提供:ことりっぷ
大正から昭和の時代にかけ作家として活躍した大佛次郎氏の別邸を利用した「カフェ大佛茶廊(おさらぎさろう)」が、週末限定のカフェとしてオープンしています。約300坪という広大な敷地に建つ茅葺屋根の大きなお屋敷に美しく手入れされた芝生の庭が広がり、その向こうには桜や松、モミジなどの木々が季節の彩りを添えます。古都鎌倉の情緒に触れられる茶廊をご紹介します。
鎌倉を愛した文化人がのこした風情にみちたお屋敷
黒塀で囲まれた「旧大佛次郎茶亭」の門
鶴岡八幡宮にほど近い静かな住宅街にある大佛次郎氏の別邸は、大正8年に建てられ関東大震災も被害を受けることなく100年以上もの間、訪れる人々を温かく迎え入れてきました。現在は「旧大佛次郎茶亭」として(一社)大佛次郎文学保存会が受け継いでいます。
数寄屋造り風の屋敷
大きなお屋敷は茅葺屋根の葺き直しを含めて約1年間かけて改修し、往時のままの景観を保っています。どっしりとしたつくりで屋根の上には芝棟をほどこしてアヤメ科の球根を植えています。これは大佛氏のエッセイ「屋根の花」に描かれている芝棟を愛でるシーンにあやかったのだとか。
炉を切った茶室で触れる文化人の日常とやさしさ
東側の茶室からの眺め
茶室が2つあり、東の茶室からは梅の木、西の茶室からは藤棚越しに庭をのぞみます。客人をもてなすのが好きだったという大佛氏は、時に茶の湯をいそしみ、またある時は庭の景色を眺めながら気の置けない仲間と風情あるひと時を過ごしたと伝えられています。
在りし日の大佛次郎氏の写真
庭には松やモミジといった伝統的な日本庭園の樹木に加え、大佛氏が花屋で偶然出会い心惹かれた植物も調和よく配されています。形式にとらわれない自由な植栽からは、自然への深い愛着と大佛氏の温かなお人柄が垣間見えます。
ゆったりと過ごせる和室
茶の匠が選ぶ一服と季節を映す上生菓子
「雪ノ下抹茶」(1,700円)
週末はこの2つの和室を「カフェ大佛茶廊」として開放しています。抹茶とのセットでは鎌倉の老舗和菓子店「美鈴」の上生菓子が楽しめます。抹茶は裏千家の大宗匠がお好みの「松柏(しょうはく)」、お菓子は鎌倉の四季の美しさを表現したような季節感あふれる逸品。静かな和室でゆっくりといただく贅沢なひとときです。
取材時のお菓子は鎌倉の紅葉を思わせる華やかなきんとん
「おさらぎブレンド」と称したオリジナルブレンドのコーヒーとともにスイーツもいただけますよ。芝生を敷いた庭には縁側から出て散策できるので、オーダーを待つ間にひと巡りするのもおすすめです。
「ソフトドリンク&ケーキセット」(1,700円)ケーキは「魔法使いのリンゴのケーキ」
かわいいネコの物語との出会いにほっこり
ほほえましい物語「スイッチョねこ」
ネコ好きだったことでも知られる大佛氏は生涯の中で500匹ものネコを飼っていて、ネコを題材とした絵本「スイッチョねこ」も出版しています。その心温まるお話しからは、文学の印象が強い大佛氏の意外な一面を知ることができます。
門にかけた看板にも猫のイラスト
和室に座るだけでもほっと心が和む「カフェ大佛茶廊」。由緒あるお屋敷でのんびりとしたひと時を過ごしてはいかがでしょうか。
文:高橋茉弓