提供:ことりっぷ
平安時代から風光明媚な景勝地として知られてきた嵐山。天皇や貴族たちは、舟遊びを楽しみ、秋の夜には月を愛でました。この秋は、賑やかなメインストリートを離れて、昔ながらの野趣あふれる嵐山の自然美をたっぷりと満喫してみませんか。
水辺の秋景色を楽しむ、渡月橋から始まる桂川さんぽ
嵐山を訪れる誰もが目にする風景といえば桂川とそこに架かる渡月橋。鎌倉時代に川で舟遊びを楽しんでいた亀山天皇が、「月が橋を渡っているようだ」と讃えたことから、渡月橋と呼ばれるようになったそう。天皇お墨付きの美景を堪能したら、川の遊歩道に沿って上流へと向かいましょう。
美しい嵐山の自然のなかで日本の美術と文化を発信「福田美術館」
江戸時代から近代にかけての京都画壇の作品を中心に、約1800点を収蔵する「福田美術館」。館内は伝統的な京町家のエッセンスを取り入れ和を意識した空間になっています。貴重なコレクションをしっかり守るという覚悟を込めて、展示室は「蔵」をイメージして設計しているのだとか。
館内の廊下から外を眺めると、美術館敷地内の水鏡(浅い池)から風景が途切れることなく桂川、そして対岸の嵐山へと広がる様子を見ることができます。
この秋の特別展は、2023年10月18日~ 2024年1月8日まで嵯峨嵐山文華館と共同開催され、伊藤若冲や葛飾北斎をはじめ、愛らしい動物画を描いた長沢芦雪らの江戸絵画の魅力を紹介しています。
「福田美術館」のミュージアムカフェでは、展覧会の余韻と嵐山の風景に包まれて、季節替わりのオリジナルパフェをいただきましょう。渡月橋ビューのカウンター席は、ほっとひと息つけるおすすめの場所です。
秋色に包まれた庭園と命が宿り燃える朱色の襖絵
苔むす獅子岩は仏の強さと威厳を象徴(左)
「宝厳院」は、室町時代に創建された天龍寺の塔頭寺院。紅葉に覆われた参道にたたずむ茅葺門をくぐり境内へ。「獅子吼(ししく)の庭」は江戸時代のガイドブック『都林泉名勝図会』にも紹介された歴史ある名庭で、仏の教えを声高らかに説く堂々たる獅子岩は見逃さずに。
本堂の襖絵『風河燦燦三三自在』には観音様が変化した33人の老若男女が。朱色と群青の対比が印象的です。
燃え盛る紅葉が野趣あふれる夜のライトアップもぜひ。夜の境内をそぞろ歩きしてライトアップを満喫しましょう。
嵐山の彩色を映し出す幽玄の美「まる窓の部屋」
嵐山祐斎亭の名を広く知らしめた「まる窓の部屋」。嵐山の風景を望む丸い窓が3つ、ポンポンポンと並ぶ。机に映る丸い形のリフレクションも斬新
桂川のさらに上流へ向かうと、水の色は深い翠色に、人影はまばらに。川岸を離れ、山道を登り始めると2~3分で「嵐山祐斎亭」に到着します。山からのアングルと、趣向を凝らした仕掛けで嵐山の大自然が実感できる人気の映えスポットです。
祐斎さんは、黄櫨染(こうろぜん)という天皇だけが着られる染技法の研究家として知られている大家。ギャラリーには多彩な作品が展示され、染色体験もできる
こちらは染色作家・奥田祐斎さんの染色アートギャラリーを一般に公開した施設。約150年の歴史を紡ぐお屋敷には、料理旅館時代に川端康成が滞在し『山の音』を執筆した部屋も。
「お抹茶とお菓子」1000円は絶景テラスで。添えられたお菓子は嵐山老松の「御所車」
「まる窓の部屋」はもちろん、水盤に波紋を作りゆらめく風景を楽しむ「水鏡」、山の斜面に設けられた縁側「絶景テラス」など、嵐山の自然と愉快に遊べる仕掛けがたっぷりあります。
錦の紅葉に覆われた「嵐山祐斎亭」の絶景テラスで保津川下りの舟を発見。山と水辺の風景が一度に見られるのが嵐山の醍醐味です。
「嵐山祐斎亭」はシーズン中は予約制になります。必ず事前に公式HPやSNSを確認しておでかけしてくださいね。
祐斎亭を後にしたら、そのまま山道を登り嵐山公園へ。展望台からは保津峡を走るトロッコ列車や、保津川下りの舟が見えることもあります。
昭和の大映画スター大河内傳次郎の愛した庭園
山荘の中心となる大乗閣。寝殿造、書院造、数寄屋造、民家という日本の住宅様式をすべて取り込んだスタイル
続いては、京都らしい秋の風情を味わえる「大河内山荘庭園」をご紹介。静かな落ち着きのある日本庭園をそぞろ歩きしましょう。
山荘のはじまりは、大河内傳次郎34歳の1931(昭和6)年のこと。百人一首で有名な小倉山(亀山)の雄大な風光に魅せられ、まず仏様を祀る小さな持仏堂を建立。以降、64歳でなくなるまでの30年間、庭師とともに創造に明け暮れ、丹精込めて優美な庭園を造りあげました。園内には、その活躍をパネルなどで展示する資料館もありますよ。
高台にある東屋からは、東山の峰々が一望できます。真正面にそびえる霊峰比叡山は、朝や夕方に、その姿が七色に変化するのだそう。
もっとよりみち
広大な山荘を出れば、どこまでも続く竹林が迎えてくれます。背の高い竹に囲まれた「竹林の道」は約400mのさんぽ道。葉ずれの音や、重なりあう枝葉からこぼれ落ちる木漏れ日が美しいです。
さらに竹林の道を進むと、「天龍寺」の北門が見えてきます。ここから天龍寺に入り、「天龍寺篩月」で精進料理を味わってみませんか。また、天龍寺に入らずそのまま進むと、源氏物語の舞台にもなった「野宮神社」の黒木の鳥居が平安時代そのままの姿でたたずんでいます。
【後編】では、嵐山の美景を眺めながらひとやすみできるカフェやごはん処をご紹介しますので、楽しみにしていてくださいね。
文:戸塚江里子、写真:小川康貴、編集:ことりっぷ編集部