で、開放的な湯浴みを楽しむのもおすすめ。
お食事は、湯治にふさわしい「おいしく食べて健康になる」をモットーにした素朴で滋味豊かな献立のお弁当スタイル。メニューは3日サイクルで変わるので、長期滞在でも飽きないのがうれしいポイントです。
静岡県 > 伊豆長岡・修善寺・天城湯ヶ島 > 修善寺温泉
修善寺温泉 国の登録文化財の宿 新井旅館
修善寺温泉街の中心に建つ、純日本建築の新井旅館。明治5(1872)年創業後、大正、昭和と趣向を凝らした建築を重ね、時代の移り変わりを思わせる貴重な造りが魅力です。国の有形文化財に登録された15棟の建物には、8つの客室棟や総檜の大浴場「天平大浴堂」、建物同士をつなぐ渡り橋などが含まれます。
客室は川沿いや池のほとり、庭園など、棟によって異なる景色を楽しめるのがポイント。有形文化財にも登録されている「花の棟」からは、「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で二つ星を獲得した竹林を望めるのが人気。そのほかにも、水上にいるような心地を味わえる「桐の棟」や、優美な書院数寄屋造りで離れ風の特別室棟「吉野の棟」など、多彩な部屋タイプが揃います。
自慢の温泉は、樹齢2000年以上の檜(ひのき)を取り寄せて釘を使わずに作り上げられた大浴場「天平大浴堂」、庭園の中にある「木洩れ日の湯」、あやめをかたどった「あやめの湯」のほか、2箇所の貸切風呂を堪能できます。どのお風呂も天然温泉かけ流しです。お食事は、新鮮な旬の海の幸・山の幸をふんだんに使用した月替わりの会席料理を用意しています。
岐阜県 > 下呂温泉・濁河温泉 > 下呂温泉
下呂温泉 湯之島館
中根山の中腹に位置し、約5万坪の広大な敷地を有する「湯之島館」。昭和6(1931)年創業、下呂温泉のシンボルとして親しまれている老舗温泉旅館です。国の登録有形文化財に指定されているのは、玄関、渡り廊下、木造三階建て本館の3つ。中でも随所に銘木を使用した本館は、詳細な内装設計図がない中、棟梁たちが意匠を凝らして造り上げたもので、簡素ながらも品位ある佇まいが印象的です。
客室は、昭和6年当時のままのお部屋に宿泊できる本館をはじめ、源泉を楽しめる展望風呂付き客室や露天風呂付き客室、ツインベッドを配したお部屋など、多彩なタイプが揃います。萱葺き屋根の離れで総檜造りの東屋「春慶荘」は、内装の意匠が伝統工芸「春慶塗り」で統一された特別室。司馬遼太郎が紀行文「街道をゆく」で紹介したお部屋でもあり、記念日利用にぴったりです。
館内の展望大浴場と露天風呂は、創業当時のモダン様式をそのまま残した造りで、飛騨の山並みを眺めながらゆったりと源泉かけ流しの湯を満喫できます。四季折々の旬食材を活かした会席料理は、プライベートに食事を楽しめるお部屋食。飛騨地方の地酒と共に、味わうのがおすすめです。
岐阜県 > 高山・飛騨
料亭旅館 八ツ三館
安政年間に創業し、飛騨古川で160年余りの歴史を持つ「料亭旅館 八ツ三館」。本館と土蔵、大広間棟の3つの建物が国の登録有形文化財に指定されています。注目したいのは、吹き抜けの美しい空間が広がる、明治38(1905)年に再建された「招月楼」のロビー。当時にタイムスリップしたかのような雰囲気で、訪れる旅人を出迎えます。
飛騨建築の意匠を凝らした21の客室は、お部屋ごとに異なる趣が魅力。京間10畳を囲炉裏を配した前室からなる一般客室や、ツインベッドとマッサージチェアを完備した「観月楼 睦月」、モダンな露天風呂付き和洋室「光月楼 池月」など多彩な部屋タイプが揃います。
庭園露天風呂付きの大浴場では、酒粕を入れた釜風呂やバラ風呂(女性限定・19時まで)、果実などを入れたイベント湯など、ユニークなお風呂の用意もあり、何度も入りたくなりそう。家族やカップルで楽しめる貸切風呂もあります。朝夕共に個室でいただくお食事は、飛騨牛や山菜、とらふぐなど四季折々の旬食材を堪能できる月替わりの会席料理。自家製朴葉味噌が人気の朝食も見逃せません。
兵庫県 > 神戸・有馬温泉・六甲山 > 有馬温泉
有馬温泉 陶泉 御所坊
豊臣秀吉や谷崎潤一郎など、数々の著名人が訪れたと言われている、建久元(1191)年創業の老舗旅館。御所坊本館、御所坊新館、ギャラリーレティーロドウロの蔵の建物が2021年3月に国の登録有形文化財として答申され、まもなく登録される予定です。
伝統と歴史を備えた趣の異なる3タイプの客室は、昔ながらの落ち着いた雰囲気。約53平方メートル以上の広々とした「天楽」は、谷崎潤一郎や伊藤博文など、宿のファンであった文化人が残した詩や書が飾られており、昭和にタイムスリップしたような気分に。一部客室からは、枯山水の庭から有馬温泉の湯気が立ちあがる、不思議な温泉情緒あふれる景色を楽しめます。
温泉は、めずらしい半混浴式の大浴場。有馬温泉でも質のいい御所泉源と妬泉源の混合湯「金郷泉」を、源泉かけ流しで堪能できます。お食事は、神戸ビーフの中でも希少とされる「但馬玄(たじまぐろ)」や、明石港で水揚げされた新鮮な海の幸を使った山家料理。一部プランではお部屋食での用意も。丹波黒豆で作った山家豆腐がいただける朝食も人気です。