どことなく懐かしく、ゆったりとした時間が流れる奈良。歴史ある神社仏閣も多く、地図を片手にそぞろ歩く人も多く見かけます。奈良といえば、真っ先に思い浮かぶものの1つが「奈良の大仏さん」ではないでしょうか。子どものころに遠足や修学旅行などで訪れた人もいるのでは。親は懐かしく振り返り、子どもは歴史を学ぶ、親子で一緒に奈良の東大寺を訪れる旅はいかがですか。東大寺の大仏から始まり、奈良の名物を楽しみましょう。
東大寺に行くなら近鉄奈良駅から!
京都駅から近鉄京都線の特急・近鉄奈良行に乗り換えて約40分。近鉄奈良駅に到着します。
近鉄奈良駅から東大寺のある奈良公園までは、徒歩20分ほど。「あっ!鹿がいっぱいいる!」子どもが鹿を指差して大はしゃぎ。初めての人ならびっくりしてしまうほどたくさんいる鹿を横目に、散策しながら歩きましょう。
春日大社や興福寺、薬師寺…。奈良市内を歩けば、たくさんの史跡に巡り合えます。奈良市内にある東大寺をはじめ、8つの文化財が「古都奈良の文化財」という名称で1998(平成10)年に世界遺産登録されました。
ボランティアガイドに聞く! 東大寺の隠れた魅力
古都・奈良の文化財の1つで、「奈良の大仏さん」が鎮座する日本人なら誰もが知る東大寺。今回は、国内外問わず観光客が訪れるその東大寺の魅力に迫ります。
NPO法人「なら・観光ボランティアガイドの会」に所属するガイド歴4年の湊好枝さんと一緒に東大寺を巡りながら、東大寺散策で注目すべきポイントなどを伺いました。
同会は、1997(平成9)年に結成。一般観光客のほか、修学旅行生など年間10万人以上に観光施設を案内しています。所属ガイドは、約130人。観光客1人からガイドをお願いできます。
ガイド料は無料ですが、6時間未満のガイドは基本運営協力金として1,000円(10人まで。それ以上は1人につき100円追加)かかります。申し込みは、同会の公式サイトからできます。
- ガイドの詳細・申し込み
- NPO法人「なら・観光ボランティアガイドの会」公式サイト
金剛力士像に注目! 「南大門」
まず参拝客を迎えるのは、鎌倉時代に建てられた「南大門(なんだいもん)」です。奈良時代に建設されましたが、平安時代中期に大風で倒壊。そこで、鎌倉時代に東大寺復興に力を尽くしたことで知られる、重源上人(ちょうげんしょうにん)が再建に取り組みました。見上げるほど高い門は、基壇上25.46メートル。国宝にも指定されています。
門をくぐると、左右からにらみをきかせているのが金剛力士像。通常、金剛力士像は南を向いていますが、南大門の阿形(あぎょう)像と吽形(うんぎょう)像は向き合って立つ珍しい配置になっています。
この金剛力士像は、天才仏師の運慶と快慶が率いる「慶派」の仏師たちが建立。1体あたり約3,000ピースもの部材を接合する寄木造りという緻密な作業にも関わらず、2体合わせてわずか69日という短期間で造られたそうです。
湊さんポイント:細かい部分もチェックして!
向き合った配置は、宋の様式を模したと言われています。理由は諸説ありますが、参拝者に仁王様からの気を感じてもらうためだという説もあります。ここでは、金剛力士像をじっくり見てみましょう。足の爪や手の指紋など、細部まで造りこまれています。人間に近い姿として造られたんですね。
南大門でもう1つ注目したいのが、門を支える柱。高さ19.2メートル、直径1メートルで、18本あります。屋根裏まで達する大円柱は南大門を直接支えており、近くで見ると迫力を感じます。山口県から運ばれてきたヒノキで、大人でも到底抱えられないほどの直径は、見るものを圧倒するほど。
世界最大級の木造建築「大仏殿」
南大門から奥へ進み、入堂口から回廊内に入ると、世界最大級の木造建築・大仏殿がお目見えします。まずは足元の参道に注目してみましょう。ライン状に、少しずつ色味の違う石敷きになっています。これは、仏教伝播のルートを表現しているのだとか。中央にインドの石があり、中国、朝鮮、そして両端に日本という配列になっています。
参道を通る際、もう1つ注目したいのが、大仏様と同じ頃に鋳造された高さ約4.6メートルの八角燈籠。日本最大にして最古の金銅製の燈籠で、国宝にも指定されています。
燈籠の8つの面のうち4つには獅子、あとの4つには「音声(おんじょう)菩薩」が彫られており、菩薩をよく見ると尺八を吹いていたり横笛を吹いていたりと、楽器を演奏しています。
そして、仏教伝来を表現している道の先に構えるのが「大仏殿」。現在でも世界最大級の木造建築で、国宝に指定されています。
大仏殿に入ると、真正面に座る大仏様の大きさは見上げるほどで、改めてその存在感に感動を覚えます。初めて見る子どもなら、きっと息をのむことでしょう。
大仏が造立されたのは、752(天平勝宝4)年。その当時の聖武天皇は、飢饉、疫病、災害などの社会不安を仏法の力で解決しようと、大仏を造立することを発願しました。東大寺の大仏様は、華厳経(けごんきょう)の教主である盧舎那仏(るしゃなぶつ)で、台座を抜いた高さは約15メートル。人々を包み込むような、穏やかな表情をしています。
大仏様の手を見てみましょう。手のひらを前に向けている右手は、「恐れなくてもよい」と相手を励ますサイン。施無畏印(せむいいん)と呼ばれます。手のひらが上を向いた左手は与願印(よがんいん)と呼ばれ、人々の願いを受け止めて叶えてくれることを表しています。
湊さんポイント:大仏様の髪の毛に注目!
大仏様の髪の毛「螺髪(らほつ)」は483個あるそうです。一つひとつは直径約22センチ。ちょうどキャベツ1玉ほど。
大仏様の左右にも、像が2体配置されています。左は虚空蔵菩薩坐像(こくうぞうぼさつざぞう)、右は如意輪観音菩薩坐像(にょいりんかんのんぼさつざぞう)と言います。
大仏様と3体合わせて、三尊像の形式をとっています。虚空蔵菩薩坐像は拝むと記憶力が良くなると言われ、如意輪観音坐像は願いを叶えてくれ、あらゆる苦しみから救ってくれると言われています。
大仏殿の奥に歩みを進めると、北西端に「広目天立像(こうもくてんりゅうぞう)」、北東端には「多聞天立像(たもんてんりゅうぞう)」が立っています。像の高さは約5メートルもあり、見上げると思わず息をのむような迫力があります。
これら2体の像は、仏教の守護神である四天王像の一部。四天王像の残り2つは、持国天と増長天ですが、こちらは頭部のみが安置されています。広目天の足元には、踏みつけられた邪鬼の姿も見ることができます。
多聞天のすぐそばには、穴くぐりができる柱があります。柱に横30センチ、縦37センチ、直径120センチの穴が開いており、その大きさは大仏さんの鼻の穴と同じくらいなのだとか。
柱の穴をくぐり抜けると、無病息災や頭がよくなるというご利益があるそう。子どもたちは必ずといっていいほど、穴くぐりに挑戦するスポットです。無事、潜り抜けられたら、記念撮影も忘れずに。
お水取りが行われることで有名! 「二月堂」
東大寺の代表的な行事の1つ、古都・奈良に春を呼ぶ「お水取り(修二会・しゅにえ)」が行われる二月堂(にがつどう)。3月1日から14日まで、旧暦の2月に行っていることが由来になっています。
修二会(正式には十一面観音悔過法要・じゅういちめんかんのんけかほうよう)は、奈良時代から続く伝統行事。毎夜、道明かりとして松明を持った童子が練行衆(れんぎょうしゅう)を先導します。
二月堂は、良弁(ろうべん)僧正の弟子・実忠和尚が建てたと言われていますが、1667(寛文7)年の修二会中に出火焼失し、現在の堂宇(どうう)はその2年後に再建されたものです。本瓦葺きで、奥行約18メートル、横幅は約13メートル。2005(平成17)年に国宝に指定されました。
湊さんポイント:良弁杉を知っていますか?
二月堂からの風景をさえぎるように、存在感を放つ杉の大木があります。これは、東大寺初代別当の名前から「良弁(ろうべん)杉」と呼ばれています。良弁が幼いころ、両親のすぐそばで鷲にさらわれてしまったそうです。その後、この杉の上に引っかかっているのを助けられ、東大寺で僧侶として育てられたんですね。
良弁は、成長してから杉の木の下で母親と再会。なぜわかったかというと、両親が与えた観音様のお守りを持っていたことと、父親にそっくりだったからという逸話が残っています。観音様のお導きですね。
時代の違う建築物が融合! 「法華堂(三月堂)」
東大寺建築で最も古い法華堂(ほっけどう)。旧暦3月に法華会(ほっけえ)が行われるため、三月堂とも呼ばれるようになりました。
西面から見て左側が奈良時代に造られた寄棟(よせむね)造りの正堂、右側が鎌倉時代に造られた礼堂(らいどう)。鎌倉時代に、礼堂を入母屋(いりもや)造りに改築し、2棟をつなぎました。時代の違う建築物が高度な技術によってつながり、美しい調和を感じさせます。1951(昭和26)年、国宝に指定されました。
親子で楽しく歴史を学ぼう!「東大寺ミュージアム」
南大門をくぐると、左手にあるのが東大寺ミュージアム。2011(平成23)年10月にオープンしました。
「東大寺の歴史と美術」をテーマに、奈良時代の聖武天皇による東大寺の創建など、東大寺の歴史と各時代に生み出された寺宝を紹介しています。重要文化財である、平安時代の木造彩色の千手観音菩薩立像(9世紀)のほか、貴重な国宝や重要文化財の数々を鑑賞できます。
無料スペースにはミュージアムショップがあり、クリアファイル(350円)などが人気だそう。東大寺にある至宝の数々を模したフィギュアなども販売され、海外の観光客に好評です。
湊さんポイント:東大寺ミュージアムは東大寺参拝前に!
無料スぺースで観られる映像は、東大寺の歴史が分かりやすく説明されているので、東大寺参拝前に観ておくのがおすすめです。
東大寺
- 住所
- 奈良県奈良市雑司町406-1
- アクセス
- JR大和路線・近鉄奈良線「奈良駅」から市内循環バス「東大寺大仏殿・春日大社前」下車徒歩約5分、または「近鉄奈良駅」から徒歩約20分
- 拝観・開館時間
- 大仏殿、法華堂、戒壇堂 7:30〜17:30(4〜10月)、8:00〜17:00(11〜3月)
東大寺ミュージアム 9:30〜17:30(4〜10月)、9:30〜17:00(11〜3月)
- 定休日
- 無休
- 料金
- 大仏殿、法華堂・戒壇堂、東大寺ミュージアム、各所ごとに料金がかかります。
大人(中学生以上)600円、小学生300円
セット券(大仏殿・東大寺ミュージアム):大人(中学生以上)1,000円、小学生400円
- 詳細
- 東大寺公式ページ
奈良名物に日本庭園と、東大寺周辺は見どころいっぱい!
ガイドの湊さんと東大寺でお別れし、ここからは東大寺周辺を散策します。
純和風の空間で、珍しいさんまの柿の葉寿司を堪能「味亭 山崎屋」
近鉄奈良駅から南に延びる東向(ひがしむき)商店街。東大寺から南西に、猿沢池を目指して20分ほど歩くと、明治初期に創業した名物・奈良漬けの老舗・山崎屋の本店に到着します。
本店の奥で厳かな雰囲気を醸すのが、「味亭 山崎屋」。1984(昭和59)年に開業し、今も国内外の観光客から愛されている奈良料理の名店です。古都をイメージした内装は、開業当時のまま。石の灯ろうや掛け軸があったりと、純和風の空間が広がります。
昼夜問わず食べられる御膳料理は、13種類。奈良名物を満喫するなら、「吉野御膳」(1,350円)がおすすめです。さんまとサーモンの柿の葉寿司、にゅうめん、小鉢1品、奈良漬け、わらび餅がセットに。
柿の葉寿司にはゴマが入っており、少し甘めの酢飯が特徴。柿の葉をめくってほおばると、ツンとした酸っぱさをおさえていて子どもでも食べやすい、優しい味わいが口に広がります。
サーモンやさんまの風味をしっかり感じられる押し寿司です。さんまを使った柿の葉寿司は珍しいため、一食の価値あり。近鉄奈良駅やJR奈良駅周辺は柿の葉寿司専門店がたくさんあるものの、同店の持ち帰りを買って帰る方も多いそう。「あ、こっちはサーモンだ、やったぁ!」と、子どもがうれしそうに柿の葉をめくりながら食べていました。
奈良の町に来たら、奈良名物を食べたいところ。個室もあり、子ども連れでも安心です。東大寺を訪れた後に、ほっと一息つくのにおすすめのお店です。
味亭 山崎屋
- 住所
- 奈良県奈良市東向南町5 井上ビル1F
- 営業時間
- 11:15〜21:00(20:00LO)
- 定休日
- 月曜日(祝祭日、催事の場合を除く)
東大寺を借景にした庭園で四季を感じる「依水園・寧楽美術館」
1958(昭和33)年から、一般公開されている日本庭園「依水園(いすいえん)」。東大寺と興福寺の間に位置していて、徒歩10分ほどで立ち寄れるスポットです。
1975(昭和50)年に国指定名勝となり、年間約7万人もの人が足を運んでいます。近年では欧米人なども多く、リピーターもいるのだそう。春はツツジ、夏はハス、秋は紅葉、冬は雪景色…と、四季折々の自然の美しさをじっくりと観賞できるスポットです。
依水園は、造られた時代が異なる2つの池泉回遊式庭園で構成されているのが特徴。入口から足を踏み入れて、右側に広がるのが「前園(ぜんえん)」。江戸時代前期の日本庭園として造られ、夏には池のスイレンが見ごろになります。池の中ほどには鶴と亀をなぞらえた中島を築き、要所に灯ろうを配置しています。
前園は奈良で高級麻織物を扱う御用商人だった清須美道清が造ったもので、その中にある江戸時代にできた茶室「三秀亭」は、今も「食事処 三秀」として使用されています。麦ご飯・とろろに鰻のかば焼きが付いた「鰻とろ御膳」(3,000円)や、抹茶と干菓子(850円)などが堪能できます。三秀では、水音まで聞こえる「静寂の別世界」を体感しましょう。
「後園(こうえん)」は、明治時代に実業家の関藤次郎が作った池泉回遊式庭園。人工の山を築く築山(つきやま)式で作られています。
入口から左手に進み、重要文化財の茶室「又隠(ゆういん)」の写しとして作られた「清秀庵」などを通り過ぎると、一気に美しい風景が目に飛び込んできます。緑が美しい若草山、春日奥山など、隣接する東大寺の南大門を借景にした風景は、まるで一幅の絵画のよう。池の水面に景色が映り、空の青とのコントラストに心奪われます。
この景色を少し違った趣で楽しむなら、明治期に作られた書院造りの茶室「氷心亭」へ。氷心亭の座敷から後園を見ると、景色を切り取った絵葉書のようにも見えます。
氷心亭では、窓にも注目してみましょう。今では少なくなった口吹きガラスで作られているため表面が少しでこぼことしており、なんとも言えない味わいがあります。
「あ!なんか屋根の上に乗ってる!」と子どもが指を差します。後園の中ほどにある水車小屋では、茅葺きの屋根に不思議なものがぶらさがっているのを発見できます。
「あれはね、アワビの貝殻なのよ」。アワビをぶらさげる理由は2つあり、1つはカラス除け、もう1つはアワビが「海のもの=水のもの」ということで火に弱い茅の火除けのまじないだそう。今ではあまり見られないものなので必見です。
依水園へ来たら、そばにある「寧楽(ねいらく)美術館」ものぞいてみましょう。美術館の建物は横に長く、建築家・東畑謙三の代表作の1つ。茅葺きの大和屋根をデザインモチーフにしており、屋根のむくり(凸形にふくらんだ状態)が特徴です。
依水園は神戸で海運業をしていた中村家によって1939(昭和14)年に買い取られたもので、現在では中村家三代が収集した古代中国の青銅器や高麗・朝鮮時代の陶磁器、日本の茶道具などの美術品を展示しています。中には紀元前2000年にさかのぼるものも。
2019年10月1日から2020年2月10日までは、企画展「三千年を生き延びた稀有の文字 漢字―形と美―」を開催。漢字が絵から文字に発展する過程や、さまざまな書体の美しさに注目。私たちの身近にある漢字の魅力に迫る内容になっています。
展示品の一部には、子どもにも分かりやすい簡単な説明も付けられています。親子で展示品に思いを巡らせませんか。
公益財団法人名勝依水園・寧楽美術館
- 住所
- 奈良県奈良市水門町74
- 営業時間
- 4/1~6/1 9:30~17:00(入園受付は16:30まで)
上記期間以外 9:30~16:30(入園受付は16:00まで)
- 定休日
- 火曜日(10・11月は無休)
- 料金
- 一般900円、大学生810円、中学・高校生500円、小学生300円
- 詳細
- 依水園公式ページ
東大寺とともに、歴史を感じる奈良の街を楽しんで
東大寺の大仏様から、奈良のご当地グルメや世界遺産の景色を借景にした庭園…。歩けば歩くほど、もっと掘り下げたくなる魅力のある町・奈良。家族で出かければ、歴史・文化に触れることで子どもの違った顔を発見できるかもしれません。歴史をひもとく、学びのある旅の時間を満喫しませんか。
撮影・取材・文/宮本美智子
※掲載内容は公開時点のものです。ご利用時と異なることがありますのでご了承ください。