国の重要文化財の中で、東京駅の歴史と自身の思い出を旅する贅沢は、ここでしか味わえない醍醐味。ドームレリーフや赤レンガを間近に眺め、文豪たちの記録やアートワークなどとともに歴史をたどって、美食に舌鼓。特別な日の記憶に残る滞在をご紹介します。
100年の歴史を感じさせる、駅舎外観と調和するホテルエントランス
JR「東京」駅丸の内南口を出ると、そこはもう東京ステーションホテルの客室窓もある、駅舎ドームの中。1915(大正4)年、急増する国内外の賓客を迎えるために東京駅丸の内駅舎の中に誕生しました。ここは、国の重要文化財の中に宿泊できるホテル。いつかは泊まってみたい憧れのホテルとして、海外や地方からの旅行者よりも、実は東京在住の宿泊者が多いというのも納得です。
駅舎の中にあるため、東京タワーを横にしたより長い、全長約335メートルの中に150の客室があります。客室廊下の両側にはほんのり照らすランプが灯り、長く続く廊下は寝台列車のよう。自分がどこにいるか迷ってしまいそうですが、エレベーター前のランプの、南ドーム側はオレンジ、北ドーム側は緑色を目印に歩けば安心。
客室廊下に沿った壁には、大正時代の創設当時の写真をはじめ、東京駅にまつわる図面、絵画などのアートワークを100点以上も展示。じっくり見て歩けば、まるでギャラリーのようです。
そのほかにも館内を歩けば、いつもはJR丸の内南口改札・北口改札から見上げるドーム型の天井や、駅舎に使われ続けている赤レンガなど、東京駅の歴史をたどることができる展示が豊富。このアートワークを存分に堪能できるのも宿泊者だけの特権です。
東京駅は1914年、日本近代建築の父と呼ばれる辰野金吾によって設計されました。現在の駅舎は、残されたものはできる限り使い続け、失われた部分を忠実に復原するという、保存・復原工事によって2012年に100年前の壮麗な姿を取り戻したもの。ドーム内のレリーフは、当時の資料に検証を重ねて復原され、ホテル館内では干支のレリーフや「クレマチス」の花飾りを間近で見ることができます。
大人がくつろげる落ち着いたヨーロピアンクラシックのインテリア
エントランスを入ると、あわただしく人が行きかう東京駅とは一変。静かでゆったりとした雰囲気に、これから始まる一日への期待が高まります。
ホテル館内は2012年に内装をすべてリニューアル。東京駅丸の内駅舎に調和するように、ヨーロピアンクラシックスタイルのインテリアでまとめられ、大人が落ち着いて過ごすことのできるとても居心地のよい空間です。ロビーにある暖炉には、11~3月まで火が灯されます。
ロビーの床の大理石に、クレマチスの花をかたどった真鍮(しんちゅう)を発見! 復原された南北ドームのレリーフにあるクレマチスをデザイン化したものなのだとか。その花言葉は「旅人の喜び」。東京ステーションホテルの理念である「ストーリーを届ける」サービスの真髄が、この小さな花飾りからも感じられました。
チェックインまでの時間は、旧駅舎を利用して作られた「ロビーラウンジ」へ。ゆったりと余裕のあるスペースに、縦長の窓からやさしい自然光が入る、ほっとできる場所。朝から夜まで彩りゆたかな料理やスイーツ、種類豊富な飲み物がそろっています。あまりの居心地のよさにチェックインの時間を忘れてしまいそう。
ロビーラウンジ
- 営業時間
- 平日・土・祝前日:8:00~22:00(LO21:30)
日・祝:8:00~20:00(LO19:30)
※当面の間は8:00~20:00(料理LO19 :00、飲物LO19:30)
ヨーロッパ古城のような客室の窓からドームを眺める
チェックインを済ませ、宿泊者専用エレベーターで、いよいよ念願の「ドームサイド」の客室へ。ここは、クラシック、ジュニアスイート、メゾネットなど11ある客室カテゴリーの中でも、東京駅丸の内駅舎のドームを窓から眺めることができるという、このホテルにしかない特別な部屋。期待に胸が膨らみます。
ドームサイド客室は、2012年のホテル改装以来、最も人気の高い部屋です。ヨーロピアンクラシックのインテリアで統一され、まるでフランスの古城の一室のよう。天井の高さは約4メートルもあるので、とても開放感があります。
窓からのぞいてみると、想像以上にドームレリーフが近くてびっくり! 天井近くのレリーフもじっくり見ることができます。下を見れば、いつも歩いている東京駅を上からのぞき見ることができて、何だか不思議な気分です。
足を伸ばしてゆったりお湯に浸かることができるバスタブ、天井についたレインシャワーとハンディシャワーの2つを配置した、広々とした使いやすいバスルームです。中央には大きな鏡があり、その横にはくもりガラスのドアがついたトイレが。
パッケージのかわいらしさに一目ぼれ! アメニティはフランスの香水ブランド「イストワール ドゥ パルファン」とコラボをした、ホテル創業年を冠する「Est.1915」で統一。「100年以上の歴史を香りに」をテーマに1年以上かけて開発した、少し甘くてどことなく懐かしい香りに、うっとりします。
ボトルサイドははさみを入れた列車の切符をモチーフにしたり、女性の長い爪でも使いやすいようキャップに凸凹をつけたりと、香り、デザイン、使いやすさまで、旅の記憶に残る配慮がされています。非売品なので宿泊しないと手に入りません!
ベッドサイドボードを開けると、肌にさらっと気持ちよい、長めのワンピースタイプのパジャマが用意されていました。
サイドテーブルで目を引いたのは、小さな原稿用紙風のメモ帳! 東京ステーションホテルは、川端康成や松本清張といった、数々の文豪たちが宿泊し、作品の中に登場することでも有名です。文豪気分で今日の思い出を書き留めるのも、このホテルならではの楽しみ方。
引き出しの中には、昔と今のホテルデザインのおしゃれなオリジナルステッカーも。スーツケースに貼って帰るゲストも多いそうです。
丸の内を駅側から望む「パレスサイド」客室も人気
丸の内側の客室「パレスサイド」は、窓から皇居の緑や丸の内の街並みを望める気持ちのよい空間。ボルドーとゴールドを組み合わせた配色は、クラシカルでありながら、かわいらしい雰囲気。ヨーロピアンクラシカルスタイルの背もたれの高いイスに座って、一日中ゆっくり過ごせます。
100年以上の時間をたどる、パンフレットで歴史探訪
部屋でゆっくり過ごした後は、ディナーまでの時間、見どころたっぷりの館内を探検。歴史の旅へと出発しましょう。館内案内のパンフレットは、チェックイン時にマスクケースとともにもらえます。
さっそく、館内の雰囲気にピッタリな、クラシカルな螺旋階段を発見!
やってきたのは3階の「アーカイブバルコニー」。「ドームサイド」客室に宿泊しなくても、南北のドームに面したこのバルコニーに行けば、ドームのレリーフを間近に見ることが可能。写真や復原資料の展示もあり、東京駅丸の内駅舎の歴史を深く知ることができます。
大きな窓から見上げるドームのレリーフや、眼下に東京駅を行きかう人を見ることができるのは、何より貴重な体験です。
廊下沿いのアートワークを眺めながら歩いていると、2階・2033号室前にはこんな展示が。
東京ステーションホテルがお気に入りだった作家の松本清張は、以前は東京駅のホームを見ることができた、209号室(現在の2033号室)に宿泊することが多かったそう。そのホームを見ながら執筆したと言われている小説『点と線』には、この部屋で思いついたであろう時刻表トリックが登場。部屋の前には作品の一説と、時刻表が飾られています。
※現在はJR中央線のホームが高架にあることから、客室から東京駅のホームは眺められません。
2階のレストラン「ブラン ルージュ」の手前には、2000年代の復原工事中に見つかった、創建時の石膏レリーフをアートワークにしたものが展示されています。100年以上前の建築物の一端を目にして、文化財の中に宿泊していることを実感。
旅の思い出には、ホテルのオリジナルグッズをお土産に。客室にもある原稿用紙をモチーフにしたメモ、ステッカー、ロゴ入りボールペンの入った「文豪セット」(815円)、パリの高級紅茶店「ベッジュマン&バートン」とのコラボ・オリジナルティー(1缶2,300円)、ホテルのストーリーが詰まった絵葉書(5枚入り・713円)などが人気。
フロント、ロビーラウンジ、1階のスーベニアショップ「丹波屋」で購入できます。
クラシックフレンチに和をミックスした五感で満喫するフレンチディナー
館内を存分に見てまわった後は、メインダイニングのフレンチレストラン「ブラン ルージュ」で、待ちに待ったディナーです。白を基調とした中に赤をアクセントにしたクラシカルな雰囲気。一部の席からは東京駅を走る電車を望むことができます。
記念日をお祝いするのに最適なプライベートルームも用意。自分たちだけのために用意された贅沢な空間に胸が躍ります。
今回いただいたのは、秋のスペシャルコース(16,000円・サービス料別)。大体2か月ごとで、旬の素材を主役にしたメニューに変わります。
クラシックフレンチに和をミックスした独創的なお料理は、総料理長・石原雅弘氏自らが全国を歩いて探した極上の素材を使ったもの。どれも芸術品のような一皿です。そこに、それぞれの味わいを引き立てるパンが料理ごとにサーブされます。まずは一品目の「キャビアとうみたてたまごのスクランブルエッグ」を前に、記念日をシャンパンでお祝い!
東京ステーションホテルがJR東日本グループである関係を活かして、フレンチレストランでは珍しく、国内でも特に東日本のワインがずらり。その数の多さに驚きます。
料理は一品ずつクロッシュ(フタ)をして席まで運ばれ、目の前で開けてもらえます。クラシックなフレンチスタイルは、実は感染症予防の一環なのだとか。ギャルソンによって新しいお料理のクロッシュが開けられるたびに、何が出てくるかドキドキ!
前菜からデザートまで全7品。クロッシュが開けられるたびに、思わず感嘆の声を上げてしまうほどの美しさ。香り、味覚、音、彩り、触感、五感すべてで味わう料理は、ひと口食べるたびに口いっぱいに広がる幸せの味。一つひとつをかみしめながら、また次の特別な日にもここへ来ようと話が弾みます。
ホテル内には、ほかにもイタリアン、寿司など5軒のレストランを備えます。
レストラン ブラン ルージュ
- 営業時間
- ランチ:11:30~15:00(LO14:00)
ディナー:17:30~22:00(LO21:00)
特別な夜は、東京駅の歴史を受け継ぐバーで特別なカクテルを
ディナーのあとは、1日の終わりを惜しみながら、オーセンティックバー「Oak(オーク)」へ。100年以上前の赤レンガをそのまま活かした重厚な空間。好みに合わせたカクテルやノンアルコールのカクテルはもちろん、種類豊富なウィスキーもそろっています。
カウンターでシェイカーを振るのは、バーテンダー歴約60年の経験を持つ、名物マスターバーテンダー・杉本壽(ひさし)さん。杉本さんのカクテルを目当てで訪れるゲストも少なくないそうです。
いただいたのは、杉本さんが東京駅75周年を記念して考案したシグネチャーカクテル「東京駅」(1,400円・サービス料別)。丸の内駅舎の赤レンガをイメージしたきれいなオレンジ色です。杉本さんのおすすめで半分飲んだところでライムをしぼると、フレッシュな味わいが増し、2種類のカクテルを楽しんだよう。シェイカーの音を聞きながら、非日常的な空間を味わえます。
Bar Oak
- 営業時間
- 17:00~23:00(LO22:30)
※当面の間は、17:00~22:00(LO21:30)
- 定休日
- 日曜・祝日
※当面の間は、土曜・日曜・祝日定休
東京駅の屋根裏で食べる100種類以上の料理がそろう朝食ブッフェ
ぐっすり眠った翌朝、滞在の楽しみのひとつとも言えるのが、ホテル通の間でも評判の朝食ブッフェです。朝食をいただく「アトリウム」があるのは、丸の内駅舎の中央屋根裏。約9メートルの高さの天窓からは気持ちのよい朝日が入る、広々とした空間です。
迫力のある駅舎創建時の赤レンガを間近で見ることもできます。
「何度来ても楽しめる、おいしい朝食」をコンセプトに、和洋中、オリジナルなど100種以上の朝食アイテムがずらり。どれも目移りするほどおいしそうで、選ぶのが大変! また、感染予防対策からトングを廃止し、小分け盛りにしてディスプレイ。衛生面も安心です。
席には、持ち帰ることができるオールインワンのプラスチック製ナイフ&フォークが用意されていました。セットを開き東京ステーションホテルのロゴが入った部分を組み立てると、写真のようにカトラリーレストに。右側はマスク入れになり、細かい気づかいに感動(今後変更となる場合があります)。
シェフが目の前で作ってくれるライブステーションが4ヵ所も! オムレツ、エッグベネディクト、和食、スイーツ&ドリンクの作り立てを楽しめます。バターの風味がきいたオムレツはふわふわで、口の中でとろける味わい。
ライブステーションでは珍しいショートケーキ。好みの大きさに切ってもらえます。
テーブルいっぱいにお気に入りを選んだのに、これで全体のほんの一部。どれから手をつけていいかわからないほど充実した朝ごはんは、どのお料理も素材が新鮮で、こだわりのあるソースやだしなど、とても丁寧に作られていて品のある味。ひと口食べるたびに「おいしい!」とうならずにはいられません。
ライブステーションで作ってもらったエッグベネディクトは、ポーチドエッグの黄身がちょうどいい具合。アボカドと卵、オランデーズソースの組み合わせは朝から元気が出ます。
白米は注文してから土鍋で炊いた、炊き立てごはんが運ばれてきます。旬の素材を使ったお味噌汁や副菜、お造りなどが選べ、朝ごはんは和食党という人も大満足です。
「アトリウム」には、旅をテーマにした本が並ぶライブラリーがあります。ゆったりしたソファに身をあずけて、次の旅へ思いをはせながら読書を楽しむのもおすすめです。
アトリウム 朝食ブッフェ
- 営業時間
- 6:30~11:00(LO10:30)
館内でしか過ごしていないのに、あっという間に時間が過ぎてしまう、東京駅の中にひっそりと佇む秘密の隠れ家。それが「東京ステーションホテル」。やさしく癒してくれるような居心地のよさは、100年以上の歴史が醸し出す空気感なのかもしれません。
建物の中には、イギリス発の「エレミス」といった高品質な極上スパ、丸の内北口ドーム側には「東京ステーションギャラリー」など、ほかにも楽しみがたくさん。特別な日には、歴史ある文化財の中で、記憶に残る贅沢な時間を過ごしてみませんか。
- 住所
- 東京都千代田区丸の内1-9-1
- アクセス
- JR「東京」駅 丸の内南口直結
東京メトロ丸の内線「東京」駅より徒歩約3分
- 客室数
- 150室
- 駐車場
- 宿泊者1泊2,100円(予約不可)
※「東京ステーションホテル」は、楽天トラベルで実施している、5と0のつく日に予約すると宿泊料金5%OFFになるクーポンの対象施設です。
写真/田辺エリ 取材・文/山本美和