広島市佐伯区にある湯来町(ゆきちょう)は、広島県内では珍しい温泉が湧く町として昔から知られた場所。渓谷沿いの閑静な環境に包まれ、“広島の奥座敷”と呼ばれる「湯来温泉」には、江戸時代から湯治場として親しまれてきた秘湯感漂う「湯の山温泉」もあり、のんびりとした温泉情緒に浸れます。広島市中心街から車で約1時間で温泉めぐりが楽しめる、湯来温泉の宿と日帰り施設をご紹介します。
三世代旅行にも!源泉かけ流し温泉「湯来ロッジ」
「湯来温泉」は1500年前に発見されたと伝えられる歴史ある温泉地です。
湯来温泉にある「国民宿舎 湯来ロッジ」は、全国的にも水質のきれいさで有名な清流・水内川(みのちがわ)沿いに位置し、湯来町観光にも便利な温泉宿。JR広島駅北口から平日なら送迎バスも出ています(要予約)。
湯来町名物が並ぶ館内
昔から変わらない美しい渓谷沿いの景観が一枚の大きな絵のように映る湯来ロッジのロビーには「かかし」が立っています。ここから車で20分ほど国道488号を奥に進んだ上多田集落には、「リアルかかしの里山」と呼ばれる場所があり、有名人に似たかかしやそこに暮らす人々と見間違うほど精巧なかかしが多数展示されており、湯来町の人気観光スポットになっています。
また、湯来町の伝統芸能である神楽を体感してもらいたいと「湯来ロッジ」では毎月2回、神楽が上演されており、館内には子どもたちによる神楽をテーマにしたアート作品など、湯来にゆかりのある品々も展示されています。
三世代旅行にうれしいバリアフリーな部屋
館内は車椅子に優しい完全バリアフリー設計。エレベーターも広く、階段横にはスロープが設けられているので、車椅子やベビーカーなどもスムーズな移動ができます。
9室ある洋室は、ベッドが2台並ぶスタンダードのツインルームが7室に、バリアフリールームが2室。うち1室は最大で大人6人が泊まれる大家族にうれしい広い部屋です(写真)。
日本情緒を感じたいという方には、10畳の和室が12室。1階の和室には専用庭がついており、湯来の自然をより近くに感じることができます。
日帰り入浴もできる癒し効果抜群の露天風呂と大浴場
日帰り入浴も可能な温泉は、“広島の奥座敷”と古くから人々に愛されてきた湯来温泉自慢の単純弱放射能冷鉱泉。源泉は28.3度とそのまま入るには少々冷たいため、加温した源泉かけ流し湯です。
鳥のさえずりや水内川のせせらぎを聞きながら、ゆったり露天風呂に入れば極楽気分。露天風呂の手前には大浴場があり、日替わりで男女入れ替えの檜風呂と岩風呂も備わっています。
檜風呂は随所に天然木を配し、景観と合わせて檜の香りで癒し効果が一層感じられる造りに。
広島の自然の恵みを味わう
夕食は湯来町で採れた素材をメインに広島産にこだわった、旬を感じる上品な味付けの品々。ロッジの横を流れる水内川から採れた焼き魚をはじめ、湯来名物のこんにゃくや地元牧場の牛乳を使用した先付け、デザートに天然鯛の釜めしなどが並びます。
晩秋からは湯来名物のイノシシやシカなど、ヘルシーで栄養価も高いジビエ料理も味わえます。
国民宿舎 湯来ロッジ
- 住所
- 広島県広島市佐伯区湯来町大字多田2563-1
- 総部屋数
- 21室
- 駐車場
- あり(無料)
オオサンショウウオこんにゃく作りを体験
湯来ロッジ隣接の「湯来交流体験センター」では、湯来町特産のこんにゃく作り体験をすることができます。普通の丸いこんにゃくのほか、その形から「キモかわいい!」とSNSなどを通じて県内外で話題の「オオサンショウウオこんにゃく」を作ることができます。
まずは、こんにゃく芋をミキサーで砕いたものに、水と炭酸ナトリウムを加えて粘りが出るまでさらに練ります。
なめらかになったところで、型に入れて30分ほど鍋で茹でます。
茹であがったら、水に入れて冷まし、型から取り出して出来上がり!
「湯来交流体験センター」ではほかにも、オオサンショウウオがすむ水内川をシャワークライミングしたり、町内で養殖されているチョウザメのうろこを使った万華鏡を作ったり、家族みんなで楽しめるプログラムがたくさん揃っています。湯来ロッジに宿泊した際には、ぜひ体験してみてください。
オオサンショウウオこんにゃく作り体験
- 予約・催行人数
- 開催日の3日前までに要予約(4名以上の申し込みで開催)、月曜定休
- 体験時間
- 約2時間
- 費用
- 2,000円/人
※バンダナ・エプロン持参
- 申し込み・問い合わせ
- 湯来交流体験センター:0829-40-6016
- 詳細
- 湯来交流体験センター
オオサンショウオこんにゃくが買える「湯来特産品市場館」
オオサンショウウオの形をしたこんにゃくのかわいさにハマってしまった方は、湯来ロッジ前の「湯来特産品市場館」に行ってみましょう。ここでは本家「オオサンショウウオこんにゃく」を買うことができます。
湯来町のこんにゃくメーカー「フジトシ食品」が手作りしている「オオサンショウウオこんにゃく」は、形だけでなく質感もオオサンショウウオに似せるため、こんにゃく芋の中にシシャモの卵と海藻を練り込んでいます。人気商品のため早々に売り切れてしまうことも多いそうなので、購入には朝イチがおすすめ。
ほかにも湯来名物の「温泉まんじゅう」や地元酒造メーカー「八幡川酒造」の地酒、採れたての新鮮野菜など、特産品のお買いものが楽しめます。
湯来特産品市場館
こんにゃくづくし!「ゆき乃庵」
湯来ロッジと道を挟んで向かい合う「ゆき乃庵(ゆきのあん)」は、こんにゃくをいろんな形で味わえる人気のお店です。
店内には魚卵を練り込んだ「子持ちこんにゃく」や練りごまを入れ、見た目もごま豆腐そっくりな「ごま豆腐こんにゃく」などの、珍しいオリジナルこんにゃくがいっぱい。また、こんにゃくを麺にした「こんにゃくラーメン」や「牛すじこんうどん」など、ここでしか食べられない名物料理も楽しめます。
中でも人気なのが、湯来名物と書かれたのぼりとともに、食欲をそそる煙を漂わせている「山賊串焼」。
牛すじのようなプリプリした食感のこんにゃくと、広島県産地鶏のもも肉を串焼きにしたものでスモーキーな香ばしさにに肉汁があふれ、クセになるおいしさ。湯来町を訪れたら食べておきたい一本です。
ゆき乃庵
- 住所
- 広島県広島市佐伯区湯来町大字多田2576-3
- 営業時間
- 平日10:00~16:00、土日祝10:00~17:00
- 定休日
- 水曜日
地上4メートルからの打たせ湯が人気の「湯の山温泉」
湯来ロッジから車で約10分のところにある「湯の山温泉」は、江戸時代の1750年、5代目広島藩主の浅野吉長が創建した湯治場で知られています。病気が治る湯治場=神様が宿る霊泉とされ、温泉湧き出し口には祠が建立されており、湯の山明神社として旧湯治場への入口に鳥居も立てられています。
国の重要文化財に指定されている創建当時の石垣が残る旧湯治場。湯屋の板壁には当時の入湯者の墨書がそのままに残っているのだそう。
鳥居の横にある白い建物が、霊泉を浴びることができる現在の湯治場。日帰り入浴施設の「湯の山温泉館」です。
ここでは、湯の山明神社の敷地内から湧き出る源泉をそのまま打たせ湯として、地上4メートルからかけ流しています。源泉は23.5度と少々冷たいのですが、肩こりや神経痛に良いと、長年通い続けるファンが多いのだとか。泉質は湯来温泉と同じく単純弱放射能冷鉱泉です。
内湯は41度に加温をしています。内湯で適度にあたたまった後に冷たい打たせ湯を浴びて、また内湯に浸かる。これを繰り返すことで体がすっきりと軽く感じられます。
湯の山温泉館
- 住所
- 広島県広島市佐伯区湯来町和田471
- 営業時間
- 6月1日~9月30日:9:00~21:00(札止め20:30)
10月1日~5月31日:9:00~20:00(札止め19:30)
- 定休日
- 不定休
- 日帰り入浴料
- 大人430円、子ども150円
家族で貸切温泉浴なら「森井旅館」
家族で宿泊してゆっくり温泉に浸かりたい方におすすめなのが、湯の山温泉館からすぐのところにある「森井旅館」。血行促進効果が絶大といわれる、湯の山温泉の源泉と加温した温泉との交互浴が楽しめる予約制の貸切風呂が一室あります。
静かな湯来町の中でも、古きよき温泉街の雰囲気を残している湯の山地区にあり、田舎の親戚の家に泊まりにきたような、どこか懐かしい気分になれる小さな温泉宿です。
食事は春は山菜、夏は水内川の天然鮎、秋は広島産松茸に冬はジビエ猪鍋など。四季折々の地元で採れた山川の幸を中心に、宿の主人が作った自家製の味噌や漬物などがテーブルに並びます。
湯の山温泉 森井旅館
- 住所
- 広島県広島市佐伯区湯来町和田464
- 総部屋数
- 5室
- 駐車場
- あり(無料・要予約)
有志手造りの貸切風呂「誠の桧湯」
「日帰りで貸切の温泉に入りたい」という方には、2019年12月にオープンした貸切露天風呂「誠の桧湯(まさのひのきゆ)」があります。
ここはかつて、地域住民や観光客などで賑わっていた公共の露天風呂でしたが、時代とともに利用客が減り、近年は忘れ去られた存在になっていました。それを地元の有志たちが集まり、クラウドファンディングなどで支援を呼びかけて、廃墟同然になっていた露天風呂を見事にリニューアル。予約制の貸切露天風呂として約20年ぶりに復活させました。
大きな檜の湯船があり、1組6人まで入浴可能。貸切時間は1回あたり60分で1日6組限定です。温泉の泉質は単純弱放射能冷鉱泉で加温のみしています。
管理人は常駐しておらず、湯来ロッジの隣にある「湯来交流体験センター」が入浴受付の窓口です。タオルはついていませんので、準備して出かけましょう。
誠の桧湯
- 住所
- 広島県広島市佐伯区湯来町大字多田2667
- 入浴料
- 6名まで60分貸切4,000円
- 時間
- 9:00、10:30、12:00、13:30、15:00、16:30
- 申し込み・問い合わせ
- 湯来交流体験センター:0829-40-6016
- 詳細
- 誠の桧湯公式サイト
スラムダンクファンなら訪れたい「みどり荘」
誠の桧湯より打尾谷川(うちおだにがわ)に沿って、北に1~2分歩いたところに、1990年代に一世を風靡したバスケットボール漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』に登場する「ちどり荘」のモデルになった旅館「みどり荘」の建物が残っています。現在は営業しておらず、中に入ることはできませんが、スラムダンクファンなら足を運んでみたいフォトスポットです。
打尾谷川の周辺は、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ヒメボタルの3種類のホタルが生息する全国でも珍しい地域でもあります。毎年6月中旬~7月上旬頃、川沿いのいたるところでホタルの観賞が楽しめます。毎年6月最終土曜日から7月最初の日曜日にかけては、湯来交流体験センターで「湯来温泉ホタルまつり」も開催されます。
広島市内中心部とは全く違う、のんびりとした風景がひろがる、“広島の奥座敷”「湯来温泉」と「湯の山温泉」。豊かな自然に包まれた雰囲気ある湯来町でゆったり温泉情緒を満喫して、日常の忙しさからひととき解放されてみませんか。
取材・撮影・文/林ぶんこ