日本三景の一つ、京都・天橋立のほとりに建つオーベルジュ「ワインとお宿 千歳」。運河を望むラグジュアリーな客室でくつろぎ、「天橋立ワイナリー」のオーナーでもある当主が厳選したワインと、丹後の食材を使用した料理のマリアージュに舌鼓を打つ。美酒、美食、そして温泉を堪能した、1泊2日の宿泊滞在記を紹介します。
天橋立のほとりに佇むオーベルジュ
京都駅から特急に乗車し、最短で約2時間。京都丹後鉄道「天橋立駅」より徒歩約3分、飲食店や土産物店が軒を連ねる智恩寺門前町の中ほどに「ワインとお宿 千歳」はあります。
観光客でにぎわう通りから宿の中へ入ると、落ち着いた空間が広がります。この地に江戸時代中期から続く老舗旅館「千歳旅館」を2000年にリノベーションし、ワインと美食を楽しめる温泉宿へと生まれ変わりました。
「まずは最初の一杯を」と、ウェルカムドリンクのロゼワインとスイーツを味わいながらチェックイン。窓からは宮津湾と内海の阿蘇海を結ぶ天橋立運河、そして、天橋立と陸地をつなぐ廻旋橋(かいせんきょう)が見えます。
現オーナーの山崎浩孝さんが経営を継いでから、宿のコンセプトを転換。ワイン好きが高じ、北海道で10年間ワイン造りを学んだ後に京都に戻り、ブドウの苗木を植え始め、「天橋立ワイナリー」を設立。その後「ワインとお宿 千歳」をリニューアルオープンしました。
自身でワインを造る一方、宿ではブルゴーニュワインを中心に自ら現地で買い付けたワインが並びます。その数、なんと約5万本! 日本ではここにしか置いていないワインもあるそうで、ワイン愛好家の舌を唸らせています。
ウェルカムスイーツは、天橋立の名物「知恵の餅」。「三人寄れば文殊の知恵」のことわざで知られる智恩寺門前の四軒茶屋(吉野茶屋・彦兵衛茶屋・勘七茶屋・ちとせ茶屋)で購入できる和菓子で、このお餅を食べれば文殊の知恵を授かると言われています。
運河を望む広々としたスイート「蘇芳」
ウェルカムドリンクをいただいた後は、客室へと向かいます。本館と別館にそれぞれ客室がありますが、本館は1日2組限定。2階と3階の1部屋ずつで、ワンフロア貸し切りのぜいたくな体験ができます。
今回宿泊したのは、2階にある「蘇芳(すおう)」。52.8平米の和洋室で、二間続きのリビングと寝室に分かれています。漆喰(しっくい)の壁や立派な梁、クラシックなインテリアからは趣を感じます。本物の稲穂が埋め込まれた壁など、室内の所々をオーナーとスタッフたちが自ら造り上げたそうです。
和と洋が調和したシックな空間でありながら、自然光がたくさん入る窓や優しい色合いに心地良さを覚えます。
大きなソファが2つ、さらにマッサージチェアと革張りのチェアがそれぞれ配置されており、運河を眺めながら、ゆったりとしたひとときを過ごせます。
天橋立と陸地をつなぐ廻旋橋も窓から見えました。廻旋橋は船が通るときに90度旋回する珍しい橋で、運が良ければ滞在中にその様子を眺められます。窓を開けると、気持ちの良い川の音が聞こえ、爽やかな風が吹き抜けていきます。
寝室は畳の上に2台のシングルベッドが備え付けられています。3〜4名での宿泊の場合は、リビングのソファをベッドにセッティングして対応。
ぶどう柄が描かれた浴衣や小物入れの用意も。朝夕食も浴衣着用のままで大丈夫なので、リラックスした滞在が叶います。
別館は気軽な素泊まりにぴったり
本館の向かいにある別館では、3室限定で素泊まりプランを提供。和洋折衷の20畳のお部屋は、リビングと寝室が二間続きになっています。4名まで宿泊できるので、特にご家族やグループ旅行、観光をメインに楽しみたい方などにおすすめです。
朝晩入れ替え制の2つのお風呂
お部屋でひと休みしたら、さっそく温泉へ。本館2階に、趣向を凝らした2つの浴室が隣り合います。浴室は、部屋ごとの貸切で1日目と翌朝に入れ替え。そのため、それぞれのお風呂を思う存分、入浴できます。
美肌効果が高いと言われる天橋立温泉。しっとりした泉質でお肌に優しく、入浴後はポカポカと温かさが続きます。
向かって入り口の右側にあるのが、「鬼の岩風呂」(内湯)と「露天五右衛門風呂」。「鬼の岩風呂」には、素朴で野趣あふれる味わいの鬼瓦も。
「露天五右衛門風呂」は、熱めとぬるめの2つの浴槽がありました。日中はぬるめにのんびりと浸かり、夜は夜風を感じながら熱めの浴槽へ……ぜいたくな湯浴みを楽しめます。
向かって左側にあるのが、「高野槇桶風呂」(内湯)と「露天檜風呂」。槇や檜が香り、リラックスして入浴できます。
サロンや「天橋立ワイナリー」でワインを堪能
湯上がり後は、ワインを求めて宿泊者専用のワインサロンへ。宿から歩いてすぐの場所にある系列のカフェ「Café du Pin(カフェ・ドゥ・パン)」の店内にあり、チェックイン時にもらえるドリンクチケットを渡すと、「天橋立ワイナリ―」のワインをはじめ、コーヒー、紅茶、ソフトドリンクなどを好きなだけいただけます。
カフェの営業時間である9:00〜18:00の間であれば、チェックアウト後も利用できるので、観光を楽しんで帰る前に1杯楽しむのも良いですね。
せっかくなので、「天橋立ワイナリ―」へも足を延ばしてみましょう。宿から車で約15分、バスなら約25分で到着します。代表取締役専務の藤原邦彦さんがワイナリーを案内してくださいました。
「天橋立ワイナリー」では天橋立を目の前に望む畑で育った、純国産100%の生葡萄(ぶどう)を原料にワインを醸造しています。ワイナリーを囲むようにぶどう畑が広がっていて、畑の広さは合計で約4ヘクタール。現在は約20品種を栽培しています。
国産ワインのメジャーな産地は盆地が多いため、眼前に海、背には山が連なる環境はユニークなのでは?と、藤原さんにお聞きしたところ、「ここは昼夜の寒暖差が大きく、内海で潮風も当たらないため、高品種のブドウ栽培に向いている」とのこと。
近年の気候変動に耐えられるような品種を探したり、阿蘇海に発生している牡蠣の殻を肥料に活用したりと、日々研究と試行錯誤を繰り返しているそうです。
ぶどう畑のほか、瓶詰め室や地下セラーの見学も可能。ワインショップでは天橋立ワインを中心に、海外産の貴重なワインも並びます。
見学終わりには試飲を楽しみましょう。試飲は1杯100円で人気銘柄が並びます。ここでも宿泊者向けの特典があり、客室に置いてあるチケットを持参すると、ワイナリーでしか飲めない発酵途中の赤ワイン「フェダーロータ」や「白ワインソフトクリーム」を味わえます。
「フェダーロータ」は、ぶどう果汁を発酵させて2~5日目のもので、アルコールは2~3%程度。貴重なものなので、ぜひ体験してみてくださいね。
天橋立ワイナリー
- 住所
- 京都府宮津市字国分123
- 営業時間
- [工場見学・ワインショップ]10:00〜17:00
- 定休日
- 水曜日
- 公式サイト
- 天橋立ワイナリー
丹後の旬を活かした創作フレンチとワインに舌鼓
夕食は本館1階のメインダイニングでいただきます。まずはやっぱりワインから、先ほど見学した天橋立ワイナリーの「茜ブラッシュ」で乾杯。甘酸っぱいベリーのようなフレッシュな酸味が口の中に広がります。お料理とのマリアージュはお客様の好みに合わせて提案。天橋立ワイン以外にもブルゴーニュ産のワインなど、さまざまなワインを提案してくれます。
料理は、その日に仕入れる丹後産の食材を使ったコース。フレンチをベースに和のエッセンスを加えた一皿が、次々に登場しました。
はじまりのスープは「ジュンサイ入りメロンのガスパッチョ」。プリンスメロンやマクワウリをブレンドした冷製スープに、ジュンサイを入れた一品。本来、ガスパッチョにはパンを入れてとろみを出しますが、その代わりにジュンサイを組み合わせて食感を楽しめるようにしています。爽やかな酸味とのど越しの良さが夏にぴったり。
前菜の「穴子と鴨胸肉のスモーク 枝豆とグリンピースのムース バルサミコ・モデナ」は、バルサミコにうなぎのタレや山椒を加えた、和を意識したソースが特徴的。フレンチの繊細さはそのままに、スパイスや和の食材を加えることで軽やかな味わいを実現しています。
「伊根産鮮魚のお造り」は、薄口、甘口、3年熟成の3種のお醤油と合わせていただきます。美しく盛られているのは、当日、京都・伊根漁港で水揚げされたクロダイ・スズキ・サワラの炙り。
別皿で、伊根産の岩牡蠣も提供されました。生か焼きを選ぶことができ、生をチョイス。えぐみがなく、マイルドな口当たりで、お好みで紅芋酢と合わせていただきます。
魚料理は「鰆のポワレ 白インゲン豆の軽い煮込み 3種トマトマリネと共に」。旨みが凝縮したソースと合わせて、身がふっくらとしたサワラを堪能します。ほっとするような味わいで、ついつい笑顔に。
肉料理は「京都黒毛和牛フィレ肉のグリル ムサカ風 茄子の煮浸し 青リンゴと赤味噌のソース」。牛肉は一度火を入れて休ませ、再び火入れすることによって肉汁がギュッと中に閉じ込められています。ナスの煮浸しには、出汁とそばつゆを隠し味に入れているそうで、お肉料理なのに重すぎず、身体にスッと入っていきます。
そして、最後に「伊根筒川産蕎麦粉を使ったお蕎麦」が出てきて驚きました。ツルッとのど越しの良い蕎麦は、日本人なら落ち着く味。奇をてらったものではなく、それまでの料理にも和の要素が取り入れられているため、コースの締めとして最高の組み合わせだと感じました。
デザートの「抹茶のティラミス 黒蜜がけ 抹茶ジェラート添え」は、抹茶のティラミスの上にジェラート、自家製羊羹(ようかん)、カカオニブなどをのせた和洋折衷の味わい。
風土を活かした食材×フレンチ×和の魅力にどっぷりとハマり、幸せな気持ちで食事を終えました。
夜の散歩は、ライトアップされた天橋立へ
夕食の後は、夜風を楽しみに散歩へ。7月8日〜10月31日の期間限定で「天橋立砂浜ライトアップ」が開催されており、砂浜や松並木が音楽に合わせて赤や緑、青などさまざまな光の色に変わります。日中のにぎわいとは異なる幻想的な雰囲気の天橋立は、宿泊したからこそ楽しめるぜいたくな空間。そこにいるだけで心がほぐれるのを感じました。
焼き魚がメインの朝食
すっきりと起きた翌朝は、朝風呂を楽しんでから朝食へ。昨晩とは違うお風呂を満喫して、準備ができたらメインダイニングへと向かいましょう。
焼き魚や豆腐、ひじきなどのほか、お米は白ごはんとお粥の2種類が提供されるのが特徴。夕食は刺し身だったのに対して、朝食はカレイの焼き魚。地元の魚を異なる調理方法で味わえるのがうれしいですね。
朝食を味わっていると、廻旋橋が90度回転する様子を見られました! 船が通ると橋が回転するのですが、時間は決まっていないので見られたらラッキー。朝食の時間帯は比較的船の運行が多いようなので、窓の外をチェックしてみると良さそうです。
「ワインを飲みながら、のんびりと過ごしてほしい」
「ワインとお宿 千歳」は、「あじわい」の魅力を食・自然・空間といった形で表現している宿が加盟する「日本 味の宿」グループの一つ。そこで、宿独自の「あじわい」について、宿泊責任者の福村春樹さんに伺いました。
「当館の『あじわい』はやはり、ワインですね。ワインを楽しみに来られるお客様が多いので、さまざまなご希望に応えられるように5万本以上のワインを用意しています。お食事中、またお部屋でのひとときも、お好みをお伝えいただければ最適な一杯をご提案します」
ワイン好きの方は新たなワインに出会えるかもしれない。また、あまり知識がなくても、福村さんをはじめスタッフの方々がいろいろ教えてくれるので、肩肘張らずにワインを楽しめます。
さらに、「当館の本館は1日2組限定なので、別荘のようにゆったりと過ごしてほしいですね。ワンフロア貸切なので、のんびりと羽を伸ばしていただければ」と、笑顔で話してくれました。
チェックアウト後は、周辺の観光スポットへ
チェックアウト前に天橋立土産を購入するなら、「ちりめん問屋」がおすすめ。宿からすぐの場所にある系列店なので、天橋立ワイナリーのワインも豊富にそろえています。丹後ちりめんを使った小風呂敷やポーチなど雑貨類もあるので、思い出の一品を選んでみては。
そしてチェックアウト後は、天橋立でサイクリングを楽しんでみるのはいかがでしょう。潮風を受けながらのサイクリングは爽快! 天橋立までの道中で自転車を借りられるお店がたくさんあります。
また、天橋立を一望できるスポット「天橋立傘松(かさまつ)公園」と「天橋立ビューランド」も外せません。
股のぞき発祥の地「天橋立傘松公園」
天橋立を北側から一望できるのが「天橋立傘松(かさまつ)公園」。股の間からのぞくと天地が逆転したように見える「股のぞき」発祥の地で、ここからの景色は天橋立が天に昇る龍に見えることから、「昇龍観(しょうりゅうかん)」と呼ばれています。海抜130mの高台にあり、ケーブルカーかリフトで展望台まで上がれます。
天橋立傘松公園
- 住所
- 京都府宮津市大垣
- 営業時間
- 9:00~17:00
※時期によって時間が異なります - 料金
- [ケーブルカー・リフト往復運賃]大人680円、小児340円
- アクセス
- 【電車】京都丹後鉄道「天橋立」駅よりバス「傘松ケーブル下」下車
【車】山陰近畿自動車道「与謝天橋立」ICより約15分 - 詳細
- 天橋立へ行こう!(丹後海陸交通)
飛龍観と呼ばれる景色を見られる「天橋立ビューランド」
天橋立を南側から望む山頂遊園地で、こちらもモノレールかリフトで山頂まで登ると絶景が広がります。股の間から顔を出してのぞいてみると、天橋立が天に昇る龍のように見えることから、その景色は「飛龍観(ひりゅうかん)」と呼ばれています。
天橋立ビューランド
- 住所
- 京都府宮津市文珠
- 営業時間
- 9:00~17:00
※時期によって時間が異なります - 料金
- [入園料※リフト・モノレールの往復利用料含む]
大人(中学生以上)850円、小人(小学生以下)450円 - アクセス
- 【電車】京都丹後鉄道「天橋立」駅より徒歩約5分
【車】京都縦貫自動車道「宮津天橋立」ICより約10分 - 公式サイト
- 日本三景 天橋立ビューランド
天橋立の自然に癒やされ、丹後の食材とワインのマリアージュを楽しむ1泊2日の滞在。すばらしいロケーションの中で味わった一杯は記憶に刻まれるはず。次のお休みは、美食と温泉、そしてワインを楽しみにに「ワインとお宿 千歳」に訪れてみませんか。
ワインとお宿 千歳
- 住所
- 京都府宮津市文珠472
- アクセス
- 京都丹後鉄道「天橋立」駅より徒歩約3分
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 10:30
- 駐車場
- あり
撮影/大林博之 取材・文/加藤あやな