人気宿のスタッフが魅せる「おもてなしの流儀」
人気宿には、一流のおもてなしがあります。宿泊者の快適で特別なひとときを支える宿のスタッフたちは、日頃どのように訪れる人と向き合い、おもてなしを実践しているのでしょうか。このシリーズでは、宿スタッフの方々にお話を伺い、人気の秘密を紐解きます。
今回の人気宿は、「日和山温泉 ホテル 金波楼」
山陰海岸国立公園の一角に佇み、目の前に広がる日本海の雄大な景観が印象的な「日和山温泉 ホテル 金波楼(きんぱろう)」。その絶景を目の前に、自慢の温泉、新鮮な海の幸を堪能することができます。また、海のテーマパーク「城崎マリンワールド」を併設するなど、自然を生かした豊富なアイデアも長年愛され続ける理由。今回は歴史あるこのホテルで受け継がれてきたおもてなしの心を、今津一也総支配人に伺いました。
お客様と会話することで、思い出につながる情報を届けたい
「接客はもちろん、窓掃除もお客様の送迎もなんでもやりますよ!」と、笑顔を見せるのは今津一也総支配人。運営管理やマネジメントに務めるかたわら現場に立ち、お客様とのコミュニケーションを図ることも欠かさないそうです。
「私自身が、人と接することが好き、というのもありますが、もちろん理由はそれだけではありません。お客様と直接お話をすれば、なぜ我がホテルを選んでくれたのか、お客様がどんなことを望まれているかなども分かるからです。会話から感じ取れたことを生かして、お客様の旅がより心地よく、より良い思い出になるためのお手伝いを一つでも多くしたいというのが一番の理由ですね」。
今津総支配人は、例えば会話の中で「美しい景色が見たくて」という言葉をいただけば、目の前に広がる景色にまつわる逸話や、ビューポイントなどをお伝えすることがあるそう。また、「おいしいカニを食べたくて」という方とは、食事で振舞われる地元・兵庫県豊岡市が誇るブランドガニ「津居山(ついやま)ガニ」のお話に花が咲くそうです。
「何かご質問をいただく際でも直接顔を合わせれば、お尋ねいただいたことへの返答以上の会話が生まれるものです。ここに生まれ、育ち、暮らす自分たちだからこそ知っている自然の表情、この地の楽しみ方などもあります。些細な会話の中で、自分の引き出しにある情報をお客様にお届けし、それを少しでも旅の思い出につなげていただければうれしいですね」。
訪れる人との会話を通じ、この土地の良さを伝えることで、ホテル金波楼での滞在をより思い出深いものにできればと今津総支配人は考えます。
「目の前に広がる壮大な景色も、温泉も、食事も、ホテル金波楼の自慢です。しかし、眺めの良い旅館は日本各地にあります。良質な温泉も新鮮な幸も、ほかでも味わえます。たくさんの選択肢がある中で、我がホテルを選んでいただいたのですから、だた『見た』『食べた』だけではなく、ここへお越しくださった意味を感じていただき、ここでしか得られない記憶や思い出を残していただきたい。それを演出するのが私たちスタッフの役割であり、私たち流のおもてなしだと考えています」。
日本海を望む絶景を最大限に堪能いただくことが、一番のおもてなし
ホテル金波楼の最大の魅力はなんといってもロケーション。2層吹き抜けのロビーラウンジの先には雄大な日本海が広がります。目の前の海をまるで独り占めするかのように望めるその景色は圧巻です。
「やはりこの眺望こそがこのホテルの一番の見どころであり、原点です」と今津総支配人。
「実は、ホテル金波楼のルーツは村おこしにあります。この瀬戸という地域は、大きな漁港のある津居山や歴史ある温泉郷の城崎に比べて知名度が低く、アクセスも決して良いとは言えない寒村。新しい産業を興すための起爆剤として着目したのが、この壮大な景色でした」。
この絶景を多くの人に体感いただこう、という考えからまずは村営の組合事業として料亭や遊覧船、釣り遊びなどを始めました。のちに村から事業を引き継ぎ、料亭を旅館として1937(昭和12)年に創業したのが当ホテルの始まりだそうです。
「そもそもは、『他に何もない』ところだったからこそ、この景色を大切する意識が非常に強かったのだと思います。一面ガラス張りのロビーもまたその意識が受け継がれ、体現されたことの一つです」。
大浴場やお部屋からも絶景を望むことができます。
「限られた時間ですが、終始この壮観な景色を目の前にくつろいでいただく。それこそが我がホテルだからこそできる最大のおもてなしであり、私たちの真髄なんです」と今津総支配人。
また、今津総支配人はこの地の美しさを多くの人に知ってもらおうと、日々の景色を自らも撮影し、ホームページなどで公開しています。水平線から日が昇り赤く染まった海、虹がかかった珍しい光景、雲海が流れ込んだ神秘的なシーン…。大自然が織りなす景観は、息を飲むほどの美しさです。その写真に魅了され、海外から訪れる方もいるそう。
「しかし、いくら壮大な景色がこの地にあっても、それだけではお客様に足を運んでいただけません。創業者や先輩たちは、常にどういった付加価値をつければこの地にもっと興味を持っていただけるのか試行錯誤を重ねてきました。そして、そういった歴史の中で生まれてきたのが、沖に浮かぶ「龍宮城」です」。
ホテル金波楼の目の前の海には、「龍宮城」と呼ばれる小さな島が浮かんでいます。島にはまるで宮殿のような建築物も。
「誰もが知るおとぎ話『浦島太郎』の発祥伝説は日本の各地に存在しているのですが、実は豊岡市の隣の丹後がその最有力候補と言われているんです。そんなことから、1950(昭和25)年に誕生したのが、あの龍宮城。目の前に龍宮城が佇んでいるとなれば、子どもはもちろん大人でも心が弾むのではないでしょうか。このような心に響く要素を点在させていることも、先代から受け継がれている私たち流のおもてなしの心なんです」。
龍宮城は朝日に照らされればなんとも美しいシルエットが浮かびあがり、気象条件が揃えば雲海に包まれ、まるで天空に浮いているかのような神秘的な光景を見ることもできます。龍宮城を目にした方から、「あれは何ですか?」という言葉をもらうと、その一言で会話は丹後に伝わる浦島の逸話に広がるなどして、この地にもっと興味を持ってもらうきっかけにもなるそうです。
美しくも荒々しい自然と共存していくことは私たちの使命
ホテル金波楼は、海の生物のテーマパーク「城崎マリンワールド」を併設していることも特徴の一つ。水族館での生体観賞はもちろん、イルカやアシカのショーなども見ることができます。アジのフィッシングも長年人気を誇るアトラクション。
「フィッシングは50年以上も続いているアトラクションです。釣ったアジをその場で天ぷらにして食べることができるのですが、インパクトが大きいのか印象深い思い出として心に刻んでいただけることが多いようです。そのため、おじいちゃんやお父さんが小さい頃に楽しんだ釣りを、孫や子どもに体験させたいという思いから、3世代、4世代に渡り思い出を引き継いで訪れていただくことも少なくありません」。
毎年訪れるリピーターはもちろん、5年、10年、中には40年ぶりに訪れ、釣り遊びの昔話に花が咲くことも。当時は小さな子どもだったのに成長し、結婚し、子どもができ、孫ができて、またその子が訪れる。そんなドラマに直面すると感慨深いと同時に、このホテルが「ずっとここにあり続ける意味」を改めて感じるそうです。
「どのご家族にとっても、旅行は幸せな記憶であるはずです。その中で、「また来たい」と記憶に残していただけることは、とてもうれしいこと」。そう言って、今津支配人は続けます。
「ただ、雄大な自然はこの上ないほど美しい姿を見せてくれる一方で、激しく荒れ狂うときもあります。自然と共存していくことは、簡単なことではありません。龍宮城にしてもアジ釣りにしても、維持していくのに苦労はつきもの。台風が来れば海が荒れて魚が流されたり、龍宮城の屋根が飛ばされたりすることもあります。しかし、それでもなお続けているのは、こうした印象深い景観をキーにして、お客様の人生にとって幸せな記憶や大切な思い出を紡いでいただける場所でありたいから。これからもこの地ならではの魅力を語り続けていきたいですね」。
日本はもとより海外の方からも長年に渡り愛され続けている、「日和山温泉 ホテル 金波楼」。美しくも荒々しい壮大な自然を生かし、上手く付き合うことができるのは、根底にお客様に喜んでもらいたいという「おもてなしの心」が息づいているからこそなのです。
日和山温泉 ホテル 金波楼
- 住所
- 兵庫県豊岡市瀬戸1090
- アクセス
- 【電車】JR「城崎温泉」駅より送迎バスで約10分
【車】北近畿豊岡自動車道「和田山」ICより約60分
※この記事は、「楽天トラベル」で過去に公開した記事を一部再構成したものです。