全国各地のJRグループ6社と自治体、地元の観光事業者、旅行会社などが一体となって全国で開催される「デスティネーションキャンペーン」。2022年は4月~6月に四国がアフターデスティネーションキャンペーン、2022年7月~9月に岡山がデスティネーションキャンペーンを開催と、近県同士で盛り上がりを見せそうです。
特に岡山と香川は瀬戸内海を挟みながらもアクセスが良く、鉄道で行き来できます。たおやかな吉野川や急峻な山々といった四国らしい車窓風景が魅力の「四国まんなか千年ものがたり」、カラフルな車両がかわいい「土讃線アンパンマン列車」など、4つの観光列車に乗りながら2県の絶景を巡る4日間のモデルコース。その後半・香川編をご紹介します。
3日目(日)10:18 多度津駅から「四国まんなか千年ものがたり」に乗車
3日目も観光列車尽くしな1日が始まります。宿泊先の丸亀駅から2駅目の多度津(たどつ)駅に移動し、「四国まんなか千年ものがたり」に乗車します。
3両編成で、各車両の色が異なっているのは四季それぞれの季節を示しているため。1号車は瑞々しい新緑、3号車は燃える紅葉を彷彿させ、2号車は片側ずつを紺碧の青と白銀の白で塗り分けることで夏と冬を表現。
改造できる車両が3両だったため、ひとつの車両でふたつの季節をまかなうことになりましたが、そのおかげで両側から見比べると雰囲気が異なり、思わず二度見したくなる姿になりました。
美しいのは外観だけでなく、もちろん内装も。1号車「春萌『はるあかり』の章」と3号車「秋彩『あきみのり』の章」はカウンター席とボックス席があり、グループ旅行にぴったり。
一方、2号車「夏清『なつすがし』の章/冬清『ふゆすがし』の章」はすべての座席が車窓に面し、さながら映画館のように移り変わる景色を観賞できます。
土日祝日を中心に多度津駅と大歩危(おおぼけ)駅を往復する列車は、往路の多度津発を「そらの郷紀行」、復路の大歩危発を「しあわせの郷紀行」と呼び、提供する食事や停車駅も異なりますが、どちらも穏やかな田園風景と屹立する山並みといったダイナミックな光景を望めます。
先頭車両では、こちらに向かって手を振る人たちの姿を見つけると車内アナウンスを随時流し、乗客も応えるためにスタンバイ。静かでありながらも、心温まる交流のひとときが流れます。
道中の停車駅では10分ほど停車し、記念撮影や駅周辺を散策できます。山奥にひっそりと佇む坪尻駅は車道が整備されておらず、列車か徒歩でしか到達できない駅で、その幽玄な雰囲気は秘境駅ならでは。
たぬき伝説にゆかりがある阿波川口駅では、たぬきがにぎやかにお出迎えをするなど、個性的な停車駅も旅を彩る立役者です。
車内ではオリジナルグッズも購入でき、列車のヘッドマークがパッケージになっている和三盆クッキーや、ヘッドマークと車両が描かれた立体ステッカーが人気です。
「四国まんなか千年ものがたり」の予約方法
乗車券、特急券、グリーン券の3種類が必要。全国のみどりの窓口か主な旅行会社にて、乗車日の1カ月前から予約できます。
3日目(日)12:47 大歩危駅で周辺散策
およそ2時間半におよぶ列車の旅が終わるころ、終着駅の大歩危駅でもあたたかな歓迎を受けます。駅舎周辺にはお土産屋や飲食店、大歩危峡観光遊覧船の乗り場があるので、買い物をしたり、大自然を体感したりと山間の風情を楽しめます。
大歩危駅のすぐ先にある「歩危マート」は、住民の日用品や食料品を販売する傍ら、「祖谷(いや)こんにゃく」や「祖谷豆腐」など地元産のおみやげも販売。
ユニークなおみやげを造成しようと誕生した巨大サイズの油揚げ「ぼけあげ」は、インパクトある見た目が話題を呼び、メディアにも度々紹介されるほどの人気商品。購入すると同時にレシピもいただけるので、帰宅してからも数日間、この旅を思い出しながら食事をいただけます。
歩危マート
- 住所
- 徳島県三好市西祖谷山村徳善西7
- 時間
- 平日・土曜8:00~18:30、日曜8:00~18:00
- 定休日
- 1月1日
- 電話番号
- 0883-84-1111
- アクセス
- 大歩危駅から徒歩約1分
- 詳細
- 歩危マート公式サイト
3日目(日)15:05 アンパンマン尽くしな「土讃線アンパンマン列車」に乗車
山奥の秘境を堪能したところで、再び観光列車に乗って戻ります。岡山と高知を走る特急「南風」の中でも、一日に数本のみ運行する「土讃線(どさんせん)アンパンマン列車」。赤と黄色の2種類があり、どちらもアンパンマンやドキンちゃん、ばいきんまんといったお馴染みのなかまたちが車体に大きく描かれています。
車体の横にもジャムおじさんやちびぞうなどのキャラクターが勢揃いしていて、自分の推しキャラを探してしまうはず。大好きなキャラクターたちと一緒に旅をしている気分が味わえ、楽しさも倍増です。
1号車の「アンパンマンシート」は、アンパンマンとなかまたちのたくさんの出会いをテーマにデザインされた24席限定の指定席。虹の通路を進んだ先には、それぞれのなかまたちが描かれた座席が配され、天井やカーテンもアンパンマン尽くしな空間になっています。
土讃線「アンパンマン列車」の予約方法
乗車券、アンパンマンシート専用の指定席特急券の2種類が必要。全国のみどりの窓口、主な旅行会社、JR四国のワープ支店、ワーププラザもしくはJR西日本ネット予約サービス「e5489」にて、乗車日の1カ月前10時から予約できます。
3日目(日)15:46 琴平駅で下車し、宿泊
オレンジ色の屋根に白い外観が情緒を感じさせる「琴平(ことひら)駅」が本日の最終目的地。昭和11(1936)年に竣工した駅舎は、近代化産業遺産にも認定されています。
「讃岐のこんぴらさん」や「一生に一度はこんぴらまいり」として親しまれている金刀比羅宮(ことひらぐう)の鳥居前町として栄え、森鴎外や与謝蕪村といった文人墨客も訪れました。
宿にチェックインし、時間があれば散策へ。県内で2番目に小さな町は、見どころがぎゅっと詰まっています。
例えば、旧金毘羅大芝居(金丸座・かなまるざ)は、天保6(1835)年に建立された日本最古の芝居小屋で、国の重要文化財にも指定。内部も見学できます。現在も4月に有名役者による歌舞伎公演が開催され、観客との距離が近いことから役者の息づかいや汗の動きさえも感じると評判です。
旧金毘羅大芝居(金丸座)
- 住所
- 香川県仲多度郡琴平町乙1241
- 時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 年中無休(公演開催時は休館の場合あり)
- 料金
- 大人500円、中・高校生300円、小学生200円
- 電話番号
- 0877-73-3846
また町を横断するように金倉川が流れ、歩いていると何度も橋を見かけますが、橋同士の間隔が近いため、趣ある町の情景に出会えます。川の近くに立つ「高灯籠」は、高さが27mもあり、国の重要有形民俗文化財に指定。江戸時代に海から金刀比羅宮を拝むために造られました。
4日目(月)9:00 澄み切った空気の中で金刀比羅宮にお参り
観光列車で巡る岡山・香川旅行も本日が最終日となり、この日は香川の絶景を巡ります。まずは一ノ橋から続く参道を辿って「金刀比羅宮」へ。参道にはお土産屋、うどんの名店、蔵元直営の酒店が軒を連ねており、にぎわう午後に比べてゆっくりと見て回れます。
階段が多いことで有名なこんぴらまいりですが、道の途中までは参拝者を応援するかのようにお店があるので、少しは気も紛れるはず。堅牢な大門を通り抜けると周囲は一転し、森林に囲まれた神域は空気もさえざえとしています。
785段の石段を息も絶え絶えに上りきると、一気に視界が開け、目の前には鎮座する御本宮。
昔から海上安全、五穀豊穣、商売繁盛にご利益があるといわれ、自分は難しくとも飼い犬だけはお参りしてほしいという想いから、犬の首に初穂料などをぶら下げて旅人や地域の人々の助けを借りながら代参する「こんぴら狗(いぬ)」が誕生。今では金刀比羅宮のマスコットとして愛され、ミニこんぴら狗がセットになった幸福の黄色いお守りが人気です。
御本宮からは周辺一帯の眺望が見渡せ、火照った体に心地よい風が吹き抜けます。
金刀比羅宮
- 住所
- 香川県仲多度郡琴平町892−1
- 時間
- 6:00~18:00
- 電話番号
- 0877-75-2121
- 公式サイト
- 金刀比羅宮
4日目(月)10:30 名物のうどん作りを体験
運動の後は腹ごしらえの時間。「うどん県」と自ら称する香川に来たのなら、うどんは外せません。参道にある「中野うどん学校」では、小麦粉をこねて、こねて、こねて、うどんを作る体験が可能。1時間ほどで完成し、そのまま自宅に持ち帰れます。
手でこねたり、足で踏んだりと讃岐うどん特有のもちもち食感やコシのある弾力を出すためには重労働が欠かせないことを身をもって知ることで、うどんへの親近感がわくはず。こちらでは流行りの音楽を作業中に流すことで真剣でありつつも、リズミカルに楽しみながらうどんを作れます。
うどん作りの教室は2階にあり、3階はレストラン、1階はお土産屋になっています。体験でつくったうどんをそのまま試食することもできますので、ここで昼食をとるのもおすすめです。
中野うどん学校 琴平校
- 住所
- 香川県仲多度郡琴平町796
- 時間
- 8:30~18:00
- 定休日
- 年中無休
- 電話番号
- 0877-75-0001
- 予約方法
- うどん打ち体験は、中野うどん学校のホームページ(希望日の3日前まで)からか、もしくは電話、FAXでも可能
- 詳細
- 中野うどん学校 琴平校(ぐるなび)
4日目(月)13:00 詫間駅に移動し、車でスイスイと「紫雲出山」へ
琴平駅から在来線に乗ること約40分で詫間(たくま)駅に到着。ここから事前に予約しておいた平日限定の「讃・瀬戸(サンセット)シャトルタクシー」を活用して、海沿いの絶景名所3か所を辿ります。まず訪れたのが標高352mの「紫雲出山(しうでやま)」。
山頂からは水をたたえた海面にぽっかりと浮かぶ島々といった風光明媚な景色が一望できます。
どうやら太古の人類も、この景観を気に入っていたらしく、山頂には弥生時代の集落遺跡も発見されています。出土品を展示している遺跡館に併設された喫茶コーナーは、この光景を独り占めできる穴場的スポット。まるで屏風絵のように一面に設けられた窓からは碧い海と島々、そして往来する船という瀬戸内海らしい情景が望め、しばし時間を忘れて見入ってしまう美しさです。
紫雲出山遺跡館 喫茶コーナー
- 住所
- 香川県三豊市詫間町大浜乙451-1
- 時間
- 9:30~17:00(6-8月 9:30~18:00、12月-2月 9:30~16:00)
- 定休日
- 火曜(祝日の場合はその翌日)、12/29~31、1/1~3
- 電話番号
- 0875-84-7896
- 詳細
- 紫雲出山遺跡館 喫茶コーナー(ぐるなび)
4日目(月)14:40 日本のウユニ塩湖「父母ヶ浜」で旅の記念撮影
次に到着したのが、約1kmの長い海岸によって創り出される絶景が話題の「父母ヶ浜(ちちぶがはま)」。遠浅なため、満潮と干潮を通じてできる潮だまりを前に写真を撮ると、鏡張りの写真が撮れることから「日本のウユニ塩湖」と話題となり、多くの人たちでにぎわいます。
もともとは地元の人たちしか知らず、海からのゴミも漂着していた海岸でしたが、埋め立てて工場を誘致する計画が浮上すると、地元の有志たちが阻止するために海岸のゴミを拾うボランティア活動を開始。徐々にその輪が広がると、工場の話がなくなっただけでなく、その幻想的な様子は全国に知れ渡り、今では香川を代表する人気観光地となりました。
今でもボランティア活動は健在で、さらに訪れた人たちに楽しいひとときを過ごしてもらいたいという想いから率先して写真撮影にも協力。撮影場所や映えるポーズなどをアドバイスしてもらうことで、誰でも待ち受けにしたくなる一枚を撮ることができます。周辺にはカフェやお土産屋もあり、散策も楽しめます。
父母ヶ浜
- 住所
- 香川県三豊市仁尾町仁尾乙203-3(父母ヶ浜海水浴場)
- 電話番号
- 0875-56-5880(三豊市観光交流局)
4日目(月)16:30 天空の鳥居が立つ「高屋神社」で旅のしめくくり
最後に向かったのが、市街地を見守るように標高404mの場所に建てられた「高屋(たかや)神社」です。稲積山(いなづみやま)の山頂にあることから「稲積神社」とも呼び親しまれており、鳥居の先に広がる町並みは遠く小さく感じられ、まさに「天空の鳥居」という響きがぴったり。
境内には絶景を堪能できるよう好位置にベンチが置かれています。視界一面に広がる観音寺市、整然と並ぶ水田、そして瀬戸内海というパノラマ景色はここならでは。
社務所の代わりに置かれているのがユニークな自動販売機。お守りが数種類あるほか、御朱印は香川名物の釜上げうどんや天空の七宝スープの素など、おみやげにもなるうれしい特典つきです。
駐車場から高屋神社までは上り坂で、その道中に観音寺市とは逆側の北側を一望できる場所があります。そこからは先ほどまでいた父母ヶ浜が見えるので、ひと休みにおすすめです。
高屋神社
- 住所
- 香川県観音寺市高屋町2800
- 電話番号
- 0875-24-2150(観音寺市観光協会)
4日目(月)19:15 旅の起点・岡山駅に戻り、帰路へ
高屋神社からJR観音寺駅までシャトルタクシーで送迎してもらい、その後は岡山駅へ。約1時間~1時間半ほどで、初日に降り立った岡山駅に到着します。最後に駆け込みでおみやげを購入したい場合は、岡山駅に併設している商業施設「さんすて岡山」、せとうちのセレクトショップ「せとうちCUBE」がおすすめです。
せとうちCUBE
- 時間
- 6:30〜22:00
- 定休日
- 年中無休
- 電話番号
- 086-223-9117(株式会社ジェイアールサービスネット岡山)
- アクセス
- 岡山駅2階 東西連絡通路沿い「新幹線改札口」横
鉄道で絶景を巡る旅でしたが、移動手段に観光列車を利用することで、車内アナウンスを頼りに車窓を眺めたり、こだわり満載な車内を見学したりと、乗車中も観光気分を味わえます。特にこちらに向かって地元の人たちが手を振ってくれる光景は観光列車ならでは。一期一会の瞬間に遭遇でき、心もほっこりになる。まさに旅の醍醐味を味わえる岡山・香川の4日間でした。
取材・写真・文/浅井みらの
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