箱根の中心地で、幻想的な景色を目の当たりにする「箱根・強羅 佳ら久(からく)」。全室に温泉露天風呂を備え、和と洋から成るしつらえは癒やしの空間を実現。料理長が腕を振るう食事は日本料理の枠を超え、その味を目的にファンが訪れるほど。2つのテラスや優雅なラウンジが自然との一体感を高め、非日常の世界へと誘います。
電車でもアクセスしやすい好立地
古くより文人墨客(ぶんじんぼっかく)に愛され、今も国内外の人々を魅了する箱根。「箱根・強羅 佳ら久」は、箱根登山電車の終点・強羅駅から徒歩3分ほどの場所にあります。
電車・バスで向かうなら、新幹線が停車する小田原駅からホテルへの無料送迎バスが運行していて便利。1日2往復の事前予約制です(※定員あり)。
約50台分の駐車スペースもあり、小田原厚木道路を経由すれば東京からは約1時間20分。東名高速道路の御殿場ICからホテルまでは約40分ということもあり、名古屋方面から訪れる人も多いそうです。
宿名の「佳ら久」は、「佳(よ)きことが久しく続くように」という想いから生まれた言葉。シンボルマークは縁起が良いと言われる日本の伝統文様「亀甲紋(きっこうもん)」をアレンジしています。
チェックインは自然を感じるロビーにて
エントランスの扉が左右に開かれると、壁一面の寄木細工が目の前に現れ、その壮大さに思わず圧倒されます。箱根の山々を描いた長さ16メートルものダイナミックな作品は、近づいて見ると一つひとつの繊細さが浮き彫りに。引き込まれるように足を進めると、自然とロビーの方へ向かいます。
エントランスが木なら、ロビーは川の空間。季節ごとの草花が置かれており、この時は、太陽色のフォックスフェイスや青紫のりんどうなど。その陰には近くを流れる早川を彷彿とさせる流木が置かれ、壁一面のレンガも早川の流れを表しています。
チェックインの手続きをしながらいただける黒豆茶とせんべいは軽い口あたりで、お部屋に向かう前の小休止にぴったりです。
客室はすべて温泉露天風呂付き
客室棟は東と西の2棟に分かれ、東棟はベッドとリビングルームが一続きになっている間取りが特徴。西棟はスペースごとにさり気なく格子が仕切られ、奥行きが感じられる造りになっています。今回、宿泊したのは東棟上層階の露天風呂付デラックスルーム(洋タイプ)。
それぞれの棟に和と洋の2タイプがあり、和タイプには畳を、洋タイプにはフローリングやカーペットを採用。広さは44平米ほどで、2~4名まで宿泊でき、3名からはソファベッドになります。
お部屋の奥には開放感あるバルコニーと露天風呂を備え、箱根連山や山腹にある宮ノ下の温泉街など、箱根のすばらしい景色が広がります。
今回宿泊した東棟上層階の露天風呂付デラックスルームからは、天気が良ければ山あいの先の相模湾まで見通せます。山と海の両方を一望できる宿泊施設は箱根では珍しく、改めて「佳ら久」が豊かな自然の中にあることに驚かされました。
全室にシャワーが備わっていて、そのまま露天風呂に入れるよう、バルコニーとつながっている配置も東棟の特徴です。パウダールームにはタオルウォーマーが設けられ、快適にタオルを使い続けられると好評。パナソニックのスチーマーも全室にあり、ご褒美感が格段に高まります。
オリジナルのアメニティであるシャンプー、トリートメント、ボディソープに加え、スキンケアセットはクレンジング、洗顔料、化粧水、乳液、ボディローションを用意。ローズゼラニウム、オレンジなど自然由来の香りはやわらかで、しっとりした肌ざわりに癒やされます。
SDGsを意識し、アメニティは事前に客室そろえておくのではなく、必要なものを必要な分だけ。コーム、ヘアブラシ、かみそり、ヘアゴム、ヘアバンド、コットンセット、シャワーキャップ、歯ブラシセットなどは、チェックイン時に伝えると用意してもらえます。
思い思いに安らぎに満ちた時間を過ごしてほしいという想いから、レストラン含め、館内は作務衣や浴衣でOK。好みの浴衣を選べるように5種類の柄を準備したり、小物類を携帯できるようにサコッシュを用意したりと、心配りも細やかです。そのほか、ワンピースタイプのパジャマ、バスローブ、肌寒い時のための羽織もあります。
ちなみに「佳ら久」では宿泊に年齢制限は設けておらず、子ども用の歯ブラシやスリッパ、館内着にベッドガード、そして、紙おむつ用ダストボックスとベビーバスも借りることができます(※在庫に限りあり)。
冷蔵庫の中にはフリードリンクのミネラルウォーターと有田みかん100%の「飲むみかん」があり、湯上がり後にぴったり。ウェルカムスイーツは、人気パティシテ・辻󠄀口博啓氏による豆スイーツブランド「Feve(フェーブ)」のお菓子。フランボワーズなど洋の食材を掛け合わせた新鮮な味わいで、和と洋のしつらえを兼ね備えた「佳ら久」らしいチョイス。おつまみやドリンクもお部屋のタブレットから注文できます(15:00~L.O.22:30)。
空に近い、最上階の展望露天風呂へ
部屋でひと休みしたら、いよいよ温泉へ。「佳ら久」には「蒼海(そうかい)」と「明星(みょうじょう)」の2種類の展望露天風呂が設けられ、男女入れ替え制。「蒼海」「明星」ともに内風呂と露天風呂が1つずつあり、サウナと外気浴スペースもあります。
「蒼海」は周囲に広がる山海の景色を引き立たせるため、浴槽は白を基調とした造り。
視界をさえぎるものがない「蒼海」の露天風呂は、山と空が自分を中心にどこまでも広がり、開放感抜群。空が近く、浮遊感さえ感じます。
無色無臭の温泉は、さらっとした肌ざわりが心地よいナトリウム−塩化物温泉。幅広い年代に親しまれている泉質で、塩分を含んでいることから湯冷めもしにくいのが特徴。乾燥を防ぎ、しっとりした肌になると言われています。
のどの渇きとお腹を満たしにゲストラウンジへ
宿泊者が利用できるゲストラウンジ「間<AWAI>」は、多彩なフードとドリンクがそろい、何度も通いたくなる場所です。
ラウンジに置かれた家具の素材や形はあえてバラバラ。ラグジュアリーな雰囲気の中で、ゲストそれぞれが居心地の良い席を見つけてくつろげる空間です。
ラウンジからは外に出ることができ、その先には原生の自然の木々を眺めることができるカウンターが。絶妙な距離で席が配置されていて、プライベート感を味わえます。
自然に囲まれながらだと、食事もさらにおいしくなるよう。ラウンジのフードとドリンクを味わいながら、休日の始まりを全身でかみしめます。
フォトスポットとしても人気!森&水のテラス
夕食前にお腹を空かせようと、敷地内の散策へ。カウンター席の脇にある階段を上っていくと「森のテラス」にたどり着きます。ちょっとした展望台のようで、正面に浅間山(せんげんやま)を望むソファ席も。
通路の両側には竹が悠々と伸び、風が揺れると頭上の笹が涼やかな音を奏でます。やわらかな木漏れ日があたたかく、ゆっくりと流れる時間とともに自分自身もゆるやかになっているみたい。
そのまま散策を続け、本館と別館の間に配された「水のテラス」へ。「佳ら久」のシグネチャーテラスは、辺り一帯が水盤と化し、中央の透明なオブジェは現代アートのようです。
周りには、水の音色や移り行く景色を楽しめるようにソファ席も用意されています。
「朝の水のテラスだったり、昼の森のテラスだったり、どちらのテラスも時間ごとに色が変わり、雰囲気も変化していきます。昨日見た景色とは二度ともう会うことができないのかと思うと儚くて、だからこそお客さまとの出会いを含め、一瞬一瞬を大事にしたいと思います」と、スタッフの篠原暁子さん。
スパ、貸切風呂で癒やしのひととき
滞在に特別感をプラスしたいなら、「Gora Spa AIOI」がおすすめ。トリートメントは木・火・土・金・水の五行説と温泉を組み合わせたユニークなもの。一人ひとりのエレメントに合わせ、気のバランスを整えることで、心身をリラックスさせてくれます。2人で同時に施術を受けられるペアルームもあり、友人同士や母娘、カップルで利用できます。
「佳ら久」には大浴場とはまったく異なるデザインの貸切風呂も。天然檜(ひのき)の香りに包まれる「檜の湯」、堅固な強羅の岩が目を引く「岩の湯」、マイクロバブルのつややかなお湯が張られた「シルクの湯」の3種類が体験できます。
どのお風呂もこだわりのある空間美に魅せられます。15:00~23:00と7:00~10:00のうち、1時間から予約可能です(5,000円/1時間)。
夕食は驚きと感動の連続
「佳ら久」の夕食は、メインダイニング「六つ喜(むつき)」とグリルレストラン「十邑(とむら)」の2カ所から選べ、この日は新しい日本料理を味わえる「六つ喜」へ。味覚や嗅覚などの五感に加え、ここならではの体験を含めた六つの要素を喜びで満たしたいという願いが名前の由来になっています。
ほかのゲストと視線が交わらないようにするなど、さり気ない気遣いのもと、テーブル席が配置されています。
季節ごとに替わる会席料理の先付として登場したのは、ホタテ、甘エビ、昆布締めのタイが盛り付けられた最中(もなか)。お箸ではなく手でいただくスタイルが新鮮で、思わずワクワクしてきます。タルタルで和えられた中に柚子やしば漬けの風味がさりげなく香り、食事の始まりにぴったりなやさしい味わいです。
異なる食感と味が楽しめる4種類の小鉢の菜は、利き酒師が選ぶ日本酒とペアリングしたいところ。献立に合わせて、全国から選りすぐりの銘酒が味わえるのは「佳ら久」の醍醐味のひとつで、日本酒以外にもワインやノンアルコールドリンクのペアリングも楽しめます。
フエフキダイ、本マグロ、クロムツのお造りは駿河湾と相模湾で獲れたもの。お供には、京野菜の万願寺とうがらしを加えた獅子唐醤油、かつお節と合わせた土佐醤油、煮切った日本酒に出汁と梅を付加した煎り酒の3種を用意し、おすすめの食べ方も丁寧に教えてくれます。調味料との組み合わせで魚の味が多彩に変化し、ちょっとした食べ比べを堪能。
魚料理は3品から選択でき、こちらは稲取で獲れた金目鯛。炭火焼きにすることで皮はパリッと香ばしく、ほのかな苦みさえも食欲を促進。添えられたマツタケやシイタケの香りから秋を感じられます。
ハモと秋ナスの天ぷらが並ぶ一皿には、モスグリーンの山椒ソース、ムール貝の出汁が入ったエスプーマ(泡状のソース)が添えられ、まるでフランス料理のよう。ビールを加えた天ぷらの衣はサクッと歯ざわりが良く、ハモやナスの味にいっそう深みを与えます。
強肴(しいざかな)は、和牛と京鴨に藁(わら)の香りをまとわせたもの。和牛サーロインは簡単に噛み切れるほどやわらかく、脂の甘みが口の中に広がります。
一方、鴨は皮に近い部分はジューシーで、赤身は弾力があり、異なる食感を一度に味わえます。鴨の出汁にトンカ豆やシナモンをあわせたソースと一緒にいただくことで鴨のコクが引き立ち、海老芋との相性が抜群です。
最後の土鍋で炊いたご飯は、蓋を開けるときのこご飯の上にポーチドエッグが。柳マツタケ、ヒラタケ、ハナビラタケの3種を混ぜ込み、さらに半熟卵が加わることで全体の味が調和され、まろやかな味わいに仕上がっています。
デザートには、さまざまな調理法でひとつの食材を活かすデクリネゾンというフランス料理の調理法で、洋梨のテリーヌやタルトが登場。クラフトジンのエスプーマと甘酒のアイスにより、洋梨の繊細な甘みがより際立つ一皿です。
旬の食材を活かす調理法はもちろん、その魅力を引き立たせるための付け合わせや調味料も吟味されていて、次はどんな料理が提供されるのかワクワクする夕食でした。
夕食を終え、ふと夜風に当たりたいと思ったので「水のテラス」を再訪。青空を映していた昼の様子から一転、ライトアップされて幻想的な風景が浮かび上がっていました。
お部屋に帰ってきたら、身体が冷えたので露天風呂へ。好きなときにさっと温泉に浸かれて、そのままベッドに飛びこめるのは、露天風呂付き客室ならでは。
照明を最小限に、普段は経験できない闇の中に身を沈めてみると、風にのって登山電車の音や虫の鳴き声も。今日が佳い一日だったという充実感に満たされながら眠りに就きます。
早起きをしてテラスで日の出観賞
翌朝、どうしても朝焼けを見たくて日の出前に起床。「佳ら久」オリジナルのSerta(サータ)製マットレスは身体をやさしく包み込み、短時間でも熟睡できたので身体も軽やかです。
おすすめ場所として教えてもらった「森のテラス」へ向かうと、先客の鳥たちの鳴き声があちらこちらから聞こえます。徐々に青から黄色、オレンジと空が変化していき、その太陽と空が織り成す光景にただ息を呑みます。
朝日を浴びたら、「森のテラス」の下にあるラウンジへ。7:00からオープンしており、朝用に用意されたヨーグルトやフルーツをいただけるのは早起きの特権です。
そのまま、昨日は入れなかった展望露天風呂「明星」で朝風呂を満喫。落ち着いた雰囲気の中に内風呂と露天風呂が1つずつあり、ドライサウナも備わっています。
露天風呂の正面には、「箱根強羅温泉大文字焼」が行われる大文字山(明星ケ丘)が望め、四季の移ろいを教えてくれます。「箱根強羅温泉大文字焼」は、うら盆の送り火行事として毎年8月16日に開催。次回は大文字焼の日に訪れようかなと、すでに考えている自分がいました。
朝食はご飯が主役の和食膳
「六つ喜」の朝食は、白磁や水色の器とともに数々のおばんざいが食卓を彩ります。控えめな味付けで噛むごとに卵の甘みが感じられる特製のだし巻き卵は、通年欠かさずにいただけるもの。
地元の専門店から仕入れるお豆腐も定番ですが、秋ということで温かく仕立てられています。スズキのお造りは土佐酢やしょうがを加えたなますが添えてあるので、さっぱりとしていて朝食にぴったりです。
焼き物には、静岡県下田市の小木曽商店から取り寄せているエボダイの干物。炭火の焼き加減も絶妙で、皮はパリッと香ばしく、身はふっくらと焼き上がっていて、頭までおいしくいただけます。ほのかな塩加減にご飯が進みますが、釜で炊き上げた白米も実は特別なのです。
お米好きの料理長が全国から白米を取り寄せ、朝食用にたどり着いたのが福井県産の「いちほまれ」。お米の粒が大きく、甘みがあるのが特徴で、このご飯に合わせておばんざいを用意したのだとか。
一方、夕食に提供しているのは山形県産の「つや姫」。吸収率が高いことから出汁との相性が良く、炊き込みご飯に向いているとのこと。食事ごとにお米を使い分けていることからも、料理へのこだわりが垣間見えます。
締めくくりには、芋羊羹(いもようかん)と季節のフルーツの柿が登場。芋羊羹の上には相性が良いリンゴを焼いて盛り付け、さらに香りを楽しんでもらおうと、リンゴのブランデーを数滴かけています。それぞれの食材の魅力を引き立てるフードペアリングは、最後の一品まで健在です。
「ここは駿河湾や相模湾の魚介をはじめ、野菜も箱根西麓三島野菜や神奈川の相州野菜、伊豆野菜と食材が豊富。料理人として生産者さんとの距離が大事だと思っているので、休日も足を運んで勉強させてもらっています。伊豆はオリーブも栽培していて、あまり日本料理では使わない素材ですが、どうしたら合わせられるのかを研究していますね。
自分にとって料理は芸術。食べたものをどう感じるかは人それぞれなので、その感想を教えていただいて、次の成長につなげていきたいですね」と語る、料理長の立石真平さん。和食の域を超え、洋の食材や食器も取り入れる姿勢から、常においしい料理を生み出そうとする情熱がうかがえました。
人気のお土産を購入してチェックアウト
チェックアウトは11:00なので、それまでにショップ&ギャラリーをチェック。定番の箱根温泉万寿(まんじゅう)は、こしあんとつぶあんの両方を販売。老舗「塩辛屋」の塩辛せんべいは、宿泊者以外で立ち寄って購入する人もいる人気商品です。
自宅でも「佳ら久」の味を思い出していただけるようにと、料理長がオリジナルブレンドした調味料も。煎り酒、土佐醤油は夕食時にお造りと一緒にいただいたもので、煮込み料理の隠し味にもおすすめです。
佳いことが続きますようにという願いを込めて名付けられた「箱根・強羅 佳ら久」。お部屋には四季をテーマにしたお香が置かれていますが、秋の香りは除かれています。「滞在に飽きがきては困りますから」とのことですが、「佳ら久」では杞憂にすぎません。
箱根の自然に抱かれ、美味への探求心が創り出す食事に感嘆し、温泉でくつろぐひととき。この至福の思い出が活力になり、明日も佳き日になる。そんな幸せの予感さえしてきそうです。
箱根・強羅 佳ら久
- 住所
- 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300-8
- アクセス
- 箱根登山鉄道「強羅」駅より徒歩約3分、「箱根湯本」駅よりタクシーで約20分
- チェックイン
- 15:00
- チェックアウト
- 11:00
- 駐車場
- あり(無料)
取材・撮影・文/浅井 みら野