山形県山形市の中心部には、明治・大正時代に建てられたモダンな建物が数多く点在しています。レンガ造りの郷土館や蔵屋敷を利用した観光施設などがあり、歩いているとまるでタイムスリップしたような気分になれるエリアです。素敵な出会いの連続に心がくすぐられる、山形のレトロな街へ足を運んでみませんか。
「山形市」ってどんなところ?
山形県観光の玄関口である山形市。江戸時代から明治時代にかけては、商業や文化の中心地として栄え、数多くの豪族や商人が暮らしていました。今なお多く残る当時建てられた洋館や蔵屋敷が、ノスタルジックな街並を形成しています。観光地としても人気を集めているスポットです。
また、「冷やしラーメン」や「冷やしシャンプー」など独自の文化も楽しめます。
東京駅から山形駅までの所要時間は、JR山形新幹線を利用して2時間25~55分ほど。観光の際は、市内中心部を巡る「ベニちゃんバス」の利用が便利です。
「霞城公園(かじょうこうえん)」を散策
まずはJR山形駅から徒歩10分ほどの場所にある「霞城公園(かじょうこうえん)」を散策しましょう。「霞城公園」は、山形城を整備して作られた都市公園。城郭(じょうかく)の原型は、山形藩の初代藩主・最上義光(もがみよしあき)が築いたものとされています。
土塁(どるい)※1や石垣などを残した城跡は、当時を伝える貴重なものとして1986(昭和61)年に国指定史跡、2006(平成18)年に「日本100名城」に認定されました。
敷地内に見どころはたくさんありますが、特に注目したいのは「二ノ丸東大手門櫓(にのまるひがしおおてもんやぐら)」です。これは、城門の上にやぐらを載せた櫓門(やぐらもん)や、長屋状に続く多門櫓(たもんやぐら)、土塀などを備えた山形城の二の丸※2を復原したもの。
4月上旬から11月上旬まで一般公開されているため、その期間はここで山形城の古地図や発掘調査時に出土した遺物などを見学できます。
※1 土塁…敵の侵入を防ぐため、土を堤防のように盛って作った防壁のこと。
※2 二の丸…城で最も重要な区間(本丸)を守るように囲んだ区間のこと。
二ノ丸東大手門櫓の裏側にある、「最上義光騎馬像」も必見。この銅像は、山形の工芸品・山形鋳物(やまがたいもの)の技法を用いて作られました。
なんと約3トンもの重さがある義光の像を、騎馬の像が後ろ足2本だけで支えています。この高い技術力を要する銅像ができたのは、約900年の歴史を持つ山形鋳物の職人の力があってこそ。重さを知ってから見ると、そのすごさをより実感します。
そのほかにも、公園の敷地内には「山形市郷土館」や「山形県立博物館」、「山形美術館」などの文化施設があるので、多くの人が楽しめる場所となっています。
例えば、和の技術をベースに残しながら西洋の建築を模した擬洋風建築が特徴の「山形市郷土館(旧済生館本館)」は、14角形のドーナツ型回廊やカラフルなアーチ型のガラスといったレトロな造りが見応え抜群。洗練された装飾は、眺めているだけでもワクワクします。
春には、約1,500本の桜が満開に。シーズン中の夜はライトアップされるので、辺りは幻想的な雰囲気に包まれます。昼とは違った艶やかさは圧巻です。
霞城公園
- 住所
- 山形県山形市霞城町1-7
- 営業時間
- 4月1日~10月31日 5:00~22:00
11月1日~3月31日 5:30~22:00 - 休園日
- 無休
- 入園料
- 無料 (ただし園内施設で料金が必要な場合あり)
- アクセス
- JR「山形」駅から徒歩約10分
- 公式サイト
- 山形市
「gu/ra(グラ)」でランチタイム
散策を楽しんだあとは、「gu/ra(グラ)」でランチを堪能しましょう。石蔵と古い土蔵をリノベーションして造られたこの施設は、レストラン、クラフトストア、ラウンジホールからなるカルチャースポット。レストランでは、山形の地場食材をふんだんに使ったイタリアンを味わえます。
ランチタイムのおすすめは、日替わりのパスタに前菜の盛り合わせ、季節のドルチェがセットになった「guraセット」(1,800円)。素材の持ち味を生かした、食感や味だけでなく見た目も楽しめる料理です。
少しぜいたくな気分を楽しみたいときは、前菜2皿に日替わりパスタ、メインと季節のドルチェ、コーヒーが付く「guraコース」(3,300円、前日までの予約制)がぴったり。
gu/ra
- 住所
- 山形県山形市旅篭町2-1-41
- 営業時間
- レストラン:11:00~14:00(L.O13:30)、18:00~22:00(LO21:00)
クラフトストア:11:00~16:00
※クラフトストアは店舗リニューアルのため休業中(2023年8月時点) - 定休日
- レストラン:月曜(祝日の場合は営業)、日曜夜(応相談)
クラフトストア:日、月曜(月曜が祝日の場合、翌火曜休) - アクセス
- ベニちゃんバス「市役所南口」バス停から徒歩約1分
- 公式サイト
- gura
大正建築の傑作「山形県郷土館『文翔館』」を見学
おなかを満たしたあとは、山形市のランドマーク「山形県郷土館『文翔館』」へ。ここは元々、県庁舎と県会議事堂として創建・使用されていましたが、現在は山形県郷土館として一般公開されています。英国近世復興様式の建物は、大正建築の傑作といわれ、1984(昭和59)年に、国の重要文化財に指定されました。
建物の中央にある時計塔は、全国で稼働しているもののなかで2番目に古いそう。これからも時を刻み続けられるよう、分銅は5日に一度手動で巻き上げられています。
「山形県郷土館『文翔館』」の特徴は、なんといってもクラシカルなたたずまい。天井にほどこされた繊細な漆喰(しっくい)飾りや月桂樹をかたどったステンドグラスなど、随所に意匠を感じます。
訓示や辞令交付、重要な会議に使われていた3階の「正庁」は特に美しく、思わずため息がこぼれてしまうほど。木を敷き詰めてつくる寄木(よせぎ)張りの床板や、大理石の飾り柱は当時のままの姿を残しています。
この部屋で注目したいのは、職人によって復元された漆喰飾りです。さまざまな花飾りのなかに、山形の特産である紅花とさくらんぼの飾りが隠れています。どこにあるのか、じっくり探してみましょう。
ほかにも、敷地内にはかまぼこ型のヴォールド天井が優美な「議場ホール」や、石畳がレトロな「中庭」など、時間を忘れて見入ってしまう箇所がたくさんあります。
山形県郷土館「文翔館」
- 住所
- 山形県山形市旅篭町3-4-51
- 開館時間
- 9:00~16:30
- 休館日
- 第1・第3月曜(祝日の場合は翌日休)、年末年始(12月29日~1月3日)
- 入館料
- 無料
- アクセス
- ベニちゃんバス「市役所南口」バス停から徒歩約5分
- 公式サイト
- 山形県生涯学習文化財団
「水の町屋 七日町御殿堰(なのかまちごてんぜき)」でひと休み
市内には、江戸時代に造られた5つの農業用水路「山形五堰(やまがたごせき)」があります。そのひとつである「御殿堰(ごてんぜき)」は、「水の町屋 七日町御殿堰(なのかまちごてんぜき)」という複合施設として再整備されました。
2棟の蔵や町屋風の建物には、カフェやそば屋、茶屋、呉服店などのショップが入っています。建物沿いに整備された水路は、蔵王連峰から流れる馬見ヶ崎川(まみがさきがわ)を水源としており、底が見えるほど清らか。陽の光を浴びてキラキラと輝く水面に、ひとときの涼を感じます。
8つあるショップの中のひとつ、「岩渕茶舗」は1880(明治13)年創業の日本茶専門店です。ここには、4代目である店主が厳選したお茶、急須や湯飲み、お茶請けなどが勢ぞろい。どれを買おうか迷ったときは、店主に好みの味を伝えると、おすすめのお茶を教えてもらえます。
店内には、抹茶や玉露、煎茶、甘味を味わえる喫茶スペースも。一番人気は「抹茶&クリームあんみつ」(880円)です。香り豊かで濃厚な旨みのある抹茶は、あと味がすっきりとしたクリームあんみつとの相性ぴったり。
あんこを口にしてから抹茶を味わうと、それぞれの甘みと苦みがお互いをさらに引き立ててくれます。訪れた際は、ぜひ試してみましょう。
岩渕茶舗
- 住所
- 山形県山形市七日町2-7-6 水の町屋 七日町御殿堰内
- 営業時間
- 9:30~18:30(喫茶はL.O.18:00)
- 定休日
- 不定休
水の町屋 七日町御殿堰
- 住所
- 山形県山形市七日町2-7-6
- 営業時間
- 店舗により異なる
- 定休日
- 店舗により異なる
- アクセス
- ベニちゃんバス「七日町」バス停から徒歩約4分
- 公式サイト
- 七日町御殿堰開発株式会社
山形の文化を感じに「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」へ
映画をはじめ、さまざまな分野において優れた地域資産をもつことから、2017(平成29)年にユネスコ創造都市ネットワークへの加盟を果たした山形市。そんな、山形のアートや伝統工芸、食文化などのクリエイティブと産業をつなぐ場所として2022年9月にオープンしたのが、「やまがたクリエイティブシティセンターQ1 (キューイチ)」です。
ここは、「山形市立第一小学校」の旧校舎をリノベーションしてできた施設。1927(昭和2)年に建築された旧校舎は、2001(平成13)年に国の有形文化財、2009(平成21)年に近代化産業遺産に登録されました。
かつての教室は、カフェやギャラリー、アーティストのスタジオに。「作り手が作品を生みだす様子を、気軽に目にできる場所にしたい」という想いから、どのお店も廊下から店内が見えるように工夫されています。作品が生み出されていく様子は、普段なかなか見ることのできない、好奇心わきたつ光景です。
3階にあるのは、Q1直営のアートショップ「ROOTS & Technique the REAL store(ルーツ アンド テクニック リアルストア)」。ここは県内を中心に、日本各地の作家が手がける作品の魅力を発信する場所としてオープンしたお店です。木の器や陶器といった生活道具や、骨董品などクラフト好きにはたまらないアイテムが並んでいます。
やまがたクリエイティブシティセンターQ1
- 住所
- 山形県山形市本町1-5-19
- 開館時間
- 9:00~22:00 ※営業時間はテナントにより異なる
- 休館日
- 年末年始(臨時休館あり) ※テナントにより別途休業日あり
- アクセス
- ベニちゃんバス「本町」バス停から徒歩約3分
- 公式サイト
- やまがたクリエイティブシティセンターQ1
「山形まるごと館 紅の蔵」でおみやげ探し
おみやげ探しも旅行には欠かせない楽しみのひとつ。全国的に知られる山形グルメはもちろん、地元ならではの商品を手に取ってみるのもおすすめです。
地域で長年愛される菓子や特産品がそろうのが、「山形まるごと館 紅の蔵」。蔵屋敷を利用した観光複合施設で、みやげ店のほか、飲食店、直売所、観光案内所を備えています。
山形市を中心とした県内各地の特産品が常時400種類以上並ぶ、「おみやげ処 あがらっしゃい」。店内には6種類の地酒を試せる試飲機(1杯100円)もあり、地酒をおみやげに考えている人にはうってつけです。
イチオシは、市内の老舗和洋菓子店「西谷」の「アップルパイ」(1個260円)。丁寧に煮込んだ山形県産の紅玉の上品な甘みが口に広がる一品です。常温保存の商品ですが、冷やして食べてもおいしいのだとか。
角切りのさつまいもがゴロゴロ入った、紅の蔵オリジナルの「すいーとぽてと」(1個232円)も満足感が高く人気のおみやげ。1個ずつ箱入りのため、職場や友人に配るのに最適です。
山形まるごと館 紅の蔵
- 住所
- 山形県山形市十日町2-1-8
- 営業時間
- おみやげ処 あがらっしゃい:10:00~18:00 ※ほか店舗により異なる
- 定休日
- おみやげ処 あがらっしゃい:無休 ※ほか店舗により異なる
※1月1~3日は全館休館 - アクセス
- ベニちゃんバス「十日町紅の蔵前」バス停から徒歩約1分
- 公式サイト
- 山形まるごと館 紅の蔵
山形自慢の食文化を楽しもう!
「栄屋本店」の冷やしラーメンを堪能
山形の冷やし文化を牽引する名物料理「冷やしラーメン」。その発祥として知られているのが、「栄屋本店」です。
冷やしラーメンが誕生したのは1952(昭和27)年。「暑い夏はそばのように冷たいラーメンが食べたい」と、常連客からリクエストを受けた「栄屋本店」の初代店主が、試行錯誤を重ね、氷を浮かべた冷たいスープで味わう「冷やしラーメン」を完成させました。
名物の「冷やしらーめん」(1,000円)は、夏に訪れる9割の人がオーダーするそう。牛肉や昆布、かつお節などでとったコクのあるスープに、もっちりとした麺がよく絡みます。和風だしの風味もきいていて、最後まで飲み干したくなるおいしさです。
もうひとつのご当地麺「鳥中華」(1,000円)も要チェック。中華麺に和風スープを合わせ、天かすや鶏肉、野菜をトッピングした、食べ応えのあるラーメンです。夏季は「冷し鳥中華」(1,150円)も販売。2つのご当地麺で涼を感じてみてはいかがでしょうか。
栄屋本店
- 住所
- 山形県山形市本町2-3-21
- 営業時間
- 夏季(4月~9月) 11:30~19:30、冬季(10月~3月) 11:30~18:30
- 定休日
- 水曜(祝日の場合は翌日休) ※1、8月は不定休
- アクセス
- ベニちゃんバス「本町バス」停から徒歩約3分
- 公式サイト
- 栄屋本店
「男山酒造」で酒蔵見学
豊かな自然と酒造りに適した気候に恵まれた山形県は、銘酒の宝庫。酒蔵を見学したり、お気に入りの一本を購入したりと、美酒を存分に堪能しましょう。山形が誇る日本酒の味と技術を体感するなら、200年以上の歴史をもつ酒蔵「男山酒造(おとこやましゅぞう)」へ。事前予約で酒蔵見学と試飲が楽しめます。
工場見学は、一度に20名まで参加可能。スタッフの解説を聞きながら、精米所や麹室、仕込み蔵などを巡ることができます。時間は30分から1時間ほど。希望の時間に合わせて、おすすめのコースを組み立ててもらえます。
酒蔵見学のあとは、うれしい試飲タイム!常時4~5種類が用意されています。好みの酒は、その場で購入することも可能です。
全国新酒鑑評会で最高位・金賞を受賞している看板銘柄「羽陽男山(うようおとこやま)」の純米吟醸酒「酒未来(さけみらい)」(720ml・1,760円)や、山形県で新たに開発された高級酒米「雪女神」を使った山廃(やまはい)純米大吟醸「雪男山(ゆきおとこやま)」(720ml・3,080円)など、個性豊かな酒が充実。自分用はもちろん、おみやげにもぴったりです。
男山酒造
- 住所
- 山形県山形市八日町2-4-13
- 営業時間
- 10:00~16:00
- 定休日
- 土・日曜、祝日
- 見学料
- 無料
- アクセス
- JR「山形」駅から徒歩約13分
- 公式サイト
- 男山酒造
山形市民の胃袋を満たした「初代なべ太郎の碑」をチェック
山形の秋の風物詩といえば「芋煮会」。例年9月中旬頃になると、市内の河原は芋煮を楽しむ市民でいっぱいになります。
そんな芋煮好きの山形市民恒例イベントが、9月に開催される「日本一の芋煮会フェスティバル」です。芋煮を作るのは、直径6.5メートル、重さ4トンの大鍋。専用ショベルカーで調理する様子は、なんともダイナミックです。
イベントで大活躍する大きな鍋は「鍋太郎」と呼ばれており、現在3代目。1989(昭和63)年から1991(平成3)年に使われた「初代なべ太郎」は、山形市滑川(なめがわ)にある「山形市唐松観音多目的広場」に展示されています。
間近で見上げるなべ太郎は、迫力満点。一度に3万食もの芋煮を使った鍋の大きさに、驚いてしまうかもしれません。
初代なべ太郎の碑
- 住所
- 山形県山形市滑川1881 山形市唐松観音多目的広場内
- アクセス
- JR「山寺」駅から車で約15分
駅周辺に見どころが多く、新スポットも続々誕生している山形は、たっぷり時間をとって滞在したくなる魅力が満載。市内をとことん観光するなら、山形市内中心部のホテルに宿泊するとスムーズです。飲食店も数多くあるため、素泊まりの場合も、食事の心配をすることなく過ごせます。中心部から少し足をのばして、蔵王の温泉旅館に宿泊するのもおすすめ。名湯を心ゆくまで堪能しましょう。
どこか懐かしいけれど新しい、そんな魅力あふれる街で、のんびり過ごしてみてはいかがでしょうか。
取材・文/菅原 聡子 撮影/株式会社Harty 川島 啓司、澤田 千春