天孫降臨神話が息づく霧島連山の南西に点在する大小9つの温泉地からなる霧島温泉郷。そのひとつ、「丸尾温泉」にあり、すべての客室に源泉かけ流しの露天風呂と内湯が付いた温泉旅館「摘み草の宿 こまつ」。宿やお土産店が集まる丸尾温泉街の真ん中という便利な立地にも関わらず、隠れ家のような雰囲気も魅力です。心ゆくまで湯浴みを満喫し、鹿児島の食材をふんだんに使った懐石料理を味わう、1泊2日の滞在記を紹介します。
霧島連山の山懐に佇む「霧島温泉 摘み草の宿 こまつ」
「霧島温泉 摘み草の宿 こまつ」は標高約650m、霧島連山の山懐に佇む温泉旅館です。客室数は6室のみのため、静かでゆるやかな時が流れ、非日常感あふれる温泉旅行を楽しむことができます。
アクセスは鹿児島空港より車で約30分。公共交通機関でのアクセスも便利で、鹿児島空港から最寄りの丸尾バス停まで乗り換えなしで約35分、バス停からは徒歩約5分ほどで到着します。大通りから坂を下ると、玄関で美しい木々と苔に迎えられます。
木の温もりを感じる館内に入り、チェックイン。ご主人の小松嵩亮(こまつ たかあき)さんをはじめとするご家族やスタッフの方が、アットホームな雰囲気で出迎えてくれます。
客室へ向かう途中で案内された共有スペース。ここには貸浴衣が並び、好きな浴衣を無料で借りられます。女性にうれしいのが、ピンクやブルーなどの華やかな色浴衣がそろう点。また、男性用、女性用、子ども用(100~140cmサイズ)まで、サイズも豊富に用意されています。
さらに、「ご自由にどうぞ!!」という手書きのメッセージとともにお菓子も置かれていました。チョコレートやクッキー、せんべいなど、温かいおもてなしにほっこり。
客室は全室、源泉かけ流しの温泉露天風呂&内湯付き
今回宿泊したのは、全6室のうちもっとも広い客室「芹(せり)」。10畳の和室と8畳のベッドルーム、ミニキッチンまで付いて、自然と調和するインテリアが心落ち着く空間です。
ちなみに宿名の「摘み草の宿 こまつ」は、小松さんのご両親である先代が山菜好きで、摘んだ山菜を用いて宿泊者をもてなしていたことが由来。そのため、客室名には「芹」のほか、「土筆(つくし)」や「蕗(ふき)」など、山菜の名前が付けられ、館内の至るところで花や苔玉に出合います。
客室に入った瞬間に感じたのが、茶香炉の心地よい香り。霧島茶が香ばしいアロマを醸し出していました。霧島山麓は、昼夜の寒暖差が激しく、年間を通して冷涼というお茶栽培に適した環境にあり、ここで育った霧島茶は全国茶品評会で2017~2019年の3年連続で日本一に選ばれています。
ベッドが2台備えられた洋室は、目の前を流れる小川のせせらぎに耳を傾けながらゆったりくつろげます。ヘッドボードには鹿児島県奄美大島の伝統工芸品「大島紬(おおしまつむぎ)」があしらわれています。
この客室「芹」は5名まで泊まることができ、3名以上で宿泊する場合は和室に布団が敷かれます。
そして、この宿の目玉のひとつ、全客室に備わる温泉。内湯には寝湯スペースまであり、客室内のお風呂とは思えないほどの贅沢な広さ。温泉らしい硫黄の香りが湯気とともに立ち込め、湯の花が浮かぶ温泉が優しく身体を包み込みます。
泉質は単純硫黄泉で、慢性皮膚病や切り傷など皮膚に関する効能があり、身体の芯までポカポカと温めてくれます。
内湯の奥には露天風呂。内湯も露天風呂も源泉かけ流しですが、露天風呂には夏場は加水したぬる湯が注ぎ、暑い日でもずっと入っていたくなる心地よさです。
客室や浴室のレイアウトや趣きは1室ずつ異なり、「芹」の露天風呂は陶器製ですが、庭に育つケヤキの木をそのまま湯船にした露天風呂や、岩風呂、五右衛門風呂風の元禄風呂をしつらえた客室もあります。
湯あがりのお楽しみがかき氷! 「こまつ」ではかき氷の無料サービスを1年中実施しています。味はレモン、ミルク、ブルーハワイの3種類あり、おかわりも可能です。温泉でしっかり温まった後に味わう冷たいかき氷は至福!
客室にはこだわりのコーヒーや緑茶も用意されています。コーヒーは鹿児島のスペシャルティコーヒー専門店「ヴォアラ珈琲」が、この旅館をイメージしてブレンドしたオリジナルの「摘み草ブレンド」。芳醇な香りとすっきりとした味わいが、贅沢なひとときを演出してくれます。
緑茶は、「こまつ」と同じ霧島市牧園町にある「西製茶工場」の霧島茶。風味と甘みのバランスがよいことが特徴です。福岡・小石原焼(こいしわらやき)の湯呑をはじめ、作家さんによる手作りの器からも温もりを感じ、ほっこり癒されます。
開放的な貸切露天風呂でも温泉ざんまい
この宿では、客室だけでなく、貸切露天風呂でも温泉を無料で堪能できます。予約の必要はなく、「空」の看板が表に出ていたら入浴OK! 利用する時は看板を「入浴中」へと裏返します。
貸切露天風呂では、より開放感あふれる雰囲気の中、広い切り石の湯船でのんびりと湯浴みを。温泉街の中心とは思えないほど静かで、自然の音にも癒されます。
貸切露天風呂へはタオルを部屋から持参。「霧島に行ってきました」と書かれたタオルは、「こまつ」のオリジナルで、記念に持ち帰ることができます。
鹿児島の食材を堪能。クチコミでも評判の高い夕食
夕食は、料理長でもあるご主人が手がける懐石料理に舌鼓。「こまつ」の食事はクチコミ評価がとても高く、このお料理を目当てに足を運ぶリピーターも多いのだとか。
夕食・朝食をいただく食事処は、全テーブル半個室で、ゆとりをもって食事を楽しめます。小さな子連れの場合などは、夕食のみ部屋食に変更可能です。
夕食は旬の地元産の野菜や黒豚といった、鹿児島の食材をふんだんに楽しめるのが魅力。この日は、鹿児島で夏頃に旬を迎える里芋の茎「いもがら」や「真つぶ貝」など、海と山の幸を楽しむ前菜からスタートしました。「摘み草の宿」だけに、地元の山菜や野菜もたっぷり味わえます。
次いで、鹿児島・吹上浜産の大きなはまぐりが入ったお吸いもの、地鶏のタタキと続きます。地鶏のタタキは南九州の郷土料理で、あっさりとしたムネ肉、コクのあるモモ肉の2種類を、合わせ醤油とともにいただきました。
まるで泳いでいるかのような美しい盛り付けの鮎の塩焼き。鮎は霧島を流れる天降川(あもりがわ)で獲れた天然もの。宮崎県日向市特産の柑橘「へべす」を効かせ、パリッと焼かれた皮も含めて、まるごと旬のおいしさを堪能しました。
ナスの田楽みそ、黒毛和牛のヒレステーキ、野菜の天ぷらと続きます。サクっと揚げられた天ぷらには、夏が旬のたけのこ「緑竹(りょくちく)」やオクラ、アスパラなど、地元の旬の野菜がそろいます。主役級の料理をちょっとずつ味わう贅沢。また、器にもこだわっていて、ヒレステーキのお皿は熊本「ひぐらし窯」の作品です。
ひときわ感動した料理が、黒豚のナンコツ煮。4~5時間、水煮をした後、麦みそをベースに味を付けて、一晩寝かせ、翌日コトコト1時間火入れするという、ひと手間もふた手間もかけられたひと皿です。鹿児島らしく麦みその甘めの味付けで、お肉はもちろん、ナンコツもトロトロ! 箸で簡単に切れるほど柔らかく煮込まれていました。これは6~9月までのメニューで、10~5月は黒豚のしゃぶしゃぶが提供される予定です。
志布志産のじゃこがのったごはん、麦みそのお味噌汁をいただき、最後は季節のフルーツ。宮崎産の高級マンゴー「太陽のタマゴ」に、スイカは甘さが特徴の鹿児島産の「ラビットスイカ」、梨は佐賀産の「幸水」、福岡産の「シャインマスカット」「ピオーネ」と、九州の恵みを味わい尽くしました。
朝から貸切露天風呂で温泉を独り占め
翌朝、自然と目が覚めて貸切露天風呂へ。硫黄の香りに包まれ、湯の花がふんわりと浮かぶ源泉かけ流しの温泉を朝から楽しみました。
鹿児島の野菜や九州の名物を味わう朝食
朝食は、霧島米「ヒノヒカリ」と麦みそのお味噌汁を中心とした和食。さつま揚げや高千穂で作られた納豆など、鹿児島・九州の名物も並ぶこの土地ならではの朝食です。
メインは、地元産のさまざまな野菜を味わえる蒸し野菜。ポン酢やごまだれも用意されていますが、何もつけずとも、野菜本来の優しい甘さを楽しめました。
アットホームで肩肘張らない雰囲気の中、良質な霧島の湯を客室で心ゆくまで堪能できる「摘み草の宿 こまつ」。プライベートな空間で温泉を独り占めしたい人や、宿は料理で選びたいという人に特におすすめです。霧島温泉郷の隠れ宿におこもり温泉旅行へと出かけてみませんか。
霧島温泉 摘み草の宿 こまつ
- 住所
- 鹿児島県霧島市牧園町高千穂3908
- アクセス
- 鹿児島空港より車で約30分
- 駐車場
- 無料
- チェックイン
- 15:30(最終チェックイン19:00)
- チェックアウト
- 11:00
取材・撮影・文/小浜みゆ