なぜ料理人が論文を発表?「神戸北野ホテル」が挑むSDGsとサステナブルな未来へのミッション

神戸北野ホテル サステナブル・シーフード

いまや企業はもちろん、個人でも、「SDGs(持続可能な開発目標)」の取り組みは欠かせないものになっています。観光業界も同様で、たとえば自然由来のもので作られたアイテムや繰り返し使えるアメニティを採用し、プラスチック削減に努めているホテルは多いもの。

そんななかでも「神戸北野ホテル」の取り組みは、その何歩も先を行っていて、想いを知るほど、通いたくなります。今回は、神戸北野ホテルの総支配人・総料理長の山口浩シェフにSDGsに関する取り組みについてお聞きしました。

 

「世界一の朝食」を堪能できる唯一無二のオーベルジュ「神戸北野ホテル」

神戸北野ホテル

神戸・北野の異人館街へ続く坂を上っていくと、ほどなくして現れる「神戸北野ホテル」。その美しく重厚感がある建築や極上のサービスもさることながら、日本の料理界でフレンチの巨匠と称され、料理人たちの尊敬を集める山口浩シェフの料理を堪能できることで知られるオーベルジュ(宿泊施設付きレストラン)です。

神戸北野ホテル「世界一の朝食」
ほかでは味わえない「世界一の朝食」

また、山口シェフの師匠、ベルナール・ロワゾー氏から公式に贈られた「世界一の朝食」でも人気を集めています。

神戸北野ホテル 山口浩総料理長

総料理長であり、ホテルの総支配人を務める山口シェフは、世界中の厳選されたホテルやレストランの協会「ルレ・エ・シャトー」世界料理評議会メンバーに選出されたり、フランスでもっとも伝統ある協会「フランス料理アカデミー」主催のコンクールやイベントに招聘されたり、フランス共和国から農事功労賞「シュバリエ勲章」を叙勲、日本でも「現代の名工」や「黄綬褒章」を受章するなど、国際的にも高い評価を得ています。

 

▼宿泊体験記

 

産官学が一体となって“科学的に”SDGsに取り組む必要がある

神戸北野ホテル 山口浩シェフ 論文

そんな山口シェフが、2021年10月に論文を発表しました。料理人と論文、一見異色の組み合わせのように見えますが、この取り組みこそがSDGsへの大きなアクションになると語ります。

「SDGsの最終的目標である『世界中のすべての人たちが豊かに暮らし続けていける社会の実現』は、ボランティアでやっていたのではとても成り立ちません。ビジネスとしてしっかり仕組みを作って、誰もがまねできるような形を作っていかないと。そのためには、科学的な根拠やロジックが必要です。そうでないと、SDGsウォッシュ(SDGsに取り組んでいるように見せかけて、実態が伴っていないこと)になってしまって、信用されませんから」。

食文化を通じて国際社会に貢献することと、海洋資源のサステナビリティをロジカルに解明するため、産官学で連携し、脳学者の石山徹博士(一般社団法人 文化産業科学学会 学会長)と一緒に論文を書き上げたと言います。

 

神戸北野ホテルのSDGsへの取り組み1:「未利用魚」の活用

明石浦漁港

明確な根拠を示したうえで、SDGsに取り組む山口シェフ。いま直面している問題のひとつが、「海の資源が枯渇しつつある」という現実です。

世界各国で取り扱われる食材は、国によってバラつきはあるものの、平均600種類程度。日本はというと、およそ2,500種類、魚だけで約500種類も食しているといいます。日本にはそれほど豊かな自然、その自然が育んだ食材、豊かな魚食文化があるということなのです。

「料理とは、食材と文化があって成り立つものだと思っています。日本の食材・食文化を守るためには、生産者も守らないといけない。つまり、漁師さんたちの生活を守ることも大切です。漁師さんがいなくなったら、日本の魚食文化は壊滅してしまいます」。

神戸北野ホテルでは、SDGs14番「海の豊かさを守ろう」に特に力を入れて取り組んでいます。そのひとつが、「未利用魚(みりようぎょ)」の活用です。

神戸北野ホテル 未利用魚
さまざまな理由で低価格、または値がつかない「未利用魚」

「未利用魚」とは、規格外のサイズや知名度が低い、人気がないといった理由で、市場に出せなかったり、低価格でしか買い手がつかない魚のこと。読んで字の如く、食材として利用されない魚のことで、多くは漁師が自分たちで消費したり、廃棄していたといいます。

神戸北野ホテルでは、ディナーのコースに未利用魚を使った料理を取り入れ、貴重な海の資源をしっかり活用しています。使う魚は日によって変わりますが、一例がチヌ(クロダイ)。

神戸北野ホテル ディナー
未利用魚のチヌをグラタンに仕立てた一品

「チヌって、雑食で何を食べているかわからないので、ものによっては臭いが強く、刺身などの和食には向いていません。でも、フランス料理なら、かけがえのない個性を持つ食材として、お客様に自信を持って提供できる料理になる」と言います。

現代のような流通網がなかった時代、新鮮な食材が手に入らなかったフランス内陸では、ソースなどで厚化粧し、その鮮度の悪さを覆い隠す必要があった――。それがフランス料理の成り立ちとされています。たとえ臭いの強い食材でも、山口シェフの腕をもってフランス料理に姿を変えれば、欠点が個性として活かされるのです。

また、「我々料理人が商品価値を見出して、しっかりとした価格で買い付ければ、漁師さんの生活も守れますし、漁に出る回数を減らせるので、海洋資源へのダメージも減らせます。これこそサステナビリティにつながるのではないでしょうか」。

 

神戸北野ホテルのSDGsへの取り組み2:地元にこだわった「地産地消」の食材選び

神戸北野ホテル ディナー

そして、サステナビリティへのこだわりは、未利用魚のみならず、ほかの食材の「地産地消」にも及びます。

「当然ですが、フードマイレージ(食料の輸送に伴って発生するCO2排出量などの環境負荷を示す指標)は少ないほうが良いので、必然的に地産地消がカギになります。できるだけ近くで採れた食材を、輸送コストをかけず、新鮮なままそろえる」。

神戸北野ホテル「世界一の朝食」

ディナーのメインの神戸ビーフはもちろん、「世界一の朝食」には丹波地鶏の卵や、丹波の黒豆、但馬(たじま)の牛乳、フルーツやはちみつまで兵庫県産の旬の食材が並びます。自然を破壊しながら、自分たちだけ楽しむのではなく、次の世代に今の豊かな自然を残すための取り組みです。

神戸北野ホテル「世界一の朝食」

「これが実現できているのは、お客さんの価値観が時代とともに変わったこともあると思います。ひと昔前であれば、フランスから輸入した食材や希少価値の高い食材を使うことに価値があった。今はコロナ禍で困っているイチゴ生産者から全部買い取って、コンフィチュールに使っています。農家の方の助けになるという点に付加価値があるんです」。

「世界一の朝食」をはじめた23年前から変わらぬ味を守り続けているように見えて、実は価値観の変化に合わせ、ほぼすべてが変わっているのだそう。だからこそ、23年経った今も、「さすが世界一の朝食」「おいしい!」と評価され続けているのです。

 

神戸で世界中の手本となる成功事例を作りたい

神戸北野ホテル 山口浩総料理長
(左から)脳学者 石山徹博士、山口シェフ、神戸市漁業協同組合 福田明弘組合長、神戸市経済観光局 安岡正雄局長

未利用魚の取り組みもあり、山口シェフは、神戸市漁業協同組合と明石浦漁業協同組合のSDGs・サスティナビリティアンバサダーに就任。2022年には、神戸市、神戸市漁業協同組合と「サスティナブルシーフードを起点とした食文化醸成や観光振興による地域活性化に関する取組」についての連携協定を締結しています。

「ありがたいことに、ここ兵庫県は食材に恵まれている。日本海も瀬戸内海にも面していて、その昔、皇室に食材を献上していた御食国(みけつくに)・淡路島もある。そして、人口約150万人を抱える神戸市というマーケットも目の前にある」と、自身の出身地でもある兵庫の食材の豊かさを語る山口シェフ。

明石浦漁港
活気あふれる明石浦漁港のセリ

「明石浦漁港には、明石海峡の激流で育った明石鯛というブランド魚がある。日本全国にもさまざまなブランド食材がある。料理人・役所・学者・生産者、それぞれができることを役割分担して、まず神戸で成功事例を作りたいですね。そして、全国でまねできるようにすることで、日本中の海の資源、漁師さんが守られる。極端な話、明石浦漁港に行ったら、漁師さんみんな高級車に乗ってる!という状況にしたいですね」。

また、「日本では山の中でも刺し身が買えるほど流通が整っている。日本人は当たり前と思っているけど、実は、世界でみるとこの流通網は稀。日本の成功事例を海外にも持っていくことができれば」と、海外への貢献も追求しています。

 

料理人の地位を上げ、料理人の世界もサステナブルなものに

神戸北野ホテル 山口浩総料理長

「日本の食文化を守り、食材を守り、生産者を守ることに加えて、もうひとつ大切なことがあります。それは、料理人の世界もサステナブルなものにすること。つまり、料理人の存在意義と地位を高め、誰もが憧れる職業にすることです」。

明確な基準がない、第三者の主観的な評価に料理人が右往左往させられている時代はもうすぐ終わりを迎えると、山口シェフは予想しています。おいしい料理を作ることはもちろん、ヨーロッパのように、文化的で芸術的、ソーシャルな働きをしている料理人が正当に評価される世界を作る必要があると言います。

「テーブルの上の料理の良し悪し以上に、自然や文化と共存・共栄しながら、次の世代へつないでいく、社会に貢献していくことこそ、我々料理人に課せられたミッションです。何を学んで、どう育っていけば、この道で輝けるのか、私たちの世代が評価基準を作って、背中を見せていかなくては」。

 

外国人旅行者

最後に、観光業界のサステナビリティについて、「日本の魚食文化に興味を持つ外国人は多く、世界中から日本の『食』を求めてやってきます。海外の人は、その土地の文化や産物、体験を自分の暮らす土地にどう反映させるのかを学びに行く、『学び』を目的に旅する人が多いことも意識しないといけません。観光業界全体で、サステナブルツーリズムの在り方を考えないと」ともおっしゃいます。

 


「神戸北野ホテル」の料理の大前提は、お客様に満足いただけること。でもその背景には、日本の食材・食文化を守るためのさまざまな策が練られていました。そんな想いを感じながらいただくお料理は格別です。また、神戸北野ホテルでは、アメニティにもみ殻などの天然由来成分で作られたものを採用するなど、プラスチック削減にも努めています。

SDGsって何に取り組めばいいのかわからないという人も多いはず。「神戸北野ホテル」でサステナブルな美食旅を楽しみつつ、日本の食材を考え、守り、伝える一歩にしてみませんか?

 

神戸北野ホテル

住所
兵庫県神戸市中央区山本通3-3-20
アクセス
「三宮」駅より徒歩約15分、車で約5分
駐車場
2,500円/泊(予約不可)
チェックイン
15:00(最終チェックイン24:00)
チェックアウト
11:00

 

▼宿泊体験記

撮影:福羅広幸 取材・文:水谷映美、楽天トラベルガイド編集部

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