「日本書紀」に登場するほど悠久の歴史をもつ愛媛県松山市の「道後温泉」。この地で390年以上続く、道後一の歴史を誇る老舗旅館が「ふなや」です。
昭和天皇、現・上皇ご夫妻をはじめ、皇族が度々お泊りになり、夏目漱石や正岡子規ら、文人墨客にも愛された伝統ある温泉旅館の魅力とは。道後の湯とグルメ、そして「ふなや」の上質な空間を堪能する1泊2日モデルプランをご紹介します。
皇族や文豪に愛された道後温泉随一の老舗旅館「ふなや」の歴史
「ふなや」は寛永年間(1627年頃)に「鮒屋旅館」として開業。道後のシンボル「道後温泉本館」が完成した1897年より遥か前から、道後で料亭・旅館を営み、およそ1,500坪の自然庭園「詠風庭(えいふうてい)」や上質なおもてなしで人々を魅了してきました。
数々の文化人に愛され、夏目漱石、正岡子規、高浜虚子、種田山頭火らがふなやを俳句に詠んでいます。 玄関横には、漱石が「はじめての ふなや泊りを しぐれけり」と、ふなやでの滞在を詠んだ句碑も。
高浜虚子は、当時めずらしかった西洋料理を夏目漱石とふなやで食べた思い出を『漱石氏と私』で回想。ほかにも、大正・昭和時代には渋沢栄一、新渡戸稲造、与謝野鉄幹・晶子夫妻らも宿泊しています。
そして、昭和25(1950)年には昭和天皇がご宿泊。その後も、現・上皇ご夫妻、現・天皇皇后両陛下、秋篠宮ご夫妻・眞子さまら、皇室の方々が度々宿泊されています。ロビーラウンジの一角には、昭和天皇がお泊りになった洋間を移築、展示し、英国から取り寄せた美しいステンドグラスや大理石の暖炉などを見ることができます。
さらに、2018年には『ミシュランガイド広島・愛媛 2018 特別版』で最上級の快適な旅館として紹介されました。そんな由緒ある「ふなや」に宿泊し、魅力を存分に味わってきました。
アクセスは道後温泉駅より徒歩約3分と至便
ふなやの最寄駅は、松山市内を走る路面電車の伊予鉄道城南線・道後温泉駅。駅から伊佐爾波(いさにわ)神社の参道を進み、徒歩3分ほどで到着します。松山空港からは道後温泉駅前までリムジンバスが出ているため、電車でも飛行機でも便利な立地にあります。車で行く場合も、駐車場は予約不要で利用可能です。(1台1泊550円)
偉人に想いを馳せて。チェックイン前に展示室や歴史資料を見学
チェックインは15:00から。少し早めに到着したら、ロビーラウンジに展示された資料や昭和天皇が宿泊されたお部屋を見学し、ふなやの歴史に触れ、ふなやを愛した偉人たちに想いを馳せるのも一興です。
大河ドラマ『青天を衝け』でいま話題となっている渋沢栄一の漢詩の書も展示されています。
チェックインを済ませたら、さっそく客室へ。ふなやでは、新型コロナウイルス感染拡大防止策として、入館時の検温、手指消毒、飛沫防止パーテーションの設置など、「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン」を徹底。最大限の安全確保に努めています。
おこもり旅に、檜の温泉付き&部屋食のクラブフロア客室
本館7~8階のクラブフロア(特別室フロア)にある12畳と5畳の2間に、書斎、次の間、庭園を望むベランダを備えた数寄屋造りの純和室。最大6名まで宿泊可能です。
クラブフロア 檜の温泉内風呂+部屋食の宿泊プランをチェックする
奥にある2畳の書斎に座れば、文豪気分でつい筆を執りたくなります。
客室のお風呂は贅沢な檜造りで、蛇口をひねると道後温泉のお湯が。客室でも天然温泉を堪能できます。
それだけでなく、このクラブフロアの客室なら、夕朝食ともに部屋食のプランも。お部屋でのんびり温泉に浸かって、ゆっくりお料理を堪能するおこもり旅が叶います。
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ふなの絵柄が可愛らしい急須・湯呑でお茶を淹れ、松山銘菓「六時屋タルト」とともに、まずはお部屋でひと息。
「ふなや」だけに、館内にはふなをモチーフにしたデザインやアートが至るところに見られ、アメニティポーチもそのひとつ。愛嬌のある2匹のふなが描かれたポーチには、洗顔・クレンジング・ヘアークリップ・ヘアーブラシなどが入っています。ポーチは思い出として持ち帰り可能です。
クラブフロアのほか、ふなやには和室、洋室、和洋室、スイートルーム、アートなお部屋など、豊富な客室タイプがそろいます。
特別な日に泊まりたい、温泉付きのスイートルーム「俳句ラウンジスイート」
記念日や誕生日など特別な日におすすめなのが、南館7階に位置する洋室「俳句ラウンジスイート」。館内で4室のみのハイクラスのスイートルームで、客室名には「月の都」「花枕」「竹乃里」「七艸(ななくさ)」と、正岡子規の句集にちなんだ名前が付けられています。それぞれの客室の壁には子規の句が飾られ、俳句の里・松山を存分に感じられます。
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山海空の青をテーマカラーに据え、洗練されたデザインの客室。寝室には、セミダブルのシモンズ社製ベッドを2台備えています。
「俳句ラウンジスイート」も道後温泉の引き湯を楽しめる檜風呂付き。4室あるうちのひとつ、「竹乃里」のバスルームは、窓から外の景色が見える開放感ある造りになっています。
アメニティも「俳句ラウンジスイート」のみ特別で、高級スキンケアブランド「NUXE(ニュクス)」のヘアケア・ボディケアアイテムを用意。充実のアメニティに、清潔感あふれるパウダールーム、広く使えるドレッサーなど、特に女性にうれしい設備がそろいます。
また、この客室のみ、絵手紙をしたためられる絵の具セットまで準備されています。
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泊まれるアート作品、葉山有樹「藍」特別室
アートな湯の街・道後ならではの客室も。葉山有樹「藍」特別室は、陶芸家の葉山有樹氏が手がけた唯一無二の客室で、一族繁栄を願う伝統文様「魚藻文(ぎょそうもん)」の世界が深みのある藍色で表現されています。障子、ふすまを閉めると、まるで海の中にいるような気分に。
ベッドルームには貴重な陶板作品も見ることができます。
庭園を望むテラス付きの和洋室
ツインベッドと、靴を脱いでくつろげる4.5畳の座敷、松山の街を一望するテラスを備えた和洋室。最大4名まで宿泊可能です。
このお部屋は、南館の5~6階に位置し、テラスからは庭園を見渡せます。遠くには、城山山頂に佇む松山城を望み、夕刻には松山の街に沈む美しい夕日を拝める絶好の眺望も魅力です。
趣あふれる日本庭園へ。館内散策
お部屋でひと息ついたら館内散策へ。ふなやが誇る1,500坪の趣あふれる日本庭園「詠風庭(えいふうてい)」は、中心に自然の渓流・御手洗川が流れ、数百年前から時が止まったかのよう。約200種類の植物が丁寧に生育され、四季折々の花を楽しめます。川はとても透明度が高く、初夏にはホタルが舞うほど。
お庭の入口に用意された散策マップを片手に、静寂の中、旬の花々や草木を観賞するのもおすすめです。
本館と南館をつなぐ渡り廊下「もみじ橋」は、正岡子規が「亭ところ々 渓に橋ある 紅葉哉」と秋の詠風庭を詠んだ句にちなんで名付けられたもの。もみじ橋から眺める詠風庭もまた、子規にならって一句詠みたくなる美しさです。
檜と御影石の大浴場で温泉を堪能
ふなやには檜造りの「檜湯」と御影石造りの「御影湯」、2ヵ所の大浴場があり、どちらも露天風呂付き。朝夕で男女入れ替え制のため、両方の湯を楽しめます。お湯はもちろん、道後温泉の源泉を引いた100%道後の湯。泉質はアルカリ性単純温泉で優しくなめらか。湯治や美容に適し、古より愛され続けてきた名湯です。
檜湯は、樹齢2000年以上、直径2m超の巨木「古代檜」を使った湯船が特徴です。檜の香りが湯気とともに立ちのぼり、心から安らげる空間はまるでパワースポットのよう。
御影湯には、瀬戸内海に浮かぶ島・大島のみで採石される伊予大島石を用いた美しい御影石の湯船が。大きな湯船が2つ、露天風呂も2つあり、ゆったりと道後の湯を満喫できます。
バスタオル・フェイスタオルは、新型コロナウイルス感染拡大防止策として、ひとつずつ個包装して、大浴場前に用意されているので、お部屋からタオルを持っていかなくても手ぶらでOKです。さらに、湯上りにはマッサージ機の無料サービスもあります。
夕食前に道後温泉街をぶらり
夕食前に、湯かごを持って浴衣姿で道後温泉街をぶらり。湯かごは宿泊者なら無料で借りることができ、フェイスタオル・石鹸も用意されています。「道後温泉本館」や「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)」など、外湯めぐりに便利です。
道後は外湯や商店街にお店が充実していて、温泉街散策も楽しみのひとつ。道後ハイカラ通りでは坊っちゃん団子やみかんジュースなど食べ歩きも楽しめます。
川のせせらぎに耳を傾けて。夕食は川席で
夕食は、詠風庭を流れる御手洗川の川べりに設けられた食事処「川席」で。川のせせらぎを聞きながら、緑に囲まれて食事をする時間は、この上なく風流なひととき。プライベート感があり、ライトアップされた詠風庭は昼間とは異なる趣を感じられます。
川席は例年4月1日から10月下旬まで楽しめます。3室しかないため、ぜひ早めに川席プランで予約を。
川席のお料理は、檜の三段箱に入った「手提げ弁当」。箱を開けると、愛媛・瀬戸内の旬の食材をふんだんに用いた目にも美しい料理が現れ、心躍ります。
メニューは季節によって変わり、2021年4月の献立一例はこちら。
・出し巻き玉子
・蛸旨煮
・才巻海老
・烏賊ぬた
・鯛荒焚き(午房、人参、蕗)
・鮑宿かり(蒸し鮑、小烏賊、胡瓜、和布、フルーツトマト、梅肉)
・和牛串カツ(竹の子、アスパラ、胡麻塩)
・手毬寿し三種
・甘味
〈別盛〉
・刺身盛り合せ
・鰆木の芽田楽
・茶蕎麦
・果物
飲み物は、愛媛各地の日本酒や道後の地酒「道後蔵酒」、地ビール「道後ビール」、愛媛の柑橘を使った酎ハイやジュースなど、ご当地ドリンクが豊富にそろいます。
自然に囲まれた川席で、愛媛の山海の幸をたっぷり堪能して、お腹も心も大満足!
愛媛の味覚を堪能! 和食・洋食から選べる朝食
目覚めに温泉に浸かって気持ちよく迎えた翌朝。朝食は、本館にある「レストラン葵苔(あおいごけ)」へ。窓の外に詠風庭の緑が広がる空間で朝食をいただけます。
ここでも、新型コロナウイルス感染拡大防止策として、卓上にはアクリルパーテーションが設置され、テーブルの間隔は広くとられているので安心です。
朝食は和食と洋食、好きな方を選択可能。和食はひとつひとつ繊細に調理され、優しく上品な味わい。特に出汁でいただく温かい手作り豆腐、愛媛名物のじゃこ天が絶品で、朝の身体に染み渡ります。
洋食は、松山で初めて西洋料理を提供したふなやならではの伝統的なクラシックスタイル。上品な洋食器に並ぶプレーンオムレツ、サラダ、フルーツなどが優雅な朝を演出してくれます。かご盛りのパンに、英国「ワールド・マーマレード・アワード2018」プロ部門で最高金賞を受賞した愛媛発のマーマレード「ニノズコンフィチュール」も付いています。
390年あまりの歴史と、皇族や文人らをもてなしてきた格式ある空間で、至福のくつろぎを提供する道後温泉「ふなや」。四季折々の植物であふれる庭園ビューと温泉付きの客室から、モダンなスイートルーム、アートなお部屋までそろい、とっておきの日のステイにも、両親への温泉旅のプレゼント、ファミリーでの旅行にもおすすめです。ずっと心に残る道後旅を演出してくれるでしょう。
道後温泉 ふなや
- 住所
- 愛媛県松山市道後湯之町1-33
- アクセス
- 伊予鉄道「道後温泉」駅より徒歩約3分
松山自動車道「松山」ICより車で約25分(駐車場550円/1日、バイク無料)
松山空港よりリムジンバスで約35分 - 駐車場
- 550円/泊(大型バイク用屋根付きガレージあり、無料)
- チェックイン
- 15:00(最終チェックイン 24:00)
- チェックアウト
- 10:00
- 宿泊予約
- 楽天トラベル「道後温泉 ふなや」
取材・撮影・文/小浜みゆ