数寄屋建築の宿、京都「山科伯爵邸 源鳳院」で宮廷文化に触れる大人の休日

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

華族の山科伯爵によって創建された築100年を超える数寄屋建築の宿として、国内はもとより海外からも視線を集める「山科伯爵邸 源鳳院(げんほういん)」。山科家は公家の家職である「衣紋道(えもんどう)」を現代まで伝承し、歴代当主が代々、天皇に仕えてきました。

「源鳳院」は、そんな山科家の歴史と伝統が息づく邸宅で宮廷文化に触れながら、雅なひとときを過ごせる宿です。回遊式庭園が広がる約500坪の邸内にわずか4室というプライベート感溢れる空間で過ごした1泊2日の宿泊記を紹介します。

 

公家の家職「衣紋道」を伝承する山科家ゆかりの宿

山科伯爵邸 源鳳院
創建当初の門

「山科伯爵邸 源鳳院」は藤原北家の流れを汲む公家・山科家ゆかりの宿として2012年に開業しました。山科家は平安時代後期の藤原実教(1150~1227年)を初代として始まり、現代まで30代にわたって続く由緒ある一族。

歴代当主は宮中で大納言、中納言、参議などの要職に就いたほか、宮廷装束の調進と着装の知識と技術を伝える「衣紋道」を伝承し、天皇の側近として代々仕えてきたといいます。衣紋道は現代風に言うなら、最古のスタイリスト、ファッションデザイナーといった役職で、現在でもその技術や知識を伝えています。

山科伯爵邸 源鳳院
前列中央の蝶ネクタイ姿の男性が山科言綏伯爵

今回宿泊する「源鳳院」は、山科家26代・山科言綏(やましな ときまさ)が、ご子息夫婦が暮らす屋敷として1920年に創建。2020年に築100年を迎え、現在は「伝える」、「もてなす」、「出会う」をコンセプトに、泊まれる和の文化施設として国内外のゲストを温かく迎えています。

また、衣紋道を中心に、宮廷の五節句や公家の家職にちなんだ宮廷文化講座をはじめ、日本の伝統・文化・芸術にまつわる各種企画展も定期的に開催しています。タイミングが合えば宿泊と合わせて体験するのもおすすめです。

 

平安時代に貴族の別荘地として栄えた岡崎エリアに佇む「源鳳院」

山科伯爵邸 源鳳院

「源鳳院」までは京都駅からタクシーで約20分、最寄り駅の京都市営地下鉄東西線・蹴上(けあげ)駅からは歩いて15分ほど。白川通から一歩入ると、東山三十六峰を望む閑静な住宅街が広がり、その一角に時を止めたかのように「山科伯爵邸 源鳳院」が佇んでいます。建物を囲う築地塀、寺院を彷彿とさせる重厚な門構えから、山科家の歴史と風格が伝わってきます。

徒歩圏内には、平安神宮や南禅寺、哲学の道など京都屈指の名所が。宿を拠点に、秋は紅葉、春は桜を愛でに出かけたり、京都らしい時間を過ごすことができます。

山科伯爵邸 源鳳院

門に掛かるのは、特別にあつらえたという吉祥紋の青海波を描く暖簾。くぐると鈴がシャンシャンと軽やかな音色を奏でます。この鈴は、神社で参拝する際に鳴らす本坪鈴をイメージしているそう。

また、神聖な空気を感じて欲しいとの想いから、門に麻のしめ縄を飾って神社の雰囲気を演出しています。よく見るとしめ縄の上には京都の魔除けの縁起物として親しまれている鍾馗(しょうき)さんの姿も。到着した瞬間から清々しい気持ちになり、これから始まる旅への期待が高まります。

 

築100年超の数寄屋造りの母屋

山科伯爵邸 源鳳院

築100年を超える伝統的な数寄屋建築の母屋に入ると、東寺に伝来する風信香の香りに包まれます。

山科伯爵邸 源鳳院

フロントでは、公家の成人が宮中に参拝する際に着用する冠を見ることができます。これは、山科家の象徴として復元されたもの。時代劇などで見たことはあっても、実物を間近で見るのは初めてという人もきっと多いはず。

隣には、宮中装束をまとった菅原道真が変わりしめ縄に向かって祈祷する風景を生み出したコーナーも。そこには「この土地に宿る神様を敬う心を表現したい」という女将の想いが込められています。

 

随所に京都の職人技が光る40畳の大書院

山科伯爵邸 源鳳院 大広間

ロビーの横にあるのが大書院「山科」。ここでチェックインを行います。この40畳の開放感溢れる大広間は、山科言綏のご子息の結婚式場として使用された場所で、宮廷装束で式を挙げる山科子爵夫妻の写真が残されています。

山科伯爵邸 源鳳院

大広間のテーブル席に着くと、煎茶とウエルカムスイーツのおもてなしが。九谷焼の骨董の器や山科家の紋をあしらった茶器からも、洗練されたおもてなしの心が伝わります。

スイーツは、西陣織の老舗「細尾」が手掛けるカフェ「HOSOO LOUNGE」のオリジナルマカロン。平安時代に生まれた女性の着物の配色美である「かさね色目(いろめ)」をテーマに、四季折々の色合いとフレーバーを楽しめます。この日は、さつまいも味の「紅葉」をいただきました。紅と濃蘇芳(こきすおう)の2色をかさね、葉の色が鮮やかな赤に変化する様子を表しています。

山科伯爵邸 源鳳院 大広間
山科伯爵邸 源鳳院 大広間

一服しながら、目を向けたいのが大広間の意匠や室礼。入口に展示されているのは宮廷装束の袿(うちき)。これは女性用の衣で、帯のように織られた生地に山科家の紋が色彩豊かに描かれ、とても華やか。床の間には、藤原家の祭礼として12月に奈良の春日大社で行われる春日若宮おん祭の掛け軸が掛けられていました。

山科伯爵邸 源鳳院 大広間
山科伯爵邸 源鳳院 大広間

窓には御簾(みす)が飾られ、御簾越しに眺める庭園の景色も風流です。皇室ゆかりの菊紋や公家の桐紋が彫られた欄間など、京都の職人技が随所に光り、山科家の子爵が暮らした邸宅の名残を感じ取ることができます。この大広間を含め、「源鳳院」の室礼は山科家の30代若宗家が監修を務めているそう。

山科伯爵邸 源鳳院
山科伯爵邸 源鳳院
山科伯爵邸 源鳳院 桜

宮廷文化を伝える室礼とともに「源鳳院」の魅力となっているのが、東山三十六峰を借景に四季折々の景色を見せてくれる回遊式庭園。無鄰菴や平安神宮神苑をはじめ、明治から大正期にかけて数多くの名庭園を手掛けた7代目小川治兵衛によって作庭され、夏は眩いほどの新緑、秋は赤く色づく紅葉、冬は粉雪の舞う景色、そして、春になると枝垂れ桜が見事に咲き誇るといいます。

山科伯爵邸 源鳳院 女将

また、女将・加藤由紀子さん自らがコンシェルジュとなり、邸宅の歴史や宮廷文化はもちろん、宿周辺の観光名所やおいしいお店も教えてくれるので、興味を感じたことがあれば、気軽に聞いてみましょう。

「建物を引き継いでから歴史や文化の研究調査に努め、宮廷文化の奥深さを感じております。山科家ゆかりの装束や掛け軸などを展示した空間で、ゆるやかに流れる時間をお過ごしください」と和やかな笑顔で迎えてくださいました。

 

特別な日に泊まりたい、別荘のようにくつろげる離れ「心月庵」

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

今回宿泊したのが離れの客室「心月庵」。こちらは20年ほど前に母屋の意匠を受け継いで増設した茶室を利用した客室で、よりプライベートな時間を過ごすことができます。そして、何よりうれしいのが目の前に広がる美しい庭園。秋は真っ赤に染まる庭を独占しながら紅葉狩りを楽しめます。

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室
山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

広い縁側と雪見障子。そして、障子の奥で迎えられるのは、和紙や竹を巧みに取り入れた数寄屋造りの美しい空間。掘りごたつのある談話室には和紙の行灯がやさしく灯り、くつろぎの時間が演出されています。障子を開けると、紅葉に染まる庭が日本画のように目を楽しませてくれます。

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

聞こえてくるのは木々を揺らす風の音と鳥のさえずり。驚くほど静寂に包まれています。庭から届くつくばいの水音に耳を傾け、室内に心地よく注ぐ風と自然の息吹を感じながら本を読んだり、お昼寝したり、思い思いの時間を過ごしては。

山科伯爵邸 源鳳院

おもてなしの盆に並ぶのは、「小倉山荘」のあられと「一保堂茶舗」の煎茶・玉露のティーバッグ。京の老舗の味にこだわったセレクトが光ります。

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

談話室の奥には寝室が。布団を敷いてお迎えするのは、プライベートな時間を邪魔することなく、ゆっくりとくつろいでほしいという心遣いから。ふかふかのお布団で寝心地は抜群です。

山科伯爵邸 源鳳院

枕元にはパリッと糊付けされた肌触りのよい浴衣を用意。冷え込む日は上に羽織る丹前も用意してくれます。浴衣で母屋への行き来や庭の散策も可能。旅館の雰囲気を伝える日本の伝統的な浴衣が、外国から訪れるゲストにも喜ばれています。

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室
山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室
山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

槙造りの浴槽が備わる浴室。湯をたっぷり溜めて肩まで浸かると、視線の先に庭園の景色が! 夜はライトアップ、朝は柔らかい日差しに包まれたお庭を眺めながら心身をリフレッシュできます。

バスアメニティは使い心地や香りのよさにこだわってセレクトされたもの。シャンプー&ヘアコンディショナーはヘアサロン「ツイギー」のスタイリストが開発した「エピキュリアン リッチ」。濃厚なハイブリッドバラエキスを配合し、髪にハリと潤いを与えてくれます。ボディシャンプーは、オーストラリア発のスキンケアブランド「イソップ」。どちらも上質な香りに包まれ、贅沢なバスタイムを演出してくれます。

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

日没が近づくと庭がライトアップされ、日中とはまた違った表情を見せてくれます。雪見障子から眺める庭の景色もまた風流。黄昏時には宿周辺に点在する寺社から「ゴーン」という鐘の音が届き、ひときわ和の風情が高まります。

また、「源鳳院」では夕食付きプランはないため、ディナーは街へ出かけましょう。京の味覚を堪能し、更けゆく街から宿へ戻ると、障子越しに灯るやわらかい明かりにほっと落ち着く――。そんな安らぎに満ちた景色もまた旅の思い出として心に刻まれます。

 

縁側で庭を眺めながらおこもりステイが叶う母屋の客室「衣紋」

山科伯爵邸 源鳳院 客室

母屋には3つの客室があります。1階奥の「衣紋」は10畳の和室にバス・トイレ付きで、おこもりステイにおすすめです。

この部屋の特等席は、日当たりのいい縁側。御簾を飾った窓の先に広がる庭園を眺めたり、鳥のさえずりをBGMに、ラウンジチェアに腰掛けて読書にふけるのにもってこいの場所です。夏なら湯上りの夕涼みを兼ねて、縁側から庭へ出て散歩するのも気持ちよさそう。母屋の3室には鏡台が置かれており、どこか懐かしさが漂います。

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

パウダールームは、離れ「心月庵」と同じく、木の温もりが感じられます。ふかふかのタオル、「イソップ」のハンドソープなどが用意され、コンパクトながら使い勝手のよい設計になっています。

山科伯爵邸 源鳳院 客室

浴室には、手足を伸ばして入れるゆったりサイズの浴槽が。夜は肩まで浸かってしっかり温まり、翌朝は窓から差し込むさわやかな朝日の中で目覚めの湯浴みを楽しんで。

 

2間続きで広々! 4名まで宿泊可能な客室「神楽山」

山科伯爵邸 源鳳院 客室

家族やグループでの滞在におすすめなのが、1階の客室「神楽山」。8畳2間続きで4名まで宿泊できます。庭を望む手前の和室を居間に、奥の和室は寝室としてゆったりと使ったり、2~3世帯旅行には2間を襖で分けてそれぞれの寝室として使ったり。

客室内に浴室・トイレ・洗面台はありませんが、客室目の前にトイレ・洗面台を完備し、貸切風呂を利用できます。

 

回遊式庭園を眼下に見下ろす母屋「飛白」

山科伯爵邸 源鳳院 はなれ客室

母屋の2階にあるのが10畳の客室「飛白(ひはく)」。障子戸を開けると回遊式庭園を一望でき、秋には紅葉が間近に迫る景色も堪能できます。夏は窓際に座って夕涼みを楽しんでは。

山科伯爵邸 源鳳院

夜は庭がライトアップされ、ひときわ幽玄に。刻一刻と空が茜色に染まる夕景も見どころ。また季節ごとに、雨に葉を濡らす木々の風景、うっすらと積もりゆく雪景色など、自然が描き出す壮大な芸術作品のような景色が浮かび上がります。こちらも浴室・トイレ・洗面台が付かないタイプの客室です。

 

ゆったり湯浴みを楽しめる貸切風呂

山科伯爵邸 源鳳院 家族風呂

母屋2階の「飛白」と1階の「神楽山」は客室内に浴室・トイレ・洗面台はありませんが、お風呂は貸切で利用でき、高野槙の大きな浴槽で家族や夫婦水いらずのバスタイムを楽しめます。昼間は大きな窓から自然光が差し込み、開放感たっぷり。もちろん、浴室付きの離れ「心月庵」と母屋「衣紋」のゲストも利用可能です。

山科伯爵邸 源鳳院

客室前には2台の洗面台やお手洗いを完備。すっきりと整えられた洗面台でゆとりを持って身支度できます。

 

自由に使える個室も

山科伯爵邸 源鳳院

また、母屋にはくつろぎの空間がいくつか用意されています。個室「鳳笙(ほうしょう)」は京繍作品などが飾られたモダンな空間。その並びには掘りごたつ席のライブラリーサロン「美琴」(改装中)もあり、気分転換に客室から場所を移しておしゃべりを楽しむのもよさそうです。

山科伯爵邸 源鳳院

個室「鳳笙」には、山科家が衣紋道とともに、雅楽に用いる管楽器「笙(しょう)」を伝えてきた歴史から笙を展示しています。邦楽器で唯一和音を奏する楽器で、神社などの祭礼で耳にするパイプオルガンのような音色と聞くとピンとくるのでは。羽を休める鳳凰の形に似ていることから「鳳笙」とも呼ばれ、これがこの個室の名の由来になっているそう。公家の冠や装束と同じく、この笙もなかなか間近で見られないものなので、ぜひ鑑賞してみましょう。

 

京都らしい精進料理の朝食

山科伯爵邸 源鳳院 朝食

朝食は、京の精進料理店「泉仙(いずせん)」の料理に舌鼓。殺生を避け、煩悩を抑える仏教の戒律に基づき、肉や魚介類を使用せず、穀物や豆類、野菜など植物性の食材だけで作られるヘルシーで彩りも美しい精進料理に、身も心も整う気がします。

素材そのものの味わいを活かすため、調味料の使用はできるだけ抑え、食材を使い切るように工夫しながら作られているそう。また、器は托鉢(たくはつ)をかたどったもので、禅僧の修行僧が使用する応量器のように入れ子状に収納できることを女将さんから伺い、朝から「なるほど!」と感心。

朝食は大広間で提供されますが、離れ「心月庵」のゲストは特別に客室に用意してもらえます。どちらも、朝の光が映し出す風光明媚な庭園を眺めながら、口福な時間を過ごせます。

 


山科伯爵邸 源鳳院

「源鳳院」の敷地に入った瞬間、土地に宿る神聖な空気に包まれ、時計の針がゆっくりと進むのを感じました。山科言綏伯爵が息子夫婦のために贅を凝らして創建した建物は、随所に並々ならぬこだわりが光り、子へ向ける親の深い愛情さえも伝わってきます。

宮廷文化を伝える美しい室礼、四季の移ろいを告げる庭園とあわせ、「衣紋道」を伝承する山科家の一族の歴史にも注目し、女将さんからお話を伺うと、いつもの京都旅とはひと味もふた味も違う、より思い出深い体験ができるはず。日本にかつて存在した雅やかな時代へ想いを馳せながら、大切な人と心豊かな時間を「源鳳院」で過ごしてください。


 

山科伯爵邸 源鳳院

住所
京都府京都市左京区岡崎法勝寺町77
アクセス
京都市営地下鉄東西線「蹴上」駅より徒歩約15分、「京都」駅よりタクシーで約20分
駐車場
2,000円/1泊
チェックイン
16:00(最終チェックイン21:00)
チェックアウト
10:30

撮影:大林博之 取材・文:室田美々

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