リトリートという言葉をご存じですか? リトリートとは、日常から離れた場所で心と体の疲れを癒やすこと。忙しい日々を過ごしていると知らず知らずのうちにストレスを感じたり、疲労が蓄積したりしてしまうものですが、そんなときにおすすめしたいのがリトリートの旅です。
慌ただしさとは無縁の隠れ家で静かに自分と向き合い、本来の自分を取り戻す――。神奈川県小田原市江之浦の高台にたたずむ「江之浦リトリート凛門(りもん)」では、そんな特別なステイが叶います。
東京駅から1時間弱、日常から脱け出して江之浦へ
神奈川県小田原市にある「江之浦リトリート凛門」は都心からも近く、気軽に行きやすいことも魅力です。JR東京駅から東海道新幹線に乗り、約33分でJR小田原駅へ。そこからJR東海道本線に乗り換え、約7分で最寄りの根府川駅に到着します。無料送迎サービス(要予約)があり、根府川駅までは「江之浦リトリート凛門」のスタッフの方が車で迎えに来てくれます。
根府川駅は小さな無人駅ですが、ミカンなど柑橘が多く実る山を背に相模湾を見下ろし、日の出が絶景な駅として、「関東の駅百選」にも選ばれています。改札やホームからは相模湾を一望でき、電車と青い海のコントラストが旅情をそそります。
根府川駅から車で約7分。「江之浦リトリート凛門」はすべての人々にとって大切な健康をサポートすることを目指して、2021年6月に誕生しました。一見、ホテルとはわからないシンプルでモダンな外観は、周辺の景観とも調和するアースカラー。まさに隠れ家といった趣で、期待が高まります。
天然木をぜいたくに使った温かみのある空間でチェックイン
館内に入ると心地よいアロマの香りと木の温もりに包まれ、心がほどけていくのを感じます。建材や家具などにふんだんに使われている木材は、すべて天然木。壁にはプラスチックやビニール壁紙を使わず、土壁や珪藻土(けいそうど)を用いています。
また、曲線を多用したデザインも特徴的で、フロアには仕切りを作らず空気が流れるよう設計。地下1階~地上4階の館内全体が、ほっと落ち着く空間になっています。
チェックインは高台からの絶景を眺めながら。ウェルカムドリンクには、オリジナルブレンドのハーブティーが提供されます。茶葉の品質だけでなくティーバッグにもこだわり、食物繊維を使った生分解性フィルターのものを使用。7種類あり、この日はタイムとユーカリが配合された、さわやかなハーブティーで一息つきました。
おこもりにぴったりのモダンで快適な客室
1室だけの特別な空間「ビュースイート」
客室数は全7室。今回宿泊したのはその中で最もラグジュアリーな、最上階に1部屋だけある約57平米のビュースイート。
高い天井と相模湾を見渡せる大きな窓があり、開放感抜群! 専用テラスに出てチェアに座り、海風を浴びながら景色を楽しむこともできます。スタイリッシュな内装に、琉球畳が和の安らぎをプラス。ベッドは、老舗寝具メーカー・西川の「&Free」のマットレスを倍の厚みで特注したもの。ほどよい固さで快眠でき、朝もすっきり起きることができました。
「エシカルであること」を運営の基本にしている「江之浦リトリート凛門」。冷暖房はエアコンの代わりに、環境にも体にも優しいパネルシェードを導入しています。パネル内に冷水や温水を流すことで室温を調整するので、部屋が乾燥することもありません。寒い冬でもぽかぽかと温かく、快適に過ごせました。
滞在中は情報があふれる日常から離れ、豊かな時間を過ごしてほしいという思いから、客室にはテレビやタブレットを設置していません。ソファに座ってぼーっと外の景色を眺めていると、心が穏やかになっていくのを感じます。
テーブルの上にはウェルカムフルーツが。地元のマルキオレンジファームで育てられた無農薬、除草剤不使用のいよかんは、とてもジューシーでした。
バスルームはシャワーとバスタブが別々のセパレートタイプ。低い位置にある横長の窓は、バスタブにつかりながら夜景を楽しむためのもの。明かりも落ち着いた間接照明だけで、ほの暗い中、夜景を見ながらのバスタイムは癒し効果も倍増します。
備え付けのボディソープ、シャンプー、コンディショナーは、イタリアのヘア・ボディケアブランド「Millennium Organics(ミレニアムオーガニックス)」のもの。天然精油と100%植物由来の原料で、環境にも配慮して作られています。
ビュースイートにはクレンジング、化粧水、乳液をボトルでも用意。酒粕エキスや乳酸菌などを用いた日本製のプロバイオティクススキンケア製品で、肌の透明感やハリを促します。
館内持ち歩き用のコットンバッグに歯ブラシ、クシ、カミソリ、バニティキット、クレンジングや洗顔料などのスキンケアキットと、アメニティも充実。歯ブラシにはリサイクルプラスチックを使っています。
オーガニックコットンを100%使用したオリジナルの館内着は、着心地がいいと宿泊客に大好評。また、エシカルな観点から使い捨てスリッパや足袋の代わりに、オリジナルの靴下を用意しています。
こちらは日本一の靴下の生産地である奈良県北葛城郡広陵町で生産されたもので、糸にはエコなバージンコットンの落ちた綿を使用。通気性の良さと丈夫さを兼ね備え、履き心地も抜群で、持ち帰ってもOKです。館内の売店でも販売されていて、一番人気なのだとか。
ビュースイートをはじめ、一部の部屋にはバスローブも備わっています。
客室のドリンクにもこだわりが感じられます。ビュースイートには家電メーカー・ツインバードのコーヒーマシンが備えられ、コーヒー豆は全国にファンを持つ小田原の自家焙煎コーヒー専門店「ひな珈琲」が「江之浦リトリート凛門」のためにブレンドしたものを用意。中深入りでバランスの良い味わいです。
全部屋共通で「ひな珈琲」の凛門ブレンドのドリップバッグコーヒーと、ウェルカムドリンクとしても提供しているオリジナルブレンドのハーブティーも用意されています。
自然光が差し込む和洋室の「スーペリアルーム」
2階に位置するスーペリアルームも、和洋室で約57平米の広々とした空間。ベッドはハリウッドツイン、または2台をつなげてキングサイズのベッドにすることもできます。自然光が差し込む明るいお部屋ですが、夜は間接照明で落ち着いた雰囲気にがらりと変わります。
スタイリッシュなバスルーム。アメニティでオリジナルのハーブの入浴剤も用意されているので、バスタブにつかって気ままにリラックスタイムを堪能するのもいいですね。
より落ち着いた雰囲気の「コーナールーム」
同じく2階にあるコーナールームも約57平米で、細長いユニークな造り。おこもり感が強く、日常を忘れて静かな時間を過ごせるでしょう。
こちらのバスルームにも大きな湯船があり、ゆったりと体を温めることができます。
温泉ミスト浴「ルフロ湯治」を初体験!
「江之浦リトリート凛門」を訪れたら、絶対に体験したいのが「ルフロ湯治」です。ルフロ湯治とは、温泉鉱石から抽出した30種類以上もの天然ミネラルが含まれたミストを全身に浴びる新感覚のスパ。代謝が上がり、本来の免疫力が引き出されると言われています。
まず、地下1階のルフロカウンターで湯治着などを受け取り、浴場で全身を洗った後に着替えます。たくさん汗をかくため下着は外しますが、希望者には紙ショーツと紙ブラの用意もあります。
ルフロ室の中は、前が見えないほど大量のミストが充満。床には北投石(ほくとうせき)や蓬莱石(ほうらいいし)など、12種類の国産天然鉱石が敷き詰められ、寝転ぶと体がじんわり温められていきます。
仰向けだけでなく、うつぶせになったり鉱石をまぶたにのせたりしても気持ちがいい! 小さな石なので、岩盤浴よりも体にフィットして汗がどんどん出てきます。それでも室内は41度程度で暑すぎず、サウナが苦手な人でも入りやすい温度です。
大量に汗が出るので、ルフロに入る前や休憩のタイミングで水分補給は必須。カウンターの前には、地元農家の無農薬のレモンを使った自家製レモンウォーターなどが用意されています。レモンは特有のえぐみがなく、さわやかな口当たりで、ゴクゴク飲めちゃいます。
休憩は同じフロアの広々とした静養室で。ルフロ10分&休憩10分を3セット行うのが目安で、終わると体がすっきりとし、心身ともにととのうのを感じました。ルフロの利用は、夜は21時30分まで。朝は7時から利用できるので、チェックイン後、夕食後、朝食前と、それぞれの時間帯に3セットずつ行う宿泊客が多いそう。
ルフロのミストのもとになっているのは、特許技術で天然温泉の成分を濃縮した「クラフト温泉」。汗をかくことでデトックスすると同時に、細かいミストで温泉の天然ミネラルを肌に浸透させ、しっとりスベスベの肌へと導きます。
最後は浴場で汗を流し、お湯につかってリラックス。大小1つずつ浴場があり、宿泊客の人数や男女比率によって指定されたどちらかの浴場を利用できます。どちらもお湯はクラフト温泉で、浴槽には香りが良い高級木材のタイワンヒノキが使われています。
小田原の自然の恵みを堪能できる創作コース料理
「江之浦リトリート凛門」は滞在中、館内のどこでも館内着でリラックスして過ごすことができます。夜になって肌寒いときなどはガウンも用意されているので心配はいりません。東京・浅草の老舗工場で作られたウール100%のガウンで、軽くて温かく着心地が抜群。宿泊客が快適に過ごせるよう、備品一つ一つまで妥協なく、上質なものをセレクトしていることがわかります。
気づけば窓の外は日が落ちて、テラスは幻想的な雰囲気に。テラスに面したダイニングでディナーを楽しむ時間です。
お料理はすべて、東京や伊勢志摩の一流ホテルで腕を磨いてきた料理長・松本淳さんによるもの。小田原のオーガニック野菜や周辺地域でとれた旬の食材をふんだんに使ったコース料理を提供しています。事前に苦手なものやアレルギー食材をヒアリングして、臨機応変に対応してくれるのもうれしいところ。
ベースは日本料理ですが、料理長の幅広い経験をいかし、イタリアンや中華料理などのエッセンスも取り入れた独創的な料理を味わえます。マクロビやアーユルヴェーダの考え方からもアプローチし、体が喜ぶ食事であることを重視しているそう。
全10品のディナーコースは月ごとに替わりますが、この日のメニューを抜粋してご紹介します。
まずは、「余寒(よかん)の陽」と名付けられた先付け。昆布だしに朝鮮人参、呉茱萸(ごしゅゆ)、乾姜(かんきょう)と炒り玄米、アントシアニンやポリフェノールが含まれる紫白菜などを加えたもので、香りづけにリラックス効果のある白文字(しろもじ)という木の枝が添えられています。漢方食材が入っていますがクセは強くなく、体に染み渡る優しいお味でした。
続いて「焼き胡麻豆腐」。片栗粉をつけて揚げたごま豆腐を、さらに炭火で焼いています。外はカリッ、中はトロリとしていて食感も楽しい一品です。はちみつを加えたみたらしと塩気のある醤油ソースの2種類がかけられており、甘じょっぱさと炒りたてのごまの風味が口の中に広がります。
相模湾の豊かさを感じられる、お魚の5種盛り。クロマグロの幼魚であるメジマグロ、カンパチの幼魚の汐子(しょっこ)、ヒラメ、ヤリイカ、地サザエで、真鶴漁港でとれたハバノリという海藻も添えられています。
ハバノリは主に地元の小田原だけで消費される貴重な食材で、昆布のような風味と強い磯の香りが特徴。少し醤油に溶かし、お刺身とともに食べると美味でした。
「地野菜の一物全体」と名付けられたスープは、食べ物全体を丸ごと食べる「一物全体」というマクロビの手法で作られたもの。ニンジンや芽キャベツなど地野菜を、皮や端まで含めてすべて使い、野菜の旨みを最大限に引き出しています。
さらに、伊勢海老の殻を砕いて加え、乳製品や小麦粉を一切使わずに複雑で濃厚な味わいに。大ぶりの伊勢エビの身も入っていますが、あくまでも野菜が主役の滋味深い一品です。
メインの肉料理は「生粋かながわ牛 青山椒油焼き」。神奈川県で生まれ育ったブランド和牛「生粋かながわ牛」に、焼いた後の肉汁を使った青山椒のソースがかけられています。
付け合わせは旬のタケノコと菜の花、小田原産のどだれ芋。やわらかなお肉に、青山椒のピリッとした辛みが絶妙なアクセントになっています。
ご飯は「鯖のひしお焼き」。発酵調味料のひしおに小田原産のサバを漬け込み、炭火で焼いたものと、炒めたマイタケ、冬ネギを炊き立ての土鍋ご飯と混ぜ合わせます。趣向を凝らしたご飯ものは、宿泊客の約8割がおかわりするほど大人気なのだとか。お腹いっぱいでも箸の止まらないおいしさです。
コースはボリュームたっぷりなうえ、どれもじっくり味わいたい手の込んだものばかり。一品一品が予想をいい意味で裏切る、驚きと感動に満ちたディナーでした。
食後はテラスに出て、ゆらめく焚き火を見ながらひと息。パチパチという音だけが響く静寂の中で、何も考えずにボーっとする時間は、慌ただしい日常からかけ離れた、本当にぜいたくな時間です。
朝食も圧巻の品数とクオリティ!
翌日、朝のテラスから見える風景も格別です。清々しい気持ちで1日をスタートしました。
松本料理長による和食膳の朝食もディナーに続きボリューム満点で、品数の多さに圧倒されます。
自家製イカ塩辛、箱根山麓豚のしょうが焼き、油通しをして骨まで食べられる地元産のイワシなど、どの料理にもこだわりがぎっしり。さらに、完全無農薬野菜のサラダにはだしを取った後の昆布を使ったドレッシングを添えたり、野菜の端材を味噌汁の具材に使ったりと、フードロス削減にも取り組みながら絶品料理を提供しています。
「いろいろなホテルに泊まった中で一番の朝食だった」という宿泊客も多いそうですが、その言葉に同感です!
お米は小田原産「いのちの壱」で、苗から完全無農薬で栽培されたもの。土鍋でふっくら炊き立てをいただきます。
卵料理はだし巻き卵、オムレツ、目玉焼き、スクランブルエッグ、ゆで卵から選べ、相模原にある養鶏場の平飼い卵を使っています。オムレツに添えられたケチャップまで、料理長の手作りです。
柑橘畑を散策してリフレッシュ
ゆっくり朝食を味わったら、腹ごなしのお散歩に出かけるのもおすすめ。希望すればスタッフの方が周辺を案内してくれます。この日はホテルから歩いて数分の、海と電車が一度に見られるとっておきのスポットを教えてもらいました。「東洋のリビエラ」と呼ばれる江之浦の素晴らしい景色に、しばし見入ってしまいます。
ホテルの下に広がる柑橘畑にも足を伸ばしてみましょう。ここでは、もぎたてのみかんをその場で食べることができます。みかんの季節は11月に始まり、品種を変えながら8月くらいまで続くそう。ぜひ、フレッシュなみかんを味わってみてください。
チェックアウト後は近隣のアートスポットへ
チェックアウトは11:00。まだまだ時間はあるので、売店でお土産を選びましょう。
客室に用意されていたものと同じオリジナルハーブティー(7個詰め合わせ2,200円)や、ハーブ入浴剤(800円)、オリジナル靴下(1,500円)、館内着(18,000円)、ルフロや浴場に使用されているクラフト温泉「HiTo 秘湯」(5,000円)などが販売されています。実際に使ったり、体験したりしてから購入できるのがうれしいですね。
チェックアウトしたら、すぐ近くにある「小田原文化財団 江之浦測候所」を訪ねてみるのも良いでしょう。こちらは、現代美術作家の杉本博司氏による広大なアート施設で、時代も場所も超越した芸術作品の数々を鑑賞できます。
入場は完全予約制で通常は当日予約できませんが、ホテルにお願いすれば手配してくれますよ。
おもてなしが光る「江之浦リトリート凛門」で極上の体験を!
「江之浦リトリート凛門」の魅力は、きめ細やかなおもてなしにも。「型にはまらず、お客様に快適に過ごしていただくにはどうすればいいかをスタッフ一人一人が考えて、臨機応変にご対応しています。お客様と一緒に楽しむという気持ちが何より大切ですね」と、笑顔を見せる支配人の二瓶直樹さん(写真左端)。
細部までこだわったラグジュアリーなお宿でありながら、アットホームな雰囲気でとても居心地がいいのは、こうしたおもてなしの心を感じるからこそ。スタッフの斎藤圭子さん(右端)も、「ふとどこかに行きたいと感じたときに来れる、第二のおうちのような場所でありたいです。いつでも『おかえりなさい』とお迎えします」と話してくださいました。
現在、小田原市の「おだわらSDGsパートナー」にも登録。清掃には環境負荷の高い合成洗剤の代わりに電解水を使用し、また、コンポストを設置して「ゼロ・ウェイスト」にも取り組むなど、環境に配慮した運営を目指しています。
「凛門」という名前の由来の一つは「Reborn(リボーン)」。ルフト湯治、お料理、おもてなしで癒されて、生まれ変わったような体と心でまた明日から頑張れる。そんな活力を与えてくれる「江之浦リトリート凛門」を訪れてみませんか?
江之浦リトリート凛門
- 住所
- 神奈川県小田原市江之浦218-1
- アクセス
- JR「根府川」駅より車で約7分(無料送迎あり)
- 客室数
- 7室
- 駐車場
- 8台(無料)
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 11:00
撮影/岡村智明 取材・文/土田理奈