また戻ってきたくなる宿。情緒あふれる「島宿真里」で味わう小豆島の醤油文化

「島宿真里」

瀬戸内海に浮かぶ離島・小豆島の「島宿真里(しまやど まり)」は、醤油蔵通りを抜けると現れる全8室の宿。それぞれ味わいの異なる客室は、8室の部屋名をすべてつなげると、宿の想いを象徴する「ひしおでもてなすさと(醤でもてなす郷)」という言葉になります。

醤油造りで栄えた町並みに溶け込む「島宿真里」では、「醤油会席」でのもてなしのほか、醤油蔵見学、夜の霊場ツアーなどを通して、さまざまな小豆島の魅力を感じることができます。もろみの香りに包まれて過ごした、1泊2日の滞在記をお届けします。

 

 

アクセス、チェックイン

各港から船で瀬戸内海の離島へ

「島宿真里」

離島と聞くと、「遠いのかも…」と思う人も少なくないのではないでしょうか。 瀬戸内海に浮かぶ小豆島は、近隣各県から島内の各港へフェリーや高速船が頻繁に運航し、便数も多いため、実はアクセスしやすい島。「島宿真里」へ向かう際は、送迎サービスも行っている池田港を経由すると便利です。

今回は高松港発~池田港着の国際両備フェリーを利用。車で乗船したあとは、2階の客室や3階の展望デッキなど広い船内を散策し、およそ60分の船旅を満喫しました。

 

「島宿真里」

そうこうしているうちに、池田港へ到着。特徴的な赤い屋根は、祭りの太鼓台をイメージしているのだとか。ここから「島宿真里」までは、車で約20分です。

 

「島宿真里」

「島宿真里」がある苗羽(のうま)地区は、かつて醤油造りが盛んだったことから「醤の郷(ひしおのさと)」と呼ばれています。小豆島の伝統産業である醤油造りは400年もの歴史があり、最盛期だった明治時代には400軒近くの醸造所が軒を連ねていました。その後、醤油を使った佃煮業へと発展し、現在も20軒以上の佃煮工場や醤油蔵が残っています。

醤油を使ったソフトクリームやスイーツの販売店、土産店なども目に入り、ほのかに漂う醤油の香りに誘われて、ぶらりと町歩きをしたくなります。

 

「島宿真里」

醤油蔵のある風景を見ながら、車で細い道を進んでいくと、落ち着いた色調の宿の外観が見えてきました。

 

「島宿真里」
「島宿真里」

石畳のアプローチを歩いて館内へ入り、カウンターでチェックイン。ロビーにはゆっくりくつろげる囲炉裏やお土産処、ミニライブラリーのほか、ふるまい用の果実酒も。

「島宿真里」は元々、店主の眞渡康之さんのお母様が始めた宿を引き継いで、今に至ります。ミニライブラリーにはご家族の蔵書が並べられていたり、流木を館内のしつらえに活かしていたり、使い継ぐことを大切にしているのが伝わってきます。

 

客室

「ひし」の間

「島宿真里」

今夜泊まる部屋は、国の登録有形文化財である蔵をリニューアルした離れの「ひし」の間。ロビーから中庭に出た先に佇む特別室です。

 

「島宿真里」

「ひし」の間は、1階が掘りごたつの居間、風呂、テラス、2階が寝室というメゾネットタイプ(64平米、定員2名)。蔵の雰囲気を残しつつも、使いやすい間取りに改装され、間接照明が落ち着いた空間を演出しています。

 

「島宿真里」

屋根裏を活かした2階の寝室は、ツインベッドタイプ。

 

「島宿真里」

1階にある浴室は、テラスに面した開放的な造り。窓を開放すれば、季節ごとの風を感じながら入浴できます。浴槽は少し低いところに位置しているので、大きな窓から空が見えるのもうれしいポイント。

 

「島宿真里」

「島宿真里」のお風呂は自家源泉の「里枝温泉」。美肌効果が期待できる「メタケイ酸」を多く含む源泉かけ流しの湯を、客室で楽しめるのが大きな魅力です。

入浴剤として用意されているのは、香川県で1891(明治24)年から日本酒を造り続けている「川鶴酒造」のお酒。お湯を張った湯船にたっぷり注いで日本酒風呂にすれば、身体の芯からぽかぽかと温まります。

 

「島宿真里」
「島宿真里」

スキンケアアメニティは、小豆島のオリーブ農園「井上誠耕園」が手掛ける商品。化粧水、乳液、美容液、クレンジングオイルなど、天然オリーブが配合されていて、しっとりとした肌へ導きます。

ナイトウェアと館内着はおそろいのデザイン。爽やかな色とデザインは、香川県高松市出身のアーティスト・川島猛氏の原画をファブリックに仕立てたもの。館内には、氏の作品も飾られています。

 

「島宿真里」

本日のウェルカムスイーツは、醤油のアイスクリームをベースとした自家製あんみつ。金柑の寒天、いちごの餡などが添えられ、山椒の実を煮出して作ったシロップをかけていただきます。

手作りの新鮮な味わいと丁寧なおもてなしに、心がほどけていくのを感じます。

 

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客室の冷蔵庫には、ころんとした瓶に入った水と香草茶が用意されていました。

 

「て」の間

「島宿真里」

本館2階にある「て」の間は60平米で、2〜3名まで宿泊できる特別室。立派な梁が印象的で、天井が高いため部屋全体が広く見えるのも特徴です。窓からは、小豆島霊場第二番札所の碁石山(ごいしざん)が望めます。

 

「島宿真里」

居間から続くベッドルームはツインタイプで、テラスへ通じています。

 

「島宿真里」

浴室は、源泉かけ流し湯が楽しめる檜風呂。

 

「で」の間

「島宿真里」

「で」の間は、中庭に面したメゾネットタイプの貴賓室です。109平米という広々とした空間で、1階に掘りごたつの居間のほか、ツインベッドタイプの寝室、テラスがあり、2階に浴室という造り。

 

「島宿真里」

二間続きとなっている居間と寝室の仕切りには、レトロで趣のある大正ガラスが使われていて開閉も可能。くぐり戸から居間と寝室を行き来できるのも特徴です。

 

「島宿真里」

テラスに置かれたイスに座り、木漏れ日が差し込む庭を眺めながらぼーっとしたり、お風呂あがりに月明かりのもとお酒を楽しんだりと、プライベートな時間を満喫できそうですね。

 

醤油蔵見学

伝統を守り継ぐ正金醤油

「島宿真里」

「島宿真里」では季節により、滞在中に参加できるさまざまな体験プログラムを用意しています(別途有料)。今回は、宿の近くにある「正金(しょうきん)醤油」の醤油蔵見学に参加しました。

醤油蔵といえば、特徴的なのは黒い外壁。これは表面を焼いて黒くなった焼杉で防腐効果があり、「醤の郷」を象徴する風景となっています。

 

「島宿真里」

正金醤油株式会社の代表取締役・藤井泰人さん、専務の佐藤敦さんに案内してもらい、蔵の内部を見てまわります。

まず目に飛び込んできたのは、伝統的な自然発酵の醤油造りに欠かせない大樽の木桶。この木桶作りの技術は、全国的に存続の危機に直面しているのだとか。醤油は日本の家庭になくてはならない調味料。そんな当たり前を支えてきた作り手や、発酵という不思議な自然現象を育み、守る木桶の大きさと存在感に圧倒されます。

 

「島宿真里」

階段を登って木桶の上部に上がると、ふわっと漂う醤油の香り。きれいに手入れされた木桶の中では、段階によって色味の異なるもろみが醸されています。

「醤油はおよそ20度から発酵し始め、25度くらいが最適温度。温度が高ければ高いほど着色が進みます」と藤井さん。同じ旨み成分、同じ塩分量、同じ味になるよう、しっかり管理しているそうです。

伝統的な木桶仕込みの醤油造りにふれ、身近な存在である醤油の意外な奥深さを知ることができました。

 

温泉

時間帯によって表情の異なる2つの貸切風呂

「島宿真里」
「島宿真里」

醤油蔵見学から戻り、夕食前に温泉へ。「島宿真里」には離れの2つの貸切風呂「石の湯」と「竹の湯」があり、それぞれ内湯と露天風呂が備わっています。予約不要の時間帯と要予約の時間帯があるので、うまく使い分けて一人風呂や家族風呂としてゆっくりと湯浴みを楽しみましょう。

「石の湯」は、内湯や露天風呂までのアプローチが石造り。坪庭に面した露天風呂で、島の空気を感じながら、日々の疲れから解放されるひとときを過ごせます。

 

「島宿真里」
「島宿真里」

一方、「竹の湯」は竹林に囲まれた落ち着いた湯処で、足場などに竹が大胆に使われています。

どちらの貸切風呂も明るいうちは揺れる木漏れ日、夜は月明かりや星を感じながら、癒やしのひとときを楽しめます。

 

夕食

素材の魅力が最大限に引き出される、絶品の醤油会席

「島宿真里」
「島宿真里」

お待ちかねの夕食は、食事処「母屋」にて。料理人の繊細な手さばきが目の前で見られるカウンター席のほか、掘りごたつの席も用意されています。

 

「島宿真里」

木桶仕込みで自然醸造した醤油を、島でとれた旬の食材と合わせていただく「醤油会席」。正金醤油から特別に提供してもらったという搾る前のもろみを、目の前でドリップしながら醤油会席がスタートします。

 

「島宿真里」
爽やかで濃密な「夏蜜柑とローズマリーの自家製コーディアル」
「島宿真里」
こっくりとしたとろみがやさしい味わいの「自然薯の薯蕷蒸し(じょうよむし)あんかけ オリーブ地鶏」
「島宿真里」

生のまま、いりこ酢でいただく小豆島天領真牡蠣、中海老の麹酢みそがけ、サワラのからすみが並ぶ「小鉢色々」。天領真牡蠣はプリッとした大きな実が特徴で、1年中食べられる小豆島の養殖牡蠣です。からすみは味が濃厚で、思わず日本酒がほしくなりました。

 

「島宿真里」

「小引き平麺 新玉ねぎつゆ」は、「さぬきの夢」という小麦を使った生仕立てのそうめんに、新玉ねぎで出汁をとったつゆを合わせていただく絶品。麺は細く乾燥させていないため、味わったことのないつるつるとした食感を楽しめます。生仕立てのそうめんがいただけるのは産地ならではで、うれしくなります。

 

「島宿真里」

お造りが運ばれて来る前に、食べ比べの木桶醤油が準備されました。目の前でドリップした二段熟成の生(き)あげ、生のもろみに生姜や甘味を加えた自家製たれ、発酵を止めて生の風味を残した淡口(うすくち)生あげ、大豆・小麦アレルギーに配慮して作られたそら豆醤油の4種類。

 

「島宿真里」

「立夏の造り盛鉢 島野菜 木桶醬油味比べ」は、魚介や野菜を4種の醤油と合わせながらいただきます。ラディッシュやアスパラガスなど新鮮な生野菜はそのままでもおいしいのですが、醤油をつけるとより野菜の甘みが引き立ちます。魚と醤油、野菜と醤油、それぞれが活きる組み合わせを探しながら、島の幸をぜいたくに堪能します。

 

「島宿真里」
「島宿真里」

オリーブ茶とほうじ茶で6時間ほど煮込まれたオリーブ牛がやわらかく、オリーブの実で作られた柚子胡椒を少しずつときながら、味わいの変化を楽しめる「煮込みオリーブ牛 オリーブ柚子胡椒」。

「こもんふぐの粉打ち焼き 諸味(もろみ)ビネガー」は、瀬戸内でとれるコモンフグを小麦「さぬきの夢」を使いオリーブオイルで揚げ焼きした一皿です。

 

「島宿真里」

ご飯ものは「生姜の胡麻ご飯 潮汁」。「小豆島の『かどや』さんの白いごま油をたらして召し上がってみてください」とすすめられ、ゴマ油を足してみると、なめらかな味わいに。生姜の風味と相まってさらにおいしさが引き立ちます。

 

「島宿真里」

デザートは「甘夏シャーベット マーマレード」。「醤油会席」は新鮮な驚きに満ちた、大満足の夕食でした。

 

碁石山参拝

小豆島霊場を参拝する夜のミニツアー

「島宿真里」

夕食を堪能したあとは、「【真里の夜さんぽ】静かなる光と祈りのミニツアー」に参加。四国八十八ヶ所霊場を巡るお遍路の文化は小豆島にも根付いており、この島の八十八ヶ所霊場は814年に弘法大師(空海)が開いたとされています。

ツアーの行き先は、小豆島霊場第二番札所の碁石山。「島宿真里」店主・眞渡康之さんによる案内で、神秘的な月明かりの夜の参拝を行います。地元の方の案内がなければ、夜に霊場を訪れるなんて経験はなかなかできません。歩きながら厳かな気持ちになります。

 

「島宿真里」

参道の途中で見下ろした小豆島の夜景は、息をのむ美しさ。海沿いから山裾にかけて点々と灯る明かりは、そこに暮らしが営まれていることを実感させてくれます。

約1時間のプログラムの中で、眞渡さんから小豆島の歴史や産業、文化、それらからつながっている現在について、たくさんの魅力を教えてもらい、さらに島の魅力を知ることができました。

 

「島宿真里」

ツアーから戻ると、客室にはちょこんとおにぎりが。夕食で食べきれなかった生姜の胡麻ご飯を、夜食として握ってくれたものです。あたたかい心遣いにお腹も心も満たされました。

 

朝食、チェックアウト

島の恵みを堪能する朝食

「島宿真里」

翌朝、朝食も夕食と同様に食事処「母屋」にて。着席して庭園を眺めていると、土鍋ごはんをはじめ、甘夏とパイナップルの手作りジュース、竹籠に入った小鉢、生そうめんなど、充実の朝ごはんが運ばれてきました。

小豆島でとれたお米や野菜、魚が主役となった小鉢の数々。小豆島産オリーブの実をエサに育成されたオリーブ牛や、海苔に小豆島産オリーブオイルを塗って塩味をつけたオリーブ海苔なども並び、食卓いっぱいに島の恵みを感じます。特に小豆島安田地区でとれたコシヒカリは土鍋炊きでふっくら香ばしく、おこげのおいしさも相まって、朝からお代わりをしてしまうほど。

 

「島宿真里」
「島宿真里」

満腹になって部屋に戻る前に、館内のギャラリーでお土産探し。昨日見学した正金醤油の「うすくち生醤油」「こいくち醤油」の2本を購入し、名残惜しくもチェックアウトしました。

 

宿周辺の観光スポット

寒霞渓

「島宿真里」

醤油やそうめん、オリーブ栽培などの産業が盛んな小豆島には、観光スポットが点在しているのも魅力のひとつ。「島宿真里」から車で30分ほど北上すると、風光明媚な絶景が眼下に広がる景勝地・寒霞渓(かんかけい)にアクセスできます。

寒霞渓は、小豆島の最高峰である星ヶ城山(ほしがじょうさん)と四方指(しほうざし)の間にある渓谷で、火山活動によってできた神秘的な奇岩や崖地が見どころ。ロープウェイこううん駅から山頂駅まで、約5分の空中散歩を満喫できます。

 

「島宿真里」

寒霞渓の山頂付近では、「瀬戸内国際芸術祭2022」の作品「空の玉/寒霞渓」(青木野枝氏作)を展示。作品の中に入って絶景の大自然を眺めたり、写真を撮影したりできます。そのほか、売店ではオリーブ豚バーガー、メープルソフトクリームなどの軽食が楽しめ、お土産も充実しています。

 

道の駅 小豆島オリーブ公園

「島宿真里」

「島宿真里」から車で約12分、地中海のような町並みが美しい複合施設「道の駅 小豆島オリーブ公園」もおすすめです。2,000本ものオリーブの木が栽培され、敷地内にはさまざまなフォトスポットが点在しており、特に人気なのは小高い丘に建つ白いギリシャ風車。

また、実写映画『魔女の宅急便』のロケ地であることから、公園内では撮影に使える「魔法のほうき」を無料レンタルすることができます。ぜひ、映える1枚を撮影してみてください。

 

姉妹宿と連泊してかなう特別な体験

「島宿真里」

「醤油で栄えた地域に建つ宿として、醤油を主役に据えた『醤油会席』が成り立つのではないかと考えました」と語るのは、店主の眞渡康之さん。「全国から食材を集めるのではなく、生産者の顔が見える距離にある素材でお客様を喜ばせたい。その思いは、系列の『海音真里』も同じです」。

醤油蔵が建ち並ぶ町並みの中にある「島宿真里」の「醤油会席」、瀬戸内海を望む「海音真里」の「オリーブ会席」。両宿に連泊することで、小豆島だからこそできる特別な体験がかなうでしょう。

 

小豆島を深く知る機会となった今回の旅。少し遠くに感じていた瀬戸内海の離島が、「また来たい場所」に変わりました。日常を忘れてリラックスできる自分だけのサードプレイスに、島の宿を選んでみてはいかがでしょうか。

 

島宿真里

住所
香川県小豆郡小豆島町苗羽甲2011
アクセス
高松港から池田港までフェリーで約60分、池田港から車で約20分
※池田港へは送迎サービスもあり
チェックイン
14:00
チェックアウト
10:00
客室数
8室
駐車場
あり/8台(予約不要)

 

撮影/大林博之 取材・文/安藤未来

▼「海音真里」の宿泊体験記はこちら

 

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