公開日: 2023/06/27
「10年に一度の逸材」と呼ばれ、瞬く間に市場を席巻した人気のぶどう、シャインマスカットのように、末永く愛されるヒット品種を―。次世代のスターを生み出そうと奮闘する、日本の農林水産の舞台裏を訪ねます。今回は、全国に100種以上もあるというご当地サーモンのなかでも唯一無二の存在を求めて、山梨県の名水の郷へ。
山梨県水産技術センター 忍野支所の研究員、平塚匡さん。手にしている富士の介は、実際に市場に流通するサイズの2.5キロ~3.0キロほど
ご当地サーモンの最高峰!
キングの血を継ぐ気品ある味わい
「キングサーモンを父にもつ『富士の介』のおいしさは、もう圧倒的です。でも、それは僕らの主観に過ぎないのかも・・・と不安でした。そこで客観的な試験を実施したんです」。山梨県水産技術センター 忍野支所の研究員、平塚匡(ひらつかただし)さんはそう振り返ります。
近年、ご当地サーモンとして盛り上がりを見せる地域ブランドのサケ・マスの養殖。なかでも富士の介は、父親が別格の、世界でも唯一無二の存在です。
近年、ご当地サーモンとして盛り上がりを見せる地域ブランドのサケ・マスの養殖。なかでも富士の介は、父親が別格の、世界でも唯一無二の存在です。
上/富士山のふもとにある忍野支所の飼育池では、富士の介のほかに交配親のキングサーモンやニジマスも飼育している 下/ミネラルウォーターの出荷も盛んな山梨県。富士山麓の地下水を汲み上げて利用している飼育池の水温は12℃前後。その中を富士の介が悠然と泳いでいた
キングサーモンは、その名の通りサケ・マス類のなかで大きさ、味わいともに最高クラスながら、淡水飼育では大きくならず、警戒心が強くて繊細。国内では、研究目的以外ではほとんど飼育されていません。
この養殖が非常に難しく、かつ希少なキングサーモンと、養殖に向いているニジマスをかけ合わせようとする世界的にも前例のない挑戦は、2007年に始まりました。
足かけ12年、出荷開始直前の2017年に成分分析で明らかになったのは、富士の介が、養殖の大型ニジマスと比べてうまみを感じるアミノ酸を多く含むこと。さらに、専門家たちによる食味評価でも、うまみ、脂のり、舌ざわりなど、すべての項目でニジマスを上回る結果が出ました。
この養殖が非常に難しく、かつ希少なキングサーモンと、養殖に向いているニジマスをかけ合わせようとする世界的にも前例のない挑戦は、2007年に始まりました。
足かけ12年、出荷開始直前の2017年に成分分析で明らかになったのは、富士の介が、養殖の大型ニジマスと比べてうまみを感じるアミノ酸を多く含むこと。さらに、専門家たちによる食味評価でも、うまみ、脂のり、舌ざわりなど、すべての項目でニジマスを上回る結果が出ました。
飼育池でニジマスにエサをあげる平塚さん。ニジマスは食欲旺盛で、エサを求めて水面近くでバシャバシャと音を立てていた。これが警戒心の強いキングサーモンになると、水面に出てきてもすぐにまた水中深く潜ってしまうのだという。繊細で飼うのが難しいキングサーモンと、エサをよく食べて育てやすいニジマスから生まれたハイブリット種が、富士の介だ
「名前負けしてないぞって、心底ほっとしました。僕の前にも多くの研究員がバトンをつないで取り組んできた魚ですから。客観的な数値が得られて本当によかった」
その後の試験では、チリやノルウェーで海面養殖された輸入サーモンに比べて、脂のりは控えめである一方、うまみが強く、魚本来の味が濃厚であることもわかりました。
「日本人好みの、食べやすい上品なおいしさです。なめらかな、きめの細かい口あたりも最高」と平塚さんも自信を見せます。山梨の清らかな水で育つために臭みがないのも魅力です。
今は毎日のように養殖業者のもとへ通い、飼育指導に奔走する平塚さん。「ぶどう、桃に続く山梨の名物になる日が夢なんです」
その後の試験では、チリやノルウェーで海面養殖された輸入サーモンに比べて、脂のりは控えめである一方、うまみが強く、魚本来の味が濃厚であることもわかりました。
「日本人好みの、食べやすい上品なおいしさです。なめらかな、きめの細かい口あたりも最高」と平塚さんも自信を見せます。山梨の清らかな水で育つために臭みがないのも魅力です。
今は毎日のように養殖業者のもとへ通い、飼育指導に奔走する平塚さん。「ぶどう、桃に続く山梨の名物になる日が夢なんです」
平塚さんが「この子はとてもきれいな姿をしています」と選んでくれた、富士の介。背中は高級感ある金色で、腹の中ほどは淡い藤色を帯びている
PICK UP! >> 富士の介
山梨県水産技術センター 忍野支所で生まれた「富士の介」。キングサーモンのおいしさとニジマスの育てやすさという、交配親のそれぞれのよいところをあわせ持つ。同一条件下で実施した成分分析で、うまみに関係するアミノ酸(アスパラギン酸とグルタミン酸)が、ニジマスよりも約1.6倍も多く含まれていることが明らかになった。公募で選ばれた名前は、キングサーモンの和名マスノスケと最高峰・富士山に由来する。
SPECIFICATION
品種/富士の介
育成地/山梨県
出荷開始/2019年
交配/キングサーモン × ニジマス
育成地/山梨県
出荷開始/2019年
交配/キングサーモン × ニジマス
山梨県で「富士の介」を食べるなら・・・
山梨県内の複数の飲食店やホテルでいただくことができる富士の介。なかでもおすすめのひとつが、県東部の小菅村にある分散型ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」だ。源流懐石「24sekki」では、旬のもの、地元のもの、村の小規模生産者が作った食材にこだわり、昔ながらの暮らしの暦「二十四節気」にならって、2週間ごとに異なる年間24のコース料理を提供。もちろん富士の介も、村内の養殖業者が丹精込めて飼育したものを使用している。
NIPPONIA 小菅 源流の村
多摩川の源流に位置する、人口700人の小菅村全体をひとつのホテルに見立てた分散型ホテル。歴史ある古民家を改修したオーベルジュやヴィラに滞在し、徒歩圏内にある温泉、サイクリングやハイキング、村人の案内で出かける散歩など、思い思いに過ごしながら山里の暮らしや文化、森林や源流の豊かな恵みにふれることができる。
TEL/0428-87-9210
山梨県北都留郡小菅村大久保3155-1
※完全予約制
※季節ごとにメニューが変わるため富士の介が必ず提供されるとは限りません。ご予約時にご確認ください
TEL/0428-87-9210
山梨県北都留郡小菅村大久保3155-1
※完全予約制
※季節ごとにメニューが変わるため富士の介が必ず提供されるとは限りません。ご予約時にご確認ください
山梨県で「富士の介」を見るなら・・・
山梨県水産技術センター 忍野支所のすぐ隣にある「森の中の水族館。」、ここでは生きている富士の介を見学することができる。ニジマス、アマゴ、ヤマメ、イワナなどの淡水魚の生体展示が充実しており、山梨県の水産業や養殖魚について楽しく学べるコーナーも。とりわけ二重に仕切られた大型の回遊水槽の中を泳ぐ大小さまざまな川魚は壮観。
森の中の水族館。
山梨県立富士湧水の里水族館
山梨県立富士湧水の里水族館
透明度の高い富士の湧水を使った、日本有数の淡水魚専門の水族館。毎週日曜日にはエサやり体験も開催。
TEL/0555-20-5135
住所/山梨県南都留郡忍野村忍草3098-1 さかな公園内
開館時間/7月~9月 9:00~18:00、10月~6月 9:00~17:00
定休日/火(祝日の場合は翌日)、12/28~1/1
料金/大人420円、小中学生200円、幼児無料
TEL/0555-20-5135
住所/山梨県南都留郡忍野村忍草3098-1 さかな公園内
開館時間/7月~9月 9:00~18:00、10月~6月 9:00~17:00
定休日/火(祝日の場合は翌日)、12/28~1/1
料金/大人420円、小中学生200円、幼児無料