約3億年前に形成されたという大分県豊後大野市の「稲積水中鍾乳洞(いなづみすいちゅうしょうにゅうどう)」。約9万年前の阿蘇山大噴火によって水没し、現在の形に形成された“歩いて見学できる”日本で唯一の水中鍾乳洞です。
そんな水中鍾乳洞を水風呂に利用したアウトドアサウナが今、注目を集めています。その他に、県内最大の大観音や美術館のある庭園散策や、水中鍾乳洞を生かしたシュノーケリングやダイビングといったウォーターアクティビティも。今回は「テントサウナ」をはじめ、さまざまな過ごし方ができる「稲積水中鍾乳洞」の全貌をご紹介します!
目次
稲積水中鍾乳洞の「テントサウナ」とは
「おんせん県」の大分県ながら温泉が出ない豊後大野市は、豊かな自然環境を生かしたアウトドアサウナで注目を集めています。2021年3月にオープンした、稲積水中鍾乳洞「テントサウナ」もその一つです。
一番の特徴は、水風呂が鍾乳洞ということ。テントは、冬場でもしっかり高温を保てるという本場ロシアの「MORZH(モルジュ)」製など3つの中から、人数に合わせたテントで利用できます。
基本的に「サウナ→水風呂→外気浴」を3セット行いますが、その間はスタッフ1名が必ず付き添ってくれるので、初心者でも安心して楽しむことができます。
まずは「テントサウナ」で心地よい汗を
水着に着替えたら、まずは「テントサウナ」へ。水を1杯飲んでから、薪ストーブで約95℃に熱したテント内に座り、くつろぎながら汗が出てくるのを待ちます。
利用者の経験や状況に合わせて「ロウリュ」で温度や湿度を調整してくれるのも、このサウナのポイント。「もっと熱く」と希望すれば、120℃くらいまで上げることができるそうです。
「ロウリュ」は、サウナストーンに水をかけるだけで一見簡単そうですが、心地よく汗をかけるようにテント内の温度や湿度を調整するのは至難の業。水をかけすぎて、ストーブ自体が冷めてしまうこともあるそうなので、2セット目まではスタッフが行い、希望があれば3セット目にセルフで体験できるようにしているそうです。
汗をかいたら鍾乳洞の水風呂へ
全身がいい汗をかいてきたら、スタッフが水風呂へ案内してくれます。石灯籠のある空間を抜けると、その先が水中鍾乳洞の入口。汗を拭いてから、天然の水風呂へ向かいます。
スタッフの先導で、美しく幻想的な天然の水風呂へ。底まで見えるほどクリアな水温16℃の水で、全身をクールダウンします。
首まで浸かっても、水を全身にパシャパシャッと軽くかけるだけでもOK。体の表面をシャキッと引き締めて、外気浴へ向かいます。ちなみに、2回目の水風呂の時には、そのままボード(写真左下)に乗って水中鍾乳洞めぐりに連れて行ってくれます。洞内通路を歩いて回る時とはまた違う光景を楽しむことができます。
外気浴で“ととのう”を実感
テントの奥にある外気浴スペースで空を見ながら寝転んでいると、水風呂で冷ましたはずの体が内側からぽかぽかしてきます。その熱が落ち着くと同時に、体がスーッと軽やかになって“ととのう”を実感。心地よい眠りに誘われながら少し休んだら、再び水を飲んで2セット目の開始です。
3セット行えば、さらなる“ととのう”を実感することができるので、日常を忘れて心も体もリセットできそうです。2023年1月には雨でもゆっくり過ごせる休憩施設が完成予定。“ととのう”だけでなく、鍾乳洞の水風呂や鍾乳洞めぐりまで楽しめるサウナは、ベテランサウナーはもちろん、初心者でもハマってしまう人が多いそう。
外気温が下がる冬は心地よさがまた格別で、冬の2月頃までは満天の星空の下で外気浴を楽しめるベストシーズンだそう。このタイミングで一度、稲積水中鍾乳洞の「テントサウナ」を体験してみてはいかがでしょうか。
更衣室やレンタルも充実
サウナを利用する時は、水着を持参する必要があります。サンダルは用意されており、サウナハットや外気浴時のポンチョ、タオルセットはレンタル(有料)できます。詳細は予約時に確認してください。
更衣室は、園内の「ホタル茶寮」に3室。そのうちシャワールーム付きが1室ありますが、シュノーケリングやスキューバダイビングと共有施設なので、希望の場合は事前に確認を。貴重品は鍵付きロッカーへ入れることができます。
稲積水中鍾乳洞「テントサウナ」
- 利用人数
- 1人〜20人
- 利用時間
- 9:30~11:30、12:15~14:15、15:00~17:00
※各時間1組、1日3組限定。前日までに要予約(電話) - 料金
- 1名9,000円、2名より1名につき5,500円~ ※稲積水中鍾乳洞入場料込み
- レンタル用品
- サウナハット200円、タオルセット300円、ポンチョ500円
- 電話番号
- 0974-26-2468
サウナの後は日本で唯一という“歩ける”「稲積水中鍾乳洞」をめぐってみましょう。
驚くほど透明度の高い清流沿いの通路を進むと、右手に「虹の滝」。晴れた日の午前中、タイミングがよければ、滝にかかる虹が見られるそうです。この清流は鍾乳洞内とつながっていて、シュノーケリングやダイビングもここからスタートするそうです。
入洞口のサウナで利用した天然の水風呂を過ぎると分岐点。「新生洞」と「水中洞」に分かれます。
「新生洞」に入ってしばらく進むと、広めの洞窟に仏像が安置されている「仏の里」に到着。もともと仏に似た鍾乳石があったため、実物の仏像を安置したのだとか。洞窟内の神秘的な仏像に手を合わせていく人も多いようで、胸のあたりが賽銭で埋め尽くされています。
新生洞のほぼ中央にあるのが「名残りの池」。鍾乳石から落ちたしずくが、水面に美しい輪を描く様子に、「ここを去るのが名残り惜しくなる」とこの名が付けられた池です。
そして、上部にたくさんのベルのような造形が広がるのが「ベルホール」。これは、鍾乳洞が水没していた頃、水の流れで削られて形成されたものです。通常はダイバーが潜った時にしか見ることができないものを、歩いて見ることができるのは稲積水中鍾乳洞ならでは。
新生洞の一番奥は「大サンゴ洞」。上部にあるサンゴ石や、つらら石、石筍といった鍾乳石が、ほかより発達した状態で見ることができます。
天井が高くて広いまるでホールのような空間になっているので、カラオケ大会やライブ、クラシックコンサートが実施されることもあるのだとか。音が美しく響き、観客はもちろん、出演者にも評判です。
「大サンゴ洞」が新生洞の終点。ここから再び分岐点に戻ります。探検気分で洞窟を進みながら、自然が生み出した神秘的な世界を楽しむことができました。
再び分岐点から今度は右の「水中洞」へ。しばらくすると「底なしの淵」に到着します。その名の通り、吸い込まれそうな底の見えない淵。しかし、実際には12mぐらいで、一番深い所でも25mほど。水の透明度がさらに上がる冬場は底が見えるタイミングもあるそうです。
真ん中の石が鬼のように見える「鬼の岩屋」。観光スポットとして開業した当初は、顔がもう少し丸く、ツノもとがっていたためこの名が付けられました。
横のはしごは、ここで行われているスキューバダイビングに使われているもので、鬼の後ろ側が水中探検口の一つになっています。大雨の時には、そこから水があふれ出てくることもあるそうです。
まっすぐ発達していた鍾乳石が、気圧の変化によって途中から曲がる「ヘリクタイト」も見ることができます。看板左手の流れるような「フローストーン」も見ごたえありますが、ヘリクタイト自体は猫のヒゲのようなものがちょこんとあるだけだそう。なかなか見つけることができないほど小さい鍾乳石。看板の上部にあるそうなので、じっくり探してみて。
水中洞の終点は「示現の淵(じげんのふち)」。ライトアップされた様子が、その名の通り神秘的なスポットです。看板がきれいに映るほど透明度の高い水面をのぞくと、川魚の泳ぐ姿が。ダイビングスポットの終点でもあるので、ダイバーが姿を現すなんてこともあるかもしれませんね。
一年を通じて洞内の気温は16℃と、夏は涼しく、冬は暖かで快適に過ごせます。どちらも300mほどなので、所要時間は全体で約30分。緩やかな勾配のある道を進む「新生洞」も、水の上を歩くような「水中洞」も、アドベンチャー気分を満喫できました。
よりディープに楽しむ!鍾乳洞でシュノーケリング&スキューバダイビング
ウォーターアクティビティが楽しめるのも水中鍾乳洞ならでは。見学通路とはひと味違う光景を見ることができます。気軽に水中探検をしてみたい人は、シュノーケリングがおすすめです。
シュノーケリング
- 料金
- 大人7,500円 小学生5,800円 ※事前に要予約(電話)
※以下の料金を含む
・鍾乳洞・その他施設の入場料
・道具一式貸し出し(ウェットスーツ、ブーツ、フィン、ゴーグル、ライフジャケット) - 電話番号
- 0974-26-2468
宮崎のダイビングショップ「kanaloa(カナロア)」、「Cave Explorers INAZUMI(ケイブ エクスプローラーズ イナズミ)」による、スキューバダイビングも実施されています。体験プログラムも用意されているので、よりディープな体験をという人はぜひ!
稲積水中鍾乳洞ダイビング
- 詳細・申し込み
- kanaloa公式サイト
- Cave Explorers INAZUMI
「稲積水中鍾乳洞」は、散策が楽しめる庭園も併設しています。まずは、入口にある「鐘突き堂」で、庭園内の仏様へごあいさつ代わりの鐘をついてから、さまざまなスポットを訪れてみましょう。
散策しながら心穏やかなひとときを
園内でまず目に入るのが、大分県一の高さという22mの「稲積昇龍大観音」。もともと四国のお寺にあったものを縁あって譲り受け、2006年に建立したそうです。慈愛に満ちた表情を見ているだけで心も穏やかに。下でお参りもできます。
気持ちよさそうに泳ぐアイガモたちに癒される「あいがもと鯉の池」。えさ(100円)をあげることもできるので、子どもやカップルにも人気のスポットです。隣にある「はすの池」のほとりにはサイの像も。周囲を探してみて。
こちらは古くから金運や開運など、縁起がいいとされてきた2匹の白蛇が祀られた「白蛇堂」。実際に見ると、白く輝く表皮の美しさに驚かされます。お参りしながら、じっくり見てみるのもおすすめです。「白蛇御守りカード」(3枚500円)を販売しているほか、売店では白蛇の御守り(2,000円)も販売しています。
「鐘突き堂」(写真左)は、京都のお寺にあった鐘を、誰でもつくことができます。荘厳な音を聴けば、心も落ち着くよう。後方には「慈愛の滝」や「弘法大師像」があります。「巨龍霊泉」(写真右)は、写真映えスポットとしても人気です。
文化・芸術にふれるスポット
日本画や洋画、美術品など、250~300点近く所蔵している「開世美術館」。有名画家や著名人の作品やリトグラフなどが展示されています。中には1~2時間ゆっくり鑑賞する人もいるほど、アートを存分に堪能できる空間です。
水中鍾乳洞を出ると、そこは昭和レトロな街。この「昭和タイムトリップ ロマン座」が出口になっています。駄菓子屋を再現した空間もあり、中には古き良き時代のおもちゃなどを多数展示。ある人には懐かしく、ある人には新鮮な、幅広い世代が楽しめる空間です。
ゆっくりおみやげ探しや食事も
園内には、お食事処「名水亭」もあります。一番人気は「とり天定食」(1,200円)。大分名物を味わいながら休憩してみては。現在は土日を中心に不定期営業なので、利用したい時は、事前に確認するのがおすすめです。
稲積水中鍾乳洞の受付がある売店では、地元特産品などが購入できます。中でも人気なのが「天然石コーナー」。人気の「アメジスト」(1個500円)のほか、アクセサリーから美術品まで品数豊富です。天然の造形である鍾乳石を見た記念に、天然石をおみやげにしてみては。
鍾乳洞を水風呂にした世界唯一の「テントサウナ」や、日本唯一の「歩ける水中鍾乳洞」といった希少な体験や庭園散策などで癒される「稲積水中鍾乳洞」。訪れる人たちに楽しんでほしいという想いから、これからも進化していくそうです。さまざまな楽しみ方ができるので、豊後大野市周辺の宿を拠点に、1日ゆっくり過ごしてみてはいかがでしょうか。
稲積水中鍾乳洞
- 住所
- 大分県豊後大野市三重町大字中津留300
- 電話
- 0974-26-2468
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 休業日
- 年中無休 ※夏季は延長営業
- 入場料
- 大人1,300円、中・高校生1,000円、4歳~小学生700円※鍾乳洞・その他施設の拝観料含む
- アクセス
- 【車】大分方面から:国道10号線を豊後大野市犬飼方面へ、中九州自動車道千歳ICを降りて約25分。所要時間約60分
宮崎・延岡方面から:国道326号線で三重町に入り、市場一区交差点を左折。502号線、718号線、県道45号線経由で所要時間約60分
【電車】豊肥本線「三重町」駅からタクシーもしくはレンタカーで約20分 - 公式サイト
- 稲積水中鍾乳洞
取材・文/辻 美穂 撮影/井上由紀子