都会の喧騒から離れ、夕焼けに染まる海を目の前にシェフ自慢のフランス料理を味わい、手を伸ばすのはソムリエ厳選のワインやシャンパン。まるで映画のワンシーンのような休日を実際に再現できるのが、静岡県熱海にある「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」です。
全国の美食家たちから40年に渡り愛され続けている「ひらまつ」が運営する宿泊施設であり、13室という厳選されたお部屋すべてがオーシャンビューで温泉付き。数寄屋建築の巨匠による日本家屋にヨーロッパのエッセンスが加わった、希代の宿になっています。
熱海城のすぐ近くに佇む、元別荘
伊豆半島を縦断する国道135号線のトンネルを抜けて熱海城方面の脇道へ。車が急峻な道を上っていくと車窓が徐々に緑の木々へと変わっていきます。熱海駅から車で約15分。「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」は錦ヶ浦(にしきがうら)を見下ろす山の中腹に位置しており、入口は看板がなければホテルとは思えない出で立ちです。
それもそのはず。実は個人の別荘だった由縁を持ち、その建築を手掛けたのが金閣寺の茶室を再建したことでも有名な木下孝一さんでした。数寄屋造りの名工が残した財産を譲り受け、新たに客室部分を増築したのが現在の姿です。
到着と同時にスタッフと相模湾がお出迎え
木漏れ日のトンネルを抜け、木々に囲まれた平屋建てが見えてくると、どこか懐かしい気持ちに。入口では笑顔のスタッフがお出迎えしてくれていました。
玄関に入ると、芳しいヒノキの香りが漂い、思わず立ち止まって深呼吸。清々しい香りを纏えば、気持ちも一気に休日モードへ。うぐいす色の土壁に梁見せ天井、眼前には書家の井上有一さんによる『同』の文字が躍動し、非日常の時間が始まろうとしています。
チェックインのために誘われたラウンジは、淡い青空とコバルトブルーの相模湾といった青の景色が広がり、今までの重厚だった雰囲気が一転。ここが光あふれる海の町だということを思い出させてくれます。
ウェルカムドリンクには、アラン・ミリアのジュースもしくはシャンパンを。アラン・ミリアは母国フランスの高級ホテルやレストランも御用達で、赤グレープのカベルネやストロベリーなど約5種類から選べます。自家製カヌレも用意され、まずは今日の滞在に乾杯です。
数寄屋造りの粋を感じる「特別室」
全13室のうち「特別室」と呼ばれている2部屋は、別荘だった間取りをそのまま活かしたお部屋です。梅の間・松の間の居間から望む日本庭園では名前の由来となった梅と松を各部屋で愛でることができます。
160平米以上と館内随一の広さを誇る、梅の間。居間を中心に寝室2部屋と洗面所、大きなクロークが配されています。
露天風呂と内風呂※の両方を備え、最大で大人4名とお子さま2名(添い寝)が利用できるため、三世代で滞在される方も多いと聞きます。
※特別室の内風呂は温泉ではありません。
特に目を引くのが日本庭園の中央に構えている露天風呂。満々とたたえた塩化物泉は海水と同じ弱アルカリ性で、湯冷めがしにくく美肌効果にも期待。浴槽の奥にはソファがしつらえてあるので、湯上がりにそのままバスローブをまとって涼を取ることができます。
いぐさが香る居間は十二畳以上の広さがあり、一枚板のテーブルには段差が設けられ、掘りごたつのように利用できます。桐の木目が美しい格天井、光の加減で紋が浮かび上がるふすま、そして井上有一さんの書『泰山』に生け花が飾られた床の間など、数寄屋造りの魅力が詰まった空間です。
特別室に限っては居間で食事をとることも可能。お部屋でリラックスしながらお食事を楽しまれる方も多いのだとか。
「熱海の自然に囲まれながら、お客様におくつろぎいただけるよう館内はあえて音楽を流しておりません。静かなひとときの中で温泉と自然を楽しんでいただければと思います」と、スタッフの村井さん。その言葉が示すように、縁側に置かれたジョージ・ナカシマのアームチェアは長時間座っても座り心地がよく、熱海の自然を一望できる特等席になっています。
水平線を借景とした「コーナースイート」
別荘から宿泊施設へ生まれ変わった時に増築したのが、階下の2フロアです。絨毯やダウンライトといったモダンな装いを取り入れ、ラグジュアリーなリゾートホテルに様変わりしました。
72平米の広さがある1階「コーナースイート」は、1~3名が利用でき(3名の場合エキストラベッド対応)、温泉の半露天風呂と大きなテーブルを配したベッドルームが海を望むレイアウト。壁一面のガラス窓を開放すると、鳥のさえずりと共に海風が優しく部屋を吹き抜けます。
寝室と同等サイズの大きな浴室は、普段以上に時間をかけて温泉に浸かりたい気分になるはず。視界の先には空と海がひとつづきで見渡せる光景が広がり、ここでは時間の進み方もゆっくりです。
浴室の一角にはレインシャワーが備えられ、大きな鏡がある独立洗面台も2つ用意。贅沢な空間でありながら、使い勝手も考慮されています。
お部屋のベッドは100年以上の歴史を持つキングスダウン社のREGALIA(レガリア)のマットレスを使用。優しく包み込まれるような感覚で熟睡でき、宿泊を機にご自宅用に購入される方も多いそう。
非日常へ誘うアメニティ類
お部屋でのんびり過ごせるように、そして睡眠も良質であるようにと、宿では館内着とパジャマの2種類を用意しています。女性用にはリボンや明るい色を採用するなど、機能に留まらずデザイン性にもこだわりが感じられ、おみやげとしても人気。
シャンプーやコンディショナーには、サルヴァトーレ・フェラガモのコンヴィーヴィオ(CONVIVIO)を置いています。イタリアの楽園と言われるトスカーナを意識した、華やかで上品な香りに包まれます。
歯ブラシやシェービングキットなどに加え、女性の方にはCLAYD(クレイド)のクレンジングと保湿に特化したAYAMAのフェイスマスクも用意されています。
キャビネットにはミネラルウォーターとエスプレッソマシーン、お湯を注ぐだけで完成のジンジャーシロップ、緑茶、ダージリン、オリジナルブレンドのハーブティーが用意されています。取材時には、2022年4月8日で創業40周年を迎えた「ひらまつ」オリジナルのハーブティーもあり、お土産にいただきました。
ロイヤルコペンハーゲンのティーカップと優しい甘さのナッツ菓子が揃えば、ゆったりと和やかなティータイムの始まりです。
フルコースのフランス料理に期待高まるダイニング
空と海が闇に紛れ、キャンドルにやわらかな光が灯るころ、この滞在のクライマックスが静かに近づこうとしています。
「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」を訪れる目的であり楽しみでもあるのが、旬の食材と腕利きシェフによるフランス料理のフルコース。料理長の猪野さんは、ひらまつ本店に始まり、本場のパリ、そして各地の「ひらまつ」で腕をふるってきた経歴の持ち主です。
「駿河湾 赤座海老のコンフィ コールラビのピューレ キャビア添え」は、海老のやわらかな食感と濃縮した味わいに目を見張る一品。また沼津にたどり着いた流木を台座に使うなど、器にまで趣向が凝らされています。
「熱海といえば魚介が有名ですが、農家さんから洋食に合う野菜を直接仕入れたり、赤身がおいしい『静岡そだち』というブランド牛を調理したりと、地域の食材を幅広く取り入れています」と、猪野さん。
その言葉通り、伊豆産の美味を味わえるのが「天城軍鶏のクネルと色々なキノコのソテー セップ茸のコンソメ仕立て」です。仕上げとして目の前でスープが注がれ、終盤になるとキノコの風味がコンソメにも移るという、時間とともに変化する味の深みが楽しめます。
「黒毛和牛 静岡そだちサーロインのポッシェ 赤ワインソース 伊豆産わさび“伊豆かおり”のアクセント」は、サーロインに出汁の旨みもまとわせて、芳醇な味わいに。さらに静岡らしさを満喫できるよう、わさびを活かした工夫も。オランデーズソースにわさびの清涼感が相まって、お肉とソースとの相性が絶妙です。
「こだわりを持って取り組んでいる生産者さんが多く、その思いを引き継いだうえで、調理に励んでいます。お客さまからいただいた料理の感想を生産者さんにお伝えすることもあり、(私たちは)つなぐ役割だということを大切にしていきたいです」と話す猪野さんの言葉から、料理にこめた真摯さがうかがえました。
ソムリエ厳選のペアリングワイン
お客さまから食事への期待が高い「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」において、2,000本以上の中から料理に最適な1本を探し出すソムリエは欠かせない存在です。多数ある宿泊プランのうち、ソムリエがお薦めするシャンパン、ワインのペアリング付きプランを選ぶ方も多いと聞きます。
ペアリングのメニューは杯数によって3パターンありますが、共通して「ドゥラモット・ひらまつオリジナル シャンパーニュ」を最初にいただけます。すっきりとした爽やかな味が特徴で、食事の始まりを告げるのにふさわしい1杯です。
「ワインとお料理、どちらの味も引き立つようにペアリングのメニューを考えております。ご滞在中はオフの日ですから、ワインのことはソムリエに任せていただき、お客さまには至福のマリアージュを満喫していただきたいです」と、話す荒井さんの言葉からは、美食を約束するソムリエとしての自信が感じられます。
またワインのほか、希少な静岡茶も複数取りそろえているなどノンアルコールドリンクにも抜かりがありません。
記念日プランでさらに思い出深い日に
メッセージ付きケーキや、季節の花々をあしらったブーケがついた記念日プランも人気です。ブーケの代わりにグラスシャンパンを頼むこともできるので、好みに合わせたお祝いが叶います。
夜の余韻を引き継ぐ朝食メニュー
「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」の朝食は、ひらまつが運営する全国のレストランでは食べることができない、ホテルならではのメニュー。それだけに、実はディナーと同じくらい注目されています。
静岡産みかんジュースや宮城県産トマトジュースは、果実の甘さが際立ち、目覚めの一杯にちょうど良いドリンクです。ひょうたん型の鶴首かぼちゃを使ったポタージュは濃厚で、舌ざわりもなめらか。パンはクロワッサンやパン・オ・ショコラ、ミニバゲットなど5種類があり、はちみつやひらまつオリジナルのアラン・ミリアのジャムを組み合わせていただきます。
メインを飾るのは富士山の麓で育った御殿たまごを使ったエッグベネディクト。味もさることながら眼福も得る一品で、バターの風味が香るパンに、桜チップで燻製したくぬぎ鱒(マス)が卵の下に隠れていて、噛むほどにそれぞれの旨みが絡み合います。
ホテルを支える「女将さん」
フランス料理を味わうレストランでのもてなしや、アンティーク家具などもとり入れた客室のしつらえは、さながらヨーロッパの高級ホテルのような雰囲気ですが、「旅館」のように感じられるのが女将さんの存在です。
「いざ始まってみるとすべてが手探り状態でしたが、お客さまから多くのことを教えていただき、そのおかげで成長できたと思います。何度も訪れてくださる方のなかには、『熱海の家に遊びに来たよ』とおっしゃってくださる方もいて、本当にうれしいです」と、お客さま一人ひとりを思い浮かべながら話します。「新幹線を使えば東京から約45分という土地柄、関東圏のお客さまが多いです。普段をお忙しく過ごされていると思いますので、熱海にいる間はゆっくりとご自分の時間を大切にしていただきたいですね」。
ある時、別荘を手掛けた木下孝一さんの娘夫婦も滞在。当時の施工中の様子を語ってくれ、建物を壊さずに維持してくれたことへの感謝も荒井さんに伝えたと言います。「私たちだけでなく、ここの雰囲気はお客さまと一緒につくられてきたと思います。不思議ですよね。多くの方たちが行き交うことで建物もどんどん明るくなっていったのですから」と、荒井さんの笑顔も輝いていました。
日本とヨーロッパの美を堪能できる唯一無二の宿
おいしい食事を味わうだけでなく、その前後の滞在も思い出深いものに。極上のフランス料理に留まらず、日本の美とヨーロッパの贅を尽くした宿泊体験。「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」そのものが、マリアージュを楽しめる場所です。
THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海
- 住所
- 静岡県熱海市熱海1993-237
- アクセス
- 熱海駅からタクシーで約15分
- 総部屋数
- 13室
- チェックイン
- 15:00 (最終チェックイン:19:00)
- チェックアウト
- 11:00
撮影:岡村智明 取材・文:浅井みら野