提供:テレビ静岡
歴史好きが県内外から訪れる静岡・掛川市の「高天神城跡」は戦国時代、武田と徳川が激しく争った山城です。「難攻不落の名城」と言われた城の跡で、見どころがたくさん!上手に攻略できるおすすめコースをご紹介します。
「搦手門」からいざ登頂
高天神城があるのはJR掛川駅から南に直線距離で約8km。遠州灘を南に臨む山稜地帯です。
今回は高天神城の案内ボランティア・大石鐘邇さん、小林佳志郎さん、藤田さと子さんに、おすすめルートを案内してもらいました。
小高い山にある城跡へ向かうには「搦手門(からめてもん)」と「追手門(おってもん/おうてもん)」を通る2つのルートがあります。
案内ボランティアの小林さんによると、大型バスや観光で来る人におすすめなのは搦手門。今回は近くに駐車場とトイレがあり、階段のある搦手門からスタートしました。
搦手とはどんな意味なのでしょうか。
大石さんによると、表門に対して裏門という意味があるそうです。さらに、襲来した敵を絡めとるという意味も持つそうです。
搦手門から階段を登っていきます。なかなか登りがいのある階段で、カーブになっている箇所もありますが、しっかりと整備されています。
スズメバチ注意の看板がありました。この時期は虫よけスプレーもお忘れなく。
取材時は平日の午後でしたが、3組ほど探索している人たちと出会い、一定の人気がうかがえます。
途中、三日月の形をした「三日月井戸」がありました。
詳しくはわかっていませんが、山に降った雨水が井戸の周りの地層から染み出て溜まっているのではないかといわれています。
大石さんによると、武田氏が風水の考えからつくったと伝わっているとのこと。飲料水として補助的な役割を果たしたそうです。
階段を登りきると細長い広場になっており、案内板がありました。
ここは「井戸曲輪」と呼ばれている場所です。その由来となった井戸は後ほど紹介するとして、道が東と西へ分かれています。
案内ボランティア・小林佳志郎さん:
高天神城は東峰と西峰にそれぞれ郭(くるわ)がある一城別郭の山城なんです。自然の急傾斜を利用して敵を寄せ付けない切岸(きりぎし)という構造になっています
筆者は断崖絶壁の上に立っていることを自覚し、少し緊張感を持ちながら探索を続けました。
絶景の東峰「本丸跡」へ
まずは東峰にある「本丸跡」方面へ向かいました。
ここからは木の根が出ていたり、石がごろごろして崩れやすい箇所もあります。
ただ途中には随所に案内板があるので、初めての人でも安心です。
「大河内政局石牢道入口」と書かれた標識が目に入ったら、標識にそって進みましょう。
小林さんによると、大河内政局(おおこうちまさちか)とはこの先にある石牢に7年も幽閉されたのち、小牧長久手の戦いで亡くなった人物です。
細い道を進んでいくと、目の前に石牢が現れました。風雨で崩れてしまい、現在は石牢の中を見ることができませんが、寂しげな雰囲気は十分感じとれます。
案内ボランティア・小林さん:
7年も幽閉されていたとのことですが、もしかすると意外に自由な身だったのではないでしょうか。元々は石牢から横に抜ける穴もあったので、自由に出入りできたのではないでしょうか
掛川市が発行する「高天神城家康読本」によると、徳川軍が武田勝頼に高天神城の戦いで敗れた際、武田につくか徳川に残るかは各人に任されましたが、大河内政局だけ開城せず、幽閉されたと言われています。
いよいよ「本丸跡」へ。しかし、本丸跡へと続く道が折れ曲がるようになっていて、まっすぐ進むことはできません。
小林さんによると、これは敵が簡単に入れないようにするためで、喰違虎口(くいちがいこぐち)と言います。
東峰の本丸があった場所に到着しました。平らな草原になっていて、いまはその面影はなく、説明板があるのみです。
広場になっていて、付近には小休止できる丸太イスもありました。
六砦のひとつ「火ヶ峰砦」
高天神城跡周辺には「六砦」といわれる徳川方が高天神城を攻めるためにつくった砦が残っています。
東峰の本丸跡からは木々の間から火ヶ峰砦(ひがみねとりで)が見えました。
「火ヶ峰砦」は丸みのある三角の形をしているため、とてもわかりやすく、すぐに見つけられるでしょう。
小林さんによると、以前はこのような形をしておらず、農地の開拓で元々の砦が削られ、現在の形になったとのこと。
ちなみに筆者はここ東峰の木々の間から冬の空気が澄んだ日に富士山を見たことがあります。
本丸跡から南に足を進めると、厳かな雰囲気の社がありました。
標識には「元天神社」とあります。天神とは菅原道真を信仰する天神さまのことを指します。元天神社は、西峰にある高天神社の元宮です。
現地の案内板によると、高天神社は江戸時代中期以前、東峰にあったそうです。
毎年三月最終日曜日になると、神様が西峰の高天神社から東峰の元天神社に里帰りされる神事が行われています。
武田方の横堀・堀切が圧巻の西峰
東峰から井戸曲輪に戻ってきました。今度は西峰に向かっていくと、まず目に入るのは「かな井戸」です。
ここが井戸曲輪と呼ばれるのは、かな井戸があるからです。
大石さんによると、かな井戸のかなとは鉄分のこと。山城での生活のために大切な井戸でした。井戸の周りは現在立入禁止になっています。
さらに道を進んでいくと、激戦に散った丸尾兄弟の墓や武田が城攻めに備えて造った堀があります。
まずは「横堀」。横堀とは斜面の高低差を利用し、敵の頭上から攻撃できる堀のひとつです。
現地の案内板によると、横堀の全長は約100m、深さは2mあったと過去の発掘調査で明らかになっています。
横堀は現在、土や葉でやや埋まっており、本来の姿は想像するしかありませんが、攻め入ってくる敵の頭上から攻撃ができ恐怖を与えられるので、敵からは心理的にもかなり嫌がられたのではと感じました。
次は「堀切」です。堀切とは尾根伝いに攻め入る敵を阻止するためにあえて尾根を切ったものです。
掛川市発行の「高天神城家康読本」によると、当時の深さは6mほどあったそうです。
現在はかなり埋まっており、土が崩れたり削られたりしてしまいましたが、実際に現地に立ってみると、人間が越えられないような深さを実感できます。
横堀や堀切からは、地形を生かし一筋縄では攻略できない城を築き上げた当時の人たちの知恵が、垣間見えました。
遠州灘を一望「馬場平」
もう一度、かな井戸周辺まで戻ってきました。かな井戸の前にある高天神社へと続く階段を登っていきます。
社殿に向かって左に入っていくと、起伏のある道が続きます。
道なりに進むと「馬場平」へ到着。
現地の案内板によると、馬場とは馬のことではなく、見張りをする場所の「番場」のあて字とのこと。
馬場平からは遠州灘を一望できます。
夏は草が茂り見通しが悪い箇所があるので、はっきりと海が見える写真を撮りたい場合は秋や冬がおすすめです。
また、お弁当を広げられるあずまやもあるので、休憩にぴったりなスポットです。
犬も猿も怖くて戻る!?「甚五郎の抜け道」
馬場平から西へ行くと「甚五郎の抜け道」という細く狭い尾根道があります。
現地の案内板によると、高天神城が落城した際に横田甚五郎尹松が主君である武田勝頼へ知らせるために抜け出し、馬でひた走ったとされている道です。
別名「犬戻り猿戻り」といい、犬や猿でも恐ろしさのあまり戻ってきてしまうような道だということです。
筆者も数十m歩いてみましたが、写真で見るよりも足がすくむようなところがありました。
登山初心者や軽装備の人は興味本位で入らず、しっかりとした装備で歩いてください。甚五郎の抜け道は準備と登山の知識が必要です。
大石さんによると、高天神城跡の西側には楞厳寺山(りょうごんじさん)という山があり、甚五郎の抜け道から尾根伝いに本格的なハイキングをする人もいるそうです。
本格的な山道を行きたい人は「追手門」
高天神城跡にはもうひとつの入り口、追手門(おってもん/おうてもん)があります。
筆者は以前、追手門から登ったことがありますが、搦手門とはまた違った本格的な登山道のような箇所もあり、同行者の山登り仲間は「登りがいがあって、森林浴もできる良い場所」と気に入っていました。
未舗装の道や足元が不安定な箇所もあるので、くれぐれもしっかりとした山の装備で向かうようにしてください。
追手門駐車場にも地図看板があります。追手門には持ち帰ることができる紙のマップもありました。
入山前に位置や目的地をよく確認をして向かってください。
ARアプリやガイドで楽しさ倍増
高天神城址には、当時の様子をAR(拡張現実)で体験できるアプリ「バーチャル攻略高天神城1518」があります。
曲輪や本丸などの各スポットに設置されているマーカーを読み取ると、その場所の在りし日のイメージ映像や、ドローンの360度映像を見ることができます。
現実と重なり合った映像はリアルで、本格的なクイズにも挑戦できました。
現地にWi-Fi環境がないため、自宅などであらかじめアプリをダウンロードして来ることをおすすめします。
また案内ボランティアに同行してもらうと、より深く高天神城を味わうことができます。費用はボランティアの交通費1,000円で、所要時間は1時間半から2時間。詳しくは掛川観光協会に問い合わせてくださいね。
案内ボランティアの大石さんと小林さんによると、高天神城跡を訪れる人は県内にとどまらず、遠く北海道や四国からもやって来るそうです。女性は若い世代が多く、男性は年配が多い傾向があるそうです。
魅力的なスポットがたくさんある高天神城跡、記事を参考にみなさんもぜひ訪れてみてください。
ただし、時間に十分な余裕をもって、雨天時や夕暮れ時は遭難など事故の恐れがあるため注意してください。
高天神城跡
- 住所
- 静岡県掛川市上土方嶺向3136
- 電話番号
- 0537-21-1121(掛川市 観光・シティプロモーション課)
0537-24-8711(掛川観光協会)
※この記事は、2024年9月22日にテレビ静岡「テレしずWasabee」で公開された記事を転載したものです