瀬戸内海のほぼ中央に位置し、古くから潮待ち、風待ちの港として栄え、日本の歴史にたびたび登場する広島県福山市の「鞆の浦(とものうら)」。国の重要伝統建造物群保存地区であり、2018年には魅力的な伝統・文化を語るストーリーが「日本遺産」に認定されたエリアです。
その海沿いに立つ、全室オーシャンビューで温泉露天風呂付きの贅沢な宿が「汀邸 遠音近音(みぎわてい をちこち)」。温泉につかりながら「瀬戸内海国立公園」の絶景をひとり占めできる、鞆の浦屈指のロケーションが魅力です。静かに流れる時間に身をまかせ、ゆっくりと心と体が癒される、大人のための1泊2日の旅をご紹介します。
目次
250年前の江戸時代の趣ある空間にタイムスリップ
「汀邸 遠音近音(みぎわてい をちこち)」へのアクセスは、新幹線停車駅「JR福山駅」から宿の専用シャトルバスやタクシーで約30分。車の場合は、山陽自動車道「福山東I.C」より約45分です。
「汀邸 遠音近音(みぎわてい をちこち)」があるのは大通りから一歩入った、海沿いの静かな場所。大通りでシャトルバスを降りると、スタッフの方が温かい笑顔で出迎えてくれました。鞆の浦のお話を伺いながら1~2分ほどゆっくりと歩いて、宿の入口へ。
玄関棟は本瓦葦べんがら塗りの重厚感ある佇まい。こちらは、宿の前身である江戸時代創業の旅籠「籠藤(かごとう)」を再現したものだそう。かつて、シーボルトや井伏鱒二など多くの著名人に愛されたという旅籠の趣を現代に引き継いでいます。
玄関棟の上部にある大きな梁は250年前当時のままのもの。壁には宿の名前「遠音近音(をちこち)」の由来となる「遠くからくる音と近くからくる音を楽しむ」という意味の歌が記された掛け軸や、1500年代に描かれたという世界地図などが飾られており、ノスタルジックな雰囲気が漂います。
趣のある玄関棟で往時に思いを馳せ、宿泊棟につづく渡り廊下を進みます。廊下に沿った中庭には、瀬戸内海の波をイメージした古い瓦が積み上げられた美しいオブジェも。
日暮れには中庭がライトアップされ、ここでも気品ある和の演出が際立ちます。
瀬戸内海の絶景をおさめた一枚絵のような窓の前でチェックイン
廊下を進んだ先のロビーで出迎えてくれたのは、瀬戸内海と弁天島の絶景。大きな窓いっぱいに広がる景色はまるで一枚の絵のようです。ゲストのほとんどがここで写真を撮影するというのもうなずけます。
窓の景色を見ながらロビーでチェックイン。ウエルカムドリンクやお菓子はその季節に合わせて変わるそう。この日は、さくらほうじ茶とクッキーが旅の疲れを癒してくれました。
ロビーから外へ出ると、海を目の前に望む宿泊者専用のデッキテラスが。気持ちのいい海風をほおに感じながら、部屋に行く前にここでのんびりと景色を楽しめるのも宿泊者だけの特権です。
心ゆくまでくつろいでほしい…大人の贅を尽くしたアッパースイートルーム
今回宿泊するのは、檜の温泉露天風呂付のアッパースイートルーム。部屋に一歩入ると、景色の美しさと開放感に思わず感嘆の声をあげずにはいられません。
窓からの景色は日本で最初の国立公園のひとつとして指定された「瀬戸内海国立公園」を代表する景勝地です。仙酔島(せんすいじま)へと向かう定期船「平成いろは丸」がゆっくりと進む姿も。
お部屋の鍵には、鞆の浦のシンボルである常夜灯(じょうやとう)があしらわれた革製キーホルダーがつけられており、この後の観光にも期待が高まります。
窓向きのテラスは景色を一望できる特等席。耳をすますと瀬戸内海の波の音や船の音が心地よく響き、心がほぐれていくよう。
テラス横には檜の温泉露天風呂。湯船につかると、檜の香りが鼻をくすぐり、なめらかな湯がやさしく肌を包みます。波の音、頬をなでる清々しい風、美しい景色で、五感すべてが癒されていく至福のひととき。何度でも入りたくなるお風呂です。
洗面所は大きなダブルシンク。「何回も心地よくお湯につかって、くつろいでほしい」という心遣いから、ふかふかのタオルが2枚ずつ用意されています。
女性のコスメはKOSE「雪肌精」、男性は「Paul Stuart」が備えられています。
シャンプー、コンディショナー、シャワージェルと石鹸のアメニティは気分が上がる高級ブランド「フェラガモ」のもの。アッパースイートルームならではのアメニティです。
棚を開けると大中小選べる浴衣が用意されていました。フロントに連絡することなく部屋で自分に合ったものを選ぶことができるのもうれしいサービス。
フリーサイズのパジャマは着心地のいい二重ガーゼ素材が採用されていました。
冷蔵庫の中はすべてフリードリンク。ソムリエがセレクトしたワイン、ビール、地元で人気のレモネードなど好きなドリンクをお風呂上りにお部屋でいただけます。
部屋にはドリップコーヒーではなく、コーヒー豆とグラインダーの用意も。コーヒー豆を挽きながら香りを楽しみ、絶景を堪能しながら贅沢なコーヒータイムも格別です。
和モダンな雰囲気のベッドルーム。快適な眠りを約束してくれるシモンズ社のマットレスに、高さを調節しやすい二つ折りの枕が添えられています。
広い玄関やトイレは車いすでも使いやすいようにと考えられた、バリアフリー設計です。
窓の前の絶景、露天風呂…使い勝手を重視したスタンダードツイン
使いやすさを重視しているというスタンダードツイン。全室オーシャンビューなので、こちらの窓からも瀬戸内の海や島々を望むことができます。
スタンダードツインを含め、全17室のお部屋が温泉露天風呂付。スタンダードツインは陶器の湯船、その他のお部屋タイプには御影石、ヒバの木、檜のいずれかの湯船が備えられているそう。タオルは2枚ずつ用意され、シンク周りには必要なものがそろっています。
アメニティは、美容好きに人気の高いタイ生まれのナチュラルスキンケアブランド「THANN」のもの。
テラスに座れば、弁天島のほこらまでが間近に見えるほどの迫力。目の前に広がる絶景を満喫できます。
日本の原風景を散策&姉妹館の大浴場へ
お部屋でひと休みした後は、鞆の浦のシンボル・常夜灯に向かいながら街を散策。宮崎駿監督がこの地で映画『崖の上のポニョ』の構想を練ったという鞆の浦。この街には監督が愛した日本の原風景が残っています。
かつて、灯台の役割をしていたという常夜灯。今でも夜になると灯りがともり、ノスタルジックな雰囲気を漂わせています。天候条件の良い日には夕暮れの時間帯もおすすめ。茜色にそまった空と常夜灯のコラボレーションが、まるで映画のワンシーンのよう。
こちらは、鞆の浦の名物である保命酒(ほうめいしゅ)専門店のひとつ、岡本亀太郎本店。福山城の城門を移築した由緒ある建物が使用されています。鞆の浦では伝統あるものを大事にしながら、今も生活の場として活用。そのため街の古い家々の多くが市の重要文化財なのだそう。
街の散策を楽しんだ後は、湯めぐりサービスへ出発!「汀邸 遠音近音」の宿泊者は、姉妹館の「ホテル鴎風亭」と「景勝館 漣亭」の大浴場や絶景の露天風呂も入ることができます。フロントに申し出ておくと車で案内(15:00~22:00)してもらえるので、移動の心配もありません。
※姉妹館の入浴は23:00まで可能。「ホテル鴎風亭」の屋上露天風呂については冬期(12月~2月)クローズ。天候の状況によっては利用できない場合があります。
鴎風亭の屋上露天風呂「星の湯」。大きなお風呂に体を鎮めながら瀬戸内海の絶景を堪能。
景勝館 漣亭6階の露天風呂「しまなみ」。こちらも海を一望できる最高のロケーションです。
とことん心と体を癒したい方は、館内のエステティックルーム「趣々」へ。アロマトリートメント(ボディ30分6,000円~)や着衣のままで受けられるボディケア(30分4,000円~)など豊富なメニューが用意されています。フロントで早めに予約するのがおすすめです。(営業時間15:00~22:00)
宿に戻ったら、玄関棟のホール横のリラクゼーションルーム「坐忘(ざぼう)」でひと休み。ここでは、ヒーリングストーンが体験できるカウチが置かれています。横たわってみると背中からじんわりと温まって、体のこりもほぐれていくよう。
お部屋でいただく極上の会席料理で目と舌で瀬戸内の春を味わう
散歩と湯めぐりを楽しんでちょうどお腹が空いてきた頃、待ちに待ったお部屋※での夕食。まず運ばれてきたのは、大根で作ったぼんぼりがかわいらしい「立春」と名付けられた一品。お料理は春夏秋冬で変わり、訪れた日は春のお献立。お品書きを見ると、すべてのお料理に料理長によって春の季語がつけられ、どんな料理が出てくるのかと期待が膨らみます。「立春」は地元で収穫された山菜や春の野菜を新玉ねぎと桜花のムースでいただきます。
※アッパースイートルームの宿泊者のみ夕食が部屋食となります。
こちらは、黒米姫川お強竹包み。ひと口サイズのおこわに、つくしの入った干し海老のスープ、旬の素材を目と香り、舌で楽しみます。
日本酒やワイン、利き酒セットなど料理に合うお酒のラインナップも豊富です。おすすめはオリジナルの冷酒「海のしずく」。左から純米吟醸(180ml 1,210円)、本醸造(180ml 1,100円)、フレッシュ本醸造(180ml 1,100円)。色ガラスの瓶が美しいので、飲み終えたあとは一輪挿し用の花瓶として持ち帰る人も多いそう。
青く光るライトに照らされて登場したのが、本日のお造り。赤西貝、地穴子の薄造りなど、地元の新鮮なお魚が海を表現したLEDライトに照らされ、テンションが上がります。お魚はどれも歯ごたえがあって新鮮。しゃもじの下には料理長が詠んだ句が添えられ、瀬戸内海の春の風情を感じます。
桜鯛と鞆の浦の沖産の生若芽(なまわかめ)のしゃぶ鍋。波をイメージしたお皿に盛られた薄切りの鯛と、ここでしか食べられないという香りのよい生若芽をしゃぶしゃぶで。鯛とかつおの合わせだしは、飲み干したくなるほどのおいしさ!
こちらは、やわらかくて甘みのある牛肉と5種の野菜。スイートコーンの味噌仕立ての合わせソースと梅ソースが絶妙です。
あいなめの南蛮漬けや新竹の子やトマトピクルスなど、目にもあざやかな一品で箸休め。
そして、瀬戸内海の名物といえば「鯛釜めし」。土鍋の蓋をあけると、香りづけに鯛のあらをくわえたという鯛めしの香りが部屋中に広がって、お腹いっぱいだというのに食欲をそそります。1杯目はそのままで、2杯目はお茶漬けで。余ったごはんは夜食用におにぎりにしてくれるという、うれしいサービスも。
柑橘類がおいしいしまなみ地区の、その時に最もおいしいフルーツを選んでデザートに。この日はせとかといちご。黒蜜をかけたごま豆腐とじゅんさいとともにいただきました。
2時間半ほどゆっくりと堪能した夕食は、どれも瀬戸内海の旬を目と舌で楽しむお料理ばかり。献立は季節ごとに変わると伺い、ほかの季節のお料理にも期待がふくらみます。
早起きをして部屋から、貸切風呂から、美しい日の出を愛でる
「宿から見える朝焼けの美しさは格別です」と伺い、早起きをして1階のデッキテラスへ。あいにく天気は曇りでしたが、雲の合間から届く朝日に海が輝いて、とても清々しい気持ちになりました。
せっかく早起きをしたので、貸切風呂で瀬戸内海と島々の景色をひとり占め。貸切風呂は南風(はえ)と東風(こち)の2つ(利用可能時間15:00~22:45、6:00~9:45)。1回45分の予約制です。タオルもアメニティもすべて用意されているので、手ぶらで貸切風呂へ。
瀬戸内の幸を盛り込んだ、ボリュームたっぷりの選べる和洋朝食
朝食は1階のダイニングで。海とほぼ同じ高さのダイニングは目の前を船が通り、情感たっぷりの景色も朝食のごちそうに華を添えます。
朝食は和食と洋食から選びます。洋食は地元産の野菜をつけていただくベシャメルソースのフォンデュや日替わりのパンが3種。
土鍋で炊いた白米またはおかゆを選べる和食。牡蠣の入ったがんもどきや手作り豆腐など、出汁のきいた体にやさしい料理が並びます。
ドリンクバーには尾道のはっさくジュースや野菜ジュースなどが用意されています。
売店でオリジナル商品や名産品を旅の思い出に
チェックアウトの前にロビー横の売店でお土産探し。ホテルのオリジナル商品や地元の名産品が並んでいます。
人気のお土産は、夕食のお造りで登場した総料理長考案のオリジナルハーブオイル(570円)。
朝食にも登場したはっさくジュース(790円)も人気です。
チェックアウト後も、鞆の浦を遊び尽くす!
チェックアウト後は、宿でレンタサイクルを借りて海沿いをサイクリングすることもできます。
また、宿から徒歩約1分の福山市営渡船場(平成いろは丸 渡舟のりば)から船に乗り、部屋から眺めていた仙酔島へも約5分で行くこともできます。
窓から眼前に広がる瀬戸内の絶景を楽しみ、海の風を感じ、波の音に耳を傾ける、何もしない贅沢を五感で味わう。「汀邸 遠音近音」で過ごす非日常の旅には、大人を癒す静かな時間が流れていました。瀬戸内海の旬の魚や野菜を味わう会席料理に舌鼓をうち、肌をやさしく包む温泉に癒され、1泊2日の短い時間だったのに肩の力がスッと抜けたような解放感。日常に疲れたらきっとまたここに羽を休めにこようと、スタッフの笑顔に見送られ宿をあとにしました。
汀邸 遠音近音(みぎわてい をちこち)
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆629
- アクセス
- JR福山駅よりバス、またはタクシーにて約30分 ※JR福山駅より事前予約制(電話予約)で、無料シャトルバスの運行あり。
広島空港より車で約60分
山陽自動車道福山東ICより車で約45分 - 駐車場
-
なし
※姉妹館「ホテル鴎風亭」の駐車場が利用可能(鴎風亭より送迎あり/乗車約3分) - チェックイン
- 15:00 (最終チェックイン:19:30)
- チェックアウト
- 11:00
- 総部屋数
- 17室
撮影/田辺エリ 取材・文/山本美和