東北の温泉街の代表格・山形県「銀山温泉」。湯気に包まれた古い町並みや歴史ある建物に心惹かれる人も多いのではないでしょうか。今回は、風情ある温泉郷で大正時代にタイムスリップした気分になれるお宿、「伝統の宿 古山閣(こざんかく)」をご紹介します。旬の懐石料理と天然温泉に癒やされて、ゆったり過ごしてみませんか。建築も必見です。
銀山温泉とは
山形と宮城の県境にひっそりとたたずむ温泉街。ロマンチックなガス灯が夜を照らす、レトロな町並み。温泉地として古い歴史があり、江戸時代の温泉番付にもその名が残っています。大正時代に建てられた立派な建築が今も保存され、宿泊客を迎えてくれます。
東京から銀山温泉までのアクセス
東京からは、山形新幹線で最寄りの大石田駅まで約3時間20分。そこから尾花沢市営バス「銀山線」で銀山温泉駅へ(約40分)。新緑や紅葉の時期はレンタカーでドライブもおすすめですが、冬場は険しい山道や冬季間閉鎖のルートもあるので注意してください。
古山閣の木造建築の美と力強さ
歴史ある宿やお店が立ち並ぶ銀山温泉ですが、現在では、構造全てが木造のままなのは古山閣のみだそうです。欄干(らんかん)が特徴的な2階の窓に、唐破風(からはふ)屋根の玄関。木造4階建てというのもすごいですが、築90年を超えて現役です。
旅人を楽しませる華やかな鏝絵(こてえ)
銀山温泉の名物のひとつに、鏝絵があります。壁を塗る漆喰と左官ごてで描かれる装飾で、古山閣では、2階の軒下部分にずらりと鏝絵が並んでいます。通りを歩くお客さんに楽しんでもらおうと、四季の風景を描いたそうです。
木の温もりと歴史を感じる重厚なロビー
中に入ると広くクラシックなロビー。梁の太さに驚きます。古い時計や電話機が視界に飛び込んできて、時が止まったかのようです。1階が大浴場、2階と3階が客室です。
温泉街は浴衣で外出OK。宿泊客が出歩くときには、玄関で下駄や傘、防寒コートなどを借りられます。実際、浴衣で歩く方がちらほら見うけられました。
物語に迷い込んだような古山閣の木造階段
建物の中央を貫くのはらせんのようにぐるぐると続く階段。角のとれた手すりの丸みに、お客様を迎えてきた時間の長さがうかがえます。
通りに面した客室で銀山温泉の風情を満喫
古山閣の客室はそれぞれ間取りやデザインが異なり、どんなお部屋になるかも楽しみのひとつ。こちらの客室は折上格天井(おりあげごうてんじょう)、壁の色はベンガラ色。床の間には魔除けの意味がある槐(えんじゅ)の木が用いられています。
こちらは大胆に梁を出したお部屋。壁の色が群青色のお部屋もあります。レトロモダンな色使いはどこかエキゾチック。古山閣のご先祖は加賀からやってきたそうで、加賀藩で用いられた色を取り入れているそうです。
町並側からは、窓から温泉街の景色が眺められます。窓辺に腰掛けて通りを眺めれば、まるで映画の世界に入り込んだような気分です。夜になると、カランコロンと下駄の音が響いてきます。
茶器とお茶菓子、ポットと水差しもありました。冷蔵庫には懐かしい瓶入りサイダーと烏龍茶、ビールが入っています(料金別途)。このお部屋は洗面とお手洗い付きなので、身支度するのに不便がないです。
客室には、浴衣と羽織、つま先が割れた足袋型の靴下がありました。この靴下があれば、下駄を借りてそのままお出かけできます。バスタオルとフェイスタオル、歯ブラシのほか、湯籠がありました。
フォトジェニックな窓辺で写真を撮ろう
温泉街自体がフォトジェニックなポイントだらけですが、古山閣の窓に付いた木製の欄干が魅力的で、思わず写真を撮りたくなります。友だちと一緒なら外から撮ってもらうのも良いかもしれません。きっと映画のワンシーンのように、すてきな思い出になりますよ。
永く愛される銀山温泉の名湯
1階に男女別の浴場、3階に貸切露天風呂が2つあります。
男湯は1階からさらに見下ろす位置にあります。これは、機械でお湯を汲み上げる仕組みがなかった時代の名残で、かつては公衆浴場だったそうです。歴史を感じますね。
こちらは女湯。すべて源泉かけ流しで、湯質は弱酸性、無色透明ですがほのかな硫黄の香り。柔らかい手触りで肌がすべすべになります。私の場合は翌日もずっと、美容液を付けたみたいに内側からしっとりしていました。近所にあったら毎日入りたい!
温泉の洗い場にシャンプー、リンス、ボディーソープが置いてあり、脱衣所には化粧水と乳液もありました。着替えとタオルだけ持っていけばOKですね。
夕食は山海の旬素材と尾花沢牛に舌鼓
夕食は客室で。日本海の魚に野菜に果物、畜産も盛んな山形は食材の宝箱。そんな山海の幸が大集合した豪華な懐石料理を、昔ながらのお膳スタイルでいただきます。尾花沢牛温泉蒸しは、お肉がどーんと布団のようにかぶさって野菜が見えません。これがスタートで、次々とお料理がでてきます。
この日のお造りは鮪、平目、牡丹海老。桜海老の道明寺蒸しとそばまんじゅうの香りが良く、印象的でした。サーモン塩焼きに山形名物・牛肉の芋煮。フカヒレ中華風餡には蟹まで入って贅沢です。
蒸しあがった尾花沢牛を持ち上げようとしたら重くて大きくて、思わず笑みがこぼれてしまいました。脂があまくてとっても柔らか。野菜までしっかりおいしいお料理でした。
貸切露天風呂が広くて贅沢
3階には、宿泊客専用の貸切露天風呂が2つあります。入り口の札で確認して空いていれば自由に入れます。こちらは小さい方の貸切風呂。1〜2人旅や親子で利用するのに丁度良い広さです。
そしてこちらがもうひとつの貸切露天風呂。とっても広くて、8人くらい余裕で入れそう。日中も明るくて開放的ですが、夜も風情があっておすすめです。客室数自体が多くないので、タイミングが良ければ待たずに入れます。
素材の味をいかした朝食
古山閣では山形のブランド米「つや姫」を使っているので、ごはんそのものがおいしいです。もろみ味噌のお豆腐の甘みと豊潤な香り。温泉卵やフキの煮物、しそ巻きなどのご当地を感じさせるお料理です。
うれしかったのが鮎の開きを炙って食べられたこと。おいしくて、つい朝から食べすぎてしまいました。
大正ロマンの雰囲気に浸れる宿
古山閣は、銀が採掘されていた頃から数えて現在で18代目になるそうです。「日常を忘れて大正ロマンの雰囲気を楽しんでもらえたら」と、若女将の脇本さん。通りに出かけるたびに、行ってらっしゃい、おかえりなさいと声をかけてくれる、親しみのあるおもてなし。まるで故郷にいるような安らぎを感じました。
銀山温泉ならではのかわいいサービス
銀山温泉の川を挟んだ通りは、狭いので車が入ってこられません。ほんの2、3分歩くだけなのですが、駐車場やバス停までスタッフさんが3輪バイクで荷物を運んでくれるのです。古い温泉街ならではのかわいいシステムにほっこり。どこかのんびりしていて、最後まで癒やされた旅でした。
伝統の宿 古山閣
- 住所
- 山形県尾花沢市銀山温泉423
- アクセス
- 大石田駅より尾花沢経由銀山行バスにて35分 ※送迎についてはプラン詳細をご覧ください。
- チェックイン
- 14:30 (最終チェックイン:18:30)
- チェックアウト
- 10:00
- 客室数
- 15室
取材・撮影・文/Junko Saito