「宿を選ぶときの基準は、朝ごはん」「朝ごはんが、旅の楽しみ」という人も多いのではないでしょうか。そんな朝ごはん通ならば、絶対チェックしたい「朝ごはんフェスティバル®2018」のファイナルステージが、2018年11月28日に東京・代々木にて開催。2回のステージを勝ち残った6強朝ごはんが集結し、「朝ごはん日本一」の座をかけた熱戦が繰り広げられました。
調理台には、各地の名産品がズラリ。著名なシェフや料理家が審査員に。
2018年に9回目を迎えた同大会。今回は全国から約1,300の宿泊施設がエントリー。その中から、ファーストステージとセカンドステージを勝ち上がった6宿泊施設<島根県/国民宿舎千畳苑><栃木県/那須温泉 ホテルエピナール那須><三重県/ホテル 季の座><岐阜県/岐阜都ホテル><長野県/白骨の名湯 泡の湯><香川県/小豆島温泉 リゾートホテルオリビアン小豆島>の朝ごはんが、ファイナルステージへと参加しました。
セカンドステージは一品勝負でしたが、ファイナルステージでは各施設二品の朝ごはんを用意します。 調理台の上には、あんこう、伊勢海老、いちごや色とりどりの野菜など、各地の名産がズラリ。その光景からも、各地域の食の豊かさがうかがえます。
決戦の幕が切って落とされ、一斉に調理スタート。最初は、ふだんと勝手が違う調理場に少々戸惑うシェフや調理スタッフも見受けられましたが、そこはさすがプロ。機転をきかせた柔軟な対応で乗り切っていました。また、各施設とも従業員が応援団として参加。地元のハッピをまとい盛り上げたり、影からそっと見守ったりと、応援の仕方はそれぞれですが、どの施設もチーム一丸となりファイナルステージに臨んでいました。
セカンドステージは公募で選ばれた一般審査員が試食と審査を行いましたが、ファイナルステージでは、全日本調理師協会名誉会長・神田川俊郎氏、日本のイタリア料理の先駆者・落合務氏、テレビでもおなじみの料理研究家・浜内千波氏といった、著名な料理の専門家が審査員に。また、楽天株式会社 副社長執行役員 コマースカンパニープレジデントの武田和徳も審査員として加わりました。調理中には、審査員の視察も。各シェフは審査員からの質問に答えたり、料理や食材のこだわりをていねいに説明していました。
日本一の朝ごはんが決定! これまでにないハイレベルな戦いに。
約2時間の調理が終わると、次は試食と審査です。1施設ごと料理が運ばれ、試食と料理のこだわりを発表するプレゼンテーションが行われます。シェフがプレゼンする施設もあれば、調理者以外のスタッフがマイクを持ち、アピールする施設も。
今回の審査は、美味しさはもちろんのこと、視覚的美しさ、コンセプト、朝ごはんとしての適性、地元食材が生かされているかなども、審査項目になります。 そのため、審査員からは素材や調理法だけでなく、普段このメニューをどのように提供しているかといった質問も上がりました。 6施設の試食が終わると、いよいよ結果発表。 審査員の神田川氏は冒頭の挨拶で、「かなりハイレベルな大会。どの料理も、色、形、味のバランスがよく、地域の特色も出ていた。6強に選ばれただけでも、誇らしいこと」とコメント。さて、日本一はどの朝ごはんに…。気になる結果と共に、全国6強に輝いた朝ごはんをご紹介します。
見事、「朝ごはんフェステバル2018」を制し優勝に輝いたのは、「岐阜都ホテル」の朝ごはん。『あゆ雑炊~香ばしい鮎チップを添えて』と『奥美濃古地鶏の朴葉味噌焼き』の二品が、日本一の朝ごはんに選ばれました。
岐阜都ホテルは、日本三大清流のひとつ長良川のほとりに佇みます。雑炊は、この長良川が育んだ鮎と、岐阜のブランド米「根尾米(ねおまい)」を使用。添えられた鮎チップを入れることでカリカリの食感と、鮎の風味や香りをさらに楽しむことができます。
『奥美濃古地鶏(おくみのこじどり)の朴葉味噌焼き』は、ジューシーな地鶏を、くるみを加えた朴葉味噌で焼き上げた一品。炊き立ての白米と相性抜群ですが、海外のお客様には、朴葉味噌をパンにつけたアレンジが喜ばれているそうです。
プレゼンを担当した女性スタッフは、「訪れたお客様にはぜひ、岐阜の豊かな恵みを味わっていただきたい。安心安全な地元の食材にこだわり、岐阜の旨みをぎゅっと詰め込んだ郷土料理を作りました」と、こだわりをアピール。 審査員の方からは「鮎の出汁でとった雑炊は珍しい。鮎の旨みと香りが、広がる」、「鶏肉が香ばしくて美味しい」など、高い評価のコメントを口にしていました。
【大会を終えて】
「地元の食材にこだわり、そのよさを存分に引き出せたことが、よい結果につながったと思います。鮎の雑炊はセカンドステージでもお出ししたメニューですが、その際に一般審査員の方々から『朝食にぴったり』『ほっとできる味』と言っていただきました。その激励の言葉は、ファイナルステージに臨むにあたり大変励みになりました。日本一をいただけたことはとても光栄ですが、同時に身の引き締まる思いです。この賞に恥じぬよう、これからもお客様に満足いただける料理を提供していきたと思います」(岐阜都ホテル 竹中康裕シェフ)
準優勝は、「ホテル 季の座」の朝ごはん。 一品目、『三重の旬材! 地鶏らんらん(卵卵)蒸し』は、地鶏卵にコラーゲンを含ませた出汁卵を蒸したもの。冬は伊勢海老・真珠貝柱・アオサ入りで、夏はウニとサザエの冷静蒸しに特製柑橘ジュレをのせ、見た目も美しく仕立てた一品。和食の名人・神田川氏も、「伊勢海老の出汁がよく出ている。真空調理で手間暇かけているから、旨みが逃げていない」太鼓判を押していました。 二品目の『農家朝獲れ野菜と時季鮮魚の塩煮郷土汁』は、地元農家から買いつけた無農薬野菜と、総料理長自らが市場に足を運び仕入れた魚を使った料理。素材のよさを引き立てるシンプルでやさしい味わいが特徴です。
プレゼン時、総料理長は「塩煮郷土汁は、子どもの頃、野菜が嫌いだった自分に母が作ってくれた思い出深い郷土料理。これを召し上がった常連のお客様に、『ありがとう』と声をかけていただいたこともありました」と、印象深いエピソードも披露。そして、どちらの料理も生産者やホテルスタッフの真心がこもった料理であることを強くアピールしました。
【大会を終えて】
「2年続けてファイルステージに参加ができ、さらに今年は準優勝。いい結果がいただけたことを、とても嬉しく思います。『地鶏のらんらん蒸し』は、お客様から『デザートのように食べてみたい』という一言をいただいたことから、見た目も華やかな料理に仕立てました。また、コラーゲンを入れるアイデアは、女性スタッフの意見から生まれたものです。お客様の声に常に耳を傾け、さらに、スタッフ皆で意識を高めたことで、光栄な結果につながったと思います」(ホテル季の座 中西眞総料理長)
お粥という至極シンプルな料理ながらも、「飽きない」「素朴だけど、印象に残る」など、好評だった「白骨の名湯 泡の湯」の朝ごはんが第3位に。
白骨温泉は、「三日入れば、三年は風邪をひかない」ともいわれる名湯。その温泉水で1時間コトコト炊き上げたのが、泡の湯の朝の看板メニュー『じっくりコトコトまろやか温泉粥』です。まろやかな口当たりと、お米のやさしい甘み、ふっくら艶やかな炊き上がりも特徴です。お粥のおともには、きのこの油炒め、じっくり炊いた花豆、ほどよい甘さに整えた信州みそ、この3品を盛り合わせた『女将の気まぐれ小鉢』。どれも少々濃い目の味づけで、お粥の美味しさを引き立てます。
「この温泉粥は、私が子どもの頃から当たり前に食べてきたもの。お米と温泉水だけで作ったシンプルな料理ですが、からだに根付いているからこそ出せる味。一朝一夕ではまねできない味だと思います」と女将。その言葉からも、伝統を受け継がれてきた、とても奥深い料理であることがうかがえます。審査員からは、「家庭的だけど、まねできない」「ぜひ、ずっと残してほしい」と激励の言葉がかけられました。
【大会を終えて】
「独特の甘みやまろやかさは、普通の水では引き出すことができません。白骨の温泉水でないと、作ることができないお粥です。特別なことは何もしていない極々シンプルな朝ごはんですが、お客様に美味しく味わっていただきたいという思いを込めて、毎日作っています。審査員の方からも、『心がこもっている』『印象に残る』というお言葉をいただけたのは、気持ちが伝わったからではないかと思います。『温泉水』も、生きものです。時間が経つと劣化をしてしまうため、このお粥は現地で食べていただくのが一番です。ぜひ、白骨温泉に足を運んでいただき、温泉を舌でも堪能してください」(白骨の名湯 泡の湯 小日向眞紀子女将)
4位に選ばれたのは、島根の滋味に富んだ「国民宿舎千畳苑」の朝ごはん。山陰地方の名物「ノドグロ」を炙ることで脂の旨みを引き出した、『ノドグロの炙り朝寿し』は、一貫はしょうゆ、もう一貫はレモンでさっぱりといただきます。
二品目は、『浜田あんこうの道具汁、芋煮仕立て』。宍道湖で採れたシジミで出汁をとり、つみれにした浜田のあんこう、津和野(つわの)の里芋といった、島根の名産を椀に閉じ込めた栄養満点の一品です。
「あんこうもノドグロも、名産品ながら地元・浜田では日常的には食べられていません。私たちの料理が、地元の人にも浜田の食材の魅力を再発見してだく機会になれば嬉しい」と、料理に込めた思いをプレゼンで語りました。
審査員は、「あんこうのぷるぷるとした食感がいい」「ノドグロは、炙ることで香ばしさや香りがよく引き出されている」とコメント。また「シジミが入っているのがいい。お酒を飲んで少々疲れ気味の胃にも、やさしい」と、旅先の朝ごはんとしての適性も評価していました。
【大会を終えて】
「私どもは、2018年の4月に新たなスタートを切ったばかりの施設です。そのため、準備万全とは言い難い状態での挑戦でしたが、それでもファイナルステージに進めたことは嬉しく思っています。この大会に参加するにあたり、改めて『朝ごはん』と真剣に向き合いました。お客様は朝ごはんにどんなことを求めているか考え、学んだことは、今後の日々のサービスにも生きると思っています。私どもと同運営元の『 淡路島洲本温泉 海月舘』は、2017年の朝ごはんフェスティバルで準優勝をしています。来年は、その記録を超える『日本一』を目指し、再びチャレンジしたいと思っています」(国民宿舎千畳苑 スタッフ)
第5位は、「小豆島温泉 リゾートホテルオリビアン小豆島」の朝ごはん。
一品目は、島鱧(しまはも)の出汁にガラ海老を加え、小豆島の味噌と醤油で味を調えた『島鱧・せとうち海鮮味噌汁』。オリーブオイルを入れていただくと、まろやかな風味が楽しめます。
二品目の『カリッとモチっと♪小豆島ガレット』は、特産のそうめんに、魚の切り身、ちりめん、刻み野菜、オリーブオイルなどを混ぜ合わせ焼き上げた料理。表面はカリッ、中はモチッとした触感が魅力です。小豆島のそうめんは約400年の歴史があり、豊かな風味と弾力が特徴。ガレットのそうめんには、小豆島そうめんに加え、梅を練りこんだ梅そうめんや、オリーブの葉の粉末を練りこんだオリーブそうめんも用意。「そうめんの弾力があり、とても弾力があって美味しい」「食感がいい」と、審査員にも高評価でした。
今回は、食材はもちろんのこと、プレートやカトラリーにも島の名産・オリーブを活用。また、箸休めに用意されたオリーブの塩漬けの横には、「見つけると幸せになれる」と言われるハート型のオリーブの葉をさり気なく添え、小豆島の魅力を全面でアピールしました。
【大会を終えて】
「3年連続のチャレンジになりますが、今回は過去最高の5位。この結果を通して、多くの方に小豆島の食材に興味を持っていただき、足を運んでいただければと思います。大会に参加するにあたっては、毎回、社内プレゼンを行ったり、話し合いもしていますが、そのたびにスタッフの士気や団結力も高まっています。『次こそは日本一に!』という思いがあるので、来年もまた挑戦したいと思っています」(小豆島温泉 リゾートホテルオリビアン小豆島 スタッフ)
第6位の「那須温泉 ホテルエピナール那須」の朝ごはんは、6強の中で唯一、洋食でのエントリー。 美容や健康にも配慮した、女性に嬉しいメニューで挑戦しました。
地元の牛乳と生クリーム、ほうれん草のピューレを使った『大地の恵み♪ほうれん草のチャウダー』は、約30種類もの野菜を加え、見た目も鮮やかに仕上げました。体温がまだ低い朝のからだを、内側からゆっくりと温めてくれる一品です。
『いちごのフレンチトースト』は、食パンを栃木の名産、いちごの果汁に丸2日間漬け込み焼き上げたメニュー。那須高原の素材で作られたミルクソースを、とろりとかけて。
チャウダーは約71kcal、フレンチトーストは約150kcalと、カロリー過多にならないよう計算されている点もポイント。浜内氏からは、「栄養のことをしっかり考えているのが、素晴らしい。これならば女性でも、罪悪感がなく食べられる」と称賛の言葉が伝えられました。
プレゼンでは、「これから観光に出かけるお客様には、野菜たっぷりの朝ごはんを食べ、元気に1日をスタートしてもらいたい。そして、元気に栃木の観光地へ出向いていただき栃木県の魅力をたくさん知っていただきたい」とコメント。お客様にヘルシーな料理を提供することで、栃木の観光発展をサポートしたいという思いをアピールしました。
【大会を終えて】
「地元・栃木の食材をアピールしたいという思いから、栃木の名産であるいちごをたっぷり使ったフレンチトーストと、地元の野菜や牛乳を使ったチャウダーを作りました。今回のメニューは、1日の始まりの朝食だからこそ、栄養や美容も意識して食材を選んでいます。審査員の方々には、その点も評価していただけたことを嬉しく思っています」(那須温泉 ホテルエピナール那須 吉田拓朗シェフ)
今回ご紹介した朝ごはんは、すべて各宿泊施設で提供されています。皆さんもぜひ、ベスト6に選ばれた朝ごはんを味わいに、旅に出かけてみませんか?
取材・文/柿沼曜子