提供:ことりっぷ
金沢の繫華街・香林坊と金沢21世紀美術館がある広坂をつなぐ百万石通り。この通りには、観光客をもてなす飲食店だけでなく、センスの光るインテリアショップや古くからある美術商、私設のアートミュージアムなど、感性を刺激するスポットが軒を連ねています。2021年、そんな百万石通りに誕生したブティックホテル「香林居(こうりんきょ)」は、宿泊施設でありながら様々なコンテンツを持つ、コンセプチュアルなホテルとして金沢の中心地に新たな風を吹かせました。
生まれ変わった工芸ギャラリーのビルディング
「香林居」は、九谷焼やガラス食器、漆器などを扱う「金沢眞美堂」が元々店舗やギャラリーなどとして使用していたビルで、老朽化に伴い建て替え案も浮上する中、大規模な改修により新たな価値を携えてブティックホテルとして誕生。特徴的な外観を構成する窓のアーチ飾りはそのままに、そこから着想を得たアーチが館内のそこかしこに施されています。
歴史を紐解いたコンセプト
その昔、薬種商の婿養子となった香林坊という名の僧侶が、前田利家に目薬を処方し目の病を治したという逸話があり、現在の香林坊という土地の名はそこからきているとされています。「香林居」では、その逸話を元に「新しい金沢時間を処方する」というコンセプトを立て、当時の目薬のつくり方“蘭引き”の現代の形である蒸溜や、僧侶の修行の一つでもある瞑想を体験できるアイソレーションタンクをホテルのコンテンツとして取り入れています。
開放的なサウナで眺めと香りを楽しむ
蒸溜機にて石川県の霊峰白山で採れた植物から抽出した精油は、客室のアロマディフューザーとして使用される他、屋上に備えられたルーフトップサウナ(宿泊者以外の予約利用可)のロウリュ水としても利用されます。アクセスの良さから街めぐりを楽しむことはもちろん、金沢の街を眺めながらホテル内でおこもりステイを満喫するというのも、豊かな時間の使い方なのかもしれません。
金沢ならではの台湾粥で一日をスタート
いわゆる金沢らしいとされる和のテイストや、どこかの国の様式を模したものではなく、香林坊という地を歴史と現代の目線で捉えた空間デザインも「香林居」の魅力の一つ。モダンでありながら、古き良き建築の趣が感じられる造りになっています。そういった館内の雰囲気やコンセプトとの相性を考え、同館の食事としてチョイスされたのは台湾料理でした。
地下レストラン「karch」では宿泊者向けに東洋医学思想をベースとした台湾粥の朝食を楽しむことができます。台湾料理といえども、地元で愛される豆腐店や醤油蔵で仕入れた調味料を使い、加賀野菜を取り入れた、石川ならではの薬膳粥。朝から贅沢な気分を味わえるコース形式なのも嬉しいポイントです。ランチは宿泊客以外でも予約できるため、旅行中の1軒として組み込むこともできます。
部屋からは地元の人でも知らない香林坊の表情を
香林坊という中心市街地に立っている「香林居」では、部屋からシティービューを堪能できます。大通りに面し繁華街の賑わいを感じながら、赤レンガ造りの旧学校施設を利用した石川四高記念文化交流館や金沢城公園の緑をゆったりと眺められるハイフロアスイート(ビュー)は、同館が自信をもっておすすめするひと部屋。JIL SANDERのウィメンズデザインチームに所属した経験をもつ「HARUNOBUMURATA」デザイナー・村田晴信氏が手がけた館内着や、石川県小松市「錦山窯」に別注した茶器など、細部にまでこだわった空間が旅の疲れを癒します。窓際に備えられたバスタブに浸かって眺める街の夜景や静かな朝の景色は、金沢の旅の思い出として深く心に刻まれるはずです。
緻密に考えられたコンセプトと、それに沿って選ばれた「香林居」ならではのコンテンツ。はじめての金沢旅ではもちろん、金沢へ何度も訪れたことがある人にとっても新たな発見ができるホテルステイを、ぜひ体感してみてください。
文:西川李央 写真:山本哲朗