熊本県阿蘇郡南小国町の「黒川温泉観光旅館協同組合」は、2021年で設立から60周年を迎えました。これを機に公開されたのが、コロナ収束後の未来の黒川温泉を表した「黒川温泉2030年ビジョン」。長く取り組んできた自然に溶け込む景観づくりや、地域資源の活用・循環をさらに推し進め、日本の里山の魅力を世界に伝える新しい温泉地の姿です。
雄大な景観は「宿の庭」!自然に溶け込む温泉街
雄大なパノラマが多くの人々を惹きつける阿蘇エリア、山間のせせらぎに沿って30軒ほどの温泉宿が立ち並ぶのが「黒川温泉」。温泉街全体を大きな一つの旅館と見立て、一つひとつの宿を「離れ部屋」、小径を「わたり廊下」、山林の風景は「宿の庭」とした、自然に溶け込む景観づくりが、2009年版のミシュランガイド・ジャポンの2つ星をはじめ、各方面から高い評価を受けています。
それぞれ独立した源泉を持つ各旅館は、個性豊かな露天風呂を展開。狭いエリアで10種類中7種類もの泉質が楽しめる、世界的にも珍しい温泉地となっています。加盟旅館28カ所の露天風呂から3カ所を選んで入浴できる「入湯手形」も好評で、年間約90万人もの旅行者が訪れているのです。
自然との共生とサステナビリティで未来に続く温泉地に
そんな「黒川温泉」が、2030年に向けて改めて掲げるのは、里山に古来風土として根付いてきた「人と自然の共生」と、資源循環で環境・経済・人々の幸せを叶える「サステナビリティ」。豊かな自然と日本文化に息づくおもてなしで、世界を癒す持続可能な温泉地を目指しています。
冬季の温泉街各所に数百を超える鞠灯篭や筒灯篭を配し、温かな竹あかりで冬ならではの湯けむりの風情を演出する「黒川温泉 湯あかり」は2021年で10周年。里山の環境を脅かす竹林の間伐、再生プロジェクトの一環としてはじまったイベントも、いまでは阿蘇の冬の風物詩として広く定着しました。
2020年秋から開始された堆肥事業「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」では、旅館からの生ゴミをコンポストで堆肥にして生産者に提供。堆肥で育った農産物を旅館でのもてなしに使うという循環を実現し、その全貌をわかりやすく示した動画が、「サステナアワード2020伝えたい日本の“サステナブル”」で環境省環境経済課長賞を受賞しました。
さらに、2021年には阿蘇の草原で育つ南小国産の「あか牛」を軸とした生態系を100年先、1,000年先の未来へとつなぐ「あか牛”つぐも”プロジェクト」もスタート。あか牛の頭数を増やし、草原を維持するためのファンドを立ち上げ、PR活動や試食会などのイベントにも取り組んでいます。
自然との共生とサステナビリティを鍵とするこうした取り組みを通し、次の10年で「黒川温泉」が目指すのは、世界に誇れる温泉地。大きな変化を迎え、これまでの当たり前が揺らぐこの時代、「黒川温泉2030年ビジョン」で次世代への価値の継承を目指す「黒川温泉」から今後も目が離せません。