大阪からJR神戸線の新快速で約1時間。山陽新幹線も乗り入れる「姫路」駅(兵庫県)にほど近い世界遺産「姫路城」は、姫路市内のどこからでも見える高台に建築された街のシンボル。今回は、その姫路城を歴史や建物にまつわる秘話を観光ガイドに聞きながら親子でめぐりました。
姫路城近くにある広大な日本庭園「好古園(こうこえん)」や、ファミリーでランチにおすすめの姫路グルメが味わえるお店もご紹介します。
姫路城の秘密が解き明かされる!観光ガイド付きツアー
まばゆいばかりに白く輝く、美しい姫路城
姫路城は、1993年12月に奈良の法隆寺とともに日本で初めて世界文化遺産に登録されました。白鷺(しらさぎ)が飛び立つ姿に似ていることから、別名・白鷺城という愛称で親しまれています。
姫路城の正面玄関にあたる大手門。門の前にある内堀には桜門橋がかかり、たくさんの観光客がここを渡って城内に入っていく様子が見えます。
大手門をくぐると、「世界遺産姫路城」と刻まれた石碑が目の前に。奥には緑豊かで広々とした芝生も目に入り、とてもすがすがしい気持ちで入口に到着しました。
ここで前もって電話予約をしていた、姫路城シルバー観光ガイドさんと合流。入場口で待っていてくれました。
姫路城シルバー観光ガイドとは、姫路市シルバー人材センターが1988(昭和63)年から運営する、研修を積んだガイドが姫路城を案内してくれるシステムです(約1.5〜2時間/2,000円)。
パンフレットを手に取っていると、今回案内していただくガイドの白井章雄さんが姫路城の建築の歴史について語ってくれました。
本丸に行くまでの門を、白井さんに一つひとつ説明してもらいながら進みます。門の数は、なんと12門!
12の門は最初の菱の門から「いろはにほ」と名前が付けられた5つの後に、水一門から水六門までの6つが続きます。こちらはその中の、「にの門」。敵から攻められることを防ぐため、門はそれぞれ大きさも違えば造作も違うのだそう。
ほの門を上がったところで白井さんが道を指さし、「これはどう見ても下り坂に見えますよね」と言います。「つまり、この道は下がっているので出口に出てしまうと思い、攻めてきた敵がこの道は間違いだと思い、逆の道に進んでしまうんです」。これは姫路城のトリックで、わざと下り坂に造られているのだそう。
一見するとただの道だと思って通過してしまうようなところですが、白井さんのガイドで姫路城の秘密が暴かれていき、その魅力にどんどん引き込まれていきました。
姫路城の建築の歴史が、石垣によってひも解かれる
提供:姫路市
白井さんいわく石垣にも秘密があり、それは積み方の形式によって建築時期が推定され、史実を実証することができるのだとか。
例えば、姥ケ石(うばがいし)は豊臣秀吉の軍師として知られる黒田官兵衛が管掌していた時代に造作された石垣の一部分と言われていますが、この石には逸話があります。
姫路城の石垣を造るときに城下のお餅焼き屋の老婆が石臼(いしうす)を半分差出したところ秀吉が大層喜んだことで、城下の人々が我も我もと建築資材を差し出したそうです。この姥ケ石は、その老婆が差し出した石であるとされています。
しかし、白井さんによると、「この石の積み方を見ると、実際には初代姫路藩主・池田輝政の時代に造られたものだと分かります。それなのに、なぜ秀吉の時代に造られたと言われるかはミステリーですね」とのこと。
平積みで顔の形に積み上げられているように見える、正面右側の石垣。通称「人面石」とも呼ばれている「鏡石」があります。「上から三段目の石が眉、次が目、その間が鼻、その下が口となっています」と白井さん。睨みを利かし、邪気を払うという呪術的な効果があるのではないかと言われているのだそう。
るの門をくぐった左手にあるこちらの石垣は、よく見ると中央に線があります。
「右側は『野面(のづら)積み』という石垣の積み方で秀吉の時代に、左側は『打ち込みハギ』という石垣の積み方で池田輝政の時代に造られた部分だと史実では言われているんです。右と左で積み方が異なり、その境目がこのように真ん中に線があるように見えるのです」と白井さんは説明します。
ただ眺めているだけでは何の変哲もない石垣なので、ガイドがなければ気づかずに通り過ぎていたでしょう。ほかにも姫路城に隠された話をいくつも教えていただき、どれも初めて知ったことばかりで勉強になりました。
地下1階地上6階の大天守へ
白井さんのガイドを聞きながら、おおよそ40分で大天守に到着。姫路城の最初の城主は赤松貞範とされていますが、今の姫路城の形は池田輝政が1600(慶長5)年に8年の歳月をかけて築いたものだと言われています。
この姫路城は外敵から城主を守る工夫が随所に施されています。そのため1度も城攻めに逢うことなく、その後の戦禍も免れてきれいなまま残されています。かつての城主・池田輝政が実際に過ごしたであろう面影を偲びながら、天守閣の床の上を歩くことができるのです。
大黒柱は、長寿祈願のパワースポット
姫路城を支える2本の大柱(心柱・しんばしら)が地階床から6階床まで全長24.6メートル東西にあり、西大柱、東大柱と呼ばれています。普通の家でいうなら大黒柱ですね。
昭和の大改修により西大柱の3階部分と東大柱の根元部分は柱を接ぎ木されていますが、東大柱の上部は1本の柱から成る大黒柱で建築から400年ずっと姫路城を支え続けています。そのためこの東大柱は長寿のパワースポットとも言われ、柱に手を置いたり抱きついたりするとパワーをいただけるのだとか。
柱もさることながら、梁(はり)も迫力ある逸品。城内の梁に隠された敵から城主を守る工夫や大工達の心遣いなど、興味深い話をたくさんしてくれるので、じっくりとガイドさんの案内に耳を傾けてください。
天守閣の窓からは、姫路市内を一望
天守閣からは姫路市内を一望できます。「創建当時は、天守閣から見える今の姫路駅までがお城の面積に含まれていたんですよ」と白井さん。
天守閣にある刑部(おさかべ)神社は、姫路城の守護神です。姫路城が建てられる前から姫山に祀られていたもので、現在姫路市内に3カ所あります。
ここに祀られるようになったのは、姫路城の天守が完成するころに池田輝政が病に倒れ、その際にある手紙が届いたことに由来します。
その手紙には輝政の症状を回復させる方法として「天守内と『と』の門に刑部(おさかべ)大神を祀る神社を建て、護摩祈祷を行え」と書かれていたのだとか。その通りにすると、一時的に輝政の症状は回復し、以来、刑部神社は天守に残っているのです。
城が美しく撮影できる、ガイドさんおすすめフォトスポット
白井さんがおすすめするフォトスポットが、こちらの西の丸の広場から見た姫路城。「この場所から見える景観は、実は時代劇『暴れん坊将軍』で登場するお城のシーンに使われているのと同じアングルなんですよ」。実際に見てみると周囲に遮るものが何もなく、お城が一番きれいに見えました。
西の丸は出入口付近にあるため、つい見過ごしてしまいそうな場所なのでお見逃しなく。ほかにも城内の随所にある、ドラマや映画の撮影に使われたスポットも教えてもらえました。
姫路城シルバー観光ガイドの随行時間はおおよそ2時間ですが、希望によっては30分や1時間にも調節可能とのこと。土日や祝祭日には、大人数で行くツアー形式のガイドもあります。
ガイドさんと一緒に回れば城内を迷わず効率的に見学できますし、なにより姫路城にまつわる興味深い話が面白く、勉強になります! 「今回はガイドをお願いしてとても良かったね」と、家族みんなが楽しい時間を過ごすことができました。実はこの捨て堀にも、隠された秘密があります。ぜひ実際に訪れて、ガイドさんからその謎を聞いてみてくださいね。
姫路城
- 住所
- 兵庫県姫路市本町68
- アクセス
- JR「姫路」駅より神姫バスで約5分、バス停「姫路城大手門前」より徒歩約7分。JR「姫路」駅より徒歩約15分
- 営業時間
- 9:00〜17:00 ※9〜3月は9:00〜16:00
- 定休日
- 12月29、30日
- 料金
- 姫路城:大人1,000円、小人(小学生〜高校生)300円
姫路城・好古園共通券:大人1,050円、小人(小学生〜高校生)360円
姫路城シルバー観光ガイド:1グループ2,000円(土日祝のみ、定時シルバーガイドツアー 1人500円)
- 詳細
- 姫路城公式ページ
趣が異なる9つの庭園を散策できる「好古園」
四季折々の花を楽しめる、広大な日本庭園
姫路城の出口から歩いて約5分の「好古園(こうこえん)」。約1万坪もの面積を誇る日本庭園で、かつて播磨姫路藩初代藩主・本多忠政の武家屋敷があったと言われる場所に造られています。姫路市制100周年を記念した1992年4月に、約50億円かけて開園しました。
入場口を通るとすぐに、立派な門が見えてきます。これは「屋敷門(薬医門)」という門づくり。薬医門のいわれは、一説には矢の攻撃を食い止める「矢食い(やぐい)」からきたと言われています。
屋敷門の手前には長い土塀が続き、「築地塀」と呼ばれています。映画『るろうに剣心』の撮影でも使われた場所で、庭園内には土塀が1.2キロメートルにも渡ってそびえ立っています。
入口の門から少し歩くと、お屋敷の庭にレストラン「活水軒(かっすいけん)」があります。この中を通って進んで行くと、屋根付きの渡り廊下に続きます。
渡り廊下の下には池が造られ、たくさんの鯉が涼し気に泳いでいました。池の水は姫路城のお濠から引き上げられていて、庭園内のほかの場所でも使われています。
「苗の庭」にある「大賀ハス」は、2000年も前のハスの地下茎を鳥取にある農業試験場から譲り受けて育てられたそうです。
茶室「双樹庵」で一服
庭園内には、お抹茶を味わえる茶室「双樹庵」も。お座敷からは、ここでしか見られない「茶の庭」の景観も一緒に楽しむことができます。
ここではお抹茶と生菓子をいただきました。
涼し気な和菓子をいただき、一服を堪能。お抹茶に生菓子が付いて500円です。
こちらが茶室から眺められる「茶の庭」。好古園内には全部で9つもの庭園があり、それぞれ違う趣があります。時間に余裕をもって、姫路城散策とあわせて訪れたいスポットです。好古園は姫路城とセットになった共通券を使うとお得な料金で入場できますよ。
好古園
- 住所
- 兵庫県姫路市本町68
- アクセス
- JR「姫路」駅より徒歩約15分
- 営業時間
- 9:00〜18:00 ※9月1日〜4月26日は9:00〜17:00
- 定休日
- 12月29、30日
- 料金
- 好古園:大人310円、小人(小学生〜高校生)150円
姫路城・好古園共通券:大人1,050円、小人(小学生〜高校生)360円
ファミリーにおすすめ!姫路城近くで味わう地元グルメ
1975年創業の老舗「はまもとコーヒー」
姫路駅と姫路城を結ぶ、みゆき通りにある「はまもとコーヒー」は、1975年創業のコーヒーショップ。姫路城から歩いて7分ほどの場所にあります。
今回は、姫路名物の「アーモンドトースト」(470円)を目当てに訪れました。このアーモンドトーストの特長は、パリパリ食感のアーモンドスライスがのっているところ。店長の浜本卓弥さんいわく、「ほかの店ではアーモンドを細かく刻んでバターの中に練りこんでいるものが多いんだけど、うちはそのままのアーモンドスライスをふんだんに使っているんです」。
パンは焼き立てをすぐ冷凍することで生地の中に水分を閉じ込め、トーストするとカリカリもっちり食感の焼き上がりに。多い日は何と60セットもオーダーされるのだとか。ほど良い甘さで食べ飽きず、ペロリと食べてしまいました。「はまもとブレンドコーヒー」(450円)との相性も抜群です。
コーヒーだけでなくソフトドリンクにもこだわりが。「オレンジジュース」(650円)は、生のオレンジをなんと2個半も搾って作っているそうです。「このジュース酸っぱくなくて、おいしい!」と、子どもたちはすぐに飲み干してしまいました。
「オーダーを受けてから絞るんで、一度にたくさん注文をもらったときはスタッフみんなで必死で搾らなきゃならないんで大変なんですよ」と、浜本さん苦笑い。
コーヒーゼリーやチーズケーキ、プリンなどのスイーツも手作り。しかも全て無添加なので、子どもに食べさせても安心です。中でも素朴な印象ながら、食べてみるととっても濃厚な「自家製プリン」(380円)が大人気。作れる数が限られているので、売り切れることもあるという一品です。
おしゃべり上手で、客を飽きさせない店長の浜本さん。この笑顔と楽しい会話で、観光客ばかりでなく、地元の人たちから根強い人気があるのもうなずけますね。
はまもとコーヒー
- 住所
- 兵庫県姫路市二階町49
- アクセス
- JR「姫路」駅より徒歩約5分
- 営業時間
- 7:00〜18:00
- 定休日
- 木曜日
お昼だけ営業!姫路名物が一度に味わえる「千姫茶屋」
姫路城から歩いて5分ほど、「はまもとコーヒー」からは4分ほどの場所にある複合文化施設「イーグレひめじ」。この1階にある「千姫茶屋(せんひめちゃや)」は子連れにも優しい、姫路グルメを楽しめるお店です。
オーダーしたのは、おすすめの「しらす穴子そうめん付き」(1,890円)。「太白(ふとしら)」と言われる、新鮮で大振りなしらすだけを使った丼です。
姫路の名物と言えば、姫路おでん。地元では、おでんに生姜醤油をかけて食べます。この由来を店長に聞くと、「昔から生姜の生産が盛んだったことと、漁師さんが生姜醤油をかけて食べてみたらおいしかったことから、姫路では今のスタイルのおでんが広まったんです」とのこと。
さらに、セットには穴子そうめんも。播州名物の手延べそうめん「揖保乃糸(いぼのいと)」をにゅう麺にして、その上に煮詰めた穴子を焼き上げてトッピング。穴子はふわふわで柔らかく、そうめんはお出汁すべてを飲み干してしまったほどのおいしさで大満足でした。
量が多いのでお子様用のしらす丼はないか尋ねてみると、「小分けの取り皿を出しますので、みんなでシェアして食べられますよ」とのこと。家族みんなで姫路グルメを堪能できました!
このどでかい丼。ただ大きいだけではないのです。実は、姫路ゆかりの武将・黒田官兵衛の兜(かぶと)をかたどったものになっているんです。
店内は広々としていて、ファミリーにはうれしい造り。お店は15:00までのランチタイムのみの営業です。
千姫茶屋
- 住所
- 兵庫県姫路市本町68-290イーグレひめじ1F
- アクセス
- JR「姫路」駅より徒歩約10分
- 営業時間
- 11:00〜15 :00(L.O.14:30)
- 定休日
- なし
姫路の新鮮な卵は庶民の味! 姫路通ならここ「たまごや」
卵や鶏肉を使った料理も地元に根付いています。「たまごや」はそれを代表するお店のひとつで、玉子かけご飯の専門店です。姫路城から歩いて約1分、「イーグレひめじ」からは歩いて約4分の場所にあります。
玉子かけご飯を提供するお店が姫路で多い理由を同店の前田遥さんに伺うと、「兵庫は全国でも養鶏場が多いエリア。だから姫路でも、卵や鳥料理がよく食べられているんです」と、教えてくれました。
たまごやの「玉かけめし」(680円・税別)は、直営農場のブランド卵『夢そだち』と、同じく直営農場で育てたお米でいただく玉子かけご飯。卵は産まれて48時間以内に農場から届けられ、鮮度を保つために店内でも冷蔵で保管されているそう。
卵が直営のものなら、醤油にもこだわりが。昆布とカツオの出汁入りで旨味を引き出しつつ、塩分は控えめ。シンプルだけどとても手間がかかった玉子かけご飯をいただいてみると、すいすいと何杯でも食べられてしまいそう。
同店では、生卵とご飯が両方食べ放題!お店で1日に使用する卵の数は、土日だと約360個にも上るのだとか。そのおいしさや人気がうかがえますね。
忘れてはいけないのが、姫路名物の鳥料理「ひねポン」(220円・税別)。姫路では焼鳥屋でも食べられる、ソウルフードです。ひね鳥の肉(鶏肉)を焼いてポン酢をかけたものですが、地元で親鳥のことを「ひね」と言うそうで、そこから名付けられたのだとか。身のしまった鶏肉が素材の持ち味をしっかり包み込み、全体的にはさっぱりとした味ながら噛むほどに旨味が出てきます。
お昼に手軽にひねポンを食べるなら、このたまごやがおすすめ。玉子かけご飯と一緒にオーダーして、名物の卵と鶏肉料理をぜひ堪能してください。
たまごや
- 住所
- 兵庫県姫路市本町68 家老屋敷「は」の屋敷
- アクセス
- JR「姫路」駅より徒歩約12分
- 営業時間
- 11:00〜17:00(姫路城の開場時間に準じる)
- 定休日
- 12月31日、1月1日
姫路城の歴史を探訪し、ご当地グルメを味わう旅はいかかでしたか。姫路城観光シルバーガイドさんと一緒に姫路城や好古園をめぐると、歴史を改めて学びたい大人でも、歴史を勉強し始めたばかりの子どもでも、隠された魅力にぐんぐんと引き込まれていきます。帰りには姫路名物も味わって、姫路の1日をたっぷり満喫してみませんか。
取材・撮影・文/栗原由江