提供:ことりっぷ
芸妓さんや舞妓さんが行き交い、はんなりとした雰囲気が漂う祇園。その中心地に構える和菓子店「鍵善良房 四条本店」は、四季の移ろいを告げる和菓子や、上品な口どけの菊寿糖などで長く親しまれてきました。店舗奥の喫茶室では、作家や芸術家、祇園の粋人たちを魅了した「くずきり」や、季節の生菓子、わらびもちなど甘味や抹茶でちょっと一服。京都旅で一度は訪れたい名店です。
四条通沿いの風格漂うたたずまい
暖簾は一澤信三郎帆布製。鉄製の暖簾掛けにも店名にちなんだ鍵のモチーフが
祇園のメインストリート、四条通の北側に暖簾を掲げる「鍵善良房 四条本店」。創業は江戸時代中期の享保年間(1716~1736年)と伝わります。当初の屋号は「鍵屋良房」でしたが、代々の当主の名前に「善」の文字がついていたため、「鍵屋の善さん」から転じて「鍵善」になったのだとか。
軒先の丸瓦には「菓」の文字が刻まれている
人間国宝が手がけた調度品
店の歴史を伝える菓子棚や菓子箱、木型など見どころが多い
店内でひときわ存在感を放つのは、木製の菓子棚。鍵善良房の12代と親交が深かった縁で、祇園出身の漆芸家、木工家であり、晩年には木工芸の人間国宝に認定された黒田辰秋(1904-1982年)が手がけたもの。ほかにも、陶芸家の河井寛次郎や作家の武者小路実篤など当時の文化人による器や調度品が飾られています。
店内に掲げる屋号の扁額は、武者小路実篤の筆 「園の賑い(そののにぎわい)」1,650円~。内容は季節により変わる
ショーケースには、季節の彩りをちりばめた干菓子や、菊の花をかたどった代表銘菓「菊寿糖」、和菓子が並びます。中国故事の菊慈童にちなんだ「菊寿糖」は、阿波の和三盆糖をかためた干菓子。口に入れるとさらさらとほどけていきます。
喫茶室でくずきりを味わう
「くずきり」1,400円。蜜は沖縄波照間産黒糖で作る黒蜜か白蜜かを選べる
店の奥には日本庭園を望む喫茶室があります。いちおしは、イートインだけの特別メニュー「くずきり」。奈良の吉野本葛と良質の軟水のみをていねいに練り合せて作る昔ながらの甘味です。絹のようになめらかなくずきりを蜜に浸して口に運ぶと、素朴な葛の風味が広がります。つるんとしたのどごしの良さも印象的。
「くずきりは京の味の王者だと思う」と称えた作家の水上勉をはじめ、芸術家や祇園の粋人たちをも魅了した逸品です。
ゆったりとテーブル席が並ぶ店内は広々 つくばいに滴る水の音に耳を澄ませて
青竹の筒に入った涼やかな水羊羹
イートインの「水ようかん(甘露竹)」500円
この一品を心待ちにする常連客も多い、そんな夏の甘味は、青竹の筒に入った「甘露竹」。選りすぐりの小豆と寒天で作る水羊羹を青竹に流し込んだ涼やかなひと品です。フタ代わりの笹の葉をほどいて、筒の底をトントンと軽く打つと、水羊羹がするっとでてきます。手みやげや贈り物としても喜ばれます。
額に入った書は、河井寛次郎の筆による(店頭のものは複製)
賑わう祇園の街なかで、ひとたび暖簾をくぐれば、静かで上質な時間が待っています。できたての極上ののどごしを、京情緒と合わせて心ゆくまで堪能してくださいね。
文:佐藤理菜子 撮影:マツダナオキ