長野県の北部に位置する「地獄谷野猿公苑」は、温泉につかるニホンザルが見られることで有名です。1970年にはアメリカの雑誌『LIFE』の表紙を飾り、長野オリンピック開催時には多くの外国人がその姿を見るために訪問。世界中から「スノーモンキー」という愛称で親しまれるようになりました。今回は地獄谷野猿公苑の魅力、山奥に住むかわいいサルに会うために、山道を歩く時に気を付けるポイント、観察する上での注意点をお伝えします。
1年を通して観光客が訪れる「地獄谷野猿公苑」
長野県北部、志賀高原のふもとにある地獄谷野猿公苑は、山奥にあるにも関わらず海外からの観光客で1年中賑わいます。一般的な動物園と違い、檻や囲いがなく、より野生の姿に近いサルたちを観察できたり、周囲の豊かな自然を満喫できたりすることが人気の理由。ごく近い距離でも安全に観察ができるのは、餌付けの方法や観察の仕方などを工夫し、サルと人間がお互いに適切な距離感を心がけてきたからなのです。
地獄谷野猿公苑へのアクセス
東京駅から行く場合、まずは北陸新幹線で長野駅へ。長野電鉄特急「ゆけむり」または「スノーモンキー」に乗り換えて、最寄りの湯田中駅へは約2時間45分。駅からバスに乗り、最寄りのバス停「スノーモンキーパーク」まで約15分。さらにバス停から徒歩約35分の山道を進むと野猿公苑に到着。航空写真を見るとだいぶ山奥にあるのが分かります。
この辺りは温泉の湧く場所が多く、湧き出る湯量も豊富です。湯田中駅近くには、湯めぐりやまち歩きを楽しめる渋温泉街があるので、地獄谷野猿公苑と一緒に訪れるのがおすすめです。
地獄谷野猿公苑とニホンザルの歴史
切り立つ険しい崖に囲まれ、噴泉が各所から吹き上がる様が「地獄のようだ…」ということから、いつしか「地獄谷」と名付けられるようになりました。近隣の山々(志賀高原)には、昔から数多くのニホンザルがいくつかの群れをつくり生息していました。しかし、1950年代、山が切り開かれたことで、生息地を追われたサルたちが、人間の生活エリアまで出没するようになり、畑を荒らしてしまう等のトラブルとなっていきました。
野猿公苑の初代苑長となる人物は、志賀高原の自然を愛し、山歩きを趣味としていました。ある時、ニホンザルの群れに遭遇し、一瞬で魅了されたそう。サルたちが駆除の道をたどる中で、「観光資源の活用と、農作物被害の未然防止」を目的として、1964年に公苑を設立。
ニホンザルは元々「行動範囲」を持っていて、その範囲を越えての行動をしない習性があります。夜になると山へ帰り、朝になると公苑にやってくる。公苑での餌付けにより、ある程度サルの動きをコントロールすることによって、「公苑を起点として野生の生活を続けて」いるのです。人里から離れた場所に公苑があるのは、「サルたちに人里の存在を教えない=人々とトラブルを起こさせない」ためであり、それがサルたちを保護する意味もあります。
公苑を訪れるサルたちは、人間の住むエリアの存在を知らず、今でも「昔と変わらぬ野生の生活」を続けているのです。
地獄谷野猿公苑までの道
つくられた経緯から分かるように、ふもとの村落から離れた山奥にある地獄谷野猿公苑。最寄りのバスを降りたら約35分の山登りです。雨の翌日はぬかるんだり、秋は多くの落ち葉に滑ったり、冬は雪が積もり凍ることもあります。どの季節でもサンダル、ヒールは避け、歩きやすい靴で行きましょう。
野猿公苑に住むサルたちを刺激しないよう、ペットを連れて入ることは禁じられています。また、途中に階段があるため車いす、ベビーカーを利用することはできません。人間が、ニホンザルの住処へお邪魔しているということを忘れずに準備をして向かいましょう。
ニホンザルに会いに地獄谷野猿公苑に入苑
険しい山道を登りきると入口が見えてきます。入苑料(大人800円、小人400円)を払ったら、いよいよ野猿公苑に入苑です。公苑自体はそんなに広くないので、ゆっくり見ても1時間程で楽しめます。建物があるのはここだけでトイレ、コインロッカー、小さな売店と展示があります。
この距離で野生のニホンザルを観察できるのは地獄谷野猿公苑だからこそ。 ふわふわの毛並みや表情など細かいところまで観察することができます。
温泉へ行く途中も、サルたちは人間の様子を気にせずに木道や河原、山の斜面などいたるところでくつろいでいます。
細い手すりの上に小さなおサルさんを発見!ここのサルたちは本当に穏やかで優しい表情をしています。この距離感でサルのかわいいショットがとれるのは地獄谷野猿公苑ならでは。
苑内の奥にある温泉にたどり着くと、温泉の周りにサルが集まっていました。この日は気温が高かったため、温泉につかるサルはいませんでしたが、温泉の周りでリラックスしてくつろぐ姿や、仲良く毛づくろいする姿、走り回る姿など、自然なサルたちの様子は愛らしく、とても癒されます。この日のように、温泉に入るかどうかは、その日のサルの気分次第なのです。
スタッフに聞いた、地獄谷野猿公苑の楽しみ方
「1年を通じて見られる景色やサルの状態が変わるので、冬以外の季節もおすすめです」と教えてくれたのはスタッフさん。「あまり知られていないですが、実は春もおすすめなんです。ニホンザルは4~5月頃に出産ラッシュを迎えます。春に野猿公苑を訪れれば、かわいい赤ちゃんザルを見られるのに加えて、山道も歩きやすく、美しい新緑も楽しめます。」
「実際に来ても、サルがいないときもあります。それでがっかりされる方もいるのですが野猿公苑の魅力は、サルだけでなく自然たっぷりの山道を歩けることにもあります。木々の色の移り変わりに四季を感じるのも贅沢な楽しみ方です」
「こう思うようになったのは、サルがいなくても自然を楽しんでいる外国人の観光客を見てからです」とスタッフさん。そこにあるのは大自然と、自然に暮らすサルたちなのです。
地獄谷野猿公苑に行くために知っておくこと
人とサルとの距離感を適切に保つために、苑内にはルールがあります。サルに食べ物を見せたり与えたりしないこと、サルに触ったり脅かしたりしないこと、近づきすぎないこと、水に入れる撮影やドローン、自撮り棒など特殊な撮影はしないことです。サルへの餌付け時間は非公開で、観光客からの餌付けも行っていません。
またサルは必ず公苑にいるとは限らず、必ず温泉に入るわけではありません。温泉に入るのはほぼ冬のみで、それ以外の季節は子ザルがまれに遊ぶ程度。サルたちの来苑状況は公式サイトのライブカメラや、フェイスブックで常時報告されていますので来苑前の参考にご覧下さい。
野生のニホンザルに出会える場所
サル用の温泉をつくってしまうほど、源泉が豊富なこの地域。地獄谷野猿公苑の近くには渋・湯田中温泉郷があり、湯めぐりやまち歩き、温泉宿での宿泊が楽しめます。温泉旅行と合わせて、かわいいサルの姿を眺めに訪れてみてはいかがでしょうか。
地獄谷野猿公苑
- 住所
- 長野県下高井郡山ノ内町大字平穏6845
- 電話
- 0269-33-4379
- 営業時間
- (夏季4月~10月頃)8:30~17:00頃、(冬季11月~3月頃)9:00~16:00頃
※夏季・冬季、営業時間は目安です。天候や季節、サルの行動によって予告なく変動します。
- 定休日
- 無休
- 料金
- 18歳以上800円、小学生~高校生400円、6歳未満無料
- 公式サイト
- 地獄谷野猿公苑Webページ
取材・撮影・文/まのあつこ