楽天トラベルで温泉のある旅館を対象に、2017年11月1日~2018年10月31日までのお客さまの声(総合評価)をもとに集計した「2018年 年間 クチコミで人気の温泉旅館ランキング」で1位に輝いた「料理旅館 樋口」。「おもてなし」「料理」「温泉」と、訪れた人の心を虜にする温泉宿の魅力に迫ってみました。
目前に赤谷湖が広がる猿ヶ京温泉
東京駅から上越新幹線に乗り約70分。群馬県利根郡みなかみ町にある「猿ヶ京温泉」は、上毛高原駅から車で20分ほど走った場所にあります。トータルでも東京から約90分。申し分なしのアクセスの良さです。
群馬県には草津温泉や伊香保温泉など、名の知れた温泉地がいくつもありますが、なかでも猿ヶ京温泉は比較的宿泊価格設定が低いエリアで、若い人やリピーターも多いのだそう。
そんな猿ヶ京温泉にある「料理旅館 樋口」は2019年で創業26年目の温泉宿。クチコミ1位に選ばれた温泉宿では、どのようなおもてなしや滞在が体験できるのでしょうか。実際に宿泊し、女将さんの心のうちまでお伺いしてきました。
あたたかいゆず茶を飲みながらひと休み
旅館に到着するとすぐに「寒いなかお疲れ様でした、お茶をいれるので一度ゆっくりしてくださいね」と、女将の樋口桂子さんが笑顔で迎え入れてくれます。
フロントの壁一面が窓ガラスになっているため、赤谷湖(あかやこ)を特等席で見渡せて感動! 東京と比べて、気温が低いと感じる群馬。暖かい宿についてホッとしたときに、素敵な女将さんがお茶をいれてくれて、気持ちまで温かくなります。
陽の光が全面に入る明るいフロントは、掃除が行き届いていて清潔です。左手には館内貸し出し用の本や観光パンフレットを手に取れる「寛ぎライブラリー」も。ここはお風呂あがりの休憩スペースとしても利用でき、お水やうちわなども置いてあります。
果肉がたっぷり入ったゆず茶を飲みながら、赤谷湖の景色をのんびりと堪能できます。
看板猫・こごめちゃんもお喋りに参加
ロビーでくつろいでいると、後ろから「にゃお〜」と鳴き声が。
私が来たことに気が付いたのか、クチコミでも話題だった看板猫・こごめちゃんが顔を見せてくれました。こごめちゃんは、マイトリップの「【2019年版】全国の宿 自慢の看板猫ランキング」で見事8位にランクインした看板猫。噂通り、とっても人懐っこくて撫でるとゴロゴロと気持ち良さそう。看板猫もいるロビーは、とびきりのくつろぎ空間です。
平成5年創業
「料理旅館 樋口」の成り立ち
「料理旅館 樋口」をご主人が創業したのは1993年、ご主人が30歳のときでした。ご主人はお寿司屋さんの子として生まれ、自分もお寿司の道に進もうと18歳から修行を開始。そこで出会った職人さんに和食料理屋で働くことを勧められ、それ以来ずっと和食料理の板前さんをしているそうです。
30歳になる手前で、ご主人の実家に温泉が通ったという話を聞いて「それなら旅館を開こうか」とお母様と決断。旅館がホッと落ち着く雰囲気なのは、もともと家族がだんらんする場所だったから、かもしれないですね。
当時24歳の女将さんは、創業1年目で保育士から急きょ転身することに。当時のことを振り返って、「ずっと保育士を続けていくと思っていたので、人生何があるかわからないですね」と笑います。
世の女将さんがどんな教育を受けて来たのか、どんなホスピタリティが必要なのか、右も左もわからないまま始まった女将としての生活。「本当に最初の頃来てくださったお客様には、ひどい接客だなって思われていたんじゃないでしょうか。正解がわからないまま不安でしたし、とにかく必死でした」。
「愛されるおもてなし」の心にあるもの
慣れない女将の仕事に四苦八苦しながらも努力を続け、楽天トラベルアワードでは2007年にレジャー部門お客様アンケート大賞を受賞。2010年にはエンターテイメント賞、2018年にはブロンズアワードを受賞しています。マイトリップ人気旅館ランキングでも2017年、2018年と2年連続でランクイン!
表彰されることについて女将さんは「本人が一番びっくりしてますよ!今年も、うちが受賞されていいものなのか…と恐縮しています。何もわからない小娘に、接客やおもてなしのいろはを教えてくださったのはお客様で、応援していただいたおかげで今があります」と語ります。
女将さんを始めて5年経たないうちに男の子が3人生まれ、赤ちゃんを背負いながら接客したり、料理をしたりすることも多かったというお二人。そんな間も、たくさんのお客さんが応援しに来てくれたそうです。
接客について、これだけは守ると決めているルールについて聞いてみると、こんな答えが返ってきました。「偽りの接客はしないと決めています。心に嘘があれば必ずそれは伝わってしまう。支えていただいた感謝があるので、心をピシッと整え続けて、大切に向き合わなければと思っています」
隅々まで行き届いた心遣いを感じるお部屋
女将さんの想いが心にジンと響いたあとは、2階のお部屋に案内してもらいました。客室のタイプは3種類で、すべて合わせて5室です。
ひとり旅におすすめ!「平安の間」
今回泊まったのは和室8畳の「平安の間」。冬は全部屋こたつと座椅子が完備されています。緑のソファーが外向きと内向き片方ずつになっているのは、以前ひとり旅で来たお客様から「お酒を飲みながら赤谷湖を眺めて、飽きたらソファーを内向きに変えてテレビを見ていた」という話を聞いたからなのだそう。
それなら手間がかからないように、と、ひとり旅のお客さんが入る日には片方ずつ向きを変えておくようになったのです。お客さんの声を大切にして、より居心地の良い空間になるように、日々取り組んでいらっしゃることが伝わってきます。左奥に見えるのは、加湿空気清浄機。旅館やホテルでは、暖房をつけるとすぐに乾燥してしまうので、嬉しい心遣いです。
こたつに入って暖を取っていると、葉っぱに書かれたこのメッセージを見つけました。中を開けてみると…
リンゴのウサギちゃんが登場!
これも、以前お客様から「他の旅館で受けた嬉しいサービスだった」と聞いて、取り入れるようになったそうです。耳まで作ってくれる一手間が嬉しいです。
部屋に置かれている館内の案内は、なんとすべて女将さんの手書き!丁寧に見やすく工夫されたこの案内表を見て、可愛いな、手が込んでいるな、と多くのお客さんがほっこりしたことでしょう。
部屋にはフェイスタオルやバスタオルなど基本的なアメニティはすべて揃っていて、wi-fiも完備されています。さらに嬉しいのは、浴衣の他に館内着が準備されていたこと。「洋服を脱いで楽な格好になりたいけど、浴衣は温泉に入ってから着たい」というわがままにも応えてくれます。
温泉まで浴衣やバスタオルを入れて持ち運ぶためのカゴバッグも準備されています。部屋から温泉はすぐの距離ですが、使い慣れたメイク落としや化粧品を使いたい女性は必然的に荷物が増えます。また、部屋の鍵や、飲み物を買うためのお財布のことも考えると、部屋にバッグがあるのは助かります。こういう「痒い所に手が届く」心遣いを見つけるたびに、胸をギュッと掴まれるのです。
部屋からは赤谷湖を眺めることができます。夜は満点の星空を独り占め。この景色を見ながら静かに晩酌する時間は、ほんとうに贅沢です。
床の間には季節のお花と、お香の準備も。どこへ行くわけでもなく、夕食の時間までゆったり読書をしたり、のんびりしたり、お籠りステイを求める人には、香りの気配りまでされたお部屋に居心地の良さを感じるはず。
母娘旅行におすすめ「桐壺の間」
和洋室12畳の「桐壺の間」は、赤を基調とした配色がポイント。畳の温もりを感じつつ、ベッドでゆったりくつろぐことができます。 窓辺には赤谷湖を一望できる、二人がけの特等席。周辺マップで情報収集したり、ここで明日の予定をたてるのもいいですね。
家族旅行におすすめ「御所の間 / 和洋室13畳」
広々とお部屋で、家族とのんびり過ごしたい人には「御所の間」が人気です。ふかふかのベッドで旅の疲れを癒して、窓際のダイニングテーブルで団欒。日頃の感謝を込めて、この部屋に両親を招待するお客様もいるのだとか。
ダイニングテーブルだと、腰や足が悪くても座っているのが楽なので、お年寄りにもおすすめのお部屋です。段差がなく、フラットなお部屋づくりになっているのも安心です。
ご主人が振る舞う四季折々のお料理
食事は、2名の場合は部屋食または食事処、3名からは食事処でいただけるようになっています。今回は18時半からのお部屋食です。女将さんと仲居さんが、まずはこのセットを持って来てくれました。
手をつける前に、どんなお料理か、どんな食材かをひとつずつ丁寧に説明してくれます。この時間が楽しくて、お客さんとついお喋りに花を咲かせてしまうこともよくあるそう。
宿泊したのはひな祭りの時期だったので、前菜の飾り器がお雛様とお内裏様に!季節ごとに食材を変えるだけでなく、ちょっとした遊び心のある華やかな飾りつけに胸が踊ります。お内裏様のなかには自家製ローストビーフ、お雛様のなかには菜花辛子醤油が入っていました。
お料理に使われている野菜は、厳選なる評価基準をクリアしているこだわりのもの。信頼のできる契約農家さんから仕入れているそうです。
群馬県産の最高級ニジマス・ギンヒカリと、自家製刺身こんにゃくのお造り。銀色味を帯びて光るギンヒカリは見た目も美しく、なめらかな舌触りでとても上品な味わいでした。生臭さは一切ありません。自家製の刺身こんにゃくはみずみずしく、自然な甘さに驚かされてしまいました。
雪がしんしんと降る夜に食べる、塩麹鍋は格別の美味しさ。地元のお野菜とたら、鶏団子の旨味が凝縮されています。
群馬産の麦豚をじっくり煮込んだ角煮はスッと箸がとおり、口に入れるとほろほろとろけていきました。お魚だけでなく、お肉も思わず唸ってしまう美味しさ。豊かな自然と、ご主人の腕前が合わさって出来たお料理の数々は、どれも絶品です。
一つひとつに感動しながら半分ほど食べたあとに、上州牛ミニステーキセットが届きました。ご飯は太巻き寿司、女将さん特製のガトーショコラも付いています。時期によって変わるデザートは、毎日愛情を込めて手作りしていると伺いました。
ミディアムレアなお肉がトロッ…と肉汁とともに溶けて、肉の旨味が口いっぱいに広がります。油がくどすぎずサラッとしているので、食事の中盤でもペロリと完食。お腹も心も満たされて、大満足でした。
優しさを感じる貸切温泉
夕食を満喫したら、天然温泉へ。お風呂は基本、21:00〜6:00までは自由に貸切可能です。肌を優しく包み込むような柔らかな泉質である天然温泉は、高血圧、リウマチ性疾患、通風などに効果があります。湯船の縁に頭をのせてリラックス。大浴場ではないものの、寝湯をするのはちょうどいい広さです。
窓を開ければ、赤谷湖が一面に広がります。半露天風呂のように楽しむこともできますよ。この宿に、娘さんが親孝行でお母さんと二人旅に来ることが多いというのも納得です。母と娘、親子水入らずの時間を過ごすのにぴったり。
シャンプー・コンディショナー・ボディーソープの3点セットの他に、メイク落としが準備されていました。この心遣いに喜ぶ女性も多いはず。かかとに使う軽石や洗顔用の石鹸も用意されており、本当に手ぶらでOK!
脱衣所にも、女将さんの気配りが満載。脱衣所で嬉しさを噛み締めることはなかなかないと思いますが、アメニティの品揃えに思わず微笑んでしまいました。
なくても困らないけれど、「今ここにあったらな」という思いを叶えてもらえるのは、とても心地がいいものです。これは、お客さんが、いつどこで、どんな気持ちになるのかを考え続けているからこそ成し得ること。仕事や接客を超えた、真心と愛情からくるおもてなしに、この宿に泊まった多くの人が、虜になってしまうのかもしれません。
※アメニティ/ヘアブラシ・カミソリ・化粧水&乳液・ヘアオイル・コットン・髪ゴム・綿棒・生理用ナプキン
夜が明けて、チェックアウトの時間
「母を連れて、また来ます」と女将さんに挨拶をすると、「これ美味しいから帰り道食べてね。ビタミンたくさんだよ!」と笑顔でみかんを手渡してくれました。たった1泊しかしていないのに、駅までの30分が名残惜しくて仕方がない。
楽天トラベルで最も高いクチコミ評価を獲得した「料理旅館 樋口」は、評判通り、疲れた心を温かい優しさで包んでくれる温泉宿でした。
- 住所
- 群馬県利根郡みなかみ町猿ヶ京1167
- 総部屋数
- 5室
- 宿泊料金
- おひとり様 12,315円~(2食付2名1室利用時・消費税抜)
取材・文/ほしゆき
※掲載内容は公開時点のものです。ご利用時と異なることがありますのでご利用の際は公式ホームページなどでご確認ください。
※宿泊価格は2019年3月10日時点の楽天トラベルでのおひとり様あたりの最低料金です。ご予約時と異なることがありますので予めご了承ください。