ハイカラな西洋文化をいち早く取り入れ文明開化が進み、最先端の港町として栄えた横浜。日本が新時代を迎えた当時の面影を今でも感じられる場所が「ホテルニューグランド」です。
都心からすぐに行けるアクセスながら異国情緒にあふれ、まるで100年前にタイムトラベルしたかのような滞在を楽しむことができます。悠久の時を刻み続けているクラシックホテルは記念日旅行にもぴったり。横浜の潮風に吹かれ、歴史を旅するホテルニューグランド1泊2日滞在記をレポートします。
横浜のシンボル。約100年の時を刻む「ホテルニューグランド」
1927(昭和2)年に開業し、横浜のシンボルとして愛され続けている「ホテルニューグランド」。1923年の関東大震災によって一度は瓦礫の山となってしまった街を復興すべく建てられた希望のホテルです。誕生以来迎賓館としての役割を果たし、マッカーサー元帥、作家・大佛次郎、喜劇王・チャップリンなど世界中のVIPも訪れています。
ホテルニューグランドは山下公園通りに面し、横浜の定番観光地・山下公園の向かい。山下公園は関東大震災の瓦礫を埋め立て1930年に完成した公園で、ホテルとともに同じ地で歴史を歩み続けています。
アクセスは東急東横線「元町・中華街」駅より徒歩約1分。例えば渋谷駅から元町・中華街駅は直通約40分で、都心からすぐに異国情緒あふれる港町に到着します。
時が止まったよう。息を呑むほど美しい大階段&ロビー
ホテルニューグランドに到着し、最初に目を奪われるのが横浜市認定歴史的建造物に指定されている本館。開業当時とほぼ変わらない姿で佇み、約100年前の横浜がそこにはあります。
風格ある石造りの建物を設計したのは、銀座和光や東京国立博物館などを手がけた渡辺仁(じん)。山下公園東口信号付近からホテルニューグランドを見ると、「AD1927」と開業年が刻まれた装飾をはじめ、ホテル全体を写真におさめることができます。
本館の玄関からロビーの2階へと続く大階段も、当時の雰囲気を残す場所。横浜の海と空を連想させるホテルカラー「ニューグランドブルー」のじゅうたんが敷き詰められたホテルの象徴的な場所です。玄関からすぐに階段という設計は、当時もとても珍しく画期的でした。
大階段で注目したいのは細部にわたる意匠。大階段の両脇には西洋の風習に習って「おもてなし」の心を表すためにフルーツバスケットのモニュメントが置かれており、時計の上に京都の川島甚兵衛(じんべえ)作の綴織(つづれおり)「天女奏楽之図」が飾られています。
天井からは東洋風の伽藍(がらん)の灯籠も吊るされ、東洋と西洋が融合したユニークな世界観で訪れる人を魅了しています。
ロゴをはじめ、レリーフなどホテルのさまざまな場所で見ることができる「フェニックス(不死鳥)」。何度でもよみがえる不死鳥には関東大震災からの復興の願いが込められており、今も変わらずホテルのアイコンとして大切にされています。
本館のロビーは想像以上の広さで、息を呑むほどの美しさ。1階よりも格段に天井が高く、天井の低い1階から2階へと上がることでより開放的に感じます。大きな窓からは明るい日差しが差し込み、ここだけ時が止まっているかのよう。ホテルは耐震も考えられた造りとなっており、太い石造りの柱からその頑丈さを知ることができます。
ロビーの奥は、マホガニーの太い柱が並ぶ重厚感のある雰囲気。ここには西洋から輸入された家具の修理を請け負っていた横浜の職人が、その家具を模して作り始めたという歴史を持つ横浜家具の椅子が並んでいます。
椅子は開業以来、修繕を重ね使い続けているヴィンテージ品。年代物の横浜家具に座れること自体が希少なのだそう。
最も高価な横浜家具の椅子が、上座に一対ある「キングスチェア」。この椅子の肘かけには天使が潜んでいて、お顔をやさしくなでると幸運が訪れる……なんて素敵な言い伝えも。あのVIPも、もしかしたら座った椅子かもしれませんね。
チェックインは、1991年に完成したモダンな建物のタワー館1階で行います。ロビーには生き生きとした季節の花が飾られ、大きなシャンデリアと高級感あふれる大理石の床が宿泊者を優雅に迎えてくれます。
ホテルニューグランドでは笑顔で接してくれるホテルスタッフも魅力。チェックイン後、ホテルのベルマンが荷物を運び、客室へと案内してくれます。約100年にわたり培ってきたホスピタリティで、宿泊者を温かくもてなします。
コーヒーハウス「ザ・カフェ」でホテル発祥の伝統料理に舌鼓
チェックイン前後のティータイムや翌日のランチには、本館1階のコーヒーハウス「ザ・カフェ」でホテルニューグランド発祥の伝統料理を味わうのがおすすめです。今の私たちになじみ深い「ドリア」「ナポリタン」「プリン・ア・ラ・モード」は、実はホテルニューグランドで生まれ、全国に広まったメニューなのです。
「ザ・カフェ」は格式のあるホテルの中でも、最もカジュアルに食事が楽しめる場所。明るい店内の窓際のボックス席は山下公園が見える特等席で、この席目当てに開店時間に合わせて来る人も。宿泊者以外も来店可能です。
ドリアは、初代総料理長を務めたサリー・ワイル氏が考案したホテル発祥の伝統料理。「体調が優れない」と相談のあった宿泊者のために、料理長が当時ヨーロッパで流行していたグラタンを日本のお米でアレンジし、即興で作ったメニューです。
ドリアはバターライス、甲殻類の出汁でとったニューバーグソース、グラタンソースの三層。具材は当時エビのみを使用していましたが、現在はエビ、ホタテ、マッシュルーム入りの「シーフード ドリア」(2,783円)として提供しています。熱々のドリアを食べてみると、ふわふわでクリーミーなおいしさと魚介の旨味が口いっぱいに広がり、意外にも後味はあっさり。ホテルクオリティーの味わいと、体調不良の宿泊者に対する優しさの両方を感じられます。
よく知られている「ナポリタン」といえばスパゲッティをケチャップで味付けしたものですが、実はその発祥は違うレシピでした。歴史を紐解くと、終戦後ダグラス・マッカーサー率いるGHQ将校の宿舎となったホテルニューグランド。日本に主権が戻った後、将校たちがスパゲッティをケチャップで味付けていたところから発想を得て、ホテルが提供するにふさわしい料理にしようとオリジナルソースを2代目総料理長・入江茂忠氏が作り、「スパゲッティ ナポリタン」と名付けました。
「ケチャップだけでは何とも味気ない」と、生のトマト、水煮のトマト、トマトペーストを使用。こうして生み出された「スパゲッティ ナポリタン」(2,178円)はもちもちとした太めのスパゲッティに玉ねぎの甘みとトマトの風味を活かしたソースがよく絡み、深みのある上品な一皿となっています。
「プリン・ア・ラ・モード」(1,633円)は終戦後GHQ将校とともにホテルで暮らしていた夫人を喜ばせたいという想いで誕生したデザート。当時前菜をのせていた横長の器にプリン、バニラアイスをそれぞれのせ、色とりどりのフルーツ、そしてアメリカらしくプルーンをあしらった見た目にも華やかな伝統料理です。
なめらかなバニラアイスとクラシカルでほどよいかたさのプリンは、ホテルニューグランド自家製。濃厚で甘く幸せなバニラアイス&プリンや、酸味のあるフルーツは単体でも合わせてもおいしく、夫人たちが喜んだ姿が目に浮かびます。
コーヒーハウス ザ・カフェ
- 営業時間
- 10:00~21:30(LO 21:00)※状況により異なる場合があります
クラシカルホテルならではの滞在を。本館の客室
ホテルニューグランドの客室は、本館とタワー館から選ぶことができ、歴史的な建造物に泊まりたい方は本館がおすすめです。写真は、本館「グランドツイン」。
重厚感のあるクローゼット、ニューグランドブルーの椅子、エレガントなベッドボード……ヨーロピアンテイストのしつらえがとても美しく、クラシックホテルならではの滞在が叶う客室です。広さは約27平米、定員2名。
窓から外をのぞいて見ると、山下公園と日本郵船氷川丸が目の前に! 古き良き港町・横浜を感じる、ノスタルジックな景色です。
ユニットバスタイプのバスルームはゴールドの装飾で彩られた鏡が美しく、身だしなみを整える時間にも気分が上がる空間です。
ロゴ入りのバスアメニティはホテルオリジナル。広大な海をイメージした柚子やカモミールの爽やかな香りが心地よいシャンプー、コンディショナー、ボディソープ、ボディミルクが用意されています。ペンタイプの消毒用アルコールやヘアトリートメントも、うれしい心遣い。
パジャマは肌触りがよく、快適な睡眠をサポート。上下に別れたセパレートタイプで、胸にはホテル名の刺繍入りです。
横浜の海と空に心を奪われる。タワー館の海側の客室
みなとみらいエリアに広がる「今」を高い位置から見渡せるのが、18階建てのタワー館の魅力。タワー館 スーペリアフロア「ベイサイドツイン」はみなとみらいを一望できるベストスポットで、景色を楽しめるよう椅子は窓側を向いています。広さは約32平米、定員2名。
カーテンを開けると横浜ランドマークタワー、大観覧車、赤レンガ倉庫など横浜らしいアイコニックな建物や観光地が目に留まります。ロマンチックな横浜の夜景が見たいという方にもおすすめ。写真は9階のお部屋です。
タワー館 スーペリアフロアの客室は心が晴れやかになる白を貴重としながら、ワインレッドもしくはニューグランドブルーがアクセントになったデザイン。和紙デザイナー・堀木エリ子氏が手がけた和紙のランプが、部屋を優しく照らしています。ベッドカバーはホテルニューグランドのロゴ入り!
タワー館角部屋のスーペリアフロア「ベイフロントコーナーダブル」は大きな2面の窓から横浜の景色を見渡せる客室。左手にはみなとみらい、右手には横浜ベイブリッジが見え、まさに絶景です! 大パノラマで横浜の青い海と空を眺めていると、心がリフレッシュできます。
眼下には山下公園も見え、桜、バラなど季節の花々を上から眺めるのも一興。ルームサービスの朝食(アメリカン ブレックファスト)をリクエストすることも可能です。
ちなみに客室の鍵はシリンダー式。今のホテルではルームカード式が一般的ですが、真ちゅう製のロゴ入りキーホルダー付きの鍵を使ってカチャっと開けるのもクラシックホテルらしい所作です。ルームナンバーは右から読むため、写真の鍵は「903」号室。キーホルダーはお土産としても販売されています。
パワースポットも訪れて。ARを使いながら本館を自由に散策
ひと段落ついたら、本館を散策するのも良い過ごし方です。ホテルでは「ARで巡るホテルニューグランド」を開催しており、自分のスマートフォンを使って自由に館内を巡れます。アプリをダウンロードし、所定の場所でスマートフォンをかざすと、ホテルの歴史や説明が表示される仕組みです。
本館1階の中庭横にある歴史展示コーナーでは、以前の本館の写真や当時使っていたタイプライターなどの備品を展示。GHQ将校の宿舎だった戦後直後の歴史や発祥グルメの歴史も詳しく知ることができ、旅をより深い体験に導いてくれます。
ホテルのパワースポットである中庭にもぜひお立ち寄りを。以前プールだった場所を1992年にリニューアルし、ヨーロッパから買い付けた噴水を中心に赤・白・緑と華やかな空間です。噴水の上に佇むのは、大きな魚を抱えた天使「ラファエル」。ラファエルは「旅人の守護者」として古くから信仰されており、宿泊者を温かく見守ってくれます。
より深く歴史を学びたい人には館内ツアー付き宿泊プランがぴったり。ホテルを知り尽くしたコンシェルジュが、細やかな部分まで館内を案内してくれます。
選択肢が豊富。館内レストランや中華街でディナー
館内にはディナーを楽しめるレストランが4つあり、フレンチや和食など好みに合わせて選択できます。本館1階の「イル・ジャルディーノ」は三浦野菜や三浦半島で獲れた新鮮な魚介を使ったイタリアンレストラン。イル・ジャルディーノのスペシャリテである仔⽜の⾻付きすね⾁の煮込み「ミラノ風オッソブーコ」も一押しのメニューです。
また、オリエンタルな夜の中華街を歩き、ディナーを食べに行くのも選択肢の一つ。中華街に歩いて行くことができる立地も、ホテルニューグランドの魅力です。
あのサザンオールスターズの歌にも登場。バー「シーガーディアンII」
本館1階のバー「シーガーディアンII」は、大人な横浜の夜の締めくくりにぴったり。石原裕次郎さんをはじめスターたちが足しげく通い、サザンオールスターズの人気曲の歌詞にも登場する有名なバーです。
重厚でムードあふれる英国調の正統派なバーですが、入ってみると居心地がよく、もちろんバー初心者もウェルカム。カウンターや奥のシートなど好きな席で気軽にお酒を楽しめます。バーは1992年に新設されたので「II」と名付けられています。
ぜひとも味わいたいのが、シグネチャーカクテル「ヨコハマ」(1,633円)。横浜というとブルーをイメージする方も多いかもしれませんが、このカクテルはきれいなオレンジ。世界を周遊していた豪華客船でお酒を振る舞っていたバーテンダーが、海から見る夕景の美しい横浜を見て作ったと言われています。
「ヨコハマ」の材料はジン、ウォッカ、アブサン(ハーブ酒)、ざくろのグレナデン・シロップ、オレンジジュースの5つ。ジンとウォッカの2種類のスピリッツが入っているのは珍しく、90年以上前から存在するカクテルブック「サヴォイ」にも掲載されています。
オレンジやざくろの甘酸っぱさの中に、深みのある苦味がほんのり隠れているようなストーリーのある飲み心地。横浜というロマンチックな場所にふさわしい、人を惹きつける色っぽさも感じます。意外だったのがアルコール度数が高いスピリッツを使っているのに、軽やかな飲み心地。これはバーテンダーのシェイクの技術で、空気を含ませふわりと仕上げているのが理由です。カウンターではその技術を目の前で見学することができ、バーテンダーと会話しながら自分好みにアレンジも可能。アルコール度数低めやノンアルコールの「ヨコハマ」も対応してくれます。
バー シーガーディアンII
- 営業時間
- 17:00~23:00(LO 22:30)※状況により異なる場合があります
まるで豪華客船の中!ル・ノルマンディで名物の朝食を味わう
大都会・横浜にいるとは思えないほど静かな朝。朝食はタワー館5階のパノラミックレストラン「ル・ノルマンディ」でいただきました。大西洋を横断した「ノルマンディー号」のレストランをイメージした内装で、まるで豪華客船の中で食事をしているかのような気分が味わえます。「デッキ席」が設けられていたり、船の揺れに備え「手すり」が設置されていたり、遊び心も満載。窓からは横浜港や山下公園が見え、素晴らしい眺望です。
朝食は3種類から選べます。「アメリカン ブレックファスト」「コンチネンタル ブレックファスト」に加え、一押しが「モンテクリスト ブレックファスト」です。フレンチトーストにベーコンとチーズを挟んだ朝食のスペシャリテ「モンテクリストサンド」に、ヨーグルト、フルーツ、グリーンサラダ、フレッシュジュース、コーヒーまたは紅茶が付いたセットメニューです。
ふわふわのフレンチトーストはホテルメイドのパンに卵液を中心まで染み込ませ、提供する直前に焼き上げたもの。カリカリに焼かれたベーコン、そしてとろーりとのびるチーズと一緒に食べると、甘さと塩味が絶妙な調和を奏でます。横浜の美しい海を眺めながら味わう異国の味は、非日常感であふれています。
パノラミックレストラン ル・ノルマンディ
- 営業時間
- 朝食:7:00~10:30(LO 10:00)
ランチ:11:45~15:30(LO 14:30)
ディナー:17:30~21:00(LO 20:00)
※朝食はセットメニューのみ提供
※状況により異なる場合があります
ロゴ入りハンカチや発祥グルメを。お土産探し
チェックアウト後は本館1階の「そごう横浜店ホテルニューグランドSOGOショップ」でお土産探し。家でも旅の続きを楽しめる商品が揃っています。
ホテルニューグランド発祥の味を家でも楽しめる「ナポリタンソース」(648円)などレトルトシリーズは、横浜のお土産ブランド「ヨコハマ・グッズ 横濱 001」で最高賞にあたる市長賞を受賞した名品です。レースにホテルロゴのフェニックスマークがあしらわれた「レースタオルハンカチ」(1,320円)もおすすめ。横浜・元町の「近沢レース」とコラボレーションしたオリジナル品です。
そごう横浜店ホテルニューグランドSOGOショップ
- 営業時間
- 9:00~19:00
旅の続きをロビーで。季節のアフタヌーンティーを堪能
チェックアウト後もゆっくりと過ごしたい時はロビーラウンジ「ラ・テラス」でアフタヌーンティーを。「春のアフタヌーンティーセット」(5,808円)は宇治抹茶の風味豊かな抹茶ブラウニーや抹茶ロールが瑞々しい若葉を、グリオットチェリーのムースや桜クッキーがかわいらしい桜を連想させるメニューです。季節により内容が変わるため、何度来ても楽しめます。
港町・横浜と約100年の時を一緒に刻み続けている「ホテルニューグランド」。一度泊まるとその歴史が持つ不思議な力に魅せられ、5年後、10年後と節目の度に泊まりたくなります。横浜のクラシックホテルで、思い出に残る日を過ごしてみませんか。
ホテルニューグランド
- 住所
- 神奈川県横浜市中区山下町10番地
- アクセス
- みなとみらい線「元町・中華街」駅1番出口より徒歩約1分
- 客室数
- 238室
- 駐車場
- 140台あり、1泊1,500円
取材・撮影・文/小浜みゆ