日本三大名湯のひとつ、下呂温泉で約70年の歴史を誇る「下呂温泉 小川屋」。楽天トラベルが発表する2019年「下呂温泉のおすすめ!人気宿ランキングTOP10」にもランクインした、温泉街を代表する旅館です。
その人気を支えるのが、広々とした畳敷きの温泉「畳風呂」。和の落ち着いた雰囲気に加え、機能性の高さも備えていて、子どもからお年寄りの方まで安全に温泉を楽しむことができます。そんな畳風呂には、老舗旅館の考える「おもてなし」が表されていました! 温泉のみならず、客室、お料理など、訪れる人誰もがくつろげる工夫が詰まった小川屋の秘密を、支配人の川東孝司さんのお話を交えてご紹介します。
小川屋のおもてなしの精神と下呂温泉の文化が表された「畳風呂」
小川屋の代名詞、「白鷺の湯(畳風呂)」。東海地区最大級の広さを誇る畳敷きのお風呂で、およそ100畳の空間が広がります。どこか落ち着きを感じさせる和の畳文化を用いた浴場には、白鷺による発見伝説を持つ下呂温泉の歴史を用いてその名が付けられました。
タイル張りの床との大きな違いは、温泉の水気やシャンプーの洗い残しがあっても、滑りにくいところ。たとえ滑っても柔らかな床なので、赤ちゃんからお年寄りの方まで安心して入ることができます。また畳の上は温かく、お湯で火照った体を癒すように寝っころがる人の姿もしばしば。特殊加工された畳なので、衛生面もしっかりと配慮されています。
畳風呂が誕生したのは2007年のこと。小川屋の長い歴史から見れば、比較的最近のことです。下呂温泉の名湯をもっと良い環境の中で入ってもらえたら…そう考え抜いて誕生したのが、「畳」と「温泉」の異色とも言える組み合わせだったのだそう。
「日本に古くから息づく畳と、温泉が融合した良さを畳風呂で感じてもらいたいです」。
そう話してくださるのが、支配人の川東孝司さん。元々は、都会の外資系大型ホテルで働いていましたが、下呂温泉という伝統ある場所でゲストサービスを追求してみたいと2014年に下呂に移住。現在は、小川屋の新たなサービス開発などにも関わっていらっしゃいます。
「なんとか、多様化するお客様のニーズに合うように施設を運営していかなくてはいけないと取り組んだのが、温泉施設のリニューアルなど、ハード面の改革でした」。
かつて団体旅行やご年配の方が多く訪れていた温泉街も、今では若者グループやカップル、外国人観光客など、用途が多様化。そこで、老若男女を問わず和の伝統に親しめる畳風呂をかつて作り上げたように、下呂温泉の趣をより多くのお客様に届けられるよう、現在も館内に続々と新施設をオープンさせているのだそうです。
館内湯めぐりが楽しい!ますます個性的な温泉浴場へ
そのひとつが、温泉浴場。畳風呂だけでも十分に一見の価値ありの小川屋ですが、2017年に新温泉スパ「汕(せん)」、2018年には「薬師の湯」をそれぞれ新装オープンさせており、館内にいながら5つのより個性的な浴場を湯めぐりできるように。男女入れ替え制なので、滞在中すべての温泉を楽しむことができます。
新温泉スパ「汕」
2017年8月にオープンした「汕」は、浴場というよりスパと呼ぶべきおしゃれでモダンな空間。もちろんお湯は伝統の下呂の名湯です。一角では天然温泉の炭酸泉やジャグジーが楽しめて、湯上り後も長く「美肌の湯」のしっとりとした肌触りが堪能できます。
「モダンな雰囲気はありながらも、コンセプトは益田川(飛騨川)なんですよ」と川東さん。仕切りのように配置された壁は、ほどよい目隠し効果があるだけでなく、あえて不規則に配置することで岩を表現。益田川の荒々しさを表しているそうです。温泉に浸かりながら、下呂の自然のエネルギーを体感することができます。
元々ここは温水プールでしたが、需要が減り思い切って改装。若いカップルやグループにも親しみやすいモダンな雰囲気の中に、下呂温泉の変わらない魅力が表現されています。
薬師の湯
2018年4月には、元々男性用の畳風呂だった浴場を「薬師の湯」として新装オープン。一部、畳敷きのエリアを残しながらも、格子の窓を採用し、日中には日差しを取り込み、夜間には幻想的な光と影を作る空間に生まれ変わりました。
「当館は日帰り風呂もやっているので、夜に入られる方ばかりとは限りません。昼のやさしい光を生かした温泉大浴場というのは今までにはなかった発想です」と川東さん。
中央にはヒノキ風呂を新設。現代的な新しさの中にも、畳とヒノキで日本的な雰囲気が残されており、落ち着いて温泉を楽しむことができるようになっています。
脱衣場もおしゃれにリニューアルされていますが、木製ロッカーなどところどころに昔から使われていた調度品が残されているのがポイント。新しさだけではない、小川屋の歴史が感じられます。
すべてコンセプトの違う、5つの温泉
その他にも、大量のマイナスイオンが作られるホワイトバス美容湯治露天風呂「白妙の湯」、露天風呂「河鹿の湯」を含めて、館内5つの大浴場はすべてコンセプトが異なります。
「下呂温泉は、どこの旅館も湯源は一緒なので泉質は変わりません。であれば、いかにユニークな温浴施設を作れるかが勝負。館内だけで湯めぐりしてもらえるような複数の施設を整えることができたのは当館の強みです」。
大浴場のほかに、貸切り温泉風呂が7種類も。坪庭付きの半露天風呂や飛騨川に面するテラス付きの風呂など、プライベート空間でくつろぐことができる湯処が揃います。宿泊客であれば無料で予約できるのもうれしいポイントです。
和風旅館の趣を活かしながら作られた、種類豊富な客室
温泉だけでなく、幅広い客室タイプでもてなしてくれるのも、小川屋の魅力のひとつです。
写真の「香流閣(こうりゅうかく)」は、古き良き温泉宿の面影を残す日本家屋で、一般的な旅館のイメージに近い客室。築約50年の建物は、当時でも手に入りにくかった特殊な木材を使った数奇屋造りで、特別な趣があります。
調度品や窓から眺める日本庭園など、素朴な温かみを感じられる空間とあって、昭和レトロな雰囲気を求めて宿泊される海外の方も多いそう。
大胆に北欧デザインを取り入れたコンセプトルーム
香流閣とは全く雰囲気の異なる新客室もここ数年で続々とオープン。2015年には北欧のデザインと和を融合させたコンセプトルームの「TONERICO」、そのテイストをさらにグレードアップさせた新装客室 「橙~daidai~」「杷~sarai~」は2016年に完成しました。
「仲居が部屋に案内し、部屋食を提供し、布団の上げ下ろしを行うという従来のおもてなしも良いのですが、現在は必ずしもそうしたサービスばかりが好まれるとは限りません」と川東さんは言います。
実際、和室よりも洋室の方がくつろげるという方が多いのも事実。そこで誕生したのが、伝統的な旅館のテイストを取り入れながら、洋風客室の利便性、さらに若い層にも受け入れやすい白を基調とした北欧風デザインと、様々な要素の「いいとこどり」をしたお部屋でした。
「橙~daidai~」「杷~sarai~」は客室内に半露天風呂付き。源泉掛け流しの下呂温泉を、好きな時に好きなだけ堪能することができます。
飛騨の伝統美を追求したスイートルーム
2018年には、半露天風呂付きのスイートルーム「碌間(ろっかん)」もリニューアルオープン。ソファやベッドなど現代になじみのあるインテリアを取り入れながらも、デザインで表現するのは日本や飛騨の伝統美。飛騨川にせり出すように作られたウッドテラスは「桟敷」と呼び、和紙や陶器といった和建材も随所に使用されています。ラグジュアリーなのに素朴な和の落ち着きがある、ゆったりとくつろげる空間です。
全天候型の半露天風呂もあり、贅沢なプライベートスペースを楽しむことも。
リーズナブルに宿泊できる客室も!
「若い世代にも気軽に温泉に来てもらいたいので、ビジネスホテルのような価格帯で宿泊していただける部屋も作りたかったんです」。
2019年にリニューアルした「紬(TSUMUGI)」はまさにそんな思いを実現したもので、1泊朝食付きで1名10,000円以下~の価格を実現したプランのある部屋。和室と洋室が選べて、洋室のツインベッドは、リゾートホテルのような居心地の良さです。
リニューアルする前は簡易宿泊施設のような部屋で、男性一人客が中心だったのが、リニューアル後は、カップルや女性一人で宿泊する人も増えたのだそう。コンパクトながらも清潔感のある水回りと、モダンなデザインが若い世代にぴったりです。
「お客様を選ぶのではなく、どんなお客様にも合わせることができる旅館でありたい」。そんな思いが形になった空間が整っていることが、小川屋に多くの人を引き寄せているのです。
2019年にリニューアル!飛騨の恵みをいただくモダンな食事処
2019年8月には、食事処「季咲亭」もモダンテイストにリニューアルオープン。
「おしゃれな空間で気楽にお食事を楽しんでいただきたいと言う思いで、レストランの季咲亭をリニューアルしました」と教えてもらった通り、広々とした造りで隣の席との間隔も広く、各席を仕切るすだれの目隠しも用意されて、個室のような空間で食事を楽しめます。
大人数対応の席や個室、半個室など様々なスタイルの席があり、小さい子どもがいる家族や、グループ旅行で来ても安心です。
「建物などハードは現代的になっても、飛騨の大自然に育まれた下呂という場所を感じてもらいたいから、地場の食材を使っているんです」。
夕食には、地元野菜や、ブランド牛「飛騨牛」を使用したメニューがラインナップ。特にこだわりがあるのは「飛騨コシヒカリ」なのだそう。昼夜の寒暖差があり、澄み切った空気の中作られるお米は、うま味やコクを表す食味(しょくみ)というスコアで高得点を獲得する高級米。抜群のツヤと、口に含んだ時のどこかすっきりした味わい、のど越しを感じられるのが特徴です。
「季咲亭」は朝食バイキングの会場でもあります。小川屋の朝食は「楽天トラベル 朝ごはんフェスティバル(R)」で2013~2014年と優勝した実績がありますが、「季咲亭」のリニューアルに合わせて、自慢の朝食をバイキングとしてさらにパワーアップ。
40種類以上のメニューがずらりと並び、中央のカウンターでは調理人が出来立ての料理を提供してくれるパフォーマンスを見ることもできます。特に人気なのは、「飛騨コシヒカリ」を使って握られるおにぎり。シンプルな塩の味付けだけでもうま味を感じられる逸品です!
日帰りや食べ歩きニーズにも応える、小川屋の多様なおもてなし
「重要なのは、多様な宿泊プランを用意することです。豪華な食事を楽しみたい方もいれば、食事は付けたくないという方もいらっしゃいます。いろんなニーズに対応できるようにすることが、今後温泉旅館が生き残るカギなのかなと考えています」と川東さんは言います。
ここ数年で、ハイグレードからカジュアルまで宿泊スタイルが選べるようになりましたが、2019年には季咲亭のリニューアルに合わせ、日帰りプランもスタート。自慢の温泉を湯めぐりできるほか、飛騨牛料理がラインナップする昼食バイキング付きで、大人一人3,000円(税抜)。リーズナブルに小川屋のおもてなしを体験できるプランになっています。
「伝統を守ることも大事ですが、格式などにはとらわれず、常に今何が流行っているかをキャッチしていくことも重要。当旅館には若い社員、外国籍の従業員も多く在籍しているので、いろんな人の意見もたくさん取り入れていきたいです」と川東さんは続けます。
敷地内に作られた食事処「かなれ」では、飛騨牛串焼きや五平餅などを販売。温泉街で食べ歩きを楽しむ若い層に人気だと言います。2019年には、台湾出身のスタッフの意見を取り入れ、タピオカドリンクの販売も開始。また若いスタッフの提案から、売店にガチャガチャコーナーを設置するなど、プチ改革は常に行っているのだそうです。
「下呂は神社が多く伝統的なお祭りも多く残っている場所です。この地域に根付く昔ながらの風土、風習も伝えていきたいんです」。
一方で、変わらずに大切にしていることも。毎年夏に行われる下呂の「龍神火祭り」では、小川屋のロビーにも龍や神輿が訪れ乱舞するのだと言います。たくさんあるお祭りごとにロビーの垂れ幕を変えるなど、地域とのつながりも積極的に作っていると川東さん。下呂の行事や季節の移り変わりを感じられる点は、創業から変わらず訪れる人たちを楽しませてくれる、小川屋の大きな魅力のひとつなのです。
大浴場に続く廊下には「小川屋」の歴史を語る展示コーナーも。開業当時の様子や周辺の街並みを撮影した写真が多く飾られています。時代に合わせてハード面やサービスの在り方は変わっても、「下呂の地に古くから根付いてきた温泉地としての歴史を絶やしたくない」という小川屋の強い思いも感じることができます。
老舗の温泉旅館と聞くと、身構えてしまったり、敷居が高く感じてしまったりするもの。「下呂温泉 小川屋」には、名物・畳風呂がそうであるように、和の文化や下呂温泉の良さを大切にしながら訪れる誰もが安心してくつろげる時間を提供する、様々なおもてなしがありました。くつろぎの時間を求めて、ぜひ訪れてみてください。
下呂温泉 小川屋
- 住所
- 岐阜県下呂市湯之島570
- アクセス
- 【電車】JR高山線「下呂」駅より徒歩約8分
【車】中央道「中津川」ICより国道257号経由で約1時間
取材・写真・文/カカミ ユカ