世界遺産に登録されている和歌山県「熊野本宮大社」と「熊野古道」。熊野古道を歩いて参拝する方法が注目を集めていますが、ウォーキング初心者でも大丈夫?どこから歩くのがおすすめ?など、分からないことも多いですよね。そこで実際に歩いてみて分かったことをお伝えします。
今から2000年以上前より、日本人が信仰していたといわれる和歌山県「熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)」。京都が都だった時代は貴族だけでなく、法皇や上皇をはじめ多くの人々が参詣しました。当時から利用された道は「熊野古道」と呼ばれ、ユネスコ世界遺産に登録されています。
最近は熊野古道を歩きながら熊野本宮大社を詣でるのが人気。木漏れ日のシャワーを浴びながら、石畳の道を辿り、遠くに大鳥居の姿を見た時の安堵と喜びは何物にも代えがたい経験です。
熊野三山とは?巡り方は決まっている?
和歌山県南部、山が大地を覆い尽くした紀伊半島中央部に位置する「熊野本宮大社」。同じく和歌山県南部に築かれた熊野那智大社・那智山青岸渡寺、熊野速玉大社と併せて「熊野三山」と呼ばれ、熊野信仰の中枢を担ってきました。
この三山を目指す熊野古道は熊野参詣道ともいい、東西、南北、海沿いに合計5本の道が伸びています。総計は約600km以上。熊野三山や熊野古道など紀伊半島を舞台に発展した各スポットが「紀伊山地の霊場と参詣道」という名称でユネスコ世界遺産に登録されています。
特に京都から一番近い熊野本宮大社は、熊野三山を巡る熊野詣の際に最初に目指す場所でした。そこから熊野速玉大社、熊野那智大社で締めくくるのが一般的なルートでしたが、参拝する順番は厳格に決まっていませんので、自分のアクセスしやすい場所から始めて大丈夫です。
世界遺産・熊野古道散策は発心門王子から!
熊野古道で人気のひとつが、「発心門王子(ほっしんもんおうじ)」から熊野本宮大社までを歩くコースです。高低差が他の道に比べると少なく、山の中や民家の間などバリエーション豊かな景色も魅力のひとつ。休憩所が多いのも心強く、何よりゴールが熊野本宮大社なので辿り着いた時の感動もひとしおです。
距離は約7kmで、所要時間は3時間ほど。発心門王子の前にはバス停があり、そこから自分たちで歩くこともできますが、おすすめは熊野古道を知り尽くした語り部さんと一緒に歩くウォーキングツアー。希望の日時を「熊野本宮語り部の会」宛てに電話かFAX、もしくは田辺市熊野ツーリズムビューローが運営するサイトで予約できます。
「熊野古道には神様が祀られている王子(おうじ)と呼ばれる場所が等間隔で設けられ、現在は95ヵ所残されています。平安時代にはそこで和歌を詠んだり、神楽を舞ったりしたんですよ」などと、スタート地点の発心門王子から語り部さんの興味深い解説を聞くことができます。
道中で通過する王子にはスタンプ台もあり、旅の思い出にもぴったり。次の王子まで歩くのが楽しみになります。
熊野本宮語り部の会
道端で色々な世界に触れる熊野古道
発心門王子で道中の安全を祈願してから、いよいよウォーキング開始!熊野詣が盛んになった平安時代には後白河法皇や百人一首の撰者だった藤原定家も通ったと聞き、歴史上の人物と同じ道を歩いていることにロマンを感じます。
時折、道端にはちょこんと鎮座したお地蔵さんが登場。それぞれのお地蔵さんが歯痛や腰痛、それに小児病とそれぞれのお地蔵さんが祀られており、まるで熊野古道は総合病院のよう。持病を癒してくれるお地蔵さんがいたら、ぜひお参りをしてみてくださいね。
他にも、行き倒れになった若い僧の供養塔もあり、いかに熊野詣が生死を懸けた一大イベントだったのかがうかがえます。
初夏の熊野古道は鮮やかな新緑があちらこちらで輝き、瑞々しい気分を味わえます。風にふわふわ揺れる白糸草(しらいとそう)や藤原定家に由来するテイカカズラなど、緑の視界を鮮やかに彩る四季の花にも注目です。夏は木漏れ日、秋は紅葉が垣間見え、冬は杉林の濃緑が際立ちます。
空が広く開けた場所に移ると、何重にも連なった山並みが広がり、開放感も抜群。信仰の道というイメージの熊野古道ですが、周辺の住民にとっては生活を支える道でもありました。地域と共に歴史を重ねた熊野古道には民家の存在も欠かせません。
中間地点の「伏拝王子(ふしおがみおうじ)」は、少し小高い丘に位置する王子で、長い日数をかけて歩いてきた旅人や参拝者が初めて遠くに佇む熊野本宮大社を望めたことから、感激のあまり伏して拝んだといういきさつが残されています。
後半戦に入り、足も少し重く感じてきた頃、 「ちょっと寄り道」と書かれた看板に従い、脇道へ。周辺は木の根っこが縦横無尽に這っていて、今までにない神秘的な光景に出会えます。
脇道は見晴らし台へと続き、その先に待っていたのは熊野本宮大社の旧社地・大斎原(おおゆのはら)にそびえる大鳥居の姿。この地点で残り1kmほど。いよいよゴールを予感させる景色に気持ちも高まります。
整備された石段が目の前に現れたらゴールも間近。平安時代に貴族を中心に流行った熊野詣ですが、江戸時代になると民衆が中心となり再度活気づきます。その際に活躍したのが道の整備を行った紀州藩。滑りやすい草鞋(わらじ)でも歩きやすいよう石を設置し、参拝者たちを後押ししてきました。その恩恵を私たちも受けて、熊野本宮大社に到着です。
やっとの想いで辿り着いた熊野本宮大社
待ちに待った熊野本宮大社のお参り。鳥居をくぐった先に飛び込んでくるのが、無数の旗。熊野信仰の篤さがうかがえ、風と共に旗が揺れる様子は圧巻の一言です。
参道の途中には「祓戸大神(はらえどのおおかみ)」が鎮座していますので、本殿を参拝する前にこちらをお参りします。
ヒノキの皮を積み重ねて作られた檜皮葺(ひわだぶき)の屋根が印象的な熊野本宮大社の社殿。木材本来の色合いが年月と共に風化し、落ち着いた景観に自分の気持ちも静まってくるのが感じられます。社殿はそれぞれの神様をお祀りし、参拝する順序も決まっているので、社務所付近の案内板で確認しておくと安心です。
こちらで頂ける御朱印は4種類(2019年5月時点)。世界遺産15周年を記念した御朱印は2019年いっぱいまで。熊野本宮大社のほか、1889年まで社殿があった大斎原と末社の産田社(うぶたしゃ)の御朱印もあります。
日本サッカー協会のシンボルでも有名な3本脚の八咫烏(やたがらす)。実は日本書紀・古事記に書かれるほど歴史が古く、導きの神鳥として信じられています。熊野三山にも八咫烏のエピソードがあることから、こちらでは本宮勝守(1,000円)にも描かれています。
『ジョジョの奇妙な冒険』で有名な荒木飛呂彦氏がデザインした和の守(おまもり・2,000円)もあり、ジョジョの世界観も味わえる色味が目を引きます。
くまのほんぐうたいしゃ
熊野本宮大社
- 住所
- 和歌山県田辺市本宮町本宮
- 時間
- 6:00〜19:00(社務所などは8:00〜17:00)
- 電話番号
- 0735-42-0009(社務所)
- 駐車場
- あり(無料)
熊野本宮大社と一緒に訪れたいスポット
熊野本宮大社をお参りしたら、徒歩5分ほどの場所にある「大斎原(おおゆのはら)」へ。大斎原は熊野本宮大社が最初に築かれていた場所です。熊野川、音無川、岩田川が合流する中洲に位置しており、その歴史は2000年以上前に遡ります。しかし、未曾有の大洪水が明治時代に起こり、ほとんどの建物が流失。奇跡的に残った上四社が現在の場所に移築されました。
旧社地を訪れると凛とした並木道が続き、その先はぽっかりとした空間が広がっています。1本1本の木々からは生命力がみなぎり、高さ33.9mを誇る日本最大の大鳥居からは力強さが感じられます。
おおゆのはら
大斎原
- 住所
- 和歌山県田辺市本宮町本宮1
大斎原の手前にある「産田社(うぶたしゃ)」の参拝もお忘れなく。御祭神は女性の守り神とされる伊邪那美命(いざなみのみこと)です。
うぶたしゃ
産田社
- 住所
- 和歌山県田辺市本宮町本宮100
熊野本宮大社目の前にある「世界遺産 熊野本宮館」もぜひ立ち寄りたいところです。館内には観光案内所だけでなく、熊野エリアの歴史や文化を紹介する展示エリアがあり、より深く熊野三山のことを知ることができます。
世界遺産 熊野本宮館
- 住所
- 和歌山県田辺市本宮町本宮100-1
- 入館料
- 無料
- 開館時間
- 9:00~17:00
- 休館日
- なし
- 電話番号
- 0735-42-0751
お昼は地元の名産が集まったお弁当を
熊野古道を歩く際に注文したいのが、温泉民宿を営む大村屋さんが作る「熊野古道弁当」。竹の皮を編んだお弁当箱には地元食材を使った滋味あふれるおかず、4種類のおにぎりには高菜で巻いた名産「めはりずし」が入っています。山歩きには、おにぎりがぴったり。お弁当(1,100円・税込)は事前予約制で、同店ホームページからも注文可能。熊野本宮大社など場所によっては配達をしてくれるのもうれしいポイントです。
温泉民宿 大村屋の熊野古道弁当
熊野古道を歩いてみた感想
熊野古道からの景色が山並みや民家、杉林など変化に富んでいたので、飽きることなく歩くことができました。熊野本宮大社という明確なゴールがあり、到着した時の感動はひとしおでした。楽勝とまではいきませんが、普段運動をあまりしない方でも無理せずに、自分のペースを守れば踏破できると思います。サクサク歩けば3時間ほどの道程ですが、語り部さんの話をじっくり聞いたり、写真を撮ったりしてたので4時間半ほどかかりました。
熊野古道周辺のおすすめ宿泊地
熊野古道を歩いて熊野本宮大社にお参りするなら、午前中に出発するのがおすすめです。語り部さんとのツアーも午前中に出発するのがほとんどで、到着してからもゆっくりと周辺を観光できます。この辺りには「湯の峰温泉」(写真)、「川湯温泉」、「わたらせ温泉」と温泉地も複数あり、前泊にぴったりです。
「湯の峰温泉」は、怪我や病を負った者が生き返るほど効果が高いと室町時代の『小栗判官物語』に登場しています。温泉街中央の「つぼ湯」は日本最古の共同浴場といわれ、かつて参拝前にここで身を清めたという湯垢離場(ゆごりば)の歴史があり、世界遺産にも登録されているユニークなスポット。温泉が世界遺産として登録されているのは世界的に珍しく、そのうえ現在も入浴可能という貴重な場所です。
湯の峰温泉 つぼ湯
- 住所
- 和歌山県田辺市本宮町本宮湯峯110
- 風呂の種類
- 男女混浴風呂
- 営業時間
- 6:00~21:30(受付は21:00まで。30分交代制)
- 料金
- 大人770円、12歳未満460円
- 定休日
- なし
- 電話番号
- 0735-42-0074
- 駐車場
- あり
川を中心に旅館が並ぶ湯の峰温泉は、その趣ある風情も魅力的。川沿いには湯筒(ゆづつ)から90℃以上の源泉が湧き、ここで温泉卵やサツマイモを茹でられます。地元の人たちもジャガイモやトウモロコシなど季節の食材を持ち寄り、混雑時はスペースが確保できないほどです。
大変だからこそ熊野古道で訪れたい熊野本宮大社
湯の峰温泉で実際に温泉卵を作ってみたところ、卵の殻がつるんとむけず、意外と苦戦することも。それは、熊野本宮大社への道のりと似ています。実は現代も平安時代と変わらず、長旅を要するのが熊野本宮大社。東京からだと羽田空港から南紀白浜空港に向かい、そこから直通バスでおよそ140分。大阪からだと特急列車で紀伊田辺駅に向かい、そこから路線バスで120分ほど。
距離や時間がかかる分、 訪れる人も限られていたからこそ、熊野本宮大社は昔と変わらない穏やかで柔らかな空気を保ててきました。ぜひ訪れた際は、何千年も人々の願いを聞き、見守り続けてきた神聖な土地に赴いてみてはいかがでしょうか。
取材・撮影・文/浅井みらの
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