和の旅

島根の「足立美術館」で絵画のような日本一美しい庭園をたっぷり堪能

「日本一の庭園」が島根県にあるのをご存知でしょうか? アメリカの日本庭園専門誌で1位に選ばれ続けている「足立美術館」の日本庭園は、まるで風景や自然を取り込んだような美しさで、絵画の中にいるようなひとときを過ごすことができます。
また、横山大観の絵画や北大路魯山人の陶芸など美術品のコレクションも見ごたえがあり、なにげない一瞬も訪れた際の大切な思い出になるのではないでしょうか。

足立美術館ってどんなところ?

世界が評価する17年連続1位の日本庭園

足立美術館

島根県安来市にある「足立美術館」は、1970年に開館しました。約5万坪にもおよぶ日本庭園は、アメリカで発行されている日本庭園の専門誌が実施するランキングで17年連続で日本一(2020年1月時点)になるなど、海外からも高く評価されています。

足立美術館へのアクセス

足立美術館の駐車場

車での来館であれば、山陰自動車道「安来IC」を降りて10分ほどで到着します。広大な駐車場の隅からエントランスまでは300メートルほどの距離があるので、ゆっくりと歩いていきましょう。

足立美術館の無料送迎バス

公共交通機関なら、JR「安来」駅より無料送迎バスが1日17便運行しています(安来駅 始発8:50、足立美術館 最終17:15)。

「安来」駅までは、「米子鬼太郎空港」から空港連絡バスで30分ほどの「米子」駅へ向かいJR山陰本線で約10分、「松江」駅からはJR山陰本線で25分ほど。新幹線の停車駅でもある「岡山」駅からはJR特急やくもで約2時間20分です。

足立美術館の「一幅の絵画のような」日本庭園

「歓迎の庭」から入館

足立美術館の正面玄関

足立美術館の庭は正面玄関前にある「歓迎の庭」から始まります。館内に入ると「苔庭」「枯山水庭(かれさんすいてい)」「池庭」「白砂青松庭(はくさせいしょうてい)」と、いくつもの美しい日本庭園が広がっています。それぞれ名画をモチーフにしたり、背後の自然の山々を景色に取り込んだりと、それぞれ趣向が凝らされていて飽きることがありません。

足立美術館の来館者のみならず、道を通りがかった人々も楽しませるてくれるその「歓迎の庭」は、秋が美しいそうです。

足立美術館のチケット売場

荷物が多い場合は、チケット売場横にあるコインロッカーへ。足立美術館は日本庭園〜本館〜新館を回ると大体2時間ほどかかるので、身軽で動きやすい格好の方がより楽しめますよ。

足立美術館の音声ガイド

入場したら、音声ガイド(レンタル料500円)を借りるのがおすすめです。日本庭園と展示作品の解説を音声で聞きながら鑑賞できます。

足立美術館の曽田和孝さん

足立美術館・庭園部の曽田和孝さんに、普段の仕事から見る足立美術館の庭園の魅力を伺いました。

「足立美術館では、開館の1時間前から、毎日欠かさず庭園の清掃を行います。徹底した清掃や定期的な木々の剪定できれいになった庭園を眺めると、とても清々しい気分になりますね」。

足立美術館に庭はモミジやカエデで彩られる

順路の右側には苔庭が広がっていますが、左側の深山幽谷のような小さな庭は秋にはモミジやカエデで彩られます。左右でそれぞれ趣向の違った景色を見ることができるのも足立美術館の日本庭園の魅力です。

足立美術館

苔庭の眺めを窓に近づいて眺めるのも良いですが、2、3歩引いて眺めるとまた違った景色が見えてきます。ガラスが額縁のようにはめられているので、庭園が絵のように見えてきませんか?

足立美術館のハート型の苔

ここで、足立美術館の日本庭園の「パワースポット」をご紹介。苔庭に立つ創設者の銅像近くにあるこの苔、よく見ると「ハート型」になっているんです。

自然の山々も景色に取り込む「枯山水庭」

足立美術館の枯山水庭

苔庭を抜けてしばらく歩くと、足立美術館の庭園のメインである「枯山水庭」に差し掛かります。白砂で表現されている水の流れが一気に広がり、まるで苔庭から続く水の流れが海に注がれるようにも見えますね。

足立美術館
写真提供:足立美術館

この山並みの紅葉を見るために、毎年秋には多くの観光客やカップルがこの「枯山水庭」を訪れるそう。背後の山と季節ごとの風景を、しっかり目に焼き付けていきましょう。

足立美術館ロビー

足立美術館では、多様な庭園のほとんどを館内からゆっくり眺めることができます。特に、枯山水庭を一望できるこのロビーは、ゆったり腰掛けて180度以上に広がる日本庭園を眺められる絶好の場所。

足立美術館の解説パネル

枯山水庭だけでなく、庭の各所にはこのような解説パネルが設置されています。細部までしっかり解説されているので、音声ガイドと一緒にチェックしながら周れば庭園をよく理解できるでしょう。

「枯山水庭では7月中旬〜9月上旬にかけて赤松の剪定を、6月中旬~7月上旬と10月中旬〜11月中旬にかけて黒松の剪定を行います。全ての剪定が終わった後のすっきりした感じの庭は見どころの一つです。早朝の雨上がり、雲の合間から差し込んだ光が借景の山々に当たると、山が浮かび上がるように際立ち、とても美しいですよ」(曽田さん)

横山大観の絵を再現した「亀鶴の滝」

足立美術館の「亀鶴の滝」
横山大観『那智乃瀧』(写真左・足立美術館提供)

枯山水庭を通り過ぎて5分ほどゆっくり歩くと、横山大観の名画『那智乃瀧』(写真左)をイメージした「亀鶴の滝(きかくのたき)」(写真右)が見えます。手前側の植栽は同館の日本庭園、奥側は自然の山ですが、木の葉の色の濃淡の違いもあってまるで滝がはるか山奥にあるように見えます。

「亀鶴の滝」を見た後は、足立美術館が所蔵する横山大観作『那智乃瀧』も見ていきましょう。日本庭園にある背後の山には雨が降ると全体から霧が立ち上り、この絵のような風景を見ることができておすすめです。
※年4回展示替えを行うため、展示されていない期間もあります。

景色を絵のように見せる「生の衝立」「生の掛軸」「生の額絵」

足立美術館のビュースポット

亀鶴の滝から曲がりくねった順路をたどり3分ほど歩くと、小さな木造の家が見えてきます。ここに設置されているベンチは、左右ともに絵のような風景が見られる絶好のビュースポット。なかなか人が絶えることがありません。椅子に腰掛けて見ることができるのは、右側が「生の額絵」、左側が「生の衝立」です。

足立美術館の生の衝立

まず、ベンチに座った状態で左側に見えるのが「生の衝立」。建物の奥にぽっかりと空いた空間から見える庭を、一枚の衝立のように見ることができます。

足立美術館の生の掛軸
写真提供:足立美術館

右隣にある「生の掛軸」でも景色を掛軸のように見ることができますが、見る場所が少し違う分、「生の衝立」は山を中心に、「生の掛軸」は滝を中心に景色を切り取って楽しめる上、季節や天気によってがらりと表情が変わるため、その組み合わせは無限とも言えるでしょう。庭を眺める人の影が見えるのも、絵に動きがあっていいですね。

足立美術館の生の額絵

ベンチに座って右側の風景がこちら。庭が一枚の額絵のように映える「生の額絵」です。正面から立って見るとシイノキが中央に来る構図ですが、座って斜め横から見たり手前から見たりすることで、ガラッと構図が変わるのが不思議で面白いところ。

足立美術館の雪景色
写真提供:足立美術館

「生」と付くその名の通り、この額の絵は季節ごとに変わっていきます。冬に見られる、このような一面の雪景色などはいかがでしょうか。

清らかな池に松が映える「池庭」

足立美術館の池庭

この「池庭」では、緑や赤のツツジやモミジ、松が湖面に映えています。風景画を見るように近景から遠景に向けて視点が向かうようになっていますが、実はこれにも秘密があるのだとか。

「近景から遠景にかけて徐々に松葉の量を多く残し、色濃く仕上げています。周囲の庭とのバランスを考えながら色の濃淡を調整するので、庭師同士で協調しながら作業することが大切です。
またこの池庭は水深が深く、100匹以上の鯉が上下に行き交うように泳いでいます。水質管理の徹底によって1年を通じて水もきれいなので、このような池を観ることができる場所は少ないのではないでしょうか」(曽田さん)

足立美術館の池庭の松

池庭は、手入れされた松を近くで見ることができます。赤松は不要な枝を切り、古い葉を手で揉み落として、幹を竹ぼうきでこすり落とすことで赤い幹の色を出すそうです。

松が仲睦まじく生える「白砂青松庭」

足立美術館の白砂青松庭

「生の掛軸」から3分ほど歩いたら、目の前に一気に「白砂青松庭」が広がります。この風景は横山大観の絵画『白沙青松』をイメージして作られ、右手に黒松、左手に赤松が小高い砂丘の上にリズミカルに配植されています。男松といわれる黒松と、女松といわれる赤松が仲良く根を張るさまは、何だか微笑ましいですね。

足立美術館
写真提供:足立美術館

こちらが横山大観作の名画『白沙青松』。展示されていたら、作品と庭園を見比べてみましょう。

足立美術館の白砂青松庭

白砂青松庭の滝口から池庭へ注がれる流れも、澄んだ流れが木々の水鏡になって美しいですね。

足立美術館

この白砂青松庭を望む場所も屋根があり、ゆっくり眺められるような造りに。来館者は、めいめいに景色を楽しんでいます。美しい景色を眺めたまま何もしない時間は、後から振り返ると一番贅沢な時間なのかもしれません。

平均1時間ほどでゆったりめぐった日本庭園は、ここでいったん終了。入口から2階に上って、数々の日本画を鑑賞してみましょう。

足立美術館の美術品コレクション

近代日本画は本館へ、現代日本画は新館へ

足立美術館
写真提供:足立美術館

多くの日本画や美術作品を所有していた足立全康は、足立美術館を設立し、それらのコレクションを最高の状態で鑑賞できる環境を整えました。約2,000点の作品を所蔵していますが、季節ごとにほぼすべての作品が入れ替わるため人気作品でも見ることができるのは3カ月間。季節を変えて訪れる人が多いのもうなずけます。

横山大観など豊富な日本画コレクション

横山大観特別展示室
写真提供:足立美術館

本館の「横山大観特別展示室」では、明治から昭和にかけて活躍した日本画家・横山大観の約120点にもおよぶコレクションの中から季節ごとに展示替えを行い、順次公開しています。線描技法を用いず、色の濃淡で形や空気、光までも表現する技法・朦朧体(もうろうたい)などで描かれた大観作品を、ぜひとも鑑賞していきたいもの。

横山大観『紅葉』
横山大観『紅葉』
写真提供:足立美術館

足立美術館に来館したらぜひ眺めたい圧巻の作品が、この横山大観の『紅葉』です。六曲一双(横幅約3.6メートル)いっぱいに描かれた山深い渓谷の霧、湖面に映えるモミジの壮大さは、立ち止まって眺めればまるでモミジに包まれているかのような感覚が味わえます。

展示されるのは例年秋シーズン(8/31~11/30)のみ。この作品とともに日本庭園の紅葉を見るため、秋に足立美術館を訪れる人が多いそうです。

2020年4月オープンの「魯山人館」で器や書を愛でる

足立美術館

2020年4月1日にオープンする「魯山人(ろさんじん)館」は、芸術家・北大路魯山人の作品が常時約120点展示される予定です。料理人としての声望を得るとともに、書、篆刻(てんこく)、陶芸、絵画と、ジャンルにこだわらず活動を行った魯山人。幅広いジャンルの作品を鑑賞できる魯山人館のオープンが楽しみですね。

喫茶室や茶室で、庭と食事を楽しむ

池庭を望む「喫茶室 大観」で地元の味を楽しむ本格ランチ

喫茶室 大観
写真提供:足立美術館

足立美術館の日本庭園をめぐるなら、庭園内に3つある全ての喫茶室・茶室で休憩してみるのもおすすめ。いずれも広く開放的なテラスで、目でも舌でも楽しめるティータイムを過ごせます。

「喫茶室 大観」は、池庭をぐるりと眺めることができる見晴らしの良さや、地元産食材が楽しめるランチで人気があります。

足立美術館の笹巻きおこわ

人気メニューは、地元の味を楽しめる「笹巻きおこわ」(1,200円)。特製の出汁で炊き込まれた島根県仁多産の餅米の上に島根和牛、赤貝やうなぎが乗り、笹の包みを開けた時の香りも楽しい逸品です。

数量限定の「特製ビーフシチュー」(サラダ、パンまたはライス付・1,600円)はいつも即座に売り切れてしまうほどの人気なので、確実に食べたい方は早めに並びましょう。

「喫茶室 翆」で枯山水庭を眺めながらのティータイムを

喫茶室 翆(みどり)

枯山水庭を眺めながらゆっくり休めるのが、「喫茶室 翆(みどり)」。 ゆったりしたソファに体を預けながら、こだわりのコーヒーとスイーツをいただきましょう。

ADACHIブレンドコーヒーとアイスクリーム

オリジナルブレンドコーヒー「ADACHIブレンド」(1,000円)は、良質の豆を丁寧にピックアップし、世界中の方が来館する足立美術館ならではの雑味のないすっきりした味わいです。美しい庭同様に丁寧に淹れられたコーヒーを、季節ごとのアイスクリーム(1,000円)と一緒に味わってみてください。

茶釜で金運を上げる茶室「寿楽庵」

茶室「寿楽庵」
写真提供:足立美術館

茶室「寿楽庵」からは、白砂青松庭をまるで双幅の掛け軸のように覗き見ることができます。

抹茶と練り菓子「日の出前」

庭園を楽しみながらいただけるのは、抹茶と専用菓子「日の出前」(見学料・抹茶料1,000円)。この茶室では島根県産の窯元の茶碗を使用しています。差し込む光に釉薬が映える写真の器は、安来市広瀬町の「八幡窯」のものです。

金の茶釜
イメージ

奥には金の茶釜もあり、この茶釜で沸かしたお湯でお茶を点てると金運が上昇するのだとか。

ミュージアムショップで庭園の景色をお土産に

足立美術館
写真提供:足立美術館

足立美術館のグッズを取り扱う本館2カ所・新館1カ所の「ミュージアムショップ」では、数多くのオリジナル商品を取り揃えています。絵画をモチーフにした商品は、展示と同じような区分けになっています。横山大観など近代日本画のものは本館側へ、現代日本画のグッズは新館へどうぞ。

本館の出口横にある一番大きなミュージアムショップ が最も品揃え豊富で、名画をモチーフにした色紙やポストカード、庭園の景色を楽しめるオリジナル商品やお菓子など、ここだけで時間を忘れてしまうほどのグッズが並んでいます。

足立美術館

左上から、「足立美術館・日本庭園チェンジングアート」(690円)、「林義雄『いないいないばぁ』A6クリアファイル」(310円)、「横山大観『無我』絵葉書」(110円)。

まるで絵画のような美しい日本庭園を存分に堪能して

足立美術館

ゆっくり時間をかけて眺めたい足立美術館の日本庭園。少し時間が経過するだけでも、雲の形や空の色、光による彩りの変化に驚かされます。また、天気がいま一つの日でも屋内から庭を鑑賞できるのがうれしいところ。雨に煙った庭園は、晴天時よりもぐっと風情が増します。

美術館を創設した足立全康は「庭園もまた一幅の絵画である」との言葉を残しています。眺めた景色は、その人しか知らないその瞬間だけの「一幅の絵画」として、心の中に飾られ続けることでしょう。

足立美術館

住所
島根県安来市古川町320
営業時間
【4〜9月】9:00〜17:30【10〜3月】9:00〜17:00
定休日
年中無休(新館のみ展示替えのため休館日あり)
入館料
大人2,300円、大学生1,800円、高校生1,000円、小中生500円
駐車場
普通車400 台(無料)
詳細
足立美術館公式ページ

取材・撮影・文/宮武 和多哉

トップヘ