伊豆・熱川温泉の里山に佇む湯宿「奈良偲(ならしの)の里 玉翠」。約3,000坪の日本庭園や竹林を有し、自然の中でゆったりとした上質な時間を過ごすことができます。大浴場や貸切露天風呂、全室に引かれた温泉はすべて源泉かけ流し。湯を管理する「湯守」と呼ばれる職人が、常に心地よい温度に調節して迎えてくれます。緑に囲まれた心安らぐ空間は、大人の特別なステイに最適。温泉に浸かり、伊豆の恵みを思う存分に堪能した1泊2日の滞在記をご紹介します。
創業100年を超える老舗旅館がルーツ
「奈良偲の里 玉翠」の最寄り駅は、伊豆急行線の伊豆熱川駅。東京駅からは特急踊り子で約2時間20分、新幹線と在来線を利用すれば約1時間50分の距離です。伊豆熱川駅からは無料送迎もあり、約5分で「奈良偲の里 玉翠」に到着。暖簾(のれん)のかかった趣ある入口が旅情をかき立てます。
「奈良偲の里 玉翠」のルーツは大正3年(1914年)創業の老舗旅館「玉翠館」。大切にしてきた湯守の伝統とおもてなしの心を受け継ぎ、海岸沿いの温泉地から少し離れた奥熱川に2009年にオープンしました。湯守とは温泉を管理する人のことで、現代ではこの役職を置いている旅館は多くありません。「奈良偲の里 玉翠」では湯守が手首で温度を測り、その日の天候や湯の状態に合わせて、約100℃の源泉を適温に調節しています。
庭園を望むロビーラウンジでチェックイン
上品な和モダンのロビーラウンジ。窓際のソファからは美しい庭園を望むことができます。まずはここでチェックインの手続きを行います。
ウェルカムドリンクとスイーツは、点出し(たてだし)の抹茶と伊豆のお菓子。この日は伊豆・熱海の老舗和菓子店「菓子舗 間瀬(ませ)」の爽やかなゼリー「伊豆みかん」でした。涼しい季節には、サツマイモ餡を小豆餡で包んだ銘菓「伊豆逢初(いずあいぞめ)」になるのだそう。香り高い抹茶と甘いお菓子の絶妙な組み合わせ、そして風光明媚な庭園に、移動の疲れがすっと癒されます。
きめ細やかなおもてなしがうれしい多彩なサービス
館内は和の温もりとシックな雰囲気を兼ね備えた造りで、お部屋への期待も高まります。あちこちにセンス良く飾られた季節の花にも心が和みました。
廊下にはアロマオイルが並んでいました。これは、お部屋に用意されたアロマポットで好きな香りを楽しめるサービスで、ラベンダー、オレンジ、ミントの3種から選ぶことができます。香りにまでこだわった繊細なおもてなしがうれしいですね。
女性にはカラフルな浴衣の無料貸し出しも。柄や帯の種類も豊富で、どれにするか迷ってしまいます。そのほか、テンピュール、そば殻、マイナスイオン枕の3種類の枕の貸し出しサービスもあります。
源泉かけ流し温泉風呂付きの客室
宿のある東伊豆の奈良本という地域は、奈良時代に貴族が都から流れてきた場所と言い伝えられているそう。「奈良偲の里」という名前は、そんな都を偲ぶ貴族たちの思いを込めて付けられました。お部屋にも「葛城」や「春日」など、奈良にちなんだ名前が付けられています。
美しい日本庭園を見下ろす「和風庭園一望 2階 和洋室 テラス付」
「奈良偲の里 玉翠」は全13室あり、いずれも現代数寄屋造りの和モダンなお部屋です。今回は、テラスから日本庭園を見下ろす「和風庭園一望 2階 和洋室 テラス付」に宿泊しました。10畳の和室とベッドルームがあり、広さは約67平方メートル。和室には広々としたL字型のソファが置かれていて、そこに座っても庭園を眺めることができます。
シモンズ製のワイドシングルベッドが2台並んだベッドルーム。落ち着いた和の雰囲気でよく眠れそうです。
全室に源泉かけ流しの温泉風呂が設けられており、こちらのお部屋はヒノキ造りの半露天風呂。2人でも入れる、ゆったりとした大きさです。
備え付けのシャンプー、コンディショナー、ボディソープは、玉翠オリジナルの「Yumoribito」のもの。温泉旅館として100年を超える歴史を持つ玉翠ならではの、温泉と親和性のある天然成分を配合したアメニティです。
特に好評なのが同ブランドの温泉ミスト。源泉100%のナチュラルコスメで、防腐剤や香料などの化学成分を添加しておらず、しっとりとした肌へ導いてくれます。館内の売店で購入することもでき、お土産としても人気です。
室内のアメニティはほかに、クレンジングジェル、クレンジングローション、化粧水、乳液、男性用ヘアリキッド、アフターシェーブローション、ヘアトニックなどが揃っています。
浴衣、羽織、作務衣、足袋型の靴下が用意されており、館内ではリラックスして過ごすことができます。さらに、何度も内風呂に入る際に便利なバスローブも置かれていました。
2つの景色を楽しめる「離れ 室生」
最もグレードの高い2部屋のみの離れ客室。そのうちの一つで、露天風呂を2つ備えた「離れ 室生」がこちら。誰にも邪魔されない、まさに隠れ家といった趣です。ご夫婦やカップルでの宿泊はもちろん、ゆったりとした造りなので、子ども連れのファミリーの利用もあるのだそう。
このお部屋からは唯一、日本庭園と竹林の2つの景色を観賞可能。テラスにはハンモックが設置されていて、竹林を間近にゆらゆら揺られながら、リラックスした時間を過ごすことができます。庭園側にはテーブルとイスが用意されているので、緑の中でコーヒーやお酒を片手に談笑するのもいいですね。
備え付けの露天風呂は丸い檜造りと伊豆石を使ったお風呂の2つ。時間や人目を気にせず、思う存分に源泉かけ流しの湯を堪能することができます。
風情あふれる「【2階庭園付き純和室】源泉掛流し露天風呂」
2021年6月にリニューアルしたばかりの「【2階庭園付き純和室】源泉掛流し露天風呂」。寝るときに布団を敷くタイプの客室で、和室に慣れ親しんだ方や旅館らしさを満喫したい方に人気です。窓からは庭師によって丁寧に手入れされた個別の庭園が見えます。
リニューアルでもう一つ増えた個別庭園には、陶器製の露天風呂が設置されていて、青空や星空の下でゆっくり温泉に浸かることができます。
空間が多様な「【2階庭園付き和室】源泉掛流し露天+半露天風呂」
こちらも2021年6月にリニューアルした「【2階庭園付き和室】源泉掛流し露天+半露天風呂」。和室、ベッドルーム、露天風呂と縁側を備えた個別庭園という、雰囲気の異なる複数の空間を楽しめるのが魅力です。
お風呂は露天風呂と半露天風呂の2つ。約20平方メートルの庭園にある露天風呂は、丸い陶器製です。
半露天風呂はヒノキ製。木枠の窓から、心地よい風が吹き込んできます。
足湯を備えた「和風庭園一望 1階 和洋室 テラス付き」
10畳の和室とベッドルーム、テラスを備える「和風庭園一望 1階 和洋室 テラス付き」。約67平方メートルの広さを誇り、テラスで足湯を楽しめる唯一のお部屋です。足湯ももちろん、源泉かけ流し。日本庭園を眺めながら、足元から癒されます。伊豆石の内風呂も完備しています。
2種の露天風呂が付いた男女別の大浴場
お部屋で一息ついたら、さっそく大浴場に向かいましょう。こちらもすべて源泉かけ流し。屋内大浴場や大岩露天風呂には、青緑色に輝く、肌ざわりのよい伊豆青石をふんだんに使用しています。
女性専用大浴場「万葉」には、屋内大浴場と大岩露天風呂、石露天風呂の3つのお風呂があります。露天風呂は開放感抜群! 目に映る景色、聞こえる音、香りで自然を感じながら浸かる温泉は、極上のリラックス効果。無色透明のキリッと熱めのお湯で、しっかり温まりました。
男性専用大浴場「懐風(かいふう)」にも女性用と同様、伊豆青石を用いた屋内大浴場と大岩露天風呂、ヒノキ風呂を完備しています。
大浴場は15:00~翌10:00のいつでも入浴可能(3:00~4:00を除く)。バスタオルやアメニティが完備されていて手ぶらで利用できるので、何度でも入りたくなりますね。湯上りには2種類の冷たいブレンドハーブティーやシャーベットのサービスもあります。
海と山の幸が盛り込まれた、目と舌で楽しむ会席料理
湯浴みしてさっぱりしたら、いよいよ夕食の時間。1階の個室料亭「佳貢楽(かぐら)」でいただきます。テーブルごとに仕切られた個室風の造りで、ほかの宿泊客の目を気にすることなく、ゆっくり会席料理を堪能できます。
料理は季節ごとに変わり、地元・静岡産の食材を中心に旬の味を提供。海の幸と山の幸、どちらもふんだんに盛り込まれた「馳走の極み」の一部をご紹介します。
まず華やかな演出に驚かされたのが、前菜の「噴湯盛り~紡(つむぎ)~」。熱川温泉の名物である温泉やぐらをモチーフにしていて、スタッフの方がやぐらにお湯を注ぐと湯けむりのような水蒸気があふれ出てきました。やぐらの隣の階段状になった部分は、坂の多い熱川温泉の地形をイメージ。長年追求し続けている「目と舌で楽しめる料理」に心が躍ります。
お造りは伊勢エビ、アワビ、近海でとれたマグロ、カンパチ、マカジキという豪華な盛り合わせ。すりおろした本ワサビ、塩とともに伊勢エビを口に入れると、身の甘さが一層引き立ちます。
夏にぴったりの冷製の煮物。冬瓜、ナス、エビ、ふき、アヤメの形の麩に、なめらかな餡がかけられています。上品な出汁の味わいにほっと穏やかな気持ちになりました。
A5ランクの国産牛サーロインをペコロスや甘長とうがらしとともに熱した溶岩で加熱。お肉のサシがとてもきめ細かく、口の中ですぐに溶けていきます。こちらのメイン料理は、金目鯛のしゃぶしゃぶを選択することも可能です。
涼し気なガラスの器に盛られ、見た目も美しい止肴(とめざかな)。サヨリの若草巻き、蛇腹きゅうり、アヤメの花をかたどった大根などを黄身酢でいただきます。すっきりとした酸味が、口の中を洗い流してくれるよう。
食事はたけのこご飯と赤出汁の味噌汁、4種の香物。かわいらしい花柄のお茶碗は有田焼で、玉翠オリジナルの器です。
先付から最後の水菓子まで、細部までこだわりが感じられる全11品の献立。食欲をそそるビジュアルに感嘆し、おいしさに一口一口唸る、そんな至福のひと時でした。
ライトアップも魅力的な幻想的な竹林を歩く
「奈良偲の里 玉翠」には、四季ごとに衣を変える和風庭園「葉ごろも(はごろも)」と、約200メートルの竹林の小径や「こもれびテラス」などが設置された竹林庭園「光だまり(ひだまり)」があります。「こもれびテラス」では散策時に小休憩をしながら、その名の通り、木漏れ日を感じることができます。
「光だまり」は夜になるとライトアップされるので、夕食後の散策もおすすめです。道に沿って竹細工の竹あかりが配置されており、とても幻想的なムードに。おとぎ話の中にタイムスリップしたかのような、非日常な雰囲気を味わえます。
竹林の中には恵比寿様や弁財天様など、七福神の像が点在しています。探しながら歩くのも楽しいですね。
プライベート感満載の貸切露天風呂
「奈良偲の里 玉翠」には男女別の大浴場のほか、「月ヶ瀬」「帯解(おびとけ)」と名前の付いた貸切露天風呂が2つあり、チェックイン時に予約して1グループ50分間利用することができます。今回は夜の時間帯に予約し、就寝前に入ることにしました。ライトアップされた露天風呂はどこか厳かで、秘湯のような趣も。湯の温度もほどよく、中に入ると自然と一体になったような感覚になります。そして、頭上にはきらめく星空が! 近くの川の流れの音や頬を撫でるそよ風も心地よく、「奈良偲の里 玉翠」でしか体験できない特別な時間を堪能しました。
部屋に戻り、選んだアロマオイルをベッドサイドのアロマポットにセット。ほのかな香りに包まれながら、心地よい眠りにつきました。
伊豆名物がテーブルいっぱいに並ぶ朝食
翌朝は朝食前に庭園をお散歩。夜とは違った表情を見せる、緑鮮やかな木々や竹林に囲まれ、清々しい気持ちで1日をスタートしました。
朝食も「佳貢楽」でいただきます。今回は和食をセレクトしましたが、洋食を選ぶことも可能です。テーブルの上にはお刺身や干物など、地元産の新鮮な野菜や魚介がずらり。メインはタジン鍋の蒸し物で、見た目も鮮やか。伊豆名物のところてんは自分で突き出すスタイルで、味以外でも楽しんでほしいというホスピタリティを感じました。
最後までお部屋で源泉かけ流しを満喫!
朝食後、チェックアウトまでまだ時間があるので、心ゆくまで温泉を堪能。こうして好きなだけ良質な湯を楽しめるのは、全室に源泉かけ流しの温泉が引かれているからこそ。
チェックアウト前に、ロビーラウンジにある売店でお土産を購入。伊豆の銘菓や特産品を中心に取り扱っていて、特に人気なのは地元の農家が無農薬の甘夏で作った砂糖菓子「甘夏ピール」(330円)など。サービスとしてお部屋にも用意されるもので、実際に食べて気に入り、お土産にまとめ買いする人も多いそう。ほかに、朝食でも出されるふりかけ「七彩昆布」(660円)も好評です。
緑あふれる広大な敷地に、客室は13室のみという贅沢な造りの「奈良偲の里 玉翠」。源泉かけ流しの温泉や四季折々の顔を見せる日本庭園、生い茂る竹林などたくさんの魅力があり、宿全体にゆったりとした時間が流れています。喧騒を離れたワンランク上の空間で、大切な人と一緒に思い切り羽根を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
奈良偲の里 玉翠
- 住所
- 静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本39-1
- アクセス
- 伊豆急行「伊豆熱川」駅より車で約5分(14時25分~16時55分は30分間隔で無料送迎あり※完全予約制)
- 客室数
- 13室
- チェックイン
- 14:30
- チェックアウト
- 11:00
撮影・取材・文/土田理奈