広島県福山市「鞆の浦(とものうら)」とは
海上交通の要所・潮待ちの港として、古くは万葉の時代から、室町、江戸、そして幕末には坂本龍馬が滞在するなど、歴史の表舞台に度々登場する「鞆の浦」。江戸時代から受け継がれる町並みが今も残り、日本の原風景の趣を感じさせてくれます。
鞆の浦は瀬戸内海国立公園内に位置し、瀬戸内屈指の景勝地としても有名な地。美しい景色とノスタルジックな町並みに魅せられたスタジオジブリの宮崎駿監督が1カ月滞在して、映画『崖の上のポニョ』の構想を練ったといわれています。
ほかにも、TBSドラマ『流星ワゴン』やハリウッド映画『ウルヴァリンSAMURAI』など、数々のドラマや映画の撮影が鞆の浦で行われました。
今回は、鞆の浦の長い歴史をひもときながら、瀬戸内海の絶景を堪能し、一日たっぷりと楽しめる観光モデルコースを紹介します。
目次
- 1.旅のスタートは「鞆の浦観光情報センター」
- ∟鞆の浦観光情報センター
- ∟鞆の浦しお待ちガイド
- ∟福山市営渡船場
- 2.石畳の町並みを歩いて重要文化財
- ∟太田家住宅
- 3.江戸時代の風情が残る町並みを歩いて鞆の浦のシンボル「常夜燈」へ
旅のスタートは「鞆の浦観光情報センター」から
鞆の浦観光情報センター(ともてつバスセンター)
JR福山駅から、トモテツバスに乗って約30分で鞆の浦バス停に到着。旅のスタートは「鞆の浦ともてつバスセンター」内にある「鞆の浦観光情報センター」で情報収集がおすすめ。町歩きに便利な地図やパンフレットの配布はもちろん、テレビや映画に登場した鞆の浦のロケスポットなども紹介されています。
館内にはお土産コーナーも充実。鞆の浦名物の「鯛みそ」をはじめ、ご当地のお酒やサイダー、スイーツなどの品もそろっています。
鞆の浦しお待ちガイド
鞆の浦の歴史など町について深く知りたい方は「鞆の浦しお待ちガイド」への参加がおすすめ。土日祝日に無料のツアーを実施(所要時間1時間半~2時間)。予約制(有料)で、平日の観光や個別の希望に合わせたガイド相談もできるので、気になる方は公式サイトでチェックしてみてください。
鞆の浦観光情報センター(ともてつバスセンター)
- 営業時間
- 10:00~17:00
- 鞆の浦しお待ちガイド
-
<無料ツアー(予約不要)>
集合場所&時間(土日祝のみ開催)
・「鞆の浦観光情報センター」集合 10:30~
・「福山市営渡船場」集合 11:20~、14:20~
<個別ガイド(有料)>
事前予約制2,500円(2時間以内
※公式サイトより予約申請 - お問い合わせ
- 鞆の観光情報センター:TEL 084-982-3200 FAX 084-970-5105
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆416
- アクセス
- 【バス】JR福山駅より約30分(「鞆港」または「鞆の浦」行き乗車)
【車】福山東ICより約40分、福山西ICより約55分、しまなみ海道・尾道より約65分 - 公式・関連サイト
- 鞆の浦観光情報センター(ともてつバスセンター)
福山市営渡船場(とせんば)
「鞆の浦観光情報センター」から海沿いを3分ほど歩くと「福山市営渡船場(平成いろは丸 渡船のりば)」に到着。ここでは、かつて坂本龍馬率いる海援隊の船「いろは丸」を模した渡船が運行しています。
渡船で向かうのは、乗船約5分の場所にある「仙酔島(せんすいじま)」。「仙人が酔うほどに美しい」ということから、その名がついたという島です。無人島ですが、島内には遊歩道が整備されており、パワースポットとして知られる「五色岩」や、3種の蒸し風呂などが楽しめる「江戸風呂(江戸風呂湯遊)」などの観光スポットが点在。夏は海水浴が楽しめるビーチもあります。
渡船のりばの駐車場には、レンタサイクルもあるので自転車で観光を楽しみたい方はこちらもチェック!
福山市営渡船場(平成いろは丸 渡船のりば)
- 営業時間
- 7:30~21:00(約20分おきに1時間2~3本運行)
- 乗船料金
- 往復:大人240円、子ども120円
- レンタサイクル
- 貸出時間:10:00~16:30
- 料金
- 500円(2時間まで以後30分ごと100円増)
- 電話
- 084-982-2115(渡船管理事務所)
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆623-5
- 公式・関連サイト
- 福山市営渡船場(平成いろは丸 渡船のりば)
石畳の町並みを歩いて重要文化財
城下町としてつくられた町並みは、今の地図と古地図を合わせてもピタリと合わさるほど、昔のままの道や町並みが残っています。神社仏閣が多い鞆の浦は文化財の宝庫。歴史好きな方が、じっくり見て巡ると1日半はかかるそう。
太田家住宅(おおたけじゅうたく)
瀬戸内海の要港として発展した鞆の浦で、古くから重要な役割を担っていたのが太田家住宅。江戸時代には「保命酒(ほうめいしゅ)中村家」として栄え、当時の名士をもてなす客間をそろえていました。その後、明治35年に廻船業(かいせんぎょう)を営む太田家に譲渡。江戸時代末期から明治時代初期の商家建築を残す貴重な建物として、国の重要文化財に指定されています。
鞆の浦しお待ちガイド・吉岡睦雄さんの案内で中へ。敷地内の蔵は瓦としっくいでできた美しい海鼠(なまこ)壁。蔵によって「1」や「4」などサイコロの目のような装飾が施されているのは、昔の人が有事のときに自分がどこにいるかがすぐに分かるように、蔵に印をしていたことなどを教えていただきました。
客間に移動すると、木と竹を編んで作った網代張り(あじろばり)の天井も。京の茶人と交流の深かった中村家の当主が、最先端の京の建築を取り入れていたことが伺えます。贅をつくしたモダンな建築様式や工夫が随所に見られ、当時の文化や様式を体感。
江戸時代初期に大阪から移り住んだ中村吉兵衛によってここ太田家住宅で開業したのが、現在も鞆の浦の名産品であり、地元の人に愛されている薬用酒「保命酒」のはじまり。太田家住宅での保命酒の製造は1901(明治34)年に終了していますが、鞆の浦には、今でも4軒の酒蔵で醸造が引き継がれています。
太田家住宅
- 開館時間
- 10:00~17:00(入館は16:30まで)
- 休み
- 火曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月1日)
- 料金
- 中学生以上400円、小学生200円
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆842
- 電話
- 084-982-3553
- 公式・関連サイト
- 太田家住宅
江戸時代の風情が残る町並みを歩いて鞆の浦のシンボル「常夜燈」へ
町を歩いていると懐かしい森下仁丹のロゴマークを施した古いホーロー看板を発見!創業者の森下博氏が鞆町(現:鞆の浦)の生まれだそう。町に多額の寄付をしていた森下氏は地元で大恩人として親しまれており、町には森下仁丹から寄贈されたホーロー看板が8枚あるのだとか。
鞆の浦しお待ちガイドの方に案内してもらうと、通りで見かけた気になるモノについても教えてもらえるので、より観光を楽しめます。
いろは丸展示館
常夜燈の手前にあるのが、鞆沖で沈んだ坂本龍馬と海援隊の船「いろは丸」の引き揚げ物などを見ることができる「いろは丸展示館」。龍馬が紀州藩と賠償交渉をしたのがここ鞆の浦。いまだに、謎だらけの「いろは丸事件」に関わる資料や当時の様子を知ることができるジオラマなどが展示されています。
いろは丸展示館
- 開館時間
- 金曜~日曜・祭日のみ 10:00~17:00
- 休み
- 月曜~木曜、年末年始
- 料金
- 小学生以上200円
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆843-1
- 電話
- 084-982-1681
- 公式・関連サイト
- いろは丸展示館
常夜燈(じょうやとう)
TBSドラマ『流星ワゴン』など数々のドラマや映画にも登場する鞆の浦のシンボル・常夜燈。1859(安政6)年に船を誘導するものとして建てられ、基礎石を含めて12.1mの高さは、港の常夜燈として今でも日本一の大きさを誇るそう。夜になると昔は鰊の油、今はLEDの灯りがともされ、ノスタルジックな雰囲気に。天気が良い日には美しい夕景とのコラボレーションもみられます。
常夜燈
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆843-1
- 公式・関連サイト
- 常夜燈
老舗酒造で鞆の浦のソウルドリンク「保命酒」をお土産に
岡本亀太郎本店
現在、保命酒を製造している4軒のうちのひとつ「岡本亀太郎本店」へ。堂々とした門構えは17世紀初期に建造された福山城の長屋門の遺構を明治の初めに現在地に移築したもの。市の重要文化財に指定されています。
店内に入ると保命酒の生みの親、中村家から譲り受けたという伝統の看板が旅人を出迎えてくれます。
保命酒は、創業当時から受け継がれてきたという薬味16種類(写真)を本みりんに漬け込んでつくる和製リキュール。
保命酒がこの地に誕生して360年。写真中央が今でも地元の人に愛飲されている「岡亀保命酒」(720ml・1,700円)。写真右が、糖類無添加の純米仕込本味醂(みりん)「岡本亀太郎」(1,650円・600ml)、左は保命酒に杏子の実を漬け込んだ女性に人気の「杏子姫」(1,350円・300ml)です。
手軽なお土産として、保命酒を練り込んだ飴・保命玉 380円なども人気です。
岡本亀太郎本店
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 休み
- 無休
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆927-1
- 電話
- 084-982-2126
鞆の浦の名物「鯛」を築220年の町屋で堪能&周辺散策
御舟宿 いろは
こちらの建物は坂本龍馬が「いろは丸事件」の談判をした築220年の町家。建物が取り壊しの危機に直面していたところ、宮崎駿監督ほか、たくさんの有志の力を借りて、2010年に「御舟宿 いろは」として再生。宿泊施設ですが、ランチタイムは宿泊者以外も利用できます。
店内は古い木材と色鮮やかなステンドグラスが調和した空間のテーブル席と、グループでの食事に丁度よい和室のお部屋などがあります。
訪れた際には宮崎駿監督が描いた「御舟宿 いろは」の直筆のスケッチも飾られていました。ジブリ映画に登場しそうな世界観が描かれています。
※現在、直筆スケッチは上記の食事処での展示はありません。宿泊のお部屋にて展示しています(宿泊者のみ見ることができます)。
鞆の浦は「鯛」が有名なので、この町に訪れたら味わいたいグルメ。今回、ランチにいただいたのは「いろは御膳の鯛かぶと付き」(いろは御膳2,200円+鯛かぶと660円)。まずは、そのまま鯛漬けを味わい、その後はご飯の上に乗せてお出汁をかけて鯛茶漬けに。甘辛の鯛かぶとは、身がふんわりとして柔らかな味わいです。瀬戸内海の幸をぜいたくにいただき、食べ応えも大満足。
御舟宿 いろは
- 営業時間
- ランチ営業:11:00~14:00(ランチの予約不可)
- 休み
- 月曜・火曜
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆670
鞆てらす
町中には、ほかにも見どころが。こちらは、明治時代に建てられた町家の一部を再生し、伝統的建造物を活用した「鞆てらす」。日本遺産である「福山・鞆の浦」の歴史や文化を知ることがでできる貴重なスポットです。鞆の浦の文化財をはじめ、お祭りなど1年の行事も紹介されています。
鞆てらす
- 開館時間
- 9:00~17:00
- 休み
- 火曜、年末年始
- 料金
- 無料
- 駐車場
- なし
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆812番地1
- 電話
- 084-982-6760
- 公式・関連サイト
- 鞆てらす
日本一美しい景勝地と言われた瀬戸内海の絶景
福禅寺 対潮楼(たいちょうろう)
坂を上がった高台にある真言宗・福禅寺の客殿に、ユネスコ世界記録遺産登録や日本遺産に認定されている対潮楼があります。瀬戸内海国立公園を望む絶景は、江戸時代に訪れた朝鮮通信使が「日東第一形勝(日の昇る東の国(日本)で一番の美しい景色)」と絶賛したほどの美しさ。海を渡る船の姿や、鳥たちの声、吹き抜ける柔らかな風が心地よく、刻々と変わる景色をゆっくりと堪能したい場所です。
福禅寺 対潮楼
- 開館時間
- 平日:9:00~17:00、土日祝:8:00~17:00
- 料金
- 大人200円、中高生150円、小学生100円
- 住所
- 広島県福山市鞆町鞆2番地
- 電話
- 084-982-2705
- 公式・関連サイト
- 福禅寺 対潮楼
常夜燈を眺めながらテイクアウトスイーツを味わう
汐ノ音(しおのね)鞆の浦大福
歩き回って疲れたら、スイーツで疲れを癒やしに港沿いにある「汐ノ音(しおのね)鞆の浦大福」へ。
鞆の浦ソフト(瀬戸内レモネードと昔ながらミルクのミックス)430円と鞆の浦の夕焼けをイメージしたオレンジベースの鞆ソーダ450円。そのほかにも、モッチモチの生地が人気の鞆の浦大福も人気です。
常夜燈や雁木(がんき)と呼ばれる石階段など、江戸時代当時の湾岸施設がほぼ完全な形で残る漁港は全国でもここだけ。お店では畳み式のミニマットの貸し出しもあるので、石階段に座って味わうこともできます。おだやかな景色を眺めながら外で食べるスイーツは最高です。
汐ノ音 鞆の浦大福
- 営業時間
- 11:00~17:00(平日)、10:00~18:00(土日祝)
- 住所
- 広島県福山市鞆の浦鞆869-1
- 電話
- 084-982-9109
断崖絶壁から瀬戸内海を見下ろす絶景
阿伏兎観音(あぶとかんのん)
鞆の浦からタクシーで約10分。足を伸ばして沼隈半島(ぬまくまはんとう)の最南端の岬に立つ瀬戸内海の絶景を望む「阿伏兎観音」へ。
断崖に立つ「磐台寺(ばんだいじ)観音堂」は「阿伏兎観音」と呼ばれ、986(寛和元)年頃に花山法王(かざんほうおう)が十一面観音石仏を安置して以来、1000年余りも航海安全の祈願所として信仰されています。
この絶景に魅せられた浮世絵師・歌川広重も『六十余州名所図会』の絵の中でここを描いているとか。今ではフォトジェニックなスポットとして多くの観光客が携帯カメラを片手に集まってきます。
「阿伏兎観音」は、子授け観音、安産の守護としても厚い信仰を集める場所。安産を願う乳房型の絵馬もありました。
客殿のさい銭箱の横には日向ぼっこをする猫の姿も。おだやかな時間が流れています。
授与所には、安産や子授かりのお守りも並んでいます。
阿伏兎観音
- 開館時間
- 8:00~17:00
- 拝観料
- 中学生以上100円、小学生50円
- 住所
- 広島県福山市沼隈町能登原1427-1
- 電話
- 084-987-3862
- 公式・関連サイト
- 阿伏兎観音
13.掲載中のスポット一覧MAP&交通アクセス
【福山駅から鞆の浦へのアクセス】
- バス
-
JR福山駅南口5番バス乗り場より「鞆の浦」行き、もしくは「鞆港」行き乗車(約30分)、「鞆の浦」停下車
バスでのアクセス詳細 - 車
- 山陽自動車道「福山東」ICから約35分(約15km)
山陽自動車道「福山西」ICから約45分(約25km)
【尾道から鞆の浦へのアクセス】
- フェリー
-
JR尾道駅より徒歩3分「尾道ウォーターフロントビル」内の尾道駅前フェリー乗場から約1時間
瀬戸内クルージング
【福山駅までのアクセス】
- 飛行機利用で福山駅
- 岡山空港より、リムジンバスで岡山駅まで約30分、岡山駅より新幹線で福山駅まで約15分
広島空港より、リムジンバスで福山駅まで約60分
福岡国際空港より、地下鉄と新幹線利用で福山駅まで約1時間50分
関西国際空港より、 JRの特急「はるか」と新幹線利用で福山駅まで約2時間20分 - 新幹線で福山駅
-
広島駅から約25分
新大阪駅から約1時間
名古屋駅から約2時間
東京駅から約3時間40分
博多駅から約1時間30分 - 高速バスで福山駅
- 広島バスセンターから(ローズライナー)約1時間50分
今治駅から(シマナミライナー)約1時間40分 大阪駅前からから(ビンゴライナー)約3時間50分
町田バスセンターから(メイプル・ハーバー)約9時間10分
バスタ新宿から(エトワールセト号)約9時間20分
※その他、路線あり
潮待ちの港として万葉の時代から栄えたという歴史を肌で感じ、江戸時代から続く町並みを歩き、おだやかな瀬戸内海を眺めてゆっくりとした時間を過ごせる鞆の浦。映画やドラマのロケ地として、多くの映像のプロが魅了されたフォトジェニックな町並みはもちろん、町の歴史が興味深く知れば知るほど鞆の浦がもっと好きに。魅力たっぷりの鞆の浦へ、ぜひ出かけてみませんか?
撮影/田辺エリ 取材・文/山本美和