和歌山を縦断するように走るJR西日本の観光列車「WEST EXPRESS 銀河」。車窓では穏やかな海の景色が流れ、道すがらの立ち寄る駅では、停車時間を利用してビーチを散策したり、その地域の名産を購入したり。くつろぐことを目的にデザインされた座席は長時間の移動でも快適で、一人旅からグループ旅行までと幅広い用途にも対応。目的地に到着するまでの過程で、絶景あり、観光あり、グルメありと旅の醍醐味を味わえます。
運行ルート・予約方法について
「WEST EXPRESS 銀河」紀南コースが運行するのは、2022年10月から2023年3月まで。下り線は月曜と金曜の夜21:15に京都駅を出発し、終点の和歌山県新宮駅に翌朝9:37に到着と、現在では珍しい夜行列車になっています。
一方、上り線は日曜と水曜に新宮駅を9:50に出発し、途中の紀伊勝浦や白浜など和歌山にある9駅に停車し、散策や買い物を楽しみます。その後、新大阪駅を経由し、終点の京都駅に到着するのは20:53。当日に博多や東京へ戻れるスケジュールです。予約方法はいくつかの方法があり、公式サイト「JRおでかけネット」で確認できます。
上りと下りで車内の過ごし方やアクティビティが異なるため、金曜の夜に下り線に乗り、土曜は熊野速玉大社など熊野三山周辺を観光したり、生まぐろの水揚げ量が日本一の那智勝浦で臨場感ある競りや旬の味を満喫したりし、日曜に上り線で帰宅する人もいると聞きます。
旅の始まりは新宮駅から
太陽がさんさんと降り注ぐ、新宮駅。人がまばらなホームも9:30を過ぎるとスーツケースやカメラを携えた人たちが続々と登場します。お目当ては瑠璃紺(るりこん)色に染まった「WEST EXPRESS 銀河」。
2020年にデビューしたJR西日本の観光列車で、西日本エリアを宇宙、そこに存在する魅力的な地域を星にみたて、各地域を結ぶ列車という意味が名前に込められています。
デザインを手掛けたのは、車両や駅舎など鉄道関連の作品が多い川西康之さん。幅広い旅のスタイルに対応できるよう、昭和に製造された117系電車を全面改装し、6両編成でありながら、どの車両も異なる内装と座席配列になっています。
さらに鉄道好きだけでなく、若い世代にも気軽に乗車してほしいことから料金も他の観光列車と比べて安めに設定されているのが特徴です。
カジュアルな旅を演出する2種類のシート
「WEST EXPRESS 銀河」を生み出すにあたって、キーワードとして掲げられたのが「多様性」。その言葉通りに車両ごとに異なる座席タイプを配し、誰もが思い思いの時間を過ごせる仕様になっています。
一般的な2人掛けシートは背もたれをより深く倒すことができ、もうひとつのキーワード「くつろぎ」を体現。前後の座席間隔も70cmほど開いていて、脚のスペースも広々です。
普段と異なる乗車を体験できる「クシェット」こと、別名ノビノビ座席は横になれる座席。かつての寝台車を彷彿させ、夜行の下り線、昼行の上り線両方とも利用できます。上下2段の計4席がひとつの部屋に設けられているのでグループ旅行にも最適です。
前寄りのクシェット2席は車いす用のスペースを確保しており、近くには車いす対応トイレや洗面台も。
星をあしらった照明スイッチや、ポップな色合いがかわいい倉敷帆布の小物入れなど、細部まで使い勝手が考慮されています。
昼夜で別の姿になるファーストシート
先頭車両の「ファーストシート」は、向かい合うように席が並ぶボックスタイプ。大きめの折り畳み式テーブルが中央に備わっていて、傍には電源コンセントとUSBポートも完備。
夜行の際は、可動式の背もたれを倒すとフルフラットのベッドに変身。長さ190cm、幅60cm以上なので、脚を伸ばしても十分な広さが魅力。通路側のカーテンを閉めればプライバシーも確保できます。
ラグジュアリーな旅を演出する「プレミアルーム」
車窓の風景を一緒に眺めたり、眠くなったらベッドで昼寝をしたりと悠々自適に過ごせるのが、グリーン個室の「プレミアルーム」です。
ベンチ型の座席は、背もたれを倒すことで簡単にベッドへ転換可能。1車両に2~3名用(夜行時は2名)が4室、1名用が1室あり、スペースを重視した贅沢なお部屋です。
個室が並ぶ廊下は落ち着いた色合いで、さながらホテルのよう。ナンバー式ルームキーで施錠でき、セキュリティも安心です。
女性の鉄道旅を応援「女性専用車両」
在来線で一般的な女性専用車両が設けられているのも、「WEST EXPRESS 銀河」の特徴。オレンジやピンクなどカラフルな色で彩られ、リクライニングシートは左右一列とはせず、互い違いに配置された特別仕様になっています。
さらにグループ旅行ならクシェットがおすすめ。4人までなら同じボックスに入れるので、のびのびと過ごせ、おしゃべりに花が咲くはず。
メイク直しやお着替えができる女性用更衣室が2室あるという細かい配慮もうれしいポイント。あったら良いなと思える女性ならではの設備が備わっているので、鉄道旅を快適に過ごすことができます。
リビングにいるようにくつろげる「ファミリーキャビン」
座敷のように靴を脱いで利用する「ファミリーキャビン」は、お子さんがいるご家族や、グループ旅行用にデザインされた半個室です。ベンチシートを広げればマットレスになり、寝転んで使うことも可能。全2室で、1室あたり3~4名まで。
「多種多様な座席を設けていますので、ご家族やグループ旅行など幅広いお客さまにご利用いただきたいです。若い世代の方々が鉄道旅を始めるのにもおすすめの列車だと思います」と、JR西日本の飛岡さん。
気分転換したくなったら「遊星」へ
4号車にある「遊星(ゆうせい)」は、車両全体がフリースペースになっていて、ウッド調のテーブルや座席が並ぶ空間は、ゆったりとした雰囲気。丸形のイスは囲むように座れて、団らんにぴったりです。
ボックス席には大きめなテーブルが置かれているので、2人でも快適に食事ができます。
すっきりした窓周りは開放的な印象で、連なる車窓からは青々とした水平線や生い茂る緑の自然といったダイナミックなパノラマ風景に思わず見入ってしまうはず。
和歌山の魅力を辿りながら停車
9:50に新宮駅を出発すると、列車は京都を目指し、紀伊半島の西側に沿って北上します。そして上り線の魅力は、立ち寄る駅が多いこと。紀伊勝浦、太地(たいじ)、古座、串本、周参見(すさみ)、白浜、紀伊田辺、海南、和歌山と和歌山県内の9駅に停まり、駅によって4分~1時間15分の停車時間を設けています。
直前に車内アナウンスで見どころや歴史を紹介してくれるので、何も知らない状態でも大丈夫。和歌山大学による「きのくに線活性化プロジェクト」の一環として、学生によるユーモアとフレッシュさがあふれたアナウンスも必聴です。
「WEST EXPRESS 銀河」のためにお土産屋さんが駅構内に出店していたり、観光局の方々が旗を持って出迎えてくれたりと、停車するたびにその土地その土地の雰囲気を肌で感じられます。
午前中に立ち寄る「太地」は、数百年前から周辺の海でくじらが観測されていた歴史があり、くじらの町として日本遺産に登録されています。
駅では、伝統食のくじらソーセージや缶詰、くじら柄のマスキングテープや置物を販売。配られたパンフレットに目を通すと、くじらが泳ぐ海をカヤックやSUPで巡るツアーやくじらのショーがあるなど、この町ならではのアクティビティを新発見。好奇心がそそられ、今度はゆっくり時間をかけて滞在したいという気持ちになります。
地元の名産が詰まったオリジナル弁当
昼食は、潮岬観光タワーによる「海と大地と宇宙(そら)の町」串本の恵み弁当。世界初の完全養殖に成功した近大マグロ(クロマグロ)を天ぷら、しぐれ煮、南蛮漬けと贅沢にも様々な調理法でいただきます。
さらに古座川ジビエの鹿肉を使ったボロニアソーセージはコショウのアクセントが効いた芳醇な味わい。紀州梅まだいの塩焼きは、塩加減が絶妙で、まだい本来の味が引き立ちます。
お弁当と一緒に受け取った紀南銀河ちょっぴりお土産セットの濃厚みかんジュースと尾崎酒造の酒粕を使った酒かす饅頭は、おやつにもぴったりです。
午後も引き続き、見どころある駅に停車
昼食を終えて、まどろみの中にいると列車はいよいよ「周参見」に到着。
今回の停車駅では一番長い1時間15分の滞在。午後のひとときをゆっくり過ごしてほしいという想いから、日帰り入浴で温泉に浸かったり(要予約)、レンタサイクルで海岸線を走ったり(予約不要)と色々な体験ができます。
駅前の道をまっすぐ進めば約3分でビーチに到着。ぶらりぶらりと気ままに散策する過ごし方も人気です。
ビーチ目の前には、すさみ町観光案内所があり、お土産やドリンクを購入できますが、実は元交番を改装した建物。
奥には当時の牢屋が今も残っていて、囚人服を着て記念撮影をする観光客もいるのだとか。
「WEST EXPRESS 銀河に乗って周参見駅に降りたことで、すさみ町に興味を持ち、改めて再訪される方々もいらっしゃるんですよ。海沿いの道には道の駅もあるので、爽やかな風を感じながらのサイクリングも楽しいです」と、地元の方々が教えてくれました。
生産者と乗客をつなぐ、特産品の販売
海を占めていた車窓が住宅地や山々、時々みかん畑へと変化し、空がオレンジ色に染まるころ、有田みかんの車内販売が行われると聞き、フリースペース「遊星」へ。
目の前には、つややかな有田みかんを中心に、みかんと柿のドライフルーツにハチミツと、有田の魅力が詰まった商品が勢揃い。特に無添加100%のみかんジュースは、さらりとした甘さに加えて、まろやかなとろみが光る逸品です。
「甘みが濃厚で、さらに味にコクがあるのが有田みかんの特徴です。段々畑など日当たりの良い場所で育ち、太陽だけでなく、海と山の恵みも存分に受けているので、おいしいですよ」と有田で生まれ育った宮井さん、星田さんの言葉からは地元への愛があふれています。
夕食は和歌山グルメが勢揃い
のんびりと和歌山を縦断しながら各駅に滞在した旅も、和歌山駅を出発すると終盤を迎えます。クライマックスは街灯りを眺めながらの夕食。ホテルグランヴィア和歌山による「紀州味づくし みくまの弁当」は、和歌山県内の特産品を集めた豪華なお弁当です。
みかんの果皮入り飼料で育ったブランド鶏「みかんどり」は、やわらかな食感で、湯浅町の特産品「金山寺味噌」との相性が抜群。和歌山市の特産品「紀の川漬け」はあっさりとした味付けで、箸休めに適任です。
車掌さんも参加するおもてなし
大阪の日根野、天王寺、新大阪、京都に停まるたびににぎやかだった車内は静まり、濃厚だった一日の思い出がよみがえってきます。
少しの寂しさを感じていると、車掌さんより「WEST EXPRESS 銀河」のロゴマークをあしらった特別スタンプを押してもらうことに。最後の最後まで、乗客を楽しませようとする心遣いにうれしくなります。
「電車は人を運ぶ乗り物ですけど、この銀河はお客さまをわくわくやドキドキといった楽しい気持ちにさせてくれる特別な電車だと思っています」と話す、車掌の馬場さんの言葉に大いに納得です。
お気に入りの場所を開拓する観光列車
「WEST EXPRESS 銀河」が停車する駅では、その地域の方々があたたかく迎えてくれ、名産品や魅力を案内してくれます。その中には、到着するまで知らなかった土地を知るきっかけになることも。
列車が連れてきてくれたからこそ、予想外の発見があり、今度はくじらのショーを見たいなとか、海沿いの道をサイクリングしたいなとか、次に訪れる楽しみにつながっていきます。
旅のプランがどんどん膨らむ様子は、まるで無限に広がり続ける宇宙のよう。「WEST EXPRESS 銀河」は、ツアーガイドのように旅の可能性を拓いてくれる列車です。
WEST EXPRESS 銀河
- 発着駅
- 京都・新大阪・天王寺/新宮・南紀勝浦・串本
- 運行日
- 1月13日(金)、15日(日)、20日(金)、22日(日)、23日(月)、25日(水)、27日(金)、29日(日)、1月30日(月)、2月1日(水)、3日(金)、5日(日)、6日(月)、8日(水)、2月17日(金)、19日(日)、3月6日(月)、8日(水)
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取材・写真・文/浅井みらの