全国屈指の湧出量を誇る群馬県の草津温泉は日本三大名湯のひとつ。町のシンボルであり、日本を代表する芸術家の岡本太郎がデザインした湯畑からは毎分4,000リットルの温泉が湧き出し、迫力ある自然のエネルギーを感じることができます。
その湯畑の目の前にあるのが「草津温泉 きむらや」です。設計したのは現代を代表する建築家、隈研吾氏。草津温泉の中心地で巨匠同士の作品が交錯する空間は他にはない特別な場所。1日1組限定でプライベートに過ごせる「草津温泉 きむらや」での滞在をご紹介します。
目次
草津温泉へのアクセス
「恋の病以外は何でも治す」といわれる泉質の良さと、温泉街らしい情緒を楽しみに、国内外から多くの人々が訪れる草津温泉。
隣接の天狗山では夏はジップラインやマウンテンカート、冬はウィンタースポーツを存分に楽しめるスキー場があり、周辺にはゴルフ場も点在。多彩な観光が楽しめ、夏の気温は平均18度で日中でも30度を超えることがほとんどなく、近年は避暑地としても注目されています。
東京方面から車で行く場合、関越自動車道を利用して約3時間半。高速バスでのアクセスも便利で、都内の各所、横浜、大宮から草津温泉行きのバスが出ています。名古屋方面から車で訪れる場合は、中央自動車道を経て、長野の岡谷JCTで長野自動車道に入り、更埴(こうしょく)JCTから上信越自動車道を経由して向かいます。
「草津温泉 きむらや」は、草津温泉バスターミナルから徒歩約5分の場所にあります。車で訪れる場合は指定の駐車場へ。駐車場は宿とは少し離れた別の場所にあるので、そこから送迎車で宿の前まで案内してくれます。
「湯畑の立体化」がコンセプトの建物
草津温泉に到着するやいなや、硫黄の香りに包まれ、早くも温泉に浸かりたい気持ちに。宿に近づくにつれて町のにぎわいが増してきますが、それもそのはず。「草津温泉 きむらや」は草津温泉を代表する観光名所、湯畑に面した数少ない温泉宿です。しかも1日1組限定の宿になっており、この抜群なロケーションを目の前のお部屋からプライベートに満喫できるのです。
その外観は落ち着いた色味の建物にアクセントとなる浅間石(あさまいし)がカーブを描くように並んでいて、その姿はまさに泊まれる現代アート。しかし、不思議と周囲の景色と調和しているのは、設計を手掛けた隈研吾が地元の素材を使って「湯畑の立体化」を表現したからです。
ゆらゆらと湯気が立ち昇る先にうっすらと浮かびあがる建物は、まるでお互いが呼応しているかのよう。1階にはグリルレストラン&バー「TIGRE(ティグレ)」があり、チェックインは2階のお部屋で行います。
喧騒から離れ、別世界に誘われるお部屋
お部屋の中は、建物と同じ鈍色の壁に砕かれた浅間石が擦り込まれ、ほのかに明かりが灯った空間はさながら洞窟のよう。しっとりと静寂に満ちた雰囲気に一瞬、ここが温泉街の中心地だということを忘れてしまいます。
広さ52平米のお部屋に、セミダブル(120cm x 195cm)のベッド 2台が置かれ、その先にはソファセットも。頭上にはアカマツの切妻天井が悠々と広がり、木の温もりも感じられます。
奥のテラスに出てみると草津温泉の景色が目の前に。「湯畑はもちろん、熱乃湯、白旗の湯、光泉寺といった草津の名所を一望できる、数少ない場所です。夜には湯畑がライトアップされ、昼間とは一味違う、幻想的な風景をお楽しみいただけます」と、スタッフの近藤さん。
冷蔵庫には、湯上がりにぴったりなドリンク(無料)がそろっていて、群馬県産クラフトビールがあるのもうれしいポイント。紅茶やコーヒーの種類も充実しています。
希少な源泉をかけ流しで堪能
ゆったりとくつろげるお部屋もさることながら、存在感を放っているのが自慢のお風呂です。
草津温泉には主に6つの源泉がありますが、湯畑から沸き出る源泉もそのひとつ。「草津温泉 きむらや」は湯畑の目の前にある白旗源泉から温泉を引いています。
この白旗源泉は源頼朝にゆかりがあり、白濁しているのが特徴。200を超す草津の宿泊施設の中でもこの源泉を引いているのは、わずか数軒のみという、ぜいたくな環境なのです。源泉は24時間かけ流しの状態で、熱湯が定番の草津温泉で自分好みに温度調節ができるのも、ここならではの特権です。
浴室には無数の瓦が散りばめられ、さながら温泉が揺らめいているよう。この瓦も湯畑から着想を得たものです。湯畑には岡本太郎が足元に無数の瓦を使ってデザインした歩道があります。
瓦の壁は浴室、レインシャワーが設けられたシャワーブース、そしてパウダールームまで続きます。洗面台のシンクも階段状にデザインされており、「まるで西(さい)の河原公園の足湯みたい」と発想が広がるのは、アートに包まれたこの空間のおかげかもしれません。
アメニティは、草津の温泉とお宿に合うものを探して行き着いたという「Aesop(イソップ)」のもの。宿オリジナルのボックスが1人1つずつ用意されており、こちらは持ち帰りも可能。ボディクレンザー、シャンプー、コンディショナー、クレンザー、化粧水、美容液、ボディクリームがそろっていて、ピーリング作用のある泉質に対してボディクリームが大きめのボトルで用意されているのも細やかな心配りです。
タオルとバスローブには、ロサンゼルス発のブランド「kashwere(カシウエア)」が用意され、ふわふわな使い心地でありながら吸湿性と速乾性を兼ねそなえていると好評。またダイソンのドライヤーはスピーディーに髪を乾かせ、様々なアタッチメントも試すことができます。
夕食まで草津温泉をぶらり散策
お部屋でひと段落したら温泉街へ。そぞろ歩きしながら湯めぐりや観光スポットを巡れるのも草津温泉の魅力です。そして、せっかくならお部屋に備え付けの浴衣や作務衣に着替えて散策を。作務衣は、カイハラデニムの生地を織物で有名な群馬県桐生市の「和粋庵(わすいあん)」が仕立てたもの。職人が1枚1枚丁寧に作り上げた逸品は着心地も良く、濃紺のデザインが温泉街によく映えます。
まずは、宿から徒歩約10数分の人気スポット「西の河原公園」へ。広さ約8.5平方kmもの広大な敷地のいたるところから温泉が湧き出ており、湯が川のように流れるという非日常の光景が広がっています。遊歩道沿いには足湯があり、休憩しながらの散策がおすすめ。公園の奥には大きな露天風呂が有名な日帰り入浴施設「西の河原露天風呂」もあります。
公園に向かう途中の西の河原通りと湯滝通りには、温泉まんじゅうや工芸品を販売する土産店・飲食店が並んでいてショッピングも楽しいエリア。お猿の湯もみショーが見られるスポットや、射的場など昔ながらの遊びを体験できる場所もあります。さらにスナックが並ぶ小道もあり、夜は地元の方とお酒を楽しむ観光客も少なくないそう。
そのほか、宿から徒歩約5分の「裏草津」も外せない注目エリア。2021年に新たなスポットが整備され、広場には足湯、手洗乃湯、顔湯が並びます。無料で入浴できる共同浴場「地蔵の湯」の一角には、湯もみ板を備えた大きな貸切風呂(有料)も併設されています。
近くには酸性の泉質を活かして、石に好きな文字や絵を描いて立体的に仕上げる体験ができる施設もあり、旅の思い出作りにぴったり。約1万冊の漫画が読める「漫画堂」は雨の日にも楽しめる観光スポットになっています。
温泉街では珍しい洋食のディナーコース
湯畑のライトアップが始まると、そろそろ夕食の時間。食事の場所はお部屋、もしくは1階「TIGRE(ティグレ)」のどちらかで選べます。シェフの千代田さんは、東京の名だたるレストランで研さんを積んできた経歴の持ち主。地元食材を中心としたスパニッシュ・イタリアンのフュージョン料理をいただけると聞き、どんな食事が出てくるのかと期待で胸が膨らみます。
この日は上州和牛のローストビーフ、赤城鶏のスモーク、谷川の雪サラミ、パテ・ド・カンパーニュ、水上(みなかみ)産ハムといった群馬県産の豪華な盛合わせで晩さんがスタート。ほどよいお肉の塩味がスペイン産カヴァの辛口と相性抜群です。
続いて、お肉がとろけるほどやわらかく煮込まれたビーフシチュー。甘さとコクのバランスが絶妙でお肉の味を堪能できる一品です。
魚料理には、ムール貝、イカ、アサリ、エビといった魚介の旨みが凝縮されたイタリア料理のアクアパッツァが登場。トマトの酸味で全体の味がキリっと引き締まり、オリジナルラベルのハウスワイン(白)と一緒にいただくと、さらに味に奥行きが感じられます。
そしてシェフの自慢のグリル料理で夕食は最高潮に!「当店で扱っているのは、上州牛の中でも特別な上州和牛です。ジューシーなサーロイン、上質なサシの入ったヒレ、赤身のイチボからお選びいただけるだけでなく、お客さまの好みに合わせて食べ比べや量の増減など、細かく対応します」と、千代田さん。
メイン料理は複数から選べ、この日は弾力あるヒレと濃厚なサーロインを食べ比べできる料理をチョイス。トリュフ塩、バルサミコのソース、わさび、粒マスタードでの味の変化も楽しくお肉のおいしさを堪能。まろやかなタンニンと果実味のバランスがとれたハウスワイン(赤)との相性も抜群です。
カップルや夫婦の記念日として利用されることも多い「草津温泉 きむらや」では、事前に伝えておくとデザートプレートにメッセージを添えてくれるサービスもあります。自家製シフォンケーキは砂糖が控えめで、最後に少しだけ甘いものを食べたいという望みに応えてくれるデザートです。
日中とは異なる夜の草津温泉へ
夕食を終えても草津の夜はまだまだ続きます。まだ飲み足りない場合は1階「TIGRE」のバーカウンターへ。ジンやラム、テキーラにスコッチなど、世界各地の蒸留酒を取りそろえています。
夜が深まり外へ出ると昼間とは異なり、湯畑の人影もまばらに。風の吹くままに揺れる湯気が紫、青、黄色にライトアップされ、焚火のように不規則に揺らめく様子は見入ってしまう美しさです。
常に混み合う足湯も夜遅くになれば自分だけのもの。じーんと温まりながら眺める湯畑は幻想的で、気の済むまでのんびりと浸かれるのも湯畑のすぐ目の前に泊まっているからこそ。
お部屋に戻っても、ぜいたくな時間は継続中。暖炉の火を眺めながらお気に入りの音楽に耳を傾けるのは、まさに至福のひととき。老舗のベッドメーカー「日本ベッド」の寝心地は包み込むようにやわらかで、そのまま深く沈み込んでいってしまいそう。「地球に抱かれるって、こんな感覚なのかも」と空想を膨らませなら眠りにつきます。
華やかな朝食で1日をスタート
温泉と美食で英気を養った翌朝、テラスに出てみると町はまだ静けさの中。温かいコーヒーを片手に眺めていると、徐々に朝風呂に入ろうと公衆浴場に向かう人々や開店準備を始める土産店の人々が動き始めていました。草津のにぎやかな1日が始まろうとしています。
テラスの爽やかな風で目が覚めたあとは、朝食タイム。朝食は見た目も華やかなモーニングプレート、もしくは焼き立てのフレンチトーストの2種類から選べます。
モーニングプレートには、栗カボチャやブロッコリーなどその時々の食材で作るスパニッシュオムレツや水上産ハムをはじめ、ご褒美感あるブラッティーナが盛り付けられています。ブラッティーナは、モッツァレラチーズよりもなめらかさがありコクのある味わいが特徴。ライ麦のカンパーニュで自分好みのオープンサンドを作る楽しさも味わえ、ボリュームもたっぷりな朝食です。
一方のフレンチトーストは、群馬県にある岩田養鶏場の卵を1日染み込ませてから焼き上げるという、ひと手間かけたメニュー。しっとりでやわらかな食感に仕上がっており、濃厚な卵のコクが口の中に広がっていきます。
朝の1杯目のドリンクは、メニューの中から好きなものを選べると聞いて、思わずメニューをじっくりと吟味。定番のコーヒー、紅茶はもちろん、スパークリングワインもラインナップされていました。
草津の中心地でプライベートな滞在を満喫
チェックアウトが12時なので、朝食後も温泉に入ったり、近隣のお店で土産を買ったり、光泉寺まで散策したりと、ゆったりと過ごせます。温泉街ではのんびりとくつろぐ猫達に出会い、ほっこりとしたひとときを過ごしました。
1日1組限定だからこそ自分達のペースで滞在を楽しめ、それだけに思い出もより濃密に。実は、建物の目印でもある浅間石はラバストーン(溶岩石)であり、溶岩が冷えて固まってできることから、絆を固めてくれる石ともいわれています。大切な人との仲がより深まり、一緒にいる時間を特別にしてくれる旅にぴったり。次の旅行は草津温泉の中心地で、大切な人と一緒に好きなだけ名湯と湯畑を楽しむ旅を計画してみませんか。
草津温泉きむらや
- 住所
- 群馬県吾妻郡草津町大字草津117-1
- アクセス
- JR長野原草津口駅よりバス(約25分)草津温泉バスターミナル下車徒歩約5分
- チェックイン
- 15:00 (最終チェックイン20:00)
- チェックアウト
- 12:00
- 総部屋数
- 1室
- 駐車場
- あり
※駐車場は宿とは別の場所になります。ご利用の方は予約時に要連絡(駐車場送迎あり)
取材・撮影・文/浅井みら野