栃木県・益子町では、城内坂・道祖土(さやど)地区を中心に、春と秋の年に2回「益子陶器市」を開催。地元の窯元や全国各地から集まった個性豊かな作家たちによる陶芸作品をはじめ、多種多様なクラフト雑貨、イベントグルメなどが一堂に会し、にぎわいを見せています。
今回は、2023年11月3日から6日まで開催された秋の「益子陶器市」を徹底レポート。(次回は2024年4月27日~5月6日に開催予定)お気に入りの作家・作風の器と出会う、陶器市を楽しみつくすおすすめモデルコースをご紹介します。
江戸時代から続く、陶器の町「益子」
江戸時代末期、笠間で陶芸の修業をした大塚啓三郎がこの地で窯を開いたことが始まりとされる益子焼。良質な土が採れることや、東京への地の利が良いことから、鉢や水がめなどの陶器の産地として発展してきました。
現在の益子には、窯元が約250軒、陶器店は約50軒あり、ベテランから新進気鋭の若手まで、個性豊かな陶芸家たちが窯を構えて作陶しています。
器との出会いは一期一会。益子陶器市でお気に入りの作家と出会う
地元の窯元をはじめ、全国各地から陶芸作家が出店する陶器の一大イベントでは、県内外から陶器ファンが集まり、お目当ての作品との出会いを楽しみます。
会場は益子駅から徒歩15分ほど。城内坂交差点から道祖土交差点まで続く約1キロメートルの大通りが、陶器市のメインとなるイベント会場です。通り沿いにはいくつものテント村が点在し、所狭しと並べられた陶器や生活雑貨などが展示販売されています。
イベント会場は共販テント村、路地裏テント、夢HIROBA、じゃりん小径など、いくつものテントエリアに分かれ、700近くの店が軒を連ねます。茶碗、盛鉢、平皿、コーヒーカップといった食器から、花瓶やアクセサリーなど、ありとあらゆる陶器が並び、見ているだけでワクワクする空間です。
販売しているものは陶器以外にも、革製品やガラス製品、アクセサリーなどのクラフト作品やドライフラワー、植木など多種多様。イベントグルメのフードブースも並ぶため、ランチも兼ねて出かけたい、見どころ満載のイベントとなっています。
7つの伝統釉薬と、益子焼ならではの味わいに触れる
作家たちとの触れ合いがあるのも陶器市ならでは。デザインや素材のこだわり、おすすめの使い方など作家から直接話を聞いたり、手に取って質感を確かめたりしながら、あれこれ吟味するのも楽しみのうちです。
益子焼と一口に言っても、作風はさまざま。最近では民芸調のものだけでなく北欧テイストやアンティーク調などのデザインを得意とする作家も増えています。
多様性のあるデザインも人気の理由のひとつですが、益子焼ならではの風合いを生み出すのは、糠白釉(ぬかじろゆう)、並白釉(なみじろゆう)、糠青磁釉(ぬかせいじゆう)、飴釉(あめゆう)、柿釉(かきゆう)、黒釉(くろゆう)、灰釉(はいゆう)の7つからなる益子の伝統釉薬(ゆうやく)にあります。釉薬とは、陶磁器や琺瑯(ほうろう)などの表面を覆うガラスの層のことです。
伝統釉薬を生かした、益子焼ならではの作品作りに取り組むのは陶芸家・佐藤敬さん。通っていた千葉県の高校時代に授業で電動ろくろを体験した際に陶芸の世界に魅了され、九州や益子の工房で修業した後に独立し、益子に工房を構えています。
益子の土と伝統釉薬、そして修行先で学んだ蹴りろくろの技術を生かして、素朴で温もりのある風合いの作品を作る作家です。
丸みがあって少しのゴツゴツ感がある、どこか素朴な姿は、昔ながらの蹴りろくろで作られた陶器ならでは。アイボリーのやさしい色合いは、「黄粉(きこ)引き」という化粧泥で表面をコーティングする技法によるものです。
よく手に馴染む温かみのある質感が魅力的で、普段使いしやすい作風が特徴です。
陶器市は20年ほど常連で参加しているという佐藤さんが販売するのは、美術品よりもごはん茶碗や小鉢、小皿、マグカップ、湯飲み茶碗といった日用品が中心。なかでも看板商品のごはん茶碗は、テレビCMでもたびたび使われているものなのだとか。ぜひ現地で実物を手に取って見てみたい作品ばかりがそろっています。
和にも洋にも映える、アンティーク調が魅力の作家
昔ながらの民芸調の陶器が受け継がれる一方で、新進気鋭の若手作家がのびのび個性を発揮して作陶できるのも益子焼ならでは。
益子町の隣・市貝(いちかい)町に工房を構える姉崎 雅彦さんの作品は、アンティーク調のオーバルのお皿が象徴的。益子焼で最もオーソドックスなきめの細かい水簸土(すいひつち)を使い、天然の松灰を利用した釉薬で仕上げています。
重厚感のあるブロンズや深いコバルトブルー、上品さのあるピスタチオアッシュなどの色味は、和食や洋食、焼き菓子などなにを盛り付けても美しく引き立ててくれそう。
大阪府出身の姉崎さんが脱サラして陶芸家に転身したのは30歳の頃。20代後半で訪れたオーストラリアで、昭和に活躍した益子の陶芸家・濱田庄司氏の影響を受けたという現地の陶芸家との出会いがきっかけでした。デザインに西洋の印象を感じるのも、そうした海外からのエッセンスが効いているのかもしれません。
秋の陶器市では、寒い季節に食べたくなるスープやシチューなどの温かい料理にあわせて、スープカップや深さのある器、丼なども種類豊富にお目見え。季節にあわせた器をゲットしに、秋と春のどちらも訪れてみたくなります。
パステルカラーや動物モチーフにきゅんとする、北欧テイストな益子焼
イベント会場最北端、道祖土交差点からすぐの場所にある「つかもと広場」の一角で、行列がひときわ目を引く販売ブースを発見。ここは、動物やフルーツなどのかわいらしいモチーフとパステルカラーの釉薬を組み合わせた、北欧テイストなデザインの器が人気を集める「よしざわ窯」です。
普段は店舗を持たず、ネット販売や地元の陶器店への卸が中心ですが、陶器市の際には倉庫として使っているパイプハウスに商品を並べ、物販スペースとして開放されています。
青い鳥のシリアルボウルや黄色いレモンの平皿、白くまが抱きかかえるカレー皿など、どれも見ていてほっこりするようなデザインばかり。料理を盛り付けるだけでなく、小皿はアクセサリー置きにもなりそうです。
オーバルや丸、八角形など、使い勝手のいいお皿も種類豊富に並んでいます。釉薬のバリエーションも豊富で、伝統釉をベースに顔料を調合し、マットのブルーグレーやレモンイエロー、ツヤのある飴色など、さまざまな色合い・風合いです。
こうした従来の益子焼の型にとらわれない作風は、窯元に所属する女性スタッフたちの「こんなお皿があったらいいな」という自由な発想から生まれているのだとか。
お買い物バッグがバスケットというのも、心ときめくポイント。価格は小皿だと1,000円以下からとリーズナブルなので、あれもこれもとついつい買いすぎてしまいそうです。
なお、混雑状況によっては整理券を配布して入場制限をする場合があるため、お目当ての品がある場合には朝早くから行くのがおすすめです。
陶器市には益子を拠点に活動する陶芸家だけでなく、県外を拠点に活動する陶芸家やイベント出店だけで活動する陶芸家など、いろいろなタイプの作家が集まっています。いろいろな作家のテントをめぐり、一期一会の出会いを楽しみましょう。
陶器だけじゃない!多種多様なクラフト作品も大集合
陶芸に限らず、あらゆるジャンルの職人たちも集まっています。通り沿いに立ち並ぶ、革製品やガラス製品、鉄製品、アクセサリーなど多種多様な手仕事品が並ぶクラフト作家のテントエリアにも立ち寄ってみましょう。
壁掛けインテリアとして人気を集めるドライフラワーのスワッグ(壁飾り)を販売するのは、茨城県筑西市から参加している生花店「Inter Flower Designs(インターフラワーデザインズ)」。センスのいい店構えが目を引き、足を止めて覗く人も多くいました。
一輪でも存在感のある立派な生花も販売。ここで購入した一輪の花に似合う花瓶を探しに出かける、なんて素敵なことをしてみたくなります。
ピアスやイヤリング、ペンダントなどのかわいらしい手作りアクセサリーや、陶器に植えたサボテン・ミニ盆栽などの販売テントも発見。日々の暮らしにちょっとした彩を添えてくれるような、お気に入りの生活雑貨が見つかるかもしれません。
フォトジェニックなイベントグルメも要チェック!
陶器市に出かけたら、あわせて楽しみたいイベントグルメ。お好み焼きやポテトといった定番のお祭り屋台はもちろん、コーヒースタンドやベーカリー、スイーツショップ、地元飲食店によるキッチンカーなども出店し、あらゆるジャンルのフードがふるまわれます。
注目は、「よしざわ窯」が出店するつかもと広場へ向かう途中、道祖土交差点の少し手前の広場に展開されている「ANIKI NO HIROBA(アニキの広場)」。レモネードスタンドやクレープスタンド、コーヒー&ドーナツ、ポークスペアリブなど、見た目も華やかで写真映えするイベントグルメがそろっています。
2層のグラデーションが美しい、透明のパックに注がれたレモネードは必見。アールグレイやイチゴ、オレンジ、クラフトコーラなど、8種類のフレーバーから選べます。
おすすめは、さわやかな茶葉の香りとレモネードの酸味が相性抜群な「アールグレイレモネード」。また、淡い水色のグラデーションがきれいな「ブルーレモネード」もフォトジェニックで人気だそう。あちこち散策をして歩き疲れた体に、自家製レモネードのほどよい酸味がしみわたります。
益子陶器市
- 住所
- 栃木県芳賀郡益子町内各所(城内坂・道祖土地区中心)
- TEL
- 0285-70-1120(益子町観光協会)
- 入場料
- 無料
- アクセス
- 【車】北関東自動車道「真岡」ICより約25分、または「桜川筑西」ICより約20分
【電車】真岡鉄道「益子」駅より徒歩約15分 - 詳細
- 益子陶器市
陶芸体験ができる地元の窯元を訪ねて
せっかく益子まで来たのなら、益子焼のことをより深く知るために、陶器市とあわせて地元の窯元も訪ねてみるのもおすすめです。町内には初心者向けの陶芸体験や絵付け体験を展開する工房が点在しているため、見て・買って・作って、益子焼の魅力を堪能しましょう。
陶器市の会場から北へ向かって車で5分ほどの場所にある、森の中にたたずむ陶芸工房「益子焼窯元よこやま」では、電動ロクロを使った陶器作りが体験できます(※予約優先)。
豊かな自然に囲まれた広い敷地内には、陶芸体験工房や3つの販売ギャラリーがあり、一角にはベーカリーも併設。
焼き立てのパンの香りに誘われて、まずは敷地の玄関口に店舗を構えるベーカリー「森ぱん」へ。アットホームな雰囲気の店内では、気さくな店長がおすすめ商品を紹介しながら、訪れたお客を温かく迎えてくれます。
店内には菓子パンや総菜パンなど、やわらかくて食べやすいパンが種類豊富にラインナップ。カヌレやマフィンなどの焼き菓子もあります。看板商品は、メープル味のふんわり生地にドライフルーツやナッツのはちみつ漬けをたっぷり詰め込んだ「森パン」(572円)。
また、カボチャサラダを巻き込んだしっとり甘い「かぼちゃの食ぱん」(280円)や、チョコ、いちご、抹茶がそろうずっしりとした食べ応えのマフィン(各378円)なども人気商品です。
陶芸体験のついでに立ち寄りお土産に購入してもいいですが、小腹が空いたら外のベンチや隣のイートインスペースに腰を下ろしてティータイムするのもおすすめ。周囲の緑を眺めながら、店内で購入できるコーヒーと焼き立てパンでのんびり休憩しましょう。
ベーカリーの隣や向かい側には、「益子焼窯元よこやま」に所属する陶芸家たちの作品を展示販売するギャラリーが3棟立っています。
窯元代表の陶芸家・横山雄一さんが手がけた器や窯元に所属する、若手作家たちの器が並ぶ「ギャラリーこころ」、雄一さんの弟の真也さんと貴史さんの作品を中心とした器が並ぶ「ギャラリーどんぐり」、塊根植物のために作られたワイルドな植木鉢が並ぶ「ギャラリーYOKOYAMA CAUDEX ART」など、棟ごとに趣の異なる作品を見ることができます。
ベーカリーやギャラリーを一通りめぐったら、いざ陶芸体験へ!電動ロクロを使った本格的な陶芸体験では、窯元に所属するプロの陶芸家が丁寧に指導してくれるため、初心者でも子どもで楽しく体験ができます。
所要時間は1時間ほどで、制作する器のサイズによっては1回分の粘土で2~3つの制作が可能。大きめの盛鉢や茶碗、平皿など、思い思いの器を作りましょう。
手のひらにたっぷり水をつけて、回転する粘土をそっとなでるように成形していく作業はまるで心のデトックスタイム。集中して制作に向き合っていると、ついつい時間の経過を忘れてしまうほど無心になれて、なんだか心もすっきりしたような気分に。
作った作品は窯元で焼き上げと絵付けが施され、完成品が自宅に届くまで2~3カ月ほど。絵柄や釉薬の色合いは、棚に並ぶ見本から好みのものをチョイスして、オリジナルのデザインにオーダーできます。自分で作った器やカップはきっと、特別に愛着の湧くものになるはず。
益子焼窯元よこやま
- 住所
- 栃木県芳賀郡益子町益子3527-7
- 営業時間
- 9:00~17:00(最終受付15:00)
- 料金
- 各コースにより異なる(配送料別途必要) ※詳細は公式サイトにて確認
- 定休日
- 月曜(祝日の場合は営業、翌日休み)、年末年始、不定休
- アクセス
- 【車】東北自動車道「真岡」ICより約25分、常磐自動車道「桜川筑西」ICより約25分
- 公式サイト
- 益子焼窯元よこやま
見て・買って・作って、陶芸の魅力をとことん満喫できる陶芸の里・益子。作り手の思いも受け取れる陶器市で、日々の暮らしをちょっと豊かにしてくれるお気に入りのアイテムを見つけに、出かけてみてはいかがでしょうか。
取材・文/鎌田 貴恵子 撮影/浦田 進