愛らしい見た目や人懐こい性格が人気のうさぎ。最近ではヨーロッパの風習「イースター」(復活祭)で、多産と繁栄のシンボルとしても注目を集めています。うさぎ好きのなかには、思いっきりうさぎとモフモフ戯れたいと願う人も多いのでは?
今回はそんな人に訪れてほしい旅先を紹介します。「うさぎ島」と呼ばれている大久野島(おおくのしま・広島県竹原市忠海町)。この島には約1,000羽のうさぎが暮らしています。
広島・忠海港から約1,000羽のうさぎが暮らす大久野島へ
1950年に瀬戸内海国立公園に指定された大久野島は、瀬戸内海に浮かぶ周囲約4.3kmの小さな島。ここには民家がなく、宿泊施設の「休暇村大久野島」があるのみです。
大久野島へのアクセス
大久野島へ渡るには広島県の忠海(ただのうみ)港をはじめ、竹原港、三原港、そして愛媛県の大三島の盛港から出ている船を利用します。今回は島に一番近い忠海港からフェリーに乗船します。
忠海港へはJR呉線の「忠海」駅で下車します。同駅へは「安芸の小京都」と称され昔ながらの町並みが残る「竹原」駅から約12分、広島駅からは約1時間50分です。
忠海駅から港までは徒歩で約3分。うさぎの大時計がシンボルの建物が見えてきます。「うさぎの島への玄関口」といわれるこの港からのアクセスは人気があり、2019年の利用者数は約42万人(盛港利用者も含む)。レジャーシーズンはとても混み合って船待ちに数時間かかることもあるそう。時間には余裕をもって訪れましょう。
なお、大久野島行きの乗船券は店内の券売機で購入できます。船便は平日15便、土日祝17便(片道310円、始発7:40~最終18:40)です。
忠海港
- 住所
- 広島県竹原市忠海中町1-2-1
- 詳細
- 忠海港公式ページ
忠海港から大久野島までは約15分の船旅
フェリーから海辺に広がる街や瀬戸内海に浮かぶ島々を眺めていると旅情を誘われるよう。船にゆられていると、船体に寄り添うようにカモメの群れが空を飛ぶ様子も見ることもできます。また、スナメリクジラが泳ぐ姿を発見できるチャンスも。大久野島へは15分ほどで到着です。
島の第二桟橋で下船し、島に一歩足を踏み入れると、そこここにうさぎたちが!
うさぎたちは人馴れしていて、ドンドン駆け寄ってきます。でも、無理にエサを与えると体調を崩す原因になるので禁物。また、かわいいからと追いかけまわしたり、抱っこしたりしないように気をつけましょう。
なかには膝の上にのってくる子も。うさぎ好きならそんな愛らしい姿にノックダウンしてしまうはず!
民家のない島内は限られた車両が通行できるだけで、車とすれ違うことは滅多にありません。だから、うさぎも遊び放題というわけですね。もし島を周るなら、徒歩かレンタサイクルを利用することになります。
この島が「うさぎ島」と呼ばれ、現在につながる人気を集め始めたのは2013年から。島を訪れた外国人女性にうさぎの群れが殺到している動画がYouTubeに投稿され、その後、香港の新聞を皮切りに雑誌、テレビ番組などのメディアに取り上げられたことで一躍世界で有名になりました。観光客の四分の一はアジアや欧米、オーストラリアなどの外国人が占めるそうです。
大久野島には、なぜうさぎがこんなにもたくさん生息しているのでしょうか? それには諸説あります。
戦時中、島内で秘密裏に毒ガス実験が行われ、化学兵器の実験動物としてうさぎが持ち込まれてその子孫が繁殖したという説のほか、イギリスからの観光客が持ち込んできたとか、忠海町の小学生たちが島にうさぎを放したという説も…。本当の理由は定かではありません。
ちなみに大久野島で暮らすうさぎは、アナウサギという種類。あの「ピーターラビット」と同じ仲間なんです。
休暇村大久野島のレンタサイクルで島を一周
島で思う存分うさぎと遊ぶほか、アクティビティとしておすすめしたいのがレンタサイクル。島内は徒歩でも周れますが、効率を考える人は自転車がおすすめ。体力のある人は普通自転車でも大丈夫ですが、島の北部は急な上り坂があるので、ラクラク走れる電動アシスト付き自転車を借りると快適ですよ。
なお、レンタサイクルは第二桟橋から徒歩約10分の「休暇村大久野島」のフロントが受付となっています。
レンタサイクル
- 料金
- 普通自転車・子ども用自転車:ビジター600円(2時間)、宿泊者400円(2時間)
電動車 :ビジター800円(2時間)、宿泊者600円(2時間)
※デポジットは自転車1台につき1,000円、返却時に返金
さあ、さっそく自転車に乗って島を巡ろう!
走行は休暇村から時計回りと決まっています。うさぎは島の道路へ急に飛び出してくることもあるので、レンタサイクルで走る場合は注意しましょう。
ところで、大久野島は昔、3度も軍事目的で利用された歴史があります。最初は日清・日露戦争時代の海上防衛基地として、次は1929年から終戦まで毒ガス兵器工場として、そして朝鮮戦争の頃はアメリカ軍の兵器貯蔵庫に。
この島で毒ガスを製造していたことは、日本の化学戦実施に関する資料が報道された1984年まで公になることはなく、その事実はほとんど知られていませんでした。
こちらは「長浦貯蔵庫跡」。島内最大の毒ガス貯蔵庫で、かつては台座の上に直径4m、高さ11mほどの巨大タンクが6基置かれていたそう。戦後は火炎放射器で残留毒素の焼却作業が行われ、黒くすすけているのはその名残です。
廃墟付近でも自転車に物怖じすることなく、エサを求めて近づいてくるうさぎたち。
また、この島には深い森が見られます。特に北部ではシダ類がびっしり繁殖していて、サイクリングしながらちょっとしたジャングル探検のような体験が味わえます。
島の東側、第二桟橋そばの「発電場跡」は、大規模な廃墟に息をのむばかり。どことなくモダニズム建築を思わせる建物は中ががらんどうになっています。
老朽化が進み、サビれた発電場跡は歴史の証人として、戦争に利用された時間を建物全体に刻んでいるよう。ここでは女子動員学徒が風船爆弾を作っていたこともあったそうです。
数奇な運命をたどってきた島。今でこそ「うさぎの楽園」と呼ばれていますが、戦争に利用され秘密裏に毒ガスを製造していたことから、「地図から消された島」という別の顔を持っているのです。
第二桟橋を通り過ぎ、島の南側に自転車を走らせると見えてくるのがビーチ。夏になると海水浴客でにぎわいます。このビーチは休暇村の屋外施設で、砂浜の面積はそれほど大きくないものの、海水がとてもきれいと評判です。
近くにうさぎの耳をしたオブジェがありますが、これは集音器。両耳をあてると浜辺や海の音が聞こえます。フォトジェニックなスポットとして人気です。
大久野島の自然や歴史について学ぶなら「大久野島ビジターセンター」へ。
木の温かみが居心地のよいセンターでは、瀬戸内海国立公園の自然環境や大久野島の動植物、歴史などについて紹介しているほか、この施設で用いる自然エネルギーを体験しながら学習することもできます。
また、大久野島で採集した木の実を使ったクラフトや竹を使った竹和紙作りも体験できます(事前予約制・有料)。
大久野島ビジターセンター
- 開館時間
- 9:00~16:00
- 休館日
- 水曜日(1~2月は水・木曜日)、年末年始
- 入館料
- 無料
- 電話番号
- 0846-26-0100
ビジターセンターに自転車を置いて、ビーチから丘につながる遊歩道を歩いてみました。途中には大久野島灯台が見え、さらに進むと絶景スポットが!
「夕日の丘」からは瀬戸内海や大三島、大崎上島などが一望できます。特に夕暮れの時間帯に訪れてほしい場所です。
こんなところでもうさぎは足音を聞きつけて、どこからともなく現れます。
春先はコバノミツバツツジの花が見頃です。
休暇村大久野島で郷土色豊かなランチを楽しもう
自転車で島を一周して再び休暇村に戻るころには、いい感じにお腹も空いてきます。島で唯一の飲食店である休暇村のレストランでランチをいただきましょう。
大久野島のある広島県竹原市は江戸時代、塩づくりで栄えた土地柄。当時、お祝い事などで食されていた料理が魚飯(ぎょはん)でした。その魚飯にヒントを得て作られたのが「竹原魚飯」。
エビやネギ、卵、ノリなどの具材を白飯の上にのせてだし汁をかけていただきます。
「竹原いもタコカレー」は、竹原のご当地グルメとして開発されたもの。素揚げした竹原産ジャガイモと瀬戸内海で獲れたタコの唐揚げがごろっとのっています。
軽食やお茶を楽しむなら、「うさんちゅカフェ」へ。名物は「うさぎのはなくソフトクリーム」。味はバニラがキャンベルの2種から選べ、ソフトクリーム部分にココアピーナッツをトッピングしてもらえます。
休暇村大久野島では女性グループでも楽しめるキャンプ場も
島の宿泊施設は「休暇村大久野島」のみ。和・洋の客室が用意され、目の前に広がる芝生ではうさぎたちの姿が眺められ、その姿に心癒されるはず。
また、宿泊者を対象に毎日、島に繁殖する植物の観察やうさぎとふれあえる「朝のお散歩会」「ウミホタル発光観察会」などの体験プログラムを実施しています。
休暇村 大久野島
- 住所
- 広島県竹原市忠海町大久野島
- 総部屋数
- 65室
- アクセス
- JR呉線「忠海」駅より徒歩約7分の忠海港より船で約15分。桟橋より送迎バスあり
※島内は一般車両の走行はできません。車は忠海港・大三島盛港の無料公共駐車場へ駐車
島の自然を思いきり楽しみたい! という人は休暇村のキャンプ場を利用してみては。テントが用意されているうえ、夕食や朝食は休暇村のレストランが、お風呂は展望浴場「せと温泉」が利用できるので、キャンプビギナーの家族連れや女性グループでも気軽に利用できます。
夏は海水浴が楽しめ、夜は瀬戸内海を照らす美しい星空を眺めることも。もちろん島のうさぎと一日中遊べるので、大久野島を満喫できるでしょう。
大久野島を旅した記念にうさぎグッズをゲット!
せっかくうさぎの島を旅したからには何か記念のグッズをお土産に選びたいという方も多いはず。休暇村の売店でもお土産品を購入することができますが、うさぎがデザインされたアイテムを求めるなら忠海港の売店へ。オリジナルのTシャツや切手、ステーショナリー、スイーツなど、ここでしか買えないセンスあふれるお土産品をたくさん取り揃えています。
なかでも1個から買える広島名物のもみじまんじゅうをはじめ、無農薬の檸檬ケーキ、バターかすてら、瀬戸内レモン味のイカ天など、広島の銘菓とコラボした商品が人気を集めています。
また、実際に投函できるピンク色の郵便ポストをはじめ、外壁に配されたうさぎのシルエットの鏡やうさぎがデザインされたマンホールは、写真映えすると話題です。
忠海港には地元で人気のカフェ「ホクストン」のフードコンテナも併設され、注文を受けてから焼くクレープなどがいただけますよ。
島に暮らすたくさんのうさぎと思いきり遊んだり、郷土料理を味わったり。もっとのんびり過ごしたい人は「休暇村大久野島」に宿泊して、瀬戸内海にトロトロ落ちる夕日を眺めたり、朝のお散歩会に参加したり、島の自然にふれるのもよいでしょう。世界でも珍しいうさぎ島・大久野島。癒されたい人はぜひ訪れて、エネルギーチャージしませんか。
取材・写真・文/御田けいこ
取材協力/竹原市地域振興部産業振興課、うさぎの島への玄関口・忠海港