雄大な霧島連山の麓に点在する、大小9つの温泉地からなる霧島温泉郷。「妙見石原荘」はそのうちの妙見温泉にあり、天降川(あもりがわ)沿いの豊かな自然の中にたたずむ温泉旅館です。7本の自家源泉から湧き出る豊富な湯量を誇り、加水も貯槽もしていない源泉そのままのかけ流し温泉を堪能できるのが大きな魅力。ほかにも重厚感のある石蔵にある露天風呂付きの客室や、鹿児島の旬の食材をいかした四季折々の料理など、特色満載の「妙見石原荘」を詳しくご紹介します。
鹿児島空港から約15分!美しい渓谷沿いの名宿
深い自然に囲まれた「妙見石原荘」ですが、鹿児島空港から車で約15分とアクセス良好。宿泊客は鹿児島空港または最寄りの隼人駅からシャトルタクシーも利用できます(要予約、1台3,000円)。霧島市を縦断するように流れる天降川のほとり、清涼感のある川のせせらぎに包まれた非日常感たっぷりの場所に位置しています。
創業は1966年。時代に合わせて幾度とリニューアルを行い、現在の趣ある温泉宿へと進化しました。エントランスへ向かうと、左手に客室やレストランを備えた石蔵、右手にロビーのある本館が見えます。
一番の魅力は、なんといっても温泉。約1万坪という広大な敷地内の7カ所から源泉が湧き出ていて、それぞれの源泉のすぐ近くに造られた多種多様な浴場が5つあり、湯めぐりを楽しむことができます。
泉質は「美肌の湯」とも呼ばれる炭酸水素塩泉で、石けんのように古い角質や汚れを取る働きが期待でき、お肌がつるつるに。さらに天然の保湿成分であるメタケイ酸も豊富に含まれています。
こうした良質な温泉を最大限に堪能できるよう加水・貯槽は一切していません。特殊な熱交換器を使って源泉を空気に触れさせずに約56度から42度まで下げ、そのまま浴槽にかけ流しています。
また、お湯が20~60分で1ターンするように浴槽が設計されているのでいつでも新鮮。成分が薄くなったり損なわれたりすることなく、しゅわしゅわとした炭酸泉特有の湯触りも楽しめます。
知覧茶と特製スイーツでひと息
チェックインは本館のロビーラウンジにて行います。和とモダンが融合した洗練された空間で、大きな窓からは自然光が差し込みます。
ウェルカムドリンクは鹿児島を代表する銘茶の知覧茶。スイーツは約1カ月ごとに変わり、この日は、こしあんソースがかかったさつまいもプリンでした。ほっとするやさしい味わいで、甘みのある知覧茶とよく合います。
元米倉庫の石蔵を露天風呂付きの客室に
本館から通路でつながっているのが、客室とレストランを備えた石蔵です。1931年に建てられた古い米倉庫を解体し、その石を使って2007年に造られたもので、重厚感のあるたたずまいが目を引きます。火山による溶結凝灰岩が広く分布する鹿児島では独自の石文化が発達し、古には石蔵は豊かさの証とされていたのだそう。
無印良品の店舗やグランドハイアット東京のウェディングチャペルなどを手掛けた、インテリアデザイナーの故・杉本貴志さんが総合プロデュースを担当。石や木、土といった天然素材がふんだんに使われ、モダンで落ち着きのある空間に仕上がっています。
今回は石蔵に4室ある客室の一つ「ゆらら」に宿泊しました。約85平米で定員6名。広いリビングと和室、ベッドルーム、露天風呂を備えた和洋室のお部屋です。
部屋に入ると、茶香炉から漂う茶葉の爽やかな香りが迎えてくれました。リビングには大きなソファがあり、ゆったりとくつろぐことができます。壁はスタイリッシュな打ちっぱなしのコンクリート、そしてそれと対になる温かみのある土壁は、国内外で活躍する左官職人・久住有生さんが手掛けています。
くつろぎの一杯には鹿児島産のあさつゆをブレンドしたオリジナル緑茶や、桜島小みかんフレーバーの和紅茶、ネスプレッソのカプセルコーヒーが用意されています。お茶請けは霧島銘菓の赤松せんべい。
リビングとシームレスにつながった和室からは天降川を眼下に見下ろし、窓いっぱいに広がる緑にも癒やされます。山にはゴイサギやセキレイといった鳥たちも行き交うそうで、客室にバードウォッチング用の双眼鏡も用意されていました。
ベッドルームには寝心地の良いセミダブルサイズのベッドが2台とソファチェアが置かれています。約100年前に建てられた古民家や酒蔵で使われていた古材が梁(はり)などに用いられ、どこか温もりを感じる空間です。
露天風呂はもちろん100%源泉かけ流し。湯船に浸かると目の前には大自然が広がり、鳥のさえずりや川音が聞こえてきます。
備え付けのシャンプー、コンディショナー、ボディウォッシュ、化粧水、乳液はWaphyto(ワフィト)のもの。植物療法を発展させた日本生まれのトータルライフケアブランドで、「素材にこだわっていて安心して使えるものを」という観点から選ばれました。
パジャマはワンピースタイプで、着心地抜群のやわらかなガーゼ素材。売店でも販売していて人気商品なのだとか。風情ある浴衣も用意され、着用して敷地内を歩くことができます。
冷蔵庫のドリンク類はフリー(一部客室は有料)で、ミネラルウォーター、缶ビール、霧島茶、トマトジュース、りんごジュースが入っていました。
本館 客室
眺めの良い和室特別室「椿」
本館には数奇屋風や現代和風など5タイプの客室が合わせて14部屋あります。今回はそのうち2つのお部屋をご紹介。
和室特別室「椿」は茶室も備えた伝統的な和室で、玄関には坪庭も設けられています。8帖、6帖、6帖の3間あり、定員は7名。天降川に向かって窓面が2面あるので、和室特有の落ち着きがありながら明るく開放的な雰囲気です。
客室付きの露天風呂がゆったりしていることも「椿」の特徴です。誰の目も気にせず、好きな時間に思い切り湯浴みを楽しめます。
山を望むリニューアル客室「朱華」
2023年にリニューアルした客室が4室。京都を拠点にする「設計組織アモルフ」を率いる竹山聖さんが設計し、和室に高いテーブルと椅子を設置したりと、和の趣と現代的な使いやすさが調和したお部屋が誕生しました。
そのうち「朱華(はねず)」の部屋は山側を向いた33平米の広いテラスを有し、深い緑が視界いっぱいに広がります。広さはテラスを含む132平米で定員は6名です。
ベッドルームは本間とは別にあり、ダブルサイズのベッドが2台置かれています。壁画を手掛けたのは左官職人の久住有生さん。天降川に流れる美しい風や水、気の流れをゆるやかな曲線で表現しています。
山側と天降川側の両方の景色が楽しめる露天風呂のほか、ミストサウナ付きのシャワールームも備えられています。
館内では客室をはじめ、ロビーや廊下などあちらこちらに生花が飾られています。「妙見石原荘」では湯守(ゆもり)ならぬ花守(はなもり)も3人在籍し、毎日家の周辺で野草を摘んで館内に生けているのだそう。華美になりすぎない素朴な美しさが、空間の品格を高めています。
妙見石原荘こだわりの温泉で湯めぐりを堪能
5つの浴場の中で最も野趣あふれるのが、川のあぜの岩をつなぎ合わせて造られた野天風呂の「椋(むく)の木」。名前の由来である大きな椋の木が目隠しと屋根の役割を果たし、自然と一体となったかのような開放感を味わえます。
11:00~15:00は男性専用、15:00~24:00/6:00~10:00は男女混浴ですが、女性には湯浴み着が用意されています。
川の上流と下流で趣が変わるのも面白いところ。上流にある「椋の木」からは大きな岩々と激しい水の流れを眼前にし、ダイナミックな景色に心を奪われます。
こちらは露天風呂の「睦実(むつみ)の湯」。30分貸切可能(1組1,000円)で、絶景と名湯を独り占めできます。建築家の中村好文さんが設計を手掛け、「の」の字のように徐々に深くなっていく円形の湯船が特徴的。まるで目の前の沢に下っていくような感覚を味わえます。
「妙見石原荘」の温泉施設は、本館や石蔵から渡り廊下を歩いた先にあります。客室から少し離れているのは、自然に湧き出た源泉から近い場所で湯浴みを楽しんでほしいという思いから。
大浴場の「天降殿(あもりでん)」は、天井が高く大きなガラス越しには緑が広がっていて、露天風呂に負けない開放感です。サウナと水風呂も付いていて思い思いに利用できます。また、専門の湯守の方が毎日温泉の管理を行い、こちらの大浴場に限らず、どのお風呂も清潔かつ適温に保たれています。
「天降殿」は壁一面のアートも見どころ。鹿児島県在住の彫刻家・池川直さんによるもので、男湯は川や水、女湯は木や森といった周辺の自然を連想させる彫刻がほどこされています。
岩場に造られた「足湯」も必ず訪れたい場所です。大自然の中で風を感じながら浸かっていると、なんとも爽快な気分に。少し入っただけで足元がぽかぽかと温まりました。
お風呂上がりには、座り心地の良いラタン椅子が並ぶ「湯上がりラウンジ」へ。あえて何もせず、窓の外を見ながらぼうっと過ごすのも至福も時間です。
ラウンジには冷水やコーヒー、季節の飲み物が用意されていて、訪問時はたっぷりの果物が入ったフルーツティーが置かれていました。アイスキャンディーも自由に食べることができ、湯上がりの火照った体をほどよく冷やしてくれます。
渡り廊下には温泉を飲んで楽しむ飲泉場も。「妙見石原荘」の源泉に多く含まれるメタケイ酸は、胃腸を整えたり生活習慣病を改善したりする効果が期待できるのだそう。
懐石で鹿児島の旬の食材を満喫
夕食は本館の料理茶屋、または石蔵のレストランで。どちらもほかの宿泊客が気にならない造りで、落ち着いて食事を楽しむことができます。
お料理は鹿児島の食材を中心に、旬のものを使った懐石料理を月替わりで提供。鹿児島出身の料理長は京都の名店で修業した経歴を持ち、麹などの発酵食品を用いて旨みを重ね、素材の味わいをいかした料理が味わえます。
懐石は食前酒からスタート。銘柄はその時々で変わりますが、食事に合う日本酒を選び、この日は福井の「黒龍」を。地元の竹細工職人の方による青竹酒器で提供され、よりまろやかな口当たりになっています。
もちろん鹿児島産の焼酎も種類豊富にラインナップされていて、別途有料でオーダーできます。酒器は鹿児島産の龍門司焼でできたカラカラで、丸みを帯びたフォルムがユニークです。
1品目は「かます 利休和え」。宮崎県沖でとれた本カマスを一夜干しにし、さっと炙ることで香ばしさを際立たせています。
2品目の八寸は “秋太郎”と呼ばれる鹿児島の秋の魚・バショウカジキのぬた和えや、天降川でとれた鮎で梅肉と紫蘇をくるんだ天ぷら、白和えをのせた柿など。虫かごを模したオリジナルの箱とススキに彩られ、視覚と味覚の両方で秋を感じられる一皿です。
3品目は「土瓶仕立て」。鹿児島産の秋ハモに、昆布だし、カツオだしでそれぞれ炊いたカブとしめじを合わせていて、上品で繊細な味わいにうならされます。
4品目は「近海の造り」で2種のお魚が登場しました。穴子の糸切りは天草産の穴子の刺身を細切りにし、生姜や割り醤油で和えたもの。ねっとりした風味で焼酎によく合います。もう一皿は霧島の湧き水で育てられた鱒のお造りで、皮を炭火で焼き上げ、上には筋子が乗っています。
「妙見石原荘」のお料理は器にもこだわりがあり、有田焼や唐津焼など、全国各地から陶芸作家の作品を集めて使用しています。毎月メニューが変わるごとに、その料理に合わせて器も選び直しているのだそう。
5品目は「太刀魚黒酢焼き」。鹿児島県内之浦産の大型の太刀魚に、同じく鹿児島産の五年熟成有機黒酢を塗って焼き上げています。
6品目は「鰻と焼茄子の玉蒸し」。鹿児島は養殖うなぎの生産量日本一を誇り、うなぎ料理も絶品です。こちらは名産地として有名な鹿児島県大隅産のうなぎを使い、トロトロの焼きなすとともに卵と山椒の餡でまとめたもの。ツワブキの葉がふた代わりという遊び心も楽しいですね。
7品目は「黒毛和牛焼しゃぶ」。鹿児島産の黒毛和牛に豆もやしとほうれん草をのせ、自家製の玉ねぎソースで味付けしています。器は九谷焼で、なんと1700年代後期につくられたアンティークのお皿を使用しています。
締めは「きのこご飯」。5種のきのこと鹿児島産の黒さつま鶏がたっぷり入り、土鍋のふたを開けた瞬間、きのこの香りが広がります。
デザートは「栗アイス最中」。最中は「石原荘」と書かれた特注品で、香ばしい食感にこだわり半年以上試行錯誤して完成したもの。4~5日間麹漬けにして旨みを凝縮した桃も添えられています。スプーンも手打ちでつくられたオリジナル。食前酒からお料理、デザートまで、味も器も徹底したこだわりに感動を覚えました。
食後はゆったりと貸切風呂へ
こちらは露天風呂の「七実(ななみ)の湯」。11:00~15:00は女性専用、15:40~23:30/6:00~9:50は貸切で30分利用することができます。名前の由来は、赤い実のなる七実の木が鎮座することから。川のせせらぎを聞きながらのんびり檜の湯船に浸かっていると、心も体もリラックスしていくのを感じます。
露天風呂はほんのりライトアップされた夜も素敵です。いろいろな浴場があるからこそ、いつどのお風呂に入ろうかと幸せな悩みを抱えてしまいます。
お風呂のあとは屋外の囲炉裏を囲んでのんびりリラックス。マシュマロが用意されていて、焼きマシュマロをつくって味わえます。前割り焼酎のお湯割りもあり、自由に飲んでOK。お腹の中から温まります。
渡り廊下では、天狗の葉団扇のマークが描かれたちょうちんに灯りがともっています。これは大浴場を設計したデザイナーさんが、宿の自然環境に天狗がいるような神秘的な雰囲気を感じてシンボルとしたもの。敷地内のいろいろなところで見つけられるので探してみてくださいね。
釜炊きの伊佐米と山海の幸を頬張る朝食
朝食は石蔵のレストランで。 天降川を見下ろす窓から朝日が差し込み、明るくモダンな雰囲気のレストラン。
もともとの石蔵が造られた時代に合わせ、機織り機や食器など、実際に昔使われていた骨董品を壁に埋め込んでインテリアにしています。全席半個室でゆっくり食事が味わえるのもうれしいポイントです。
朝食も地元の食材をふんだんに使った和の逸品がずらりと並びます。献立は季節に合わせて少しずつ変わり、旬を感じられる構成。ご飯は鹿児島県伊佐市のブランド米・伊佐米を、宿泊客それぞれの朝食の時間に合わせて釜で炊き上げています。
鹿児島産のイワシの丸干し、自家製柚子胡椒を添えた朝作り豆腐、地域でご飯のお供として親しまれている魚みそ、揚げたてのさつま揚げなど、鹿児島の食文化を思う存分堪能しました。
レストラン入口の横には著名な彫刻家の速水史朗さんの作品が飾られています。ほかにも敷地内には作品が点在しているので、ぜひチェックしてみてください。
フロント前にはショップがあるので、チェックアウト前後で立ち寄ってみるのがおすすめです。実際に宿で使用している器や小物、鹿児島産のお茶などを販売しています。
人気はオリジナルの飲泉カップ。本来は温泉水を飲むためのものですが、一輪挿しにする方も多いといいます。
豊かな川と山に挟まれた大自然の中で、源泉そのままの良質な温泉に浸かり、心も体も解放できる「妙見石原荘」。温泉、お部屋、料理、ロケーション、そしておもてなし。そのどれもが最上級と言えるのは、一切妥協のないこだわりと時代に合わせたたゆまない進化の賜物だと感じました。すべてがそろった極上の時間を過ごしに、「妙見石原荘」を訪れてみてはいかがですか。
妙見石原荘
- 住所
- 鹿児島県霧島市隼人町嘉例川4376
- アクセス
- 日豊本線「隼人駅」よりお車にて約15分
- 駐車場
- あり(50台・無料)
- チェックイン
- 14:00
- チェックアウト
- 11:00
- 総部屋数
- 18室
撮影/岡村智明 取材・文/土田理奈