端正な白砂とまるく刈り込まれたサツキの対比が印象的な、京都洛北の名庭「詩仙堂」。徳川家康に仕えた武将&文人・石川丈山ゆかりの山荘跡で、英国王チャールズ3世が皇太子時代にダイアナ妃とともに訪れたことでも知られています。畳の部屋に座ってお庭と静かに向き合ったり、四季折々の色彩に染まるお庭をそぞろ歩いたり。鹿おどしやせせらぎの澄んだ音色に耳を傾けながら、風情あふれる境内で心ほどける時間を過ごしませんか。
静けさを求めて山の中腹へ
小有洞。晩秋には軒上のサザンカが純白の花を咲かせる市バス「一乗寺下り松町」から東へ、閑静な住宅街の坂道を上がっていくこと8分ほどで風流な山門「小有洞(しょうゆうどう)」にたどり着きます。詩仙堂の歴史は、さかのぼること約400年前。徳川家康に仕えていた石川丈山が、関ケ原の戦や大坂夏の陣で活躍後、武士を引退し、59歳でこの地に結んだ草庵がはじまりです。
「詩仙堂」とは、狩野探幽筆の三十六詩仙の肖像画を掲げる「詩仙の間」に由来する通称。でこぼことした土地に建てた住居を意味する「凹凸窠(おうとつか)」がお堂の本来の名前だそう。1966(昭和41)年には「丈山寺」という名の曹洞宗のお寺となりました。
お堂の内部をぐるりとめぐる
中央の厨子に本尊の馬郎婦観音が祀られている拝観受付を済ませたら、まずはご本尊の秘仏、馬郎婦(めろうふ)観音に手を合わせましょう。仏の教えを若者たちに伝えるため美しい女性に姿を変えて現れたという、中国・唐の時代の逸話を伝える観音さまで、所願成就・学業成就にご利益があるといわれています。
三十六詩仙の肖像を掲げる詩仙の間日本の絵画史に名を刻んだ江戸時代の天才絵師・狩野探幽による中国の詩人三十六人の肖像画を掲げるこちらの小部屋が、「詩仙堂」の名の由来。それぞれの詩人の肖像画の上には、石川丈山が隷書体で記した漢詩が綴られています。
お堂内から庭園を観賞
青もみじ、紅葉、雪化粧など季節を変えて訪れてみていちばんの見どころが、こちらの唐様庭園。山肌にそびえる木々を借景に、サツキの低木が白砂を囲むように連なっていて、広がりが感じられます。縁側に座って間近で庭園を眺めてもいいのですが、床の間の手前に座り、室内の陰影とあわせて観賞するのが粋な眺め方。まあるいサツキを眺めていると、気持ちまでまるくなっていくから不思議です。
四季の色彩に染まる庭園を散策
池には錦鯉が悠々と泳ぐ。鹿おどしの音には鹿や猪除けの役割もあるそうつづいて、備え付けの散策用サンダルを履いてお庭へ。コーン、コーン……静かな境内に時折響きわたる鹿(しし)おどしの澄んだ音色や、さらさらと流れるせせらぎの音を聴きながら、お庭をそぞろ歩いてみましょう。霧島ツツジ、アヤメ、サツキ、花菖蒲、紫陽花、ホタルブクロ、桔梗、京鹿の子、秋明菊、千両、万両……四季の移ろいに合わせて咲き継いでゆくさまざまな草花に出会えます。
「現代を生きる人はいろいろな悩みを抱えたり、日々の生活に追い回されて心の安らぎを得る時間がないように思います。山門をくぐってお庭を眺め、ホッと癒されて帰っていただきたい」と、石川順之住職が話してくれました。砂紋を整えたばかりの開門直後が、空気も澄んでいていちばんおすすめの時間帯だそうですよ。
気ぜわしい日々にこそ、時間をとって訪れてみてはいかが。
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文:佐藤理菜子 撮影:マツダナオキ
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